捻くれた少年と健気な少女 ID:102525

捻くれた少年と健気な少女
ローリング・ビートル
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じます。
︻あらすじ︼
比企谷八幡と南ことりが出会ったら、という物語です。
仄かなる火 │││││││││││││││││││││││
The spiral ││││││││││││││││││
有頂天 │││││││││││││││││││││││││
4
1
目 次 RIGHT NOW ││││││││││
6
SIGNAL │││││││││││││││││││││
ここから ││││││││││││││││││││││││
WAKE UP
8
10
12
!
有頂天
﹂
﹂
お互いの温もりをしっかりと焼き付けながら、まだ足りぬという思
いを残し、その体は離れていった。
さようなら⋮⋮⋮⋮。
こっちこっちー
あんまり騒いでは他の方の迷惑になりますよ
﹁海未ちゃーん、ことりちゃーん
﹁こら穂乃果
!
れ
はテンション高く、海未ちゃんはどこか警戒しながら歩く⋮⋮⋮⋮あ
生徒数が千人を超える学校だけあって、活気がある。穂乃果ちゃん
折りのマンモス校の総武高校にやってきました。
近すぎ場所を参考にするのは流石に⋮⋮⋮⋮という理由で千葉で指
最初はA│RISEのいるUTX学園に行く予定だったんだけど、
上がる学校を見て、参考にしなさいと言われたからです。
生徒会役員にお母さん⋮⋮⋮⋮理事長から、参考までに文化祭が盛り
今、私達は千葉県にある総武高校という学校に来ています。理由は
より姉妹に見える。⋮⋮⋮⋮最近は親子にも見えるなぁ。
海未ちゃんが穂乃果ちゃんを叱りつける。その様子は、親友という
!
!
んを、海未ちゃんが追いかけていったのかな。
もう、人もだいぶ減ってきたから、帰る時間なんだけど。
ポケットから携帯電話を取り出し、連絡しようとする。
すると、曲がり角だったのが災いして、誰かとぶつかった。
﹁あ、ごめん﹂
﹁いえ、こちらこそ﹂
男の人一人と女の人二人の三人組だ。私は男の人にぶつかったら
しい。
お互いに謝り、何事もなかったのを確認すると、三人組はそのまま
去っていった。どうしたんだろう
もてそうだ。女の子二人もそれなりの好意を寄せているように思え
男の人は背も高く、顔も整っていたので、一般的にかなり女の子に
?
1
!
気がつけば二人共いない。恐らく何処かへ走りだした穂乃果ちゃ
?
る。そして、三人共にどこか慌てていた。
私自身はいまいち恋愛事がわからない。幼馴染み三人といる時間
が充実しているからかなぁ。
ふと三人組に目を向けると、階段を昇っていた。進入禁止の屋上へ
の階段を。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
自然と足が向いてしまう。別に三人組を止めようとかではなく、た
だの好奇心で⋮⋮⋮⋮。
階段をこっそり昇ると、三人組は屋上に出ているようだ。⋮⋮⋮⋮
穂乃果ちゃんと海未ちゃん、ちょっと待っててね。
何やら話し声が聞こえるので、聞き耳を立てる。何だか悪い事をし
てるみたい。
話の内容は文化祭実行委員さんについてのようだ。
詳しくはわからないけど、問題が起こっているらしい。
2
さっきの三人組が説得をしている。
すると一人、別の男の人が溜息で割り込んできた。
﹁ほんと最低だな﹂
その先の言葉は酷かった。
相手に反論を許さない。異論を挟ませない。とにかく悪い所を一
つ残らず掬い上げる。私だったら泣いてしまいそうな⋮⋮⋮⋮そん
な言葉だった。
だがそれも遮られる。
ドアの近くに衝撃がきた。
さっきぶつかった男の人が発言を止めさせたらしい。
そして、人が出てくる気配を感じて、慌てて物陰に隠れた。
カツカツと階段を降りていく音が消えた時、私も帰ろうかと物陰か
誰も傷つかない世界の完成だ﹂
ら出ると、扉の向こうから気のせいのような囁き声が聞こえた。
﹁ほら、簡単だろ
青空が見えると共に、風に吹かれ、目を細める。
私は緊張で震える手で、そのドアを開けた。
さっきの酷い言葉が嘘のような、哀しそうな声だ。
?
