講義ノート(May 18)

力学 I (’16 年度版)
(到達目標)
物体の運動の基本法則を学びます。第 1 段階では 1 次元、すなわち 1 方
向だけの運動に集中して、運動の基本法則を理解します。第 2 段階とし
て、実際の 3 次元での運動法則を学び、惑星の運行などの中心力の場合に
応用します。実験を通じて、楽しみながら実際の力学現象に親しみます。
(スケジュール)
1. 力学とは。位置、速度、加速度
2. 運動法則 3. 一定の力の下での運動
4. 調和振動 (単振動)
5. 減衰振動
6. 慣性力
7. エネルギー保存則
8. 重力によるポテンシャルと脱出速度
9. 運動量保存則
10. 角運動量保存則
11. 2体問題と重心運動、相対運動
12. 角運動量保存と面積速度
13. ケプラー問題 (参考書等)
「コアテキスト 力学」青木健一郎著 サイエンス社 (主に参考にした)
「力学 I」岡村浩著 丸善出版
「基礎力学」 中山正敏著 裳華房
「力学」川村清著 裳華房
「スタンダード 力学」河辺哲次著 裳華房
「力学とは何か」和田正信著 裳華房
「力学入門」窪田高弘著 培風館
2
「基礎からはじめる力学」永田一清著 培風館
「身近に学ぶ力学入門」伊東敏雄著 学術図書出版社
「理工系物理学講義」加藤潔著 培風館
そのほか必要に応じて紹介します。
(成績評価方法)
平常点 (授業・実験への出席・参加状況、ミニレポート提出状況) と期末
テストにより総合的に評価する。
(ホームページ)
講義ノート、期末レポート問題等は、林の個人 HP の「講義内容」
http://lab.twcu.ac.jp/lim/sub4.html の所に、また休講等の急なアナウンスは個人 HP の「トップページ」
http://lab.twcu.ac.jp/lim/index.html
に掲示するので活用して下さい。 3
5
第1章
1.1
力学とは。位置、速度、
加速度
力学とは
力学とは、物体に働く力と物体の運動の関係を明らかにすること。重
力、電磁気力等あらゆる力に適用可能であり、物理学の全ての分野の基礎。
ここで扱うのはニュートンによって完成された「ニュートンの法則」に
基づく
「ニュートン力学」。 ニュートン力学の適用限界 古典物理であるニュートン力学は、日常
的現象を扱うのには問題ないが、次の様な場合には厳密には適用できず
現代物理学にとって替わられる: ・ミクロの世界: 量子力学が必要。 ・光速度 c = 3 × 108 (m/s) に近い速さで運動する場合: 相対性理論が
必要 1.2
位置、速度、加速度
まず、簡単のために、直線に沿った (1 次元的) 運動を考えよう。
例えば x 軸に沿った運動を想定すると、物体、正確には質点(質量を持
つが大きさが無視できる理想化された物体)の時刻 t での位置は、その時
の x 座標 x(t) で与えられる。横軸に t を、縦軸に x(t) をとった、“x-t” 図
を描くと、一般に運動は曲線で表される。等速直線運動の場合には、x-t
図は直線になり、明らかに直線の傾きがその速度を与える。一般の運動
の場合には、 時刻 t の瞬間には、その時刻での曲線の接線に沿って運動
していると考えられるので、時刻 t での瞬間的な速度 v(t) は接線の傾き、
第 1 章 力学とは。位置、速度、加速度
6
つまり微分
dx(t)
= ẋ(t)
(1.1)
dt
で与えられる。ここで、ẋ は x の t による “時間微分”を表す物理特有の
表記法である。
尚、「速度」v(t) は正負いずれも採り得て
・v(t) > 0: x 軸の方向の運動
・v(t) < 0: x 軸と反対の方向の運動
を表す。つまり速度は方向も表すが、これに対し「速さ」は常に正であり
|v(t)| で与えられる。より一般的な 3 次元的運動では、「速度」はベクト
ル ~v (t) であり、今考えている速度は、その x 成分に当たる。「速さ」は、
速度ベクトルの大きさ |~v (t)| である。
同様に、加速度は、速度の瞬間的な変化率なので、時刻 t での加速度
a(t) は、v(t) の微分 v(t) =
a(t) =
dv(t)
= v̇(t) = ẍ(t)
dt
(1.2)
で与えられる。ここで ẍ は x の t に関する 2 階微分の意。
例題 2.1 次の二つの場合に、速度と加速度を求めなさい:
