物質情報学 1(解析力学),担当 谷村省吾,講義ノート 3 ラグランジアンと最小作用の原理 一般化座標 微分の基本 関数 f (x) の微分を f ′ (x) = 物体の配置を完全に記述するのに必要十分 df dx な変数の組 q = (q1 , q2 , · · · , qn ) を一般化座標 (1) (generalized coordinate) という. と書く.とくに変数 t が時間を表す場合は df f˙(t) = dt 例えば,2 次元平面中を動く 1 個の質点なら, その位置は直交座標 r = (x, y) で記述される. (2) この場合は (x, y) が一般化座標である. のように書く.つまり時間についての微分は上 3 次元空間中を動く 1 個の質点なら,その位 付きの点で表すのが習慣である.2 回微分は f ′′ (x) = d df d2 f = 2 dx dx dx 置は直交座標 r = (x, y, z) で記述され,(x, y, z) が一般化座標となる. (3) 3 次元空間に N 個の質点があれば,α 番目 (α = 1, 2, · · · , N ) の質点の 3 次元座標を r α = あるいは d df d2 f f¨(t) = = 2 dt dt dt (xα , yα , zα ) として, (4) q = (r 1 , r 2 , · · · , r N ) と書く.関数 f1 (t), f2 (t) と定数 c について = (x1 , y1 , z1 , x2 , y2 , z2 , · · · , xN , yN , zN ) d( ) cf1 = cf˙1 , (5) = (q1 , q2 , · · · , q3N ) (12) dt ( ) d f1 + f2 = f˙1 + f˙2 , (6) が質点系の一般化座標である.つまり,3 次元 dt ( ) d f1 f2 = f˙1 f2 + f1 f˙2 (7) 空間の N 個の質点からなる質点系の自由度は dt 3N である. が成り立つ.また,関数 g(x) に x = f (t) を入 しかし,質点の位置を表すのに必ず直交座標 れた合成関数 g(f (t)) について dg dx d g(f (t)) = = g ′ (f (t)) f˙(t) dt dx dt を使わなければならないわけではない.2 次元 であれば, (8) { x = r cos ϕ, y = r sin ϕ が成り立つ.従って, (13) d {f (t)}2 = 2f f˙, (9) dt で定められる 2 次元の極座標 (polar coordid sin f (t) = f˙ cos f, (10) nate) (r, ϕ) を用いてもよい.ここで変数 r は動 dt ) 径と呼ばれ,r ≥ 0 の範囲を動く.変数 ϕ は偏角 d2 ( f f = f¨1 f2 + 2f˙1 f˙2 + f1 f¨2 (11) 1 2 2 dt と呼ばれ,任意の実数値をとるが,ϕ と ϕ + 2π は同じ点を指すので,異なる点を指すためには などが成り立つ. 1 ϕ の値の範囲を 0 ≤ ϕ < 2π か −π ≤ ϕ < π に ẋ = ṙ sin θ cos ϕ + rθ̇ cos θ cos ϕ 限定するのが通例である. −rϕ̇ sin θ sin ϕ, 3 次元空間の点を表す場合は, x = ρ cos ϕ, y = ρ sin ϕ, z=z (22) ẏ = ṙ sin θ sin ϕ + rθ̇ cos θ sin ϕ +rϕ̇ sin θ cos ϕ, ż = ṙ cos θ − rθ̇ sin θ, (14) (23) (24) ẋ2 + ẏ 2 + ż 2 = ṙ2 + r2 θ̇2 + r2 ϕ̇2 sin2 θ. (25) で定められる円筒座標 (cylindrical coordinate) (ρ, ϕ, z) を用いてもよい. ラグランジアン 同じく 3 次元空間なら x = r sin θ cos ϕ, y = r sin θ sin ϕ, z = r cos θ 物体の運動エネルギー K と位置エネルギー U を一般化座標 q = (q1 , q2 , · · · , qn ) とその時 (15) 間微分 q̇ = (q̇1 , q̇2 , · · · , q̇n ) の関数で表して引 き算した関数 L(q, q̇, t) := K − U で定められる 3 次元極座標 (r, θ, ϕ) を用いても (26) よい.これは球面座標 (spherical coordinate) と をラグランジアン (Lagrangian) という.