そして、ドアの近くの壁に凭れて座る彼を見つけた。 3
The spiral
と思い、ぼんやりと目を向ける。
一人でしょうもない独り言を呟くと、屋上のドアが開いた。葉山辺
りが戻ってきたのか
そこには私服姿の女子が立っていた。
まず、変わった結い方のサイドポニーが目に入り、風に長い茶色が
かった髪が揺れていた。
すらりとした手足はどこかおどおどしているように見える。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
目が合った。
色々ありすぎたせいか、疲れて幻でも見ているんじゃないかと思え
るような美しさだ。
ぱっちりした目に不安げにこちらを見る瞳も、形のいい鼻も、ほん
のり紅い唇も、現実味がない。
風が少し強くなり、二人を包むようにさぁっと吹き抜ける。
軽く目を細めながらも、その幻のような少女から視線を外す事がで
きずにいた。
風の不意打ちのような涼しさに、夏がもう遠ざかろうとしているの
を感じた。
﹁⋮⋮⋮⋮。﹂
何か囁かれる。だがこの距離では、どうも聞こえない。
俺の、おそらく呆けているであろう表情を見た少女は、一瞬目を伏
せたのち、再び目を合わせてきた。
唇が小さく動く。
﹁あの⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
初めて耳に届いた声は、小鳥が囀るような小さく甘い声だった。
﹁あなたは⋮⋮⋮⋮何でそんな哀しそうな眼をしてるの
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
?
4
?
少女から目をそらし、空を仰ぐ。小さな雲がいくつかふわふわ漂っ
ている。
哀しそう⋮⋮⋮⋮か。
何が哀しいんだろう、と考える。
何となく、そう思って
﹂
こんな方法しかとれない自分か、この後から始まるより一層面倒な
学校生活か。
﹁あ、ご、ごめんなさい
﹁⋮⋮⋮⋮いや、いい﹂
﹁え
あ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮出なくていいのか﹂
少女のポケットからのようだが、出ようか迷っているようだ。
突然、電子音が鳴り響く。
ここに部外者がいるのか、理由もわからない。
わせていなう。今、それが必要とも思えない。⋮⋮⋮⋮そもそも何故
だが現実としても、初対面の女子との会話スキルなど対して持ち合
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
んだと確信できた。
急に謝りだす少女に、内心慌ててしまう。とりあえず、幻じゃない
!
その意外な行動に少しだけ驚く。
少女はこちらへの距離を三歩だけ詰めてきた。
どうしていいかわからず、その場を去るという選択肢を選ぶ。
立ち上がると、少女はさらに近くまで来た。
その瞳はさっきまでと違い、どこか優しく感じられて、じっと見つ
められても、不快ではない。
その唇が、僅かに震わせ、言葉を紡ぐ。
﹂
﹁誰も傷つかない世界で⋮⋮⋮⋮あなたは何でそんなに哀しそうなん
ですか
?
5
!
少女はしばらくして、携帯の電源を切った。
?
仄かなる火
私は自分自身の言葉に驚いていた。
初対面の人に、何を言っているのだろう。
でも、言ってしまった言葉は、戻すことはできない。
目の前の彼は、ポカンとこちらを見ていたが、やがて、重々しく口
をひらく。
﹁⋮⋮⋮⋮輪の中にいない奴、計算に入れても仕方ないだろ﹂
彼の短い言葉は、私にはとても重く感じられた。また風が吹き、彼
のくせっ毛をふわふわと揺らしているのを見ながら、率直な感想を口
にした。
﹁なんか⋮⋮⋮⋮寂しいね﹂
彼はあまり間を置かずに返してきた。
﹂
私見そびれちゃった﹂
﹁まあ、俺は文化祭実行委員会で、ほとんど参加してないがな﹂
6
﹁別に寂しいって俺が思ってないからいいんだよ。誰にも迷惑かけな
いからな﹂
彼は既に何かを諦めているような口ぶりだ。
空に向けられた視線は、ここからどこか遠くへ飛び立っていきたい
と願っているように見えた。
気がつけば、また一歩彼に近づいていた。
﹂
それを察した彼は一歩向こうにずれた。
﹁⋮⋮⋮⋮文化祭、楽しかったですか
﹁⋮⋮⋮⋮どうだろうな﹂
乃果ちゃんと海未ちゃんに謝った。
これ以上は距離を詰めずに、何となく話をふってみる。心の中で穂
?
