週次レポート 平成 27年 7月 13日 リスク回避後退の円安、持続性にらむ ギリシャ、中国株、日米欧の金融政策など焦点 今週の為替相場は、リスク回避の後退による円安の持続性が焦点となろう。週間予想はドル/円が 122.30 -124.80円、ユーロ/円が 1 33.50 -139. 90円。前週に株安とリスク回避の円高を加速させたギリシャ債務危 機と中国株安は後退しているが、まだ先行き予断は許さない。今週は日銀金融政策決定会合とイエレン米 FR B 議長の議会証言、欧州中銀(E CB)理事会という、日米欧の金融政策にも注目が集まる。 15日に中国 GDP、指標精査後の景気対策注目 「前週まで米 NYを訪問してきたが、ウォール街ではギリシャ債務危機は世界経済に占めるギリシャ GDPの 比率が極めて小さいといった現実が冷静に着目され、前週段階から危機の深刻化でも、回避期待でもユーロ は売られない“ギリシャ疲れ”が見られていた」――。 大手米系金融出身の在香港ヘッジファンド幹部は、このような指摘を行う。実際、前週までのギリシャ協 議難航でもユーロは下げ渋りが続いており、ユーロ/ドルは 6月以降、20週(10 0日)移動平均線 1. 1015ドル 前後での下げ止まりと値固め攻防が続いている。ユーロ/円も 26週線 133 .82円前後や 20週線 133. 73円前後 の上抜け回復に直面。両ラインの方向性は 1月以来の下向き化から上向きに転換しつつあり、中期スパンで のユーロ高方向へのトレンド転換が焦点になってきた。 ユーロについては 13日にユーロ圏首脳会合でギリシャの第 3次救済策が合意されたほか、1)ユーロ圏の物 価下げ止まりによる ECBの追加緩和後退、2)過去 1年に及んだユーロ安による経常黒字の拡大と経常需給面 での累積ユーロ高の圧力、3) 世界各国の外貨準備高マネーによるユーロ削減一巡(I MF統計では 1 -3月時点 で 13年ぶりの低水準) ――なども当座の底入れを支援している。まだ、ギリシャ国内での法制化論議を巡る 不透明感やギリシャ政権の崩壊リスク、ギリシャの歳出削減に伴う景気後退懸念などにより、ユーロの上値 余地は限られるものの、当面は底入れを見極める展開が続く。 一方、今週も中国株のバブル崩壊は波乱材料として警戒される。ただし、前週後半からは中国共産党が「一 党独裁体制の死守」に向けた威信をかけて、株価テコ入れ策を講じている。今週は中国で 15日に 4 -6月期 GDPなどの主要指標が予定されているが、改めて今年上半期の大幅減速が確認されると、中国当局が指標内 容を精査。年間の政府成長目標である 7 %の達成に向けて、 「年下期の帳尻合わせ的な挽回策」による景気刺 激策が具体化される可能性がある。ちょうど中国で経済問題を担当する李克強首相は 9日、 「経済を支えるた め、的を絞った措置を導入する」という決意を表明した。 その中で為替相場では、中国経済と相関性が高い豪ドル、NZドルなどの資源国通貨が下げ止まりに転じて きた。あくまで売られ過ぎ修正の自律反発ながら、月足・一目均衡表チャートでいえば、先行き豪ドル/円は 基準線 94.62円前後や転換線 96. 00円前後、NZドル/ 円も基準線 8 4.25円前後や転換線 87.36円前後の方向 への戻し余地が注目されやすい。 ユーロや資源国通貨の下げ止まりは、こうした通貨に対するドルの上値を抑えていく。ドル/円でもドルの 上値抑制要因となり、ドル/ 円は「ドルは底堅いものの、上値も重い」というレンジ相場が持続する。 ただし、米 F RBは「イエレン議長が年内利上げを繰り返し明言している以上、FR Bの信認維持や金融政策 正常化へのメンツ、米国債バブルの抑止目的などもあって、9月利上げの可能性が消えていない」 (前出ヘッ ジファンド幹部)。今週 1 5-16日のイエレン議長による議会証言でも、改めて年内利上げの地ならし強化が 注目されそうだ。FRBの利上げシナリオが消滅しない限り、ドル/円は調整ドル安による下値固めを経ながら も、緩やかな下限切り上がりのトレンドが維持されそうだ。その他の注目ポイントは以下の通り。 <米国の経済指標> 今週の米国指標は反動減速が警戒される。14日の 6月小売売上高については、自動車販売の 5月急増の反 動鈍化がマイナス材料となりそうだ。15日の NY連銀、16日のフィラデルフィア連銀による各製造業景況指 数や、17日のミシガン大学消費者信頼感指数といった最新 7月指標に関しては、ギリシャ・中国の混乱や株 安、ドル高などが悪材料として懸念される。 <日銀金融政策決定会合> 日銀は 14 -15日、金融政策決定会合を開催する。1 5日にかけてギリシャ危機や中国株安が再燃しない限 り、現状維持となる可能性が高い。黒田東彦総裁の会見を含めて、追加金融緩和が後退するようなら、短期 的な円高材料となる。 