(a) x(t) = 2t2
(b) x(t) = A sin(ωt) (A, ω : 定数) (1.3)
解 (a) については、順次 t で微分して v(t) = 4t, a(t) = 4
(1.4)
と求まる。a(t) = 4 で定数なので、これは
「等加速度運動」である事が分かる。
(b) については、合成関数の微分のやり方を用いると v(t) = Aω cos(ωt), a(t) = −Aω 2 sin(ωt)
(1.5)
となる。この場合
a = −ω 2 x
(1.6)
1.2. 位置、速度、加速度
7
の関係があることに注意。この運動は、後に議論する「単振動」
(調和振
動子の運動)に相当する。
(a), (b) それぞれの場合に、位置、速度、加速度を t の関数としてグラ
フに描くと参考書 (青木 著) の図 1.2 のようになる。 2
一般的な 3 次元的運動の場合には、物体の位置は、原点からその点に向
かうベクトル、つまり位置ベクトル ~r(t) = (x(t), y(t), z(t)) で表される。
(x(t), y(t), z(t)) はその点の座標に他ならない。尚、大学では、ベクトル
の成分を縦に並べた、“縦ベクトル”で表すことも多い。例えば 

x(t)


~r(t) =  y(t) 
z(t)
(1.7)
1 次元の時と同様に、速度は位置ベクトルの時間的変化率、つまり t に
関する微分で与えられ、やはりベクトル量になる: d~r
= ~r˙
dt
~v (t) =
(1.8)
具体的には、位置ベクトルの微分は d~r
dt
∆~r
~r(t + ∆t) − ~r(t)
= lim
∆t→0 ∆t
∆t→0
∆t
x(t + ∆t) − x(t) y(t + ∆t) − y(t) z(t + ∆t) − z(t)
= lim (
,
,
)
∆t→0
∆t
∆t
∆t
dx dy dz
=( , , )
(1.9)
dt dt dt
= lim
で与えられる。速度の各成分を ~v = (vx , vy , vz ) と書くと
vx =
dx
dy
dz
= ẋ, vy =
= ẏ, vz =
= ż
dt
dt
dt
(1.10)
つまり
ベクトルの微分 = 各成分の部分 である。速度ベクトルの大きさ v = |~v | =
が、物体の速さに他ならない。
√
vx2 + vy2 + vz2
(1.11)
第 1 章 力学とは。位置、速度、加速度
8
加速度も同様にベクトル量であり d~v
= ~v˙
dt
dvx
dvy
dvz
ax =
, ay =
, az =
dt
dt
dt
~a =
(1.12)
位置ベクトルを用いて書くと d2~r ¨
= ~r
dt2
d2 x
d2 y
d2 z
a x = 2 , ay = 2 , az = 2
dt
dt
dt
~a =
(1.13)
となる。
1次元の時の式(1.1)、
(1.2)は、ベクトルの x 成分のみを書いたもの
と思えば良い。 例題 2.2 x − y 平面 (z = 0) の上で、原点を中心とし、半径 r の円周を、
角速度 ω で回転する、
「等速円運動」を考える。平面上なので位置ベクト
ル等を ~r = (x, y) の様に 2 次元のベクトルで表すと、位置ベクトルは
~r = (x, y) = (r cos(ωt), r sin(ωt)) (1.14)
と表される。この時、速度ベクトルの方向と大きさを論じなさい。 解 速度ベクトルは、成分 x, y をそれぞれ t で微分して ~v = (−rω sin(ωt), rω cos(ωt))
(1.15)
と求まる。明らかに ~r · ~v = 0 なので、速度は円の接線方向を向くことが
分かる。また、速度ベクトルの大きさ、即ち速さは
v = |~v | =
と求まる。
√
(−rω sin(ωt))2 + (rω cos(ωt))2 = rω
(1.16)
2 9
第2章
運動法則
ニュートン力学では
「ニュートンの法則」
と呼ばれる 3 つの運動法則に基づいて全てのものが導かれる。
2.1
ニュートンの法則
ニュートンの法則は以下の通りである (第 1 法則∼第 3 法則): I (慣性の法則)
力が加わっていない物体は等速直線運動を続ける。
II (運動方程式)
~ = m~a
F
(F~ : 物体に働く力、m, ~a : 物体の質量, 加速度) (2.1)