どちらともつかない答えが返ってきた。
﹁どんなのやったんですか
﹁あ、﹃星の王子様﹄
﹁⋮⋮⋮⋮うちのクラスは演劇﹂
?
穂乃果ちゃんが食べ物中心に回るのに付き合ってたら⋮⋮⋮⋮。
?
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ここでは何をしてたの
﹂
﹁別に⋮⋮⋮⋮閉会式サボろうとしてる委員長を罵倒してただけだよ
⋮⋮⋮⋮てか、ここで何してるかは俺が聞きたいんだが﹂
もっともな事を言われた。
﹂
う∼ん、どうしようか。
﹁そ、空を見たくなって
﹁⋮⋮⋮⋮そうか﹂
彼は大して興味なさそうに頷いた。改めて見ると、この屋上はかな
り広々としている。でも、どこかしんみりとして、落ち着かない。音
ノ木坂の屋上に馴れすぎたのかな⋮⋮⋮⋮。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
数秒の沈黙。そして、それが合図となったのか、彼は私の隣をすり
抜け、扉に手をかけた。
﹁じ ゃ、行 く わ。あ ん ま り 遅 く な る と、俺 が サ ボ り 扱 い さ れ ち ま う。
そっちもなるべく早く戻った方がいいぞ。一応、ここ立ち入り禁止だ
から﹂
﹁あっ⋮⋮⋮⋮﹂
私は彼の数歩後ろをついていく。猫背気味の背中は疲れて見えた。
そのあとは一言も喋らずに階段を降り、彼はそのまま廊下を歩き、
﹂
?
私は海未ちゃんに電話をかけた。
﹂
﹁まったく、ことりまでどうしたというのですか
﹂
﹁あはは⋮⋮⋮⋮ごめんね
﹁じゃ、帰ろうか
?
られずにいた。
そして、あの低いトーンで呟かれた言葉もまだ頭の中で響いてい
た。 7
?
!
私は二人と話しながらも、あの哀しそうな目や、疲れた背中を忘れ
!
﹂
RIGHT NOW
八幡よ
WAKE UP
﹁では、行こうぞ
﹁へいへい﹂
じゃないか。
﹁で、何でわざわざ秋葉原まで来たんだ
れ
﹂
材木座ってこんなにいい奴だったっけ
目の前にいる中二病オタクが材木座かどうかを疑ってしまう。あ
何⋮⋮⋮⋮だと⋮⋮⋮⋮。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
様を元気づけてやろうと思ってな﹂
﹁ふん。文化祭以降、吹雪のような寒々しい視線にさらされている貴
るとは⋮⋮⋮⋮。
こいつと二人で並んで電車に乗るなんてシチュエーションが訪れ
?
こ い つ の 驕 り ら し い。わ ざ わ ざ 交 通 費 ま で 出 し た ん だ。楽 し も う
メイドさんに案内された席に座り、メニュー表に目を通す。今日は
うだろう。俺も心の中でしてしまった。
りうざい。メイド歴の浅い新人なら、きっとうっかり舌打ちしてしま
恭しく頭を下げるメイドさんに、尊大な態度で応じる材木座。かな
﹁うむ、今帰ったぞ﹂
﹁おかえりなさいませ、ご主人様∼﹂
よ。ちなみに今、俺達が入ろうとしている店は⋮⋮⋮⋮
や、だってこいつ秋葉原でも悪目立ちするんだもん。どういう事だ
材木座からなるたけ距離をとりながら、あとを追って店に入る。い
!
!
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
メイドさんとの2ショット券とやらを受け取る。
﹁お友達紹介の特典になりま∼す﹂
さっき案内をしてくれたメイドさんが席までやってきた。
?
8
!
﹁剣豪将軍さま∼﹂
?
あ、やっぱり材木座だわ。
﹁ご注文はお決まりになりましたか∼
﹂
がかかったケーキ﹄と⋮⋮⋮⋮﹂
﹁お、おい、八幡
﹂
﹂
?
﹁安心しろ。お前の奢りだから﹂
﹁い、いや、何いってんの、お前
材木座は素に戻る。
じょ、冗談だよね
﹁あ│、この﹃メイドさんの手作りオムライス﹄と﹃メイドさんの魔法
?
﹂
!
と思っていたら、ステージにメイドが現れた。
﹂
﹂
ナンバーワンってキャバクラかよ、キャバクラ行った事ないけど、
のご登場です
﹁それでは、久々に当店人気ナンバーワンメイド・ミナリンスキーさん
から、声がかかった。
あと一品、何を頼もうかと考えていると、小さなステージがある方
?
