ドル反発と円反落、持続性を吟味 米6月利上げの確度焦点

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Market Insight
平成28年5月23日(月)
ドル反発と円反落、持続性を吟味
米6月利上げの確度焦点、サミットなども注目
今週の為替相場は、ドル反発と円反落の「持続性」を吟味する展開が続く。週
間予想はドル/円が108.80-111.30円、ユーロ/円が121.80-124.90円。前週から
は米FRBによる6月利上げ観測の高まりがドル高を支援しているが、実際の利上げ
までには紆余曲折が想定されるほか、FRBの利上げは米国株や世界株、原油相場
などに打撃となり、リスク回避の円高要因にもなる。今週は米国の経済指標や
FRB幹部の発言を踏まえたFRBの6月利上げ確度の見極めや、伊勢志摩サミットに
向けた政策動向などが焦点となる。
米10年債金利、13週線「上抜け」と「上向き」の基調転換
ドル/円の中期トレンド判断で参考になる週足テクニカルでは、一目均衡表の
転換線109.68円前後、6週移動平均線109.06円前後、180週移動平均線108.57円前
後などの上抜け回復を巡る攻防となってきた。これから上下動を経ながらも、上
抜け定着できるとドル安の圧力が一服。各ラインなどでの下値固めを経て、先行
き基準線114.62円前後、40週(200日)移動平均線116.68円前後(先行き切り下が
り)の方向を試す可能性を秘めている。
当座のドル/円を左右するのが、6月14-15日の米FOMCに向けたFRBの利上げ動
向だ。前週からは18日のFOMC議事要旨やFRB幹部の発言などで、利上げ遅延の楽
観論が後退し、前倒し警戒が高まっている。米CMEグループによると議事要旨以
降、市場が予想する次回利上げ時期は9月から7月にシフトした。FF金利先物市場
が織り込む6月の利上げ確率は現在30%で、議事要旨公表前の19%から上昇して
いる。今後の経済指標やFRB幹部の発言次第では、利上げ確率の伸びシロがドル
の上値余地として着目されやすい。
FRBの利上げ警戒と米国の指標改善などを受けて、米国の10年債金利は下げ止
まりに移行してきた(債券価格は上げ渋り)。前週末には1.83%前後で終了した
が、13週移動平均線1.82%の上抜け攻防に直面している。しかも13週線の方向性
は、微妙な上向きへと向かい始めた。このまま13週線の「上抜け」と「上向き
化」が定着してくると、実に昨年12月以来の現象となる。同時期から加速されて
きたドル安・円高のトレンド一服が支援されやすい。
前回、米10年債金利が13週線の上抜けと上向きとなった基調転換には、2015年
10月があった。当時のドル/円は、118円から123円方向までドル高ラリーが形成
されている。その前には2015年5月から観測されたが、ドル/円は118円から125円
方向までドル高が進む局面があった。
もっともFRBの利上げ警戒の高まりは、米国債金利の上昇やドル高の併発とあ
いまって、米国株にはマイナス材料となる。新興国株などの世界株や原油相場に
も打撃となり、またぞろリスク回避の円高や資源国通貨安(豪ドル安、NZドル
安、カナダ・ドル安など)を誘発させる側面を有している。現在の欧州では6月
23日に英国でEU離脱を問う国民投票が予定されており、この問題もドル高と裏表
でのポンド安、ユーロ安が、クロス円でのリスク回避の円高を助長させるシナリ
オも無視できない。
1
Market Insight
ただし、為替相場では年明け以降、「米FRBの利上げペース慎重化」や「英国
のEU離脱リスク」、「2016年の中国を始めとした世界減速」といった複合要因を
織り込む形で、投機的な円ロング(買い持ち)ポジションが膨張してきた。シカ
ゴIMMの投機的な円ポジション(非商業部門、国際通貨市場)では、最新5月17日
時点で+5万8919枚のネット・ロングが積み残されている。前週の+5万9047枚や
過去最高水準となった4月19日週の+7万1870枚からは円の買い持ちが減少してき
たものの、依然として大規模な円ロングが残存したままだ。
今後は海外勢の6月決算対策とあいまって、リスク回避でも「新規の円ロング
積み増し」よりは、6月の不透明材料に備えたポジション中立化や利益確定など
の手仕舞い圧力が増大。円ロング整理と円の売り戻しに作用する潜在エネルギー
が残されている。その他の注目ポイントは以下の通り。
<IMMの円ロング膨張、整理の円売り余地>
前回、シカゴIMMで円ロングが急拡大した局面には2007年以降があった。当時
は円ショートから円ロングが急膨張したあと、2008年3月の+6万5920枚で一旦の
円買いピークと、ポジション調整へと転換している。当時のドル/円は2008年3月
の95.78円前後をドルの底値として、同年8月の110.67円方向まで、+15円近いド
ルのリバウンド反発(円反落)が観測されている。
その後の円ロング整理局面でも、2009年1月の1ドル=87.12円前後から同年4月
の101.50円方向まで、約+14円のドル反発が進展した。それ以降も基本的なドル