III(作用・反作用の法則)
~ を物体 B に加える時、物体 A は物体 B より逆向
物体 A が力(作用)F
~ を受ける。作用、反作用の力は A, B
きで大きさが同じ力(反作用)−F
を結ぶ直線上で働く。
2.2
各法則に関するコメント
これらの法則について、少しコメントしよう。
~ = ~0 なら加速
まず「慣性の法則」についてであるが、第 2 法則より F
度はゼロ、即ち等速直線運動となる事が言えるので、一見慣性の法則は
第 2 法則に含まれる様に思える。第 1 法則の本当の意味は、観測者とし
て、この「慣性の法則」が成り立つ様な観測者、即ち
「慣性系」
第2章
10
運動法則
を想定しなさい。すると、慣性系から見ると第 2 法則が成立します、と
いうことなのである。例えば、地上に静止した自動車には力は働いてい
ない (重力と抗力が打ち消す)。地上に静止した観測者 A、あるいはこれ
に対して等速直線運動する加速度ゼロの観測者 B から見ると、自動車は
静止して (A)、あるいは(自分と逆向きに)等速直線運動して (B) いる様
に見えるので、A, B は慣性系である。これに対して、加速度を持って運
動している観測者 C から見ると、地上に静止した自動車は(自分と逆向
きの加速度で)加速運動している様に見えるので、観測者 C は慣性系で
~ = ~0 なのに、自動車の
はない。また、C から見ると、自動車に働く力 F
加速度 ~a はゼロでなく、第 2 法則も成り立っていないことが分かる。後に
議論する様に、こうした加速度を持って運動する観測者(“加速度系”と
も呼ばれる)から見ると、物体には見かけの力である “慣性力”が働いて
いる様に見える。尚、この様に「系」というのは、観測者の事を表して
いる(観測者は自分を原点とする座標系を用いて物体の位置を観測する
ので)。 所で、実際には、地上に静止した観測者は厳密には「慣性系」ではな
い。それは、地球は自転、公転をしているからであるが、地球の運動に
よる加速度は小さいので、近似的には地表に静止した観測者は慣性系と
見なしてよい。
第 2 法則の運動方程式は力学の最も重要な法則であり、力が働くと、そ
F
の方向に加速度(速度の変化)が生じる事を言っている。また a = m
(F =
|F~ |, a = |~a|) より、同じ力を加えても質量が大きいとあまり加速しない
ことを言っている。つまり
「質量とは加速され難さ」
を表しているのである。
~ = (Fx , Fy , Fz ) の様に 3 つの成分(要素)で書くと、
力のベクトルを F
(1.13) より
d2 x d2 y d2 z
F~ = m~a : (Fx , Fy , Fz ) = m( 2 , 2 , 2 )
dt dt dt
d2 x
d2 y
d2 z
→ Fx = m 2 , Fy = m 2 , Fz = m 2 ,
dt
dt
dt
の様に、各成分毎の運動方程式に分解できる。 (2.2)
2.3. 万有引力
2.3
11
万有引力
力には様々なものがあるが、ここでは代表例の一つとして、質量を持っ
た全ての物体どうしに働く
「万有引力」
について考える。地上の物体に働く重力は、地球と物体との間の万有引
力に他ならない。この引力は, 地球と月、あるいは太陽と惑星の間にも普
遍的に働く力なので「万有」なのである。 ニュートンに依れば、一般に
質量 M, m の二つの物体 A, B が、距離 r 離れて存在する時、両者の間
には
Mm
F =G 2
(2.3)
r
の大きさの引力が働く。ここで
G = 6.67 × 10−11 (m3 /(kg · s2 ))
(2.4)
は「重力定数」、あるいは「万有引力定数」と呼ばれる。作用・反作用の
法則により、ベクトルで表すと、例えば A が B から受ける引力は Mm
F~ = −G 2 ~r̂
r
(2.5)
と書ける。ここで ~r̂ は B から A の方向に向かう単位ベクトルで、~r (B か
ら A に向かう “(位置)”ベクトル) を用いて ~r̂ = ~rr (r = |~r|) と書ける。 地表での重力 地表では、物体は重力を受けて鉛直下向きに落下するが、
(空気抵抗を
無視すると)その加速度の大きさは全ての “落体”について同じで、ほぼ
9.8 m/s2 である。これを g と表し、重力加速度と呼ぶ: g = 9.8 m/s2: 重力加速度.
