Title シュミット反応によるアミノ酸の合成に関する研究

Title
Author(s)
Citation
Issue Date
URL
シュミット反応によるアミノ酸の合成に関する研究(
Abstract_要旨 )
林, 恭三
Kyoto University (京都大学)
1959-03-31
http://hdl.handle.net/2433/210682
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
【40 】
氏
林
はやし
恭
きよ う
ぞう
博
士
学 位 の 種 類
薬
学 位 記 番 号
薬
学位授与の 日付
昭 和 34 年 3 月 31 日
学位授与の要件
学 位 規 則 第 5 条 第 1項 該 当
研 究 科 ・専 攻
薬 学 研 究 科 薬 学 専 攻
学位論文題 目
シュ ミッ ト反 応 に よ る ア ミノ酸 の合 成 に関 す る研 究
(主
論 文調 査 委員
学
博
第
7
号
査)
教 授 鈴 木 友 二
論
文
内
教 授 宇 野 豊 三
容
の
要
教 授 富 田 英 雄
旨
ア ミノ酸代謝やア ミノ酸括抗物質 の研究 を行な うに当た っては, 天然 ア ミノ酸お よびその類似化合物を
簡易かつ経済 的に合成す ることが強 く要望せ られ るが, それ らの方法 は特 に実験室的に応用範 囲が広 く高
純度の製品が得 られ る方法でなけれ ばな らない。
シュ ミッ ト反応 は従来 よ りア ミノ酸の合成法の一つ と して知 られていたが, その応用 に関す る系統的な
研究 は今 までの ところ行なわれていない。 また, その反応機作 についての詳 しい研究 も見 当た らない。 著
者 は シュ ミッ ト反応 によるア ミノ酸 の合成法を系統 的に研究 した結果, 今 まで合成が比較的困難であ った
多 くの生化学的に興味あるア ミノ酸を簡易かつ収量 よ く高純度 に合成 す ることが出来た。 また, この際 に
得 た知見 を総合 して反応機作の解 明を行な った。
〔Ⅰ
〕 中性 ア ミノ酸
(1 )
脂肪族 ア ミノ酸 - A lkylm alLOnic A cid を濃硫酸の触媒 の もとに窒化水素の クロロホル ム溶液 と
反応せ しめL 生成 したア ミノ酸を A m berlite IR 120 を使用 し容易に遊離状 に分離 した。
アルキル基の増大 に したがい収率 はわずかなが ら減少す る傾向を示す。
これはアルキル基の -Ⅰ効果の
響影 によるもの と考 え られ る。
(2 )
芳香族 ア ミノ酸- ア リルお よびア ラルキルマ ロン酸 を原料 と して芳香核な らびに芳香核上の置
換基の反応 にお よぼす影響 につ いて検討 し条件 ( i )~(iii) の ごとき結果を得 た。
この反応 は ( i ) 炭素 陽 イオ ンの電子密度の高低
(ii) 転位す る残基の陰 イオ ンと しての脱離性, (iii)
立体効果 の 3 条件 に支配 され るもの と思われ るが芳香核上 に- ロゲ ンが付加 す る場合 には 目的物が得 られ,
メチル基が付加す る場合 にはほとん ど得 られぬ事実 よ り, 条件 ( i ) が (ii) に優先す るもの と考 え られ る。
また, 立体効果 は反応 に大 き く影響 し β-Phenylethylm alonic acid か ら α-A m ino-γ-phenylbutyric acid
は得 られなか った。
( 3 ) α- アルキル置換 -α- ア ミノ酸一上記の ( 1 ), ( 2 ) の ごと く α- ア ミノ酸が容易 に 得 られたので
- 123 -
他 の方 法で は合成 困難 な α- アル キル置換 -α- ア ミノ酸を うる目的で D ialk ylm alonic acid につ いて反応 を
行 な ったが収率 は非 常 に低 く, また, 得 られたア ミノ酸 は P aper chrom atography の結果単一 な ア ミノ酸
で はな く混合物で あ り,
アル キル基の異 な って い る 場合 には 3 種, 同一 の場 合 には 2 種のア ミノ酸が 生
成 した。
さ らに, この よ うな特異 な反応 は E thyl-α-dialkylacetoacetate との反応 にお いて も認 め られ た。
そ こで, アル キル基 の種類 と生成 ア ミノ酸 の混合比な らび に反応温度の収率 にお よぽす影響 につ いて 検討
した。 アル キル基 の増大 に したがい 副生 す るア ミノ酸 は 増加 す る 傾 向にあ る。
また,
反応 温度 につ い
て は D ialkylm alon ic acid で は著 明に影響 す るが E thyl-α-d ialkylacetoacetate で はほ とん ど影響 な く混合
