物質情報学 1(解析力学),担当 谷村省吾,講義ノート 4 拘束条件 独立変数と従属変数 何が独立変数で何が従属変数かということは 絶対的に決まっていることではない.例えば,2 系の配置を記述する変数 (x1 , x2 , · · · , xN ) を 次元平面上を動く質点の位置を記述する変数と 多くしすぎると,これらの変数を完全に自由に して直交座標と極座標の 4 つの変数 (x, y, r, ϕ) 動かすことができなくなり,変数同士の間であ を導入すると, { る関係式がつねに成立したり,一部の変数だけ x = r cos ϕ, (5) で他の変数を表すことができたりする. y = r sin ϕ 例えば,三角形という図形について 3 辺の長 という関係があるので,(r, ϕ) を独立変数, さ a, b, c と 3 角の大きさ α, β, γ と面積 T とい (x, y) を従属変数として選ぶことができる.し う合計 7 つの変数 (a, b, c, α, β, γ, T ) を導入す かし, √ ることができるが,これら 7 つの変数を好き勝 r = x2 + y 2 , y 手に変えることはできない.これらの変数の間 tan ϕ = x には x (6) あるいは,cos ϕ = √ , 2 2 x + y y a2 + b2 − 2ab cos γ = c2 , (1) sin ϕ = √ x2 + y 2 s(s − a)(s − b)(s − c) = T 2 , (2) という関係があるので,(x, y) を独立変数, a+b+c ただし,s := , (3) 2 (r, ϕ) を従属変数としてもよい. 1 ab sin γ = T (4) 2 拘束条件 といった関係式が成立する. 一般に,変数 (x1 , x2 , · · · , xN ) が時間 t の関 問 1. 三角形の 2 辺の長さ a, b とその間の角 の大きさ γ がわかったとき,他の辺の長さ c と 数であるとき,これらの変数と微分に関する条 件式 他の角 α, β を決める式を書け. 変数の組 (x1 , x2 , · · · , xN ) Ψ (x1 , x2 , · · · , xN , ẋ1 , ẋ2 , · · · , ẋN , t) = 0 の一部 (7) (x1 , x2 , · · · , xn ) の値を自由に変えることは あるいは できるが,これらの値を決めれば残りの変数 Ψ (x1 , x2 , · · · , xN , ẋ1 , ẋ2 , · · · , ẋN , t) ≥ 0 (8) (xn+1 , xn+2 , · · · , xN ) の値が決まってしまうな らば,(x , x , · · · , x ) を独立変数 (indepen- を束縛条件または拘束条件 (constraint) という. 1 2 n dent variables) といい,(xn+1 , xn+2 , · · · , xN ) 拘束条件は等式のこともあるし不等式で与えら をそれらに対する従属変数 (dependent vari- れることもある.変数の時間微分を含んでいる ables) という.独立変数の個数 n をこの系の自 拘束条件 Ψ (x1 , x2 , · · · , xN , ẋ1 , ẋ2 , · · · , ẋN , t) = 0 由度 (degreed of freedom) という. 1 (9) 消去法 を積分して,微分を含まない形 Φ(x1 , x2 , · · · , xN , t) = 0 (10) もとのラグランジアンが N 個の一 に直せるとき,拘束条件 (9) は可積分 (inte- 般 化 座 標 と そ れ ら の 時 間 微 分 の 関 数 grable) あるいはホロノミック (holonomic) で L(x1 , · · · , xN , ẋ1 , · · · , ẋN , t) で 与 え ら れ て い る と す る .し か も ,N − n 個 の 従 属 変 あるという. 一般には,拘束条件は一つとは限らず,複数 数 (xn+1 , xn+2 , · · · , xN ) が n 個 の 独 立 変 数 個の拘束条件があり得る: (x1 , x2 , · · · , xn ) の 関 数 と し て 表 さ れ る と す る .こ の 場 合 ,従 属 変 数 を す べ て 独 立 Ψ1 (x1 , · · · , xN , ẋ1 , · · · , ẋN , t) = 0, .. (11) 変 数 で 表 し て ラ グ ラ ン ジ ア ン を 独 立 変 数 . だ け の 関 数 L(x1 , · · · , xn , ẋ1 , · · · , ẋn , t) の Ψk (x1 , · · · , xN , ẋ1 , · · · , ẋN , t) = 0. 形 に 書 き 直 す こ と が で き る .