もっとも足元では原油安の再燃のほか、中国経済の混乱を受けたアジア経済の停滞リスクなどにより、物 価 2%目標の達成は後ズレが懸念され始めた。日銀は今年 1-6月に日本株 ETF (上場投信)を 1兆 6737億円 の購入・消化を進め、昨年下半期の約 2倍もの買い越しを強化させている。先行き ETF枠の拡大を含めて、 追加の緩和措置に含みが残されると、為替相場では円安要因となる。 <ECB理事会> 欧州市場では 16日、ECB理事会が開催される。13日のギリシャ救済合意を受けて、先行きの景気前向き見 通しや当座の追加緩和見送りが示唆されると、ユーロ買い戻しを後押しさせやすい。ただし、ギリシャの財 政再建は前途多難であるほか、ギリシャがとりあえずはユーロ圏に残留するとなれば、ECBにはギリシャを 含めた南欧「高債務国」の景気刺激策の役割が求められる。先行きの QE長期化やユーロ安維持などの政策対 応は無視できない。ギリシャの首相は 13日、「一連の措置により、リセッションは不可避になった」と緊縮 不況に警戒感を示している。 <中国発の停滞と日本の輸出ブレーキ> 中国では株安リスクと裏表で、景気減速懸念が高まっている。中国向け輸出を増加させてきたアジア周辺 国の経済にも打撃となるもので、中国とアジアの停滞は復調傾向にある日本の輸出にブレーキを掛ける。日 本にとっては企業収益の鈍化要因となり、先行き株安とリスク回避の円高を促す可能性をはらむ。 一方で日本の輸出停滞は、為替需給面で円高圧力を抑制するものだ。輸入サイドも原油再下落により、拡 大ペースの鈍化が見込まれるが、原発再稼働の広がり遅延もあって、一定程度の輸入高止まりが維持される。 中長期の為替トレンド形成で影響力を持つ実需の為替取引では、引き続き「輸入企業によるドル押し目買い」 のほうが、「輸出企業によるドル戻り売り」よりも絶対的な金額ベースで優位となる構図が続く。 しかも現在は中国や韓国のほか、アジア全般の経済リスクにより、アジア全体から欧米マネーの引き揚げ と本国回帰が拡大している(アジア通貨安・ユーロ高・ドル高) 。1997 -1998年のアジア通貨危機の際には、 アジア通貨安に円も連れ安となり、1ドル=147円台方向まで円安・ドル高がオーバーシュートされた過去も ある。当時とは環境が異なるとはいえ、アジアも日本に続いて貿易黒字が減少しており、これまでドル安圧 力を促してきた「アジアの経常黒字累増」という不均衡の是正は、潜在的なドルの安定化とアジア通貨安・ 円安の要因となる。 <国内からの対外証券投資「余力」> ギリシャの救済合意は安全逃避の後退と通じ、ドイツなどの欧州国債のみならず、英国や米国でも金利上 昇を促している(債券価格は反落) 。低金利に苦しむ国内の長期投資家からすると、ユーロ相場の割安水準と あいまって、欧州国債などを始めとした外債投資を後押しさせる。FR Bによる 9月利上げ観測もまた、米国 債とドルの押し目買い要因となりやすい。 しかも GPIF (年金積立金管理運用独立行政法人)が 1 0日に公表した 2014年度の運用資産構成では、国内 株は 22%、外債は 12 .63%、外株 は 20.8 9%となった。いずれも年度末ベースで最高となったが、G PIFは昨 年 10月末の資産構成見直しにより、内外株式の目標比率を 1 2%から 25%に、外債は 11%から 15 %へそれ ぞれ引き上げた。こうした基準比率からの乖離幅も拡大されており、国内株については、依然 4 -5兆円の買 い余力が指摘されている。為替相場での円安・外貨高要因となる外国株式と外債についても、応分の投資余 地残存が注目されよう。 お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提供、再 配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させることは出来ません。 情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、これらの情報によ って生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を負いません。本レポートの内容は、 投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっての最 終判断はお客様ご自身でお願いします。 ---------------------------------Japan Economic Pulse Co.,Ltd. ----------------------------------
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