(2.6)
よって、質量 m の物体が受ける鉛直下向きの重力の大きさは (F = ma
において a を g として)
mg
(2.7)
となる。
この地表で物体が受ける重力の正体は、“あたかも”地球の全質量が地
球の中心に集中したと考えた時に物体が受ける万有引力に等しい(説明
第2章
12
運動法則
しないが、これは電磁気学で登場する “ガウスの法則”を用いて示すこと
が出来る)。よって、地表近くの質量 m の物体を考えると、運動方程式
(2.1) より F = ma (F = |F~ |, a = |~a|) なので F = ma → G
ME
ME m
=
mg
→
g
=
G
2
2
RE
RE
(2.8)
の様に g を地球の質量 ME と半径 RE を用いて表すことが出来る。
例題 3.1 万有引力に関する以下の小問に答えなさい。
(1) (2.8) において ME , RE に実際の値を代入し g を計算しなさい。
(2) 月の表面での重力加速度は地表での重力加速度の何倍になるか求めな
さい。 (3) 物体の地表からの高度が高くなると重力、従って重力加速度は小さ
くなる。富士山の山頂での重力加速度は地表に比べて何 % 小さくなるか
答えなさい。
解 (1) (2.8) に ME = 6.0 × 1024 (kg)、RE = 6.4 × 106 (m) を代入すると
g = 9.8 (m/s2 ) が得られる。
(2) 月の表面での重力加速度は地表での重力加速度の
M
(G M
)
R2
M
E
(G M
2 )
RE
=
1
M M RE 2
(
) = 0.17 '
ME RM
6
倍になる。ここで MM = 7.3 × 1022 (kg), RM = 1.7 × 106 (m) は月の質
量と半径。 (3) 重力加速度は、地球の中心からの距離の 2 乗に反比例して小さく成る
ので (逆 2 乗則)、富士山頂での重力加速度は地表での重力加速度の
2
3.8 × 103
RE
3.8 × 103 −2
)
'
1−2×
= 1−1.2×10−3 .
=
(1+
(RE + 3.8 × 103 )2
RE
RE
よって、富士山頂での重力加速度は、地表の場合の 0.1 % ほど小さくなる。
2
13
第3章
一定の力の下での運動
いよいよ物体に働く力が分かった時に、ニュートンの法則、特に「運
動方程式」を用いて物体の運動を求めることを学ぶ。尚、ここから「質
点」という言い方が頻繁に現れるが、これは質量を持つが大きさの無視
できる(点の様に扱える)理想化された物体を表す。これは、大きさの
在る現実的物体(“剛体”等)の運動は複雑なので、議論を単純化するた
めである。
この章では、最も簡単な場合として、一定の(時刻、場所に依らない)
力が質点に働く場合の運動を考える。
3.1
一定重力下の運動
一定の力の身近な例として日常経験する重力を採り上げよう。地表近
くでは、質量 m の質点に働く重力は(ほぼ)一定と見なして良い。重力
は鉛直下向きに働くので、鉛直上向きに z 軸を採ると、質点の運動は z
軸(および初速度ベクトル)を含む平面内で起きる。この平面で水平方
向に x 軸を採ることにする。(2.2) に見られる様に z, x 軸方向のそれぞ
れに関して運動方程式をたてることが出来る。
~ = (0, 0, −mg) と書ける。まず z 軸方向
質量 m の質点に働く重力は F
の運動を考えると、Fz = −mg なので (2.2) より d2 z
−mg = m 2
dt
→
d2 z
= −g.