比 も変化 しない。 しか し, 2 個 のアルキル基 の 1 個が ア リル基 で置換 され た場合 には, この特異 な反応 は
認 め られず純粋 に 目的物 を得 た。
〔Ⅲ〕 針 ア ミノ酸 お よび塩基性 ア ミノ酸
O - ア ミノ酸 の合成 法 と して広 く一般 に応用 出来 る方法 は未 だ知 られていないO そ こで 二塩基性酸 を原
料 と した合成 を企 図 した。
二塩基酸 に 当量 あ るいはやや過剰の窒化水素 を反応せ しめ る時 は収率 は低 いが, 二塩基性酸 モ ノエステ
ル に過 剰の窒化水素 を 作用せ しめて 高収率で O - ア ミノ酸 を得 た
o
a'- ア ミノ酸 は 塩基性 ア ミノ酸合成 の
K eyinterm ed iate で あ る。 そ こで, 二塩酸塩 を合成 した後, イオ ン交換樹脂 を使用 し容易 に- 塩酸塩 と し
て分配 した
O
か くして従 来合成 困難で あ った高級 W -ア ミノ酸 を合成 し得 たので 高級塩基性 ア ミノ酸合成
- の新 しい道が開 けた
。
高級塩基性 ア ミノ酸 の うち H om olysine は既 に H arris らが A cetoam idom alonate 法 によ り m .p . 1760
の M onohydroch loride m onohydrate の結 晶 と して得 てい るが, この方法を著者 の 3 種の方法 と比較 しあわ
せ て反応成績体 を同定 しよ うと したが,すべての場合 に m .p . 2630 の M onohydrochlorlde の針品 と して単
離 L m .p. 1760 の物質 は得 られなか った。 また, その D ibenzoate を も合成 し確 認 した。
〔
Ⅲ〕 含硫 ア ミノ酸
β-A lkylm ercaptoeth ylm alonic acid よ り M eth ion ine sulphox im ine 同族体 を得 る方法を 考案 した。 含
硫 マ ロン酸 には窒化水素 に対 し作用点が三 か所 あ ることが考 え られ るので, 反応 がいかに進行 す るかを検
討す るため窒化水素 を 1 m 01, 2 m ols, 3 m ols と段、階的に反応せ しめて生成 す る反応成績体 を分離 し, 別法
によ り合成 した標準品 と比較 同定す る方法 によ り反応経路 を解 明 した。
〔
Ⅳ〕 ホ モ セ リ ン
各種 の四炭 ア ミノ酸代謝上注 目されてい るホモセ リンをつ ぎの どとき 2 種 の方法で合成 した。
( i ) β-A lkox yethylm alon ic acid と窒化水素 の反応 によ り M ethoxin in e 系 化合物を得 た後, 臭 化水
素で加水 分解 し, A m inobutyrolactone hydrobrom ide を得,
に行 ない容易 にホモセ リンを得 た
イオ ン交換樹脂 を使用 し脱酸 と 閉環 を同 時
。
(ii) E thyl-α-alkoxyethylacetoacetate と窒化水素 を反応せ しめ, E thyl-α-acetam ido-γ-alkoxybutyrate を得, 直 ちに加水分解 し ( i ) と同様 に処理 し高収率で 目的を達 し得 た
較 して経済 的 に も有利で あ る。
- 124 -
。
この方法 は従来 の 方 法 に比
〔Ⅴ〕 そ
の
他
なお, ア ミノ酸 の合成 に関連 して ジア ミンを合成 したが,
合成 繊維 の 原料 と して 使用 され る C aprola-
ctam よ り容易 にかつ高収率で C adaverine d ihydrocIlloride を得 ることに成 功 した。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
シュ ミッ ト反応 は従 来 ア ミノ酸 の合成法 と して知 られて いたが その応 用 に関す る系統的な研究 や反応機
作につ いての詳 しい研究 は見 当た らない。 著者 は シュ ミッ ト反応 によるア ミノ酸 の合成法 を系 統 的 に研究
し, 合成 が比較 的困難 で あ った多 くの生化学 的 に興 味 あ るア ミノ酸 な らびにその同族体 を簡易かつ収 量 よ
く高純度 に合成 し, この際 にえた知見 か ら反応機 作の解 明を行 な った。
〔Ⅰ〕 中性 ア ミノ酸
(1)
脂肪族 中性 ア ミノ酸- アル キルマ ロ ン酸 を濃硫酸 の存在 の もとに窒化水素 の クロロホル ム溶液
と反応せ しめ, 生成 した ア ミノ酸 を イオ ン交換樹脂 を使用 して容易 に分離 した。 アル キル基 の増大 に した
が って, 収率 はわず かなが ら減少 す る傾 向を示 し,
これ はアル キル基 の -Ⅰ効果 の 影響 によるもの と考 え