?
向こうもこちらに気づいたように思えたのは、気のせいではないは
ずだ。気のせいじゃないよね
かっていった。
そのまま、声と同様甘ったるい香りを散らして、別のテーブルへ向
﹁久しぶりだね﹂
した後、俺の方へ小さく囁いた。
ミナリンスキーはこの前と同じ甘ったるい声で、お決まりの挨拶を
﹁おかえりなさいませ、ご主人様♪﹂
材木座は腕を組んではいるものの、緊張の極みのようだ。
五分くらいで俺達のテーブルにやってきた。
の客に挨拶していく。
ミナリンスキーとやらは、店の中を歩き回り、一つ一つのテーブル
?
9
!
﹁お帰りなさい、ご主人様♪ミナリンスキーです
﹁なっ
﹂
!
約2週間前に屋上で出会った少女がそこにいた。
﹁⋮⋮⋮⋮
!?
ここから
偶然の再会。
そんな表現がぴったりの二度目の出会い。
﹂
彼は前と同じように、どこか疲れていて、どこか哀しそうに見える。
﹁ミナリンスキーさん、どうしました
﹂
後輩メイドが話しかけてくる。
﹁あ、何でもないよ
いけないいけない。仕事中でした。
あ、うん⋮⋮⋮⋮﹂
﹁あ の 目 つ き 悪 い 人 と 一 緒 に い る 剣 豪 将 軍 さ ん っ て 素 敵 で す よ ね ∼
♪﹂
﹁え
好みのタイプって人それぞれだよね
﹂
﹁だめだよ。ご主人様に目つき悪いとかいっちゃ﹂
﹁あ、すいません
してもらえるといいな。
﹁じゃあ、私行ってくるね
﹂
これも何かの縁だから、文化祭を楽しめなかった分、少しでも満足
に砂糖とシロップを注いでいた。⋮⋮⋮⋮入れすぎじゃないかなぁ。
彼の方を見ると、周りのものに、大して興味なさそうに、コーヒー
悪気はないんだろうけどね。
!
﹂
私 は ハ ー ト と メ ッ セ ー ジ を 書 く。よ し、完 成
じ ゃ あ、次 は
海未ちゃんの目と似ている。いい意味での諦めというか⋮⋮⋮⋮。
見ていた。穂乃果ちゃんが思いつきで行動するのを止めようとする
腕を組み、思いきり胸を張る剣豪将軍さんを、彼は面倒くさそうに
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁うむ、存分にやるがよい
﹁それではお絵描きさせていただきますね∼♪﹂
オムライスを一つずつ丁寧に運ぶ。
﹁お待たせしました、ご主人様∼♪﹂
!
!
!
10
!
!
!
?
⋮⋮⋮⋮
﹂
﹁あ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁
予想外の光景がそこにあった。
貴様、何をやっておるか
﹂
彼はもうオムライスを食べ始めていた。
﹁八幡
!
﹁あはは⋮⋮⋮⋮﹂
何 そ れ、自 己 紹 介
剣豪将軍さんから券を差し出される。
それではこちらへ♪﹂
やっぱりお主が行ってきて∼
!
﹁はい
﹁は、はちま∼ん
彼の顔をちらりと見ると、目が合った。
ブースへと案内する。
﹁それではこちらへどうぞ∼♪﹂
どうやら彼と撮ることになったようだ。
﹁こ、ここでヘタレるのかよ⋮⋮⋮⋮﹂
!
⋮⋮⋮⋮あんまりさっきと変わっていない。
﹂
﹁ツ、ツツツ、ツーショットチェキなんだけど⋮⋮⋮⋮﹂
﹁は∼い♪﹂
彼の席のベルが鳴らされる。
少しだけからかってみたくなったのは内緒の話。
﹁それではごゆっくり、ご主人様♪﹂
れ屋さんなんだ。結構可愛いかも。
彼は照れくさそうに頬を赤く染め、外の方を向いている。意外と照
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ケチャップの代わりに魔法をかけておいた。
﹁それでは代わりに⋮⋮⋮⋮おいしくな∼れ♪﹂
じゃあ、ここは⋮⋮⋮⋮
?
﹁空気の読めん奴め﹂
﹁え
?
⋮⋮⋮⋮﹂
お前にだけは言われたくないんだけど
﹁あ、いや⋮⋮⋮⋮朝飯食いそびれたから腹減ってたんだよ﹂
!