つ ま り,従 属 変 数 (xn+1 , xn+2 , · · · , xN ) 問 2. 等式で表される拘束条件の例を挙げ ジアンの表式から消去することができ よ.また,不等式で表される拘束条件の例を挙 る.そうしておいてから,ラグランジアン げよ. L(x1 , · · · , xn , ẋ1 , · · · , ẋn , t) から独立変数だけ 問 3. 変数 (x, y) に関する拘束条件 xẋ + y ẏ = 0 をラグラン についてのオイラー・ラグランジュ方程式を (12) 立てて,解けばよい. 問 6. 質量 m1 , m2 の質点の座標を x1 , x2 と から する.これらが x2 + y 2 − c = 0 (13) x1 + x2 = ℓ = 定数 を導け.ただし c は定数. 問 4. 変数 (x, y) に関する拘束条件 xẏ − y ẋ = 0 という拘束条件を満たしているとする.また, (14) この系はラグランジアン 1 1 L = m1 ẋ21 + m2 ẋ22 + m1 gx1 + m2 gx2 (18) 2 2 から y −c=0 x (17) (15) を持つとする. (i) このモデルはどのような物理的状況を表し を導け.ただし c は定数. ているか説明せよ. 問 5. 変数 (x, y, θ, ϕ) に関する拘束条件 { (ii) x2 を x1 の式で表せ. ẋ − aϕ̇ cos θ = 0, (16) (iii) ẋ2 を ẋ1 の式で表せ. ẏ − aϕ̇ sin θ = 0 (iv) L を x1 , ẋ1 だけの式で表せ. はホロノミックではないことを証明せよ.ただ (v) このラグランジアンから変数 x1 について し a は定数.この拘束条件はどのような物理的 のオイラー・ラグランジュ方程式を書け. (vi) その方程式の初期値問題を解け. 状況を表しているか説明せよ. 2 問 7. 角度 α の斜面を動く質点の座標 (x, y) である. は独立変数 r を使って { x = r cos α, y = −r sin α, ωT = 2π, 2π = 2π T = ω √ m k (25) (19) とおくと (23) の関数は x(t + T ) = x(t) を満た す.つまり,この質点は周期 (period) T で振動 と表すことができる.このとき,ラグランジ する. 問 10. 鉛直面内を動く二重振り子の運動を アン 1 L = m(ẋ2 + ẏ 2 ) − mgy 2 考える.2 つの質点があり,それぞれの質量を (20) m , m ,それぞれの直交座標を (x , y ), (x , y ) 1 2 1 1 2 2 とする.長さ ℓ1 で質量ゼロで伸び縮みも曲が を変数 r(t) に対するラグランジアンに書き換 りもしない棒があり,棒の一方の端は原点に固 えよ.それからオイラー・ラグランジュ方程式 定されており,もう一方の端には質量 m1 の質 を導け.その方程式の初期値問題を解け. 点がくっついている.原点は動けないが,棒は 問 8. 地球の重力の方向に沿った直線を鉛直 自由に回転することはできる.長さ ℓ2 で質量 線 (vertical line) という.鉛直線を含む平面を ゼロで伸び縮みも曲がりもしない棒があり,こ 鉛直面 (vertical plain) という.鉛直線に直交す の棒の一方の端には質量 m1 の質点,もう一方 る平面を水平面 (horizontal plain) という. の端には質量 m2 の質点がくっついている. 水平方向に x 軸をとり,鉛直上向きを y 軸 (i) 変数 (x1 , y1 , x2 , y2 ) に対して拘束条件は 2 つ をとる.関数 y = f (x) のグラフで表される曲 ある.これらの拘束条件を数式で表せ. がった斜面上を滑って動く質点を考える.ラグ (ii) 4 つの変数に拘束条件が 2 つあるので,こ ランジアン の系の自由度は 4 − 2 = 2 である.独立変数 1 L = m(ẋ2 + ẏ 2 ) − mgy 2 (21) ϕ1 , ϕ2 を x1 = ℓ1 sin ϕ1 , y = −ℓ cos ϕ , から変数 y を消去して独立変数 x だけで書き 1 1 1 表せ.また,そのラグランジアンから変数 x に x = ℓ sin ϕ + ℓ2 sin ϕ2 , 2 1 1 対するオイラー・ラグランジュ方程式を導け. y2 = −ℓ1 cos ϕ1 − ℓ2 cos ϕ2 (26) 問 9. m, k は正の実数とする.ラグランジ となるように選ぶ.ラグランジアン アン 1 1 L = m1 (ẋ21 + ẏ12 ) + m2 (ẋ22 + ẏ22 ) 2 2 1 2 1 2 (22) L = mẋ − kx −m1 gy1 − m2 gy2 (27) 2 2 を ϕ1 , ϕ2 , ϕ̇1 , ϕ̇2 の関数に書き直せ. からオイラー・ラグランジュ方程式を導け.