安・円高のトレンドが続く中にあって、「円ロング調整相場」では2009年11月か
ら2010年5月にかけて約+10円、2011年10月から2012年3月にかけて約+9円と
いったドル反発(円反落)パターンが見られてきた。
<米国の経済指標>
米国の経済指標は強弱混在が続いているが、最近は改善指標に敏感となるケー
スが目立ち始めた。今週は24日の新築住宅販売、26日の新規失業保険申請件数、
26日の耐久財受注などで底堅さが注目されやすい。一方、26日の中古住宅販売成
ドル/円;9週移動平均線を中央値のボリンジャーバンド
週足ADX指数(トレンドの強さを示す)
125
123
121
119
117
115
113
111
109
107
105
103
↑
上抜け攻防
May-16
Apr-16
Mar-16
Feb-16
Jan-16
Dec-15
Nov-15
Oct-15
Sep-15
Aug-15
Jul-15
Jul-15
Jun-15
May-15
Apr-15
ドル/円(左軸)
バンド上限=112.72
9週線=109.22
バンド下限=105.71
ADX(右軸)
Mar-15
Feb-15
Jan-15
Dec-14
Nov-14
Oct-14
円
ドル安基調
勢い鈍化
↓
%
ユーロ/円、カナダ/円、ノルウェー・クローネ/円(×10)
ブラジル・レアル/円(×2)
170
160
95
90
85
80
75
70
65
60
55
150
140
130
120
全般下げ渋り↑
110
ユーロ/円(左軸)
100
May-16
Apr-16
Mar-16
Feb-16
Jan-16
Dec-15
Nov-15
Oct-15
ブラジル/円(右軸)
Sep-15
カナダ/円(右軸)
Aug-15
Jul-15
Jun-15
May-15
Apr-15
禁無断転載・転送
Mar-15
円
ノルウェー/円(左軸)
46
43
40
37
34
31
28
25
22
円
2
Market Insight
約指数は、前月の改善の反動悪化が警戒される。27日の1-3月GDP改定値につい
ても、年初の世界減速懸念や大雪、原油安のマイナス影響などを受けた伸び悩み
が懸念されそうだ。
なお、米国経済の先行指標であるコンファレンスボードの米国景気先行指数で
は、最 新 4 月 に「直 近 6 カ 月 間 ベ ー ス の 年 率 比」が + 1.1% と な っ た。前 月
の + 0.8% や 直 近 最 低 で あ る 1 月 の + 0.3% か ら 改 善 し て お り、2014 年 7 月
の+7.5%を直近最高とした景気停滞の底入れが示唆されている。過去にはドル/
円でのドルの底入れとも符合しており、米国の経済ファンダメンタルズ面でのド
ル安一服が支援されやすい。
<FRB幹部の発言>
今週の米国市場ではFRB幹部による講演などが相次ぐ。改めて6-7月に向けた
利上げ地ならしを前進させると、ドルの下値固めを支援しやすい。最大の注目は
27日のイエレンFRB議長の講演だ。米国では2月から原油が底入れ反発しており、
過去の経験則でいえば、半年程度のタイムラグで消費者物価指数(CPI)の押し
上げに作用する可能性をはらむ。実際に6-7月のFRB利上げはまだ微妙ながら、
今後の経済指標次第での「利上げ急ブレーキ」という市場混乱を回避させるた
め、イエレン議長が6-7月の「可能性としての利上げ余地」を示唆する地ならし
準備には注意を要する。
<伊勢志摩サミットに向けた政策期待>
今週は26-27日に伊勢志摩サミットが開催される。前週末の仙台G7財務相・中
銀総裁会合では、財政出動の政策協調が不調に終わっている。サミットでも財政
出動の合意は困難であり、政策失望が短期的なリスク回避の円高・株安を促す展
開は無視できない。ただし、議長である安倍晋三首相は現在、「財政出動だけで
なく、金融政策と構造改革をセットにして世界経済を支える『G7版3本の矢』で
の合意取り付け努力」に奮闘している。日本では7月に参院選、場合によっては
衆参同日選の可能性が予定されており、日本が率先する形での景気対策の地なら
し強化が、円安・株高を後押しさせる可能性も注視されよう。
米国のコンファレンスボード景気先行指数
6カ月・年率比、ドル/円
12
10
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
先行指数は底入れ
Jun-16
Jun-15
Jun-14
Jun-13
ドル/円(右軸)
Jun-12
先行指数(左軸)
Jun-11
Jun-10
Jun-09
Jun-08
Jun-07
Jun-06
Jun-05
Jun-04
Jun-03
Jun-02
Jun-01
Jun-00
Jun-99
Jun-98
Jun-97
Jun-96
Jun-95
Jun-94
Jun-93
%
↑
140
130
120
110
100
90
80
70
60
円
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