位置 も呼ばれる.それぞれの変数の範囲は r ≥ 0, q(t) と速度 q̇(t) が時間 t の関数であることか 0 ≤ θ ≤ π, 0 ≤ ϕ < 2π または −π ≤ ϕ < π で ら結果的に L(q(t), q̇(t)) は t の関数になるが, q(t), q̇(t) を通さなくてもあからさまにラグラ ある. ンジアンが t の関数になっていてもよく,その 問 1. 2 次元極座標 (13) について以下の関係 可能性を考慮に入れて L(q, q̇, t) と書いた. 式が成り立つことを示せ.ただし,x, y, r, ϕ が ラグランジアンは運動エネルギーと位置エ 時間 t の関数だとして微分を計算せよ. x2 + y 2 = r2 , ẋ = ṙ cos ϕ − rϕ̇ sin ϕ, ネルギーの差で定義されるが,ラグランジア ンの値そのものに物理的意味はないし,ラグ (16) ランジアンの値が直接測定されることもない. (17) また,考えている対象は質点とも限らず,とも ẋ2 + ẏ 2 = ṙ2 + r2 ϕ̇2 , (18) かく一般化座標で記述され時間変化するシス (19) テムでありさえすれば何でもよい.このこと xẏ − y ẋ = r2 ϕ̇. (20) ẏ = ṙ sin ϕ + rϕ̇ cos ϕ, から,ラグランジアンで記述される対象を力 学系 (dynamical system) という一般的な呼び 方をすることがある. 問 2. 3 次元極座標 (15) について以下の関係 力学系が時間 t1 ≤ t ≤ t2 の間に関数 q(t) に 式を示せ.ただし,x, y, z, r, θ, ϕ が時間 t の関 従って動くと仮定して,この運動に沿ってラグ 数だとして微分を計算せよ. アンジアンを時間積分した値を ∫ t2 S := L(q(t), q̇(t), t) dt (27) x2 + y 2 + z 2 = r2 , (21) t1 2 とおき,S を作用積分 (action integral) と呼ぶ. を導け.n 個の一般化座標を持つ系のオイラー・ 作用積分は,関数 q(t) に対する汎関数である. ラグランジュ方程式は,n 個の微分方程式から ここで,関数 q(t) は力学系の実際の動き方を なる連立方程式であることに注意してほしい. 問 4. 質点のラグランジアンが 表す関数である必要はない.つまり,「もし仮 にこういう動き方をしたとすれば」という仮 1 mṙ· ṙ − U (r) 2 1 = m(ẋ2 + ẏ 2 + ż 2 ) − U (x, y, z) (33) 2 L = 想的な運動に対してもラグランジアンや作用 積分の値を計算することはできる. 勝手に想像して描いた運動について作用積分 の値を計算して何の意味があるのか?と思われ で与えられている場合,座標 r = (x, y, z) につ るだろうが,ここが最小作用の原理 (principle いてのオイラー・ラグランジュ方程式 (32) を of least action) と呼ばれる物理法則の出番で 書け.それがニュートンの運動方程式を再現す ある.時刻 t1 に系の配置が q であり,時刻 t2 ることを確認せよ. 1 問 5. 座標 x で位置が表される質点のラグラ に系の配置が q 2 であるような運動経路 q(t) を ンジアン 考える.すなわち,q(t) は境界条件 q(t1 ) = q 1 , q(t2 ) = q 2 1 L = mẋ2 − mgx 2 (28) (34) を満たすとする.もしも関数 q(t) が現実に起 について以下の問い答えよ. こる運動ならば,この関数は作用積分の値を停 (i) このラグランジアンに対するオイラー・ラ 留にする,というのが最小作用の原理である. グランジュ方程式を書け. つまり,η(t) = (η1 (t), · · · , ηn (t)) を η(t1 ) = 0, η(t2 ) = 0 (ii) (i) の方程式の一般解を求めよ. (iii) t = 0 のとき x = 0, かつ,t = T のとき (29) x = h となる解を求めよ.ただし T > 0 は定 数. を満たす任意の変分関数として ∫ t2 (iv) 関数 x(t) を ( ) S(ε) = L q(t) + εη(t), q̇(t) + εη̇(t), t dt(30) t1 x(t) = at(T − t) + h t T (35) とおけば,q(t) が現実に起こる運動ならば, とおくと,定数 a がいくらであってもこの関数 d S(ε) =0 (31) は x(0) = 0 と x(T ) = h を満たす.