1 経済偏重の政策と極端な経済格差は 健康を蝕む 渡 部 透 昨年度は、地域医療介護総合確保基金の配分の 逆のこともあり、偏った主張だ。こちらを立てれ 在り方、地域医療構想の策定手順、医療事故調査 ばあちらが立たずではないのである。言葉が踊っ 制度における県医師会の位置づけなどを中心に議 ているような虚しさがある。政府は、経済に重き 論が重ねられ、多忙で、大揺れの一年であった。 を置き過ぎないよう絶妙なバランスをとることが 今年度も平成30年度からの第7次医療計画、第7次 必要だ。 介護保険事業計画、診療報酬と介護報酬の同時改 政府・与党は平成28年度に2.21%の減税に踏み 定に向け、厳しい対応を迫られる年度になるだろう。 切るという。法人税を1%下げると約5千億円の 県医師会の平成28年度事業計画については、先 減収になり、また、復興特別法人税も廃止により 月の県医師会臨時代議員会で報告したが、役員一 約8千億円の減収とのことだ。その額の多さに驚 同、計画の遂行に全力を尽くす所存である。 く。 ますます大企業の内部留保が増えるだけである。 なお、今年度の各部の事業計画については重点 既に、富裕層が経済的に豊かになることで、富 項目をわかり易く明記することとした。このこと がしたたり落ちて、最終的には貧困層も豊かにな により、関係する委員会においても、期の初めか り、全体に富が行き渡るというトリクルダウン理 ら重点項目を中心にメーリングリストを利用する 論(仮説)が否定されていることから、大部分の などして議論を開始していただければと思ってい 国民は恩恵にあずからないことになる。 る。何よりも会員諸氏に執行部の姿勢をより一層 事実、ジニ係数が40%以上は騒乱が起こるとい 理解いただけるものと期待しており、県医師会の われているが、我が国は37%とのこと。わが国の 会務に更なるご協力をお願いしたい。 景気は回復基調といわれているが国民にとって恩 さて、診療報酬改定については、厚労省の概算 恵はあるのだろうか。 である社会保障費の伸び6,700億円を、政府の「骨 わが国の所得再配分効果を示すジニ係数は悪化 太の方針2015」での社会保障費の伸びを年約5,000 傾向にある。日本の税の再配分力は、経済協力開 億円に収めるための財務省と厚労省の攻防や社会 発機構(OECD)21か国で最低であるという。国 保障審議会の関係部会や中医協での日医執行部の は高齢化の影響と説明しているが、いずれにしろ 活躍を見守ったが、公費負担はわずか約550億円 経済格差の拡大は明らかになっている。例えば、 で、薬価、材料費価格の引き下げは本体に戻らず 子どもの貧困率は、1985年は10.9%であったが、 不満が残る改定であった。これでは医療機関の再 2012年には過去最悪の16.3%となっており、成長 生産能力は奪われ、政府が民間企業に求めている 阻害、学力低下とともに健康への悪影響が危惧さ 従業員のベースアップはおろか定期昇給もままな れている。ちなみに子どもの貧困率は、経済協力 らない状況に陥ることになりそうだ。 開発機構(OECD)加盟国の10番目に高い。 これまでの改定と同様に医療現場の諸課題が解 わが国の経済政策は、我々医療関係者からみる 消の見通しが立たずに残り続けることになってし と迷走しているように思える。極端な経済格差は まった。そこに消費税増税が間近に迫っているこ 健康を蝕む。我々医師会は、経済と医療の関係や とを考えるとなんとも言えない焦燥感にかられる。 格差の拡大にも強い関心を持ち、警鐘を鳴らし続 ところで、 「経済発展がなければ社会保障の充 けねばならない。 実はない」ことをしきりに主張する向きもあるが、 (県医会長) 新潟県医師会報 H28.4 № 793
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