dt2
(3.1)
2
これは z に関する微分方程式である。微分の逆演算は積分なので, ddt2z を
2 回不定積分すれば z(t) 即ち z 方向の運動が決まることに成る。この様
に
力学の主題: 微分方程式を解くこと 第3章
14
一定の力の下での運動
と言える。さて、(3.1) を不定積分すると z 方向の速度成分が
dz ∫ d2 z
vz =
=
dt = −gt + v0z
dt
dt2
(3.2)
と求まる。ここで v0z は積分定数(任意定数) であるが、vz (0) = v0z な
ので t = 0 の時の z 軸方向の “初速度”という物理的意味がある。よって、
実際の運動においては初速度が与えられると vz は完全に決定される。同
様に、もう一度不定積分すると
∫
z=
dz
1
dt = − gt2 + v0z t
dt
2
(3.3)
となる。ただし、ここでも z0 の様な t = 0 における z 座標、すなわち “
初期位置”が積分定数として一般にあるが、初期位置を原点に採ることに
より(これはいつでも可能)(3.3) のように決定される。
この様に、運動方程式は 2 階の微分方程式なので 「二つの「初期条件」を与えると運動が決定される」
事になる。 一方、x 軸方向には力は働かず (Fx = 0)、明らかに等速運動をするので
x = v0x t
(3.4)
となる。ここで v0x は x 軸方向の初速度である。
モンキー・ハンティング
(3.3)、(3.4) から t を消去すると放物線の方程式が得られる(各自チェッ
クしてみる)。よって重力下の物体の運動は「放物運動」と呼ばれる。放
物運動の例として、以下の例題の様な
「モンキー・ハンティング」
の問題を考えてみよう。 例題 4.1 地面に置かれた銃で、銃から水平に l だけ離れた高さ h の木の
上のサルを狙うとする。銃から(コルクの)弾丸が放たれた瞬間にサル
は木から落ちるものとする。この時、弾丸がサルに命中するかどうか論
じなさい。ただし、弾丸の速さは十分に速く途中で地面に落下すること
はないものとする。 解 銃の位置を座標の原点にとると、弾丸が放たれて t(s) 後の弾丸の位置
座標は、弾丸の初速を v0 、仰角を θ として
1
xb = v0 cos θ t, zb = v0 sin θ t − gt2
2
(3.5)
3.1. 一定重力下の運動
15
となる。一方、サルの t(s) 後の位置座標は
1
xm = l, zm = h − gt2
2
(3.6)
となる。弾丸が命中する条件は xb = xm , zb = zm が成立することである。
l
xb = xm より t = v0 cos
となり、これを zb = zm に代入すると θ
l tan θ = h
(3.7)
が条件となるが、これは銃がサルを狙う時に当然満たされる関係式であ
る。よって、弾丸の速さに依らず、サルを狙う限り銃弾は必ずサルに当
たることになる。 2
このモンキー・ハンティングの問題は、少し見方を変えると、自明の
問題となり、計算をしないでも容易に理解できる。
(3.5)より、時刻 t で
の弾丸の x, z 座標は
1
(x, z) = (v0 cos θ t, v0 sin θ t − gt2 )
2
1
= (v0 cos θ t, v0 sin θ t) + (0, − gt2 )
2
(3.8)
と書ける。つまり、弾丸はあたかも重力が存在しない(無重力)とした
場合の位置から 12 gt2 だけ自由落下したと見なせるのである。仮に重力が
無ければ弾丸は必ず木の上のサルの位置に到達する。実際には、その位
置から自由落下分だけ下がった位置に到達するが、サルの方もその間木
の上の位置から同じだけ自由落下しているので、弾丸とサルの位置は同
じになり、弾丸は必ず命中することなるのである。
更に別の見方をすると、自由落下するサルは自由落下するエレベーター
同様に(慣性系ではなく)「加速度系」なので、後で議論する「慣性力」
のために、サルから見ると世界は無重力状態にある様に見える。よって
自分を狙って放たれた弾丸は落下することなく直進して来るので、当然
自分に当たることになるのである。
17
第4章
調和振動(単振動)
滑らかな台の上で、一端が固定されたばねに物体(質点と考える。質
量 m)が取り付けられた場合の物体の運動を考える。この運動を
「調和振動 or 単振動」
と言い、振動する物体を
「調和振動子(harmonic oscillator)」
と言う。振動方向に x 軸をとり、ばねが自然長の時(物体に力が働いて
いない時)の位置を x = 0 とする。ばねからは “変位”x に比例した大き
さの “復元力”が働く: F = −kx (k : ばね定数).