この関数 dε ε=0 ∫T x(t) に対して作用積分 S = L dt を求めよ. a 0 が成り立つ.気持ちとしては「現実の運動は作 用積分の値を最小にする」と言いたいから,最 (v) Sa の値が最小になるような a の値を求め 小作用の原理と呼ぶのだが,微分がゼロだとい よ.また,そのときの Sa の値を求めよ.また, うことから最小性は保証できないので,最小と そのときの関数 x(t) が (iii) で求めた解と一致 することを確かめよ. は言わずに停留と言った. 問 3. 作用積分の停留条件 (31) からオイラー・ ラグランジュ方程式 ( ) d ∂L ∂L − =0 dt ∂ q̇i ∂qi (vi) 定数 b は 0 < b < T の範囲にあるとして, 関数 x(t) を { (i = 1, · · · , n) x(t) = (32) 3 ht/b h (0 ≤ t ≤ b) (b ≤ t ≤ T ) (36) とおくと,定数 b がいくらであってもこの関数 を (X, r, Ẋ, ṙ) の関数で表せ. は x(0) = 0 と x(T ) = h を満たす.この関数 (iii) 座標 X, r についてのオイラー・ラグラン ∫T x(t) に対して作用積分 Sb = 0 L dt を求めよ. ジュ方程式を書き,方程式を解け. また,Sb の最小値を求めよ.これと,(v) で求 問 9. 時間 t にあからさまに依存しているラ めた Sa の最小値との大小を比較せよ. グランジアンの例として √ 2 2 問 6. 直交座標 (x, y) と r = x + y で記 1 1 述される質点のラグランジアン L = mẋ2 − kx2 + f x cos Ωt (44) 2 2 1 L = m(ẋ2 + ẏ 2 ) − U (r) (37) 2 を考える.ただし m, k, f, Ω は定数である.こ を 2 次元極座標 (13), (19) を使って書き表せ. のラグランジアンに対するオイラー・ラグラン また,極座標 (r, ϕ) についてのオイラー・ラグ ジュ方程式を書け.また,この方程式はどのよ ランジュ方程式を書け. うな物理的状況を記述しているか説明せよ.さ 問 7. 3 次元空間中に質量 m1 と m2 の質点 らに,この方程式を解け. があり,それぞれの位置ベクトルを r 1 , r 2 とす 問 10. 一般論としては,ラグランジアンは る.2 質点の重心位置ベクトル X と相対位置 運動エネルギー K と位置エネルギー U の引き ベクトル r を 算 L = K − U という形である必要はない.例 m1 r 1 + m2 r 2 X := , (38) えば,一般化座標 (x, y) を持つ力学系について m1 + m2 r := r 2 − r 1 (39) 1 L = m(ẋ2 + ẏ 2 ) + Bxẏ (45) 2 で定める.r 1 , r 2 を X, r の式で表せ.また, 質点系の運動エネルギー 1 1 K = m1 ṙ 1 · ṙ 1 + m2 ṙ 2 · ṙ 2 2 2 というラグランジアンを考えてもよい.ただ (40) し,B は定数である.形式的には,これは U = −Bxẏ という位置エネルギーを持つ系になって を Ẋ と ṙ で表せ. いる.位置だけの関数ではないものを「位置エ 問 8. 1 次元空間中に質量 m1 と m2 の質点が ネルギー」と呼ぶのも変なので,これを速度依 あり,それぞれの位置を x1 , x2 とする.2 質点 の重心位置 X と相対位置 r を m1 x1 + m2 x2 X := , m1 + m2 r := x2 − x1 存ポテンシャル (velocity-dependent potential) という. (41) (i) このラグランジアン (45) に対するオイラー・ (42) ラグランジュ方程式を書け. (ii) また,別のラグランジアン で定める. (i) x1 , x2 を X, r の式で表せ. 1 L̃ = m(ẋ2 + ẏ 2 ) − B ẋy 2 (ii) 2 質点のラグランジアン 1 1 1 L = m1 ẋ21 + m2 ẋ22 − k(x2 − x1 )2 2 2 2 (46) (43) に対するオイラー・ラグランジュ方程式を書け. 4
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