そ (iii) ϕ がゼロに近い数であるとき, の初期値問題の解が 1 (28) cos ϕ ≈ 1 − ϕ2 ẋ(0) 2 x(t) = x(0) cos ωt + sin ωt (23) ω sin ϕ ≈ ϕ (29) で与えられることを確かめよ.ただし, という近似的等式が成り立つ.この近似式 √ を 使って ,(ii) で 求 め た ラ グ ラ ン ジ ア ン を k ω= (24) ϕ , ϕ , ϕ̇ , ϕ̇ のたかだか 2 次多項式で近似せよ. 1 2 1 2 m 3 (iii) 二重振子はどのような周期でどう運動する 変数は独立変数でなくてはならない.そこで, 最少の独立変数だけで系を記述しようとする か,説明せよ. 問 11. 摩擦のない水平面上を回転する棒に束 のが消去法であった.もちろん,これは無駄が 縛された質点の運動を考える.Ω は定数,r は ない方法なのだが,従属変数を消去した結果の 時間変化する独立変数であり,直交座標 (x, y) 数式が非常に複雑になることもある. は 拘束条件を扱う方法として,消去法に替わる { 別の方法が以下で説明するラグランジュの未定 x = r cos Ωt, y = r sin Ωt (30) 乗数法である. 一般論として,関数 F (x1 , · · · , xN ) の最大値 に従う従属変数だとする. や最小値を求めたいという問題を考える.とこ (i) ラグランジアン ろが,変数 (x1 , · · · , xN ) は好き勝手に動かす L = 1 m(ẋ2 + ẏ 2 ) 2 ことができなくて,拘束条件 (31) Φ(x1 , x2 , · · · , xN ) = 0 を r, ṙ の関数に書き直せ. (34) (ii) そのオイラー・ラグランジュ方程式を導け. を満たさなくてはならないとする.この制約 (iii) 変数 E を E = のもとで関数 F (x1 , · · · , xN ) の停留値(できれ 1 2 1 mṙ − mΩ 2 r2 2 2 ば極大値・極小値・最大値・最小値)と停留点 (32) (x1 , · · · , xN ) を求めよ,という問題を考える. と定める.関数 r(t) が (ii) のオイラー・ラグラ 消去法 (elimination method) であれば,拘 ンジュ方程式を満たすならば E は時間変化し 束条件の式 Φ(x1 , x2 , · · · , xN ) = 0 を一つの変 ないことを証明せよ. 数,例えば xN について解いて, (iv) (ii) で導いた方程式の一般解を書け. xN = g(x1 , x2 , · · · , xN −1 ) (v) 初期条件を次のように場合分けする: (a) (b) (c) (d) E E E E < 0, = 0, = 0, > 0, r(0) > 0, r(0) > 0, r(0) > 0, r(0) < 0, ṙ(0) < 0, ṙ(0) < 0, ṙ(0) > 0, ṙ(0) > 0. (35) の 形 に 直 し て か ら F (x1 , x2 , · · · , xN −1 , xN ) の xN のと ころ に代 入 し,残った 独立変 数 (33) (x1 , x2 , · · · , xN −1 ) について,目的の関数 F (x1 , x2 , · · · , xN −1 , g(x1 , x2 , · · · , xN −1 )) (36) 各場合に応じて関数 r(t) のグラフを書け. (vi) (v) に示された場合分けはそれぞれどんな を微分してゼロになるところを探す.ただ,こ 状況になっているか説明せよ. の方法だと,すべての変数は対等であるのに, 消去する変数を選ぶことが,もとの問題の対称 性を損なう.また,変数 xN の代わりになる関 ラグランジュの未定乗数法 数 xN = g(x1 , x2 , · · · , xN −1 ) は複雑な関数にな 拘束条件や従属変数があるということは,自 ることが多く,後の問題を煩雑にする. ラグランジュの未定乗数法 (method of La- 由に変えることのできない余分な変数があると いうことである.最小作用の原理を考えるとき grange multiplier) は消去法とは全然発想が違 は変数を自由に変分させるので,そこに現れる う.すでに余分な変数があるのに,あえてもう 4 一つ余分な変数 λ を導入し,新たな関数 複数の拘束条件 Φ1 (x1 , · · · , xN ) = 0, G(x1 , x2 , · · · , xN , λ) .. . := F (x1 , x2 , · · · , xN ) + λ Φ(x1 , x2 , · · · , xN ) (37) Φk (x1 , · · · , xN ) = 0. (42) を定める.