(4.1)
これを “フックの法則” と言う。すると F = ma より、解くべき微分方程
式は k
d2 x
k
−kx = mẍ → ẍ = − x ( 2 = − x)
(4.2)
m
dt
m
となる。
(4.2) は 2 階の微分方程式であるが、(3.1)を解いた時の様に、単純に
2 回不定積分をして
「一般解 (全ての解を網羅した一般的な解)」
を求めることは出来ない。しかし、
「特殊解(微分方程式を満たす特別な解)」
を容易に見つけることが出来る。
2 階微分した時に (符号を変えて) 自分自身に比例する関数としては sin
や cos 関数が思い浮かぶ。実際、 x = sin(ωt)
とすると
k
ω2 =
m
(4.3)
√
→ ω=
k
m
(4.4)
第4章
18
調和振動(単振動)
であれば (4.2) の解であることが分かる。ω は “角振動数”(角速度)と呼ば
れる。 sin でなくても cos 関数でも同様のハズである。実際、x = cos(ωt)
としても解になることが容易に分かる。
こうして、二つの特殊解が見つかったことになるが、(4.2) は x につい
て一次式の “線型の微分方程式”なので、特殊解の線形結合
x = a sin(ωt) + b cos(ωt)
(4.5)
もまた解となることが容易に分かる。つまり、(4.2) は
(
d2
k
+ )x = 0
2
dt
m
(4.6)
と書けるが、これに (4.5) を代入すると
d2
k
+ )[a sin(ωt) + b cos(ωt)]
2
dt
m
d2
k
d2
k
= a( 2 + ) sin(ωt) + b( 2 + ) cos(ωt)
dt
m
dt
m
=a×0+b×0=0
(
(4.7)
となる。(4.5) を “三角関数の合成”を用いて
x = A sin(ωt + ϕ) (A =
√
b
a2 + b2 , tan ϕ = )
a
(4.8)
と書くことが出来る。ここで A は |x| の最大値になるので、振動の “振幅”
であり、また、ϕ は t = 0 での sin 関数の中身の角度なので “初期位相”
と呼ばれる。(4.8) は二つの任意定数(積分定数)A, ϕ を含んでいるが、
以前議論したように、2 階の微分方程式の一般的な解は 2 個の任意定数を
含むはずである。つまり、(4.8) は(4.2)の一般解なのである。
ここで学んだ重要な教訓として、
「二つの特殊解を見つければ、それらの線形結合として一般解を構成す
ることが出来る」
ということが言えるのである。 例題 5.1 ばね定数 k のばねの先に取り付けられた質量 m の調和振動子が
ある。これに、自然長の位置で初速 v0 を与えた。その後の調和振動子の
変位 x(t) を求めなさい。
解 一般解 x(t) = A sin(ωt+ϕ) から速度を求めると v(t) = Aω cos(ωt+ϕ)。
t = 0 における初期条件を課すと x(0) = 0 → A sin ϕ = 0, v(0) =
19
v0 → Aω cos ϕ = v0 . これから、ϕ =√0, A =
v0
ω
と決まる。よって
k
x(t) = vω0 sin(ωt) と求まる。ただし ω = m
。 2
なお、調和振動の周期、即ち一往復するのに要する時間 T は (4.8)、(4.4)
より
√
2π
m
T =
= 2π
(4.9)
ω
k
で与えられる。k が大きく、従ってばねが強くなると T は小さくなるが、
これはばねが強くなると速く振動することを言っていて、直感的にも理
解出来る。
21
第5章
減衰振動
台の上に置かれた調和振動子の振動は、実際にはずっと振動するの
ではなく、次第に振動が弱まり(振幅が小さく成り)最後静止してしま
う。これは、空気抵抗や、台からの摩擦力といった運動を妨げる抵抗力
を受けるからである。ここでは、こうした減衰する調和振動、即ち