られ る。
(2 )
芳香族 ア ミノ酸- ア リルお よび ア ラルキルマ ロン酸 を原料 と して, 芳香核 な らび に芳香核上 の
置換基の シュ ミッ ト反応 にお よぼす影響 につ いて検 討 し,
この反応 は ( i ) 炭素陽 イオ ンの電子密 度 の高
低, (ii) 転位す る基 の陰 イオ ンと しての脱離 性, (iii) 立体効果 の 3 条件 に支配 され る結果 をえた。
(3 )
α- アルキル置換 α- ア ミノ酸一他 の方法で は 合成 困難 な α- アル キル置換 α- ア ミノ酸 を うる 目
的で ジアル キルマ ロン酸 につ いて反応 を行 な ったが収率 は非常 に低 く, かつ え られた ア ミノ酸 は単一 な も
ので はな く, アル キル基 の異 な って い る場 合 には 3 種, 同一 の場 合 には 2 種 の ア ミノ酸 が生成 したo この
よ うな特異 な反応 はエチル α- ジアル キル アセ ト酢 酸 エステル との反応 において も認 め られ た。 そ こ で,
アルキル基 の種類 と生成 ア ミノ酸 の混合比 な らびに反応 温度の収率 にお よぼす影響 につ いて検討 し, アル
キル基の増大 に したが い副生す るア ミノ酸 は増加 す る傾 向にあ ることを知 った。 2 個 の アル キル基 の 1 個
が ア リル基で 置換 された場合 には, 上 の特異 な反応 は認 め られず純粋 に 目的物 を得 た。
〔Ⅲ〕 O - ア ミノ酸 お よび塩基性 ア ミノ酸
か ア ミノ酸 は塩基性 ア ミノ酸合成 の主要 な中間体 で あ るが,
その合成法 と して広 く一般 に応 用で きる
方法 はまだないので二塩基性酸 を原料 と した合成 を企 図 した。 二塩基性酸 にやや過剰の窒化水素 を反応せ
しめ るときは収率 は低 いが,
二 塩基性酸 モ ノエステル に過剰の窒化水素 を 作用せ しめ るときは 高収率で
α- ア ミノ酸 をえ る。
〔
Ⅲ〕 含硫 ア ミノ酸
β- アル キル メル カプ トエチルマ ロン酸 か らメチオニ ンスル ホキ シ ミン同族体 を うる 方法 を 考案 した。
含硫 マ ロ ン酸 には窒化水素 に対 し作用点が三か所 あ ることが考 え られ るので, 反応 が ど う進行す るかを検
討す るた め窒化水素 を 1 モル, 2 モル, 3 モル と段 階的 に反応 させ て反応成績体 を分離 し, 別法 によ り合
成 した標 準品 と比較 同定す る方法で反応経路 を解 明 した。
〔
Ⅳ〕 ホ モ セ リ ン
- 125 -
各種 の四炭 ア ミノ酸代謝上注 目され て い るホモ セ リンをつ ぎの 2 種 の方法 で合成 した。
( i)
β- アル コキ シエチル マ ロ ン酸 と窒化水 素 の反応 で メ トキ シニ ン系化合物 を 得 たの ち,
臭化水
素 で加 水 分解 しア ミノ プチ ロラク トン臭化水素酸塩 をえ, イオ ン交換樹 脂 を使用 し脱酸 と閉環を同時 に行
な い容易 にホモ セ リンを えた。
( ii)
エチル-α- アル コキ シエチル アセ ト酢 酸 エステル と窒化水 素 を反 応 さ せ エ チルーα- アセ トア ミ
ドーr アル コキ シ酪酸 エステルを え, 直 ちに加水 分解 し ( i ) と同様 に処理 し高収率 で 目的 を達 しえた。 こ
の方 法 は従 来 の方法 に比較 して経済 的 に も有利で あ る。
〔
V〕
そ
の
他
なお, ア ミノ酸 の合成 に関連 して ジア ミンを合成 したが, 合成 繊維 の原料 の カプ ロ ラクタムか ら容易 に
かつ 高収率 で カダベ リン二 塩酸塩 を うることに成 功 した。
この よ うに, 本研究 は ア ミノ酸合成 の新 分野 を開 拓 した もので あ るQ したが って, 本 論 文闇 薬学博士 の
学位論文 と して価値 あ るもの と認 め る。
〔
主 論 文 公 表 誌〕
第 1- 2報
C hem ical & Pharm aceutical B ulleth
V ol. 7 (1959), N o. 1
第 3 - 4 報 C hem ical & P harm aceutical B ulletin, V ol. 7 (1959), N o. 2
第
5
第 6
報 C hem ical & P harm aceutical B ulleth V ol. 7 (1959), N o. 8
報
第7, 8報
〔
参
考
な
C hem ical & P harm aceutical B ulletin , V ol. 8 (1960), N o. 3
C hem ical & Pharm aceutical B ulletin , V ol・ 8 (1960), 近 刊号 予定
論
文〕
し
- 126 -