そうしておいてから,関数 G を が 課 せ ら れ た 変 数 (x1 , · · · , xN ) の 関 数 x1 , x2 , · · · , xN , λ の各変数で微分してゼロにな F (x1 , x2 , · · · , xN ) の最大・最小点を求めたい るところを求めれば,それが拘束条件 Φ = 0 の 場合は,k 個の未定乗数 λ1 , · · · , λk を導入し, 下での関数 F の停留点(極大点や極小点)であ 新たな関数 る,というのが,ラグランジュの未定乗数法で G(x1 , x2 , · · · , xN , λ1 , · · · , λk ) ある.いま導入した変数 λ は,値が未定で,Φ := F (x1 , x2 , · · · , xN ) k ∑ + λi Φi (x1 , x2 , · · · , xN ) に掛け算されることから,未定乗数 (undeter- mined multiplier) と呼ばれる. (43) i=1 問 12. a を正の定数として変数 (x, y) につい を定める.そして関数 G を x1 , · · · , xN , λ1 , · · · , λk ての拘束条件 の各変数で微分してゼロになるところを求め Φ(x, y) = x + y − a = 0 2 2 2 (38) れば,それが拘束条件 Φ1 = · · · = Φk = 0 の 下での関数 F の停留点(極大点や極小点)で の下で関数 ある. F (x, y) = x + y なお,未定乗数の符合も値も最初は未定なの (39) の値を最大化または最小化する (x, y) を求めよ. (i) 拘束条件の式を変形して変数 y を x で表し で,未定乗数の項は足し算で書いても引き算で 書いてもかまわない: G(x1 , x2 , · · · , xN , λ1 , · · · , λk ) て,関数 F を x だけの式で表してから最大・最 := F (x1 , x2 , · · · , xN ) k ∑ − λi Φi (x1 , x2 , · · · , xN ). (44) 小値を求める方法と (ii) 未定乗数法(この場合 は未定乗数の値も求めよ),の両方の方法で求 めよ. i=1 問 13. 未定乗数法を証明せよ.つまり,な ぜ未定乗数法で拘束条件付き極大・極小問題が ラグランジアンへの未定乗数法 解けるのか,説明せよ. の応用 問 14. a, b, c を定数として変数 (x, y) につい ての拘束条件 Φ(x, y) = ax + by + c = 0 変数 q(t) で記述される力学系が拘束条件 Ψ (q, q̇, t) = 0 (40) (45) を課せられている場合は,未定乗数 λ(t) (こ の下で関数 F (x, y) = x2 + y 2 れも時間の関数であることに注意)を導入し, (41) 元のラグランジアン L に一つ項を加えた新た なラグランジアン が最小になるような (x, y) を定める方程式を書 け.また,その解 (x, y) を求めよ. L̃(q, q̇, λ, t) = L(q, q̇, t) + λ Ψ (q, q̇, t) 5 (46) を作って,q と λ に対するオイラー・ラグラン を課せられているとする.このとき次の二通り ジュ方程式 のやり方で質点の運動を求めよ. ( ) (i) 関係式 d ∂ L̃ ∂ L̃ − = 0 (i = 1, · · · , n)(47) dt ∂ q̇i ∂qi ( ) d ∂ L̃ ∂ L̃ x = a cos ϕ, y = a sin ϕ − =0 (48) dt ∂ λ̇ ∂λ (51) を立てて解けばよい. により,変数 (x, y) を ϕ の従属変数とする.ラ なお,L̃ の上に乗せた波線記号 ∼ はチルダ グランジアン (49) を ϕ, ϕ̇ の関数で表し,ϕ に (tilde) と読む.もともとスペイン語やポルトガ ついてのオイラー・ラグランジュ方程式を立て ル語などのアルファベットの種類を増やすため て,解け. の記号だが,ここではたんに記号の種類を増や (ii) 未定乗数 λ を導入して すために使われている. 問 15. 問 6 の問題を未定乗数法を使って解け. 1 1 L̃ = m(ẋ2 + ẏ 2 ) − λ(x2 + y 2 − a2 ) 2 2 (52) 問 16. 直交座標 (x, y) で記述される 2 次元平 面上の質点のラグランジアンを 1 L = m(ẋ2 + ẏ 2 ) 2 とし,この質点が拘束条件 x2 + y 2 = a2 (a > 0) で新たなラグランジアンを定める.ただし,後 の計算がやりやすくなることを見越して,未 (49) 定乗数を − 12 λ にした.x, y, λ についてのオイ ラー・ラグランジュ方程式を立てて,解け.条 (50) 件 (50) を満たす解だけを書け. 6
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