「減衰振動」
を考えよう。抵抗力には色々なタイプがあるが、ここでは、物体の運動
方向と逆向きで速さに比例した抵抗力
−γv = −γ ẋ (γ : 定数)
(5.1)
を受けて振動する調和振動子の運動を考える。(速さの 2 乗に比例する大
きさの抵抗力を想定する場合もある。) 運動方程式は √
−mω 2 x − γ ẋ = mẍ → mẍ + γ ẋ + mω 2 x = 0 (ω =
k
)
m
(5.2)
となる。抵抗力の無い時の調和振動子の場合には、x = sin(ωt) あるいは
x = cos(ωt) という三角関数を予想して二つの特殊解を求めた。ここでも
これにならい、特殊解の形を
x = eiαt (α : 定数)
(5.3)
とおいて、これを微分方程式に代入して定数 α を決め、特殊解を求める
事にする。
一見 (5.3) は三角関数ではなく、また複素数でもあり奇異な感じがする
が、オイラーの公式より e±iθ = cos θ ± i sin θ ↔ cos θ =
eiθ − e−iθ
eiθ + e−iθ
, sin θ =
2
2i
(5.4)
なので、(5.3) は三角関数と関係しており実は同等の扱いになっている。
ではなぜ三角関数ではなく (5.3) を選んだかと言うと、指数関数だと一階
第5章
22
減衰振動
微分でも自分自身の定数倍に成るからである。そのために t に関する一
階微分を含む微分方程式 (5.2) は α に関する代数方程式(2 次方程式)に
焼き直され、簡単に解けることになる。 実際 (5.3) を(5.2)に代入すると (−mα2 + iγα + mω 2 )x = 0 → −mα2 + iγα + mω 2 = 0
(5.5)
という α に関する 2 次方程式が得られる。これを解くと √
γ2
iγ
α=
±ω 1−
2m
4m2 ω 2
(5.6)
となる。この二つの解を (5.3) の α に代入すると微分方程式の特殊解が二
つ得られる。よって一般解は、それら二つの特殊解の線形結合である √
γt
− 2m
iω
1−
γ2
t
4m2 ω 2
√
−iω
1−
γ2
t
4m2 ω 2
) (A+ , A− : 任意定数) (5.7)
で与えられる(A± は一般に複素数)。このままでも良いが、x は本来実
数(実関数)なので、(5.4) を用いて (5.7) の右辺の括弧の中を sin と cos
の線形結合の形に書き直すと
x=e
(A+ e
+ A− e
√
√
γ2
γ2
t)
+
b
cos(ω
1
−
t) (a, b : 定数)
a sin(ω 1 −
4m2 ω 2
4m2 ω 2
(5.8)
と書け、更に “三角関数の合成”を行うと、最終的に
√
x = Ce
γt
− 2m
sin(ω 1 −
γ2
t + ϕ)
4m2 ω 2
(5.9)
と成る。この解は二つの任意定数(積分定数)C, ϕ を含むので一般解に
なっている。C, ϕ は、調和振動子の場合と同様に、初期条件を与えると
決めることが出来る。当然であるが、γ = 0 とすると、前章で議論した調
和振動子の場合(4.8)と同等に成る (A の代わりに C となっているが)。
実際に、この解が質点のどの様な運動を記述しているか考察しよう。こ
こでは、簡単のために、γ < 2mω という抵抗力があまり大きくない場合
のみを考える。 √
2
この場合には、 1 − 4mγ2 ω2 は実数なので、質点は調和振動子の様に振
動する。ただし、調和振動子の時とは以下の様な相違点がある: 23
γt
・振幅が e− 2m√に比例してだんだんと小さく成る(“減衰振動”)。
2
・角振動数が ω 1 − 4mγ2 ω2 となり、抵抗が無い時の ω に比べて小さくなる。
なお、2mω < γ や 2mω = γ の場合については、ここでは扱わないが、
各自どの様な運動になるか考えてみよう。