!
11
?
SIGNAL
﹁文化祭以来ですね﹂
ミナリンスキーさんが話しかけてくる。
クラスメイトですら、外で会ってもスルーされる俺に話しかけてく
るとは⋮⋮⋮⋮実はこの子、かなり性格がいいのではなかろうか。
﹁⋮⋮⋮⋮そうだな﹂
﹂
軽く返事だけしておく。
﹁あれから、どうですか
同じだ。
﹁あ、ごめんなさい
﹂
﹁はやく撮った方がいいんじゃないのか﹂
ミナリンスキーさんは笑顔のままだ。
﹁そうですか﹂
﹁別に。いつも通りだよ﹂
だがそうはしなかった。 同じか
だった。普段なら無視するか、気づかないふりをしているところだ。
聞 い た 本 人 も 何 を 聞 い て い る の か わ か ら な い ふ わ ふ わ し た 質 問
?
く包み込んできた。
﹁⋮⋮⋮⋮近くないか
﹂
この距離でこっちを向くなっての
﹁いつも通りですよ。ご主人様♪﹂
だぁ∼
﹁あっ⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
向こうも気づいたのか、正面を向いた。
﹁はい、チーズ
!
?
﹁あ、ああ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁写真は後ほどお渡ししますね♪﹂
カシャッと切れのいい音が鳴り、撮影が終わる。
!
真っ白な頬とかほん
て座ってくる。というか肩と肩が触れ合い、甘ったるい匂いが容赦な
カメラをセットしたミナリンスキーさんはさっきより距離を詰め
!
のり朱い唇を間近に感じ、顔が熱くなる。
!!
12
?
左肩にはまだ柔らかな温もりが凭れかかっている気がした。
座席のベルが再び材木座によって鳴らされる。
﹁は∼い♪﹂
またミナリンスキーさんがやって来た。人気ナンバーワンが一つ
の席に何度も来ていいのだろうか。さっきから、周りの客達の視線が
刺 さ っ て き て 痛 い。最 近、視 線 に 敏 感 だ か ら、よ り 一 層 深 く ま で 刺
さってくる。まあ、俺達を見るのは数秒で、あとはミナリンスキーさ
んにみとれているだけだが。
﹁うむ。我等はもう、出かけるとしよう﹂
﹂
こいつ⋮⋮⋮⋮。さっきまでは緊張しまくりだったのに、もう立ち
直りやがった。
﹁もうお出かけしちゃうんですか
甘えるような声で聞かれる。演技だとわかっていても、罪悪感がす
るから止めてね。中学時代の俺なら勘違いして、通い詰めているとこ
ろだ。
﹂
﹁我等は行かねばならんところが⋮⋮⋮⋮﹂
﹁えーと、いくらだっけ
﹁割り勘でいい﹂
﹁ぬう⋮⋮⋮⋮お主、ツーショットチェキがそんなに嬉しかったのか
﹂
﹁いや、俺はいいや﹂
周りの空気が⋮⋮⋮⋮。
俺の言葉を聞いたミナリンスキーさんは、キョトンとした後、俯き、
胸の前で手を握る。あれ
﹁お願い⋮⋮⋮⋮
﹂
そして数秒溜めた後、顔を上げた。
?
﹁はい、ご主人様のお名前は⋮⋮⋮⋮ヒキタニハチマン様ですね♪﹂
!
いつの間にか、ここの会員になっちゃってる。ふっしぎー。
﹁ヒキガヤな﹂
あれ
?
13
?
材木座の言葉に被せるように伝票の確認をして、材木座に渡す。
?
﹁こちら会員カードになります﹂
﹁違うっての﹂
?
ヒキガヤ様ですね♪﹂
いや、さすがにね。あんな濡れた瞳向けられちゃ。
﹁あ、失礼しました
﹁ああ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁また、帰って来てくださいね♪﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂
おそらく、もう会う事もないだろう。偶然で二度会っただけで、変
な勘違いをするような、甘っちょろい脳みそはしていない。
いってらっしゃいませ♪﹂
会計を済ませ、歩き出すと、お決まりの挨拶が聞こえてきた。
﹁それでは、ご主人様
つい振り返ってしまい、顔を上げたミナリンスキーさんと目があっ
!
たが、そこにはほんのりと凍えた心を温めるような笑顔があった。
14
!