平成 26 年度 「福島大学学生論壇賞」講評 学務担当副学長 三浦浩喜 論壇賞開設から今年で 5 年目となり、「本学の将来ビジョンや教育研究上の改善策など、 本学のよりよい未来を切り拓くことに貢献するもの」という目的で募集しました。 ここのところ応募件数が低迷しており、一昨年昨年とそれぞれ 1 篇の応募に留まりまし た。本年度もかなり厳しいのではないかと予想されましたが、予想に反して大学院 3 篇、 学類 7 篇の、計 10 篇もの応募がありました。主催者としては嬉しい限りです。内容もバ ラエティに富み、大学運営上考えさせられるものばかりでした。 今回は奨励の意味も込め、厳正な審査の結果、最優秀賞に学類生 1 篇、優秀賞に大学院 生1篇、学類生 1 篇、佳作に大学院生 1 篇、学類生1篇、計5編を入賞としました。愁傷 した論文のコメントは以下の通りです。 ○ 最優秀賞:行政政策学類4年生 一條 ひとし 仁 「新福島大学附属図書館に求めるもの」 図書館の改修に合わせた時宜を得た提言ということができます。提案も具体的で、全体 がコンパクトにまとまっています。 図書館は学生にとってたんに本を借りる場所ではなく、学びのニーズに応じて千変万化 する場所としています。しかし、福島大学の学生はそうした図書館を十分活かしているの かという疑問から始まります。筆者は 267 名もの学生を対象にアンケートを採り、約半数 が 1 ヶ月に 1,2 冊しか本を読んでいないこと、また、6 割もの学生がもっと読書量を増や したいと考えていることが明らかとなります。また、図書館にはその道のプロがたくさん おり、レファレンス・サービスを活用することによって彼らから適切なアドバイスをもら えるにもかかわらず、実際にサービスを利用したことのない人の割合が約 8 割(20 年前の 富山県図書館協会研究委員会調査)で、サービスを知らない人が約 55%もいるという事実 にたどり着きます。 筆者の提案は、このレファレンス・サービスを福島大学流に充実させることによって、学 生の読書量を増やすことができるのではないかというアイディアです。具体的には大学生 協と連携し、学生サポーターの運営による学生レファレンス・コーナーを設置することで す。同じ学生が読書上の相談に乗ってあげることで、「学びの刺激や喜びに出会える空間、 知の交流が生まれる施設」に相応しいサービスになるのではないかという提案です。 「図書 館の達人は、学びの達人」という言葉が力強く響いてきます。 大学生協は本を売る、図書館は本を貸すという利害関係の問題もあり、実現に対する疑 問の声も上がっていますが、審査委員のほぼ全員から肯定的な評価を得、最優秀賞としま した。 ○ 優秀賞 地域生活科学研究科 2年 持田夏海 「博士後期課程「総合科学研究科」の新設による大学院再編」 大学院修士課程に在学する論者による大学院再編の提言です。大学院の研究においてピ アレビューの際、 「そもそも修士課程の学生しかいない状況では、博士後期課程の学生もい る状況に比べると、各研究課の発展性を意識した議論には至りがないのではないか」とい う感想を持つに至ります。学生が「自らの成果が修士課程を終了するに相応しい程度に学 術性を持ち、各大系において新規性や進歩性を有しているか」を意識する環境が、日常的に 形成されている」かどうかが重要であり、その意味で博士後期課程の設置が大きく期待さ れるとしています。 論者の構想する博士後期課程は、既存の4つの修士課程の歴史や特徴を尊重しつつ、一 つの「総合科学研究科」にまとめ、既存の15専攻を統廃合した内容を持つものです。こ のような形にすることにより、近接領域間の連携が強くなり、学生同士のピアレビューも 可能になるということです。 審査委員からは実現性が弱いのではないかという意見も複数出されていますが、本学の 抱える課題に真正面から応える提言として、高く評価されました。 ○ 優秀賞 人間発達文化学類3年 「これまでの私 ひでのぶ 緑川英将 これからの福島大学」 教育復興プロジェクト「OECD 東北スクール」を中心とした多様な活動に参加し、いず れもが多様な学びにつながったとし、ここから大学のカリキュラム改革を提言しています。 論者は「OECD 東北スクールに参加するとパリに行ける」と、軽い気持ちで参加しました が、地域の生徒の活動をサポートしている内に、一地域のある高校生がどんどん成長して いく姿と様々なプロフェッショナルの大人との交流を通してたくさんのことを学ぶことに なります。その他にも自然体験学校や学習ボランティア、教育実習やワークショップなど の機会を通して自分が成長していくことの価値に気づきます。 こうした経験を踏まえ、大学のカリキュラムはプロジェクト学習にさらに力を入れるべ き、また、国際的な交流をさらに発展させるべき、という主張を展開しています。こうし たことにより 21 世紀型学力を得たり、自分の地域を発展させるための新たな視点を採り入 れたりすることができるとします。 主張の内容が自分の体験を踏まえたもので、自分自身の反省や後輩への期待などにも言 及されている一方で、提言の内容をさらに明確にすべきという意見も出されました。 ○ 人間発達文化研究科 1年 りょう 小山 竜 「福島の子どもたちに体験活動を 〜これからの教員を生み出す福島大学が学生に養 成すべきチカラ〜」 論者の問題意識は、子どもたちの生活スタイルなどが大きく変化する中で教員としてど のような資質が求められているのかという点と、東日本大震災以降悪化している福島県の 子どもたちの体験活動を克服する教育システムの構築でした。 「自然体験が多い子どもの方が意欲・関心がある割合が高く、友達との遊びが多い方が規 範意識や道徳心がある割合が高い」という調査をもとに、学校教育にもっと体験活動を取 り入れるべき、具体的には「生活科教育学の充実」のための「生活科教育学専修」の設置 と、教育機関や地域との連携を進めるための学生スタッフの積極的導入を提言しています。 その理由として、小学校低学年の基礎を養うことの重要性、それに対する教員自身の経験 の不足の克服、などを挙げています。 教員養成の高度化という点では重要な指摘ですが、研究科内の組織編成の問題であり、 全体に対する提言という点では弱いのではないかという意見も出されています。 ○ 人間発達文化学類 3年 さ き 大河原彩季 「学生として震災復興に伴走して」 教育復興プロジェクト「OECD 東北スクール」に参加し、多くの地域の生徒や先生との 交流、多様なプロフェッショナルからの学び、ICT スキル、海外での語学経験、など多く のことを体験し、21 世紀を生きていく力を育てるためにプロジェクト学習が重要ではない かと考えるようになります。 さらに論者は、同事務局のスタッフとして完全に「裏方」として活動できた点が、とても 貴重な体験だったとし、これが将来教員をめざす自身にとって「大切なノウハウが学べる 非常によい機会」だとしています。 論者が具体的に提起しているのは、学生の体験型学習の充実、実際に活用することので きる ICT の授業、企業人による授業による視野の拡大などです。さらに、OECD 東北スク ールのような活動を他大学にも広め、大学間で学生によるボランティアコミュニティをつ くることができれば、学生の活動の幅はさらに広がっていくのではないかとしています。 他県出身で、福島の震災復興活動に誠実に参加し、福島大学ならではの学びを吸収して いる様子がよく描かれていますが、提言の内容がやや弱いのではないかという意見も出さ れました。
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