気候変動分野における国際協力と今後の課題 Makoto Kato OECC 研究員 加 藤 真 <気候変動分野での国際協力の進展> <開発活動における気候変動問題の主流化> 気候変動の分野においては、これまで様々な課題に ついて国際協力の取組が進められてきた。気候変動担 当部局の体制整備、国別報告書の作成、緩和、適応措 置、科学的観測、技術移転等を含めた多岐にわたる課 題克服のための発展途上国に対する協力は、主に UNFCCC・京都議定書の締約国会議を中心とするレジ ームに導かれる形で進められており(Regim-driven actions)、これまでに一定の成功を収めている。気候 変動分野における国際協力の主要なプレイヤーとし て、日本は積極的な役割を果たしており、世界各国か らも大きな関心を集めている。 交渉における政治的対立は別として、発展途上国に おいても取組が開始されている。例えば、第 11 次五 カ年計画(国家開発計画)でエネルギー効率の大幅な 改善を目指す中国は同計画の下で緩和の施策の検討 もなされており、必ずしも取組に否定的な立場ではな い。このような取組については開発促進にもつながる 点で途上国による地球温暖化対策での主体性がより 大きくなると考えられる。 また、先進国による国際協力についても、途上国の 開発ニーズにより大きな配慮を行い、それに添った形 で支援を行うことや、また従来の開発活動との連携も 重視されるようになっており、Win-Win Approach や Co-benefits といった考え方が提案されている。 <開発問題への関心の高まり> 気候変動問題は、本質的に開発の問題でもある。 気候変動レジームにおいては、先進国による率先し た排出削減努力に加え資金・技術等の支援を求める発 展途上国と、途上国も含めた全ての国の排出削減努力 を求める先進国との南北対立が、国際交渉の基本的な 構造となってきた。ただし、気候変動の国際交渉での 議論は極めて政治的な色彩が強く、経済社会活動の規 模の拡大が温暖化に大きな影響を与る可能性があり、 また気候変動の負の影響により活動そのものの効果 が著しく影響を受けるといわれる開発活動の実体的 側面に着目したものとはなっていない。更に議論の参 加者は開発問題の専門家ではないことから、途上国国 内の開発プロセスや、先進国の開発援助活動と十分な 連携が取れているとは言えない部分がある。 しかし、この 2 年程、安全保障や貿易問題等伝統的 な「ハイ・ポリティクス」と問題と並んで、気候変動 の問題は国際的なアジェンダとして取り上げられる 1 ようになり 、より広い関係者の間でも大きな関心を 集め始めたことで、更に重層的な取組が提案されるよ うになってきている。緩和措置を中心とした発展途上 国の取組を加速させようとする要請と平行して、開発 活動そのものの効果や効率を確保するという観点か らも気候変動問題への注目が高まっている。経済協力 2 開発機構(OECD)での政策研究 や世界銀行でのエネ ルギー投資フレームワークなどの発表は特筆すべき である。 1 2 <途上国との協力における今後の課題> 途上国を含む気候変動問題への対処には、単に排出 削減を要求するだけでなく、同時にそれらの国々の開 発ニーズへの配慮の視点が重要である。また開発活動 においても気候変動問題は無視し得ない重要課題と なってきている。相互に密接な関係を有する課題に取 組むためには、先ずはこれまでに互いを意識せずして 双方の便益にかなう活動があったこと(例えばマスト ランジット等の交通インフラ整備と CO2 削減)を評 価し直すことである。そして、今後取組むべき課題分 野と緩和・適応との接点を見出し、それをより確実な 形で成果があがるような活動を行えば、これまで日本 が得意としてきた開発援助やその他の途上国支援の 強みを活かしながら、更にインパクトが大きな協力が 可能となる。また、キャパシティ・ビルディングや途 上国の開発担当者を含む関係者との対話は、活動基盤 形成のために重要である。そのような方法で、気候変 動の分野においても、日本が得意とする活動に根ざし た国際協力を、途上国と共同で発信をすることが強く 期待される。 OECC では環境省や(独)国際協力機構(JICA)等の委 託を受け、気候変動分野における途上国のキャパシティ・ ビルディングや政策調査を行っている。 たとえばグレンイーグルズ・サミットにおける気候変動問題の議論など。 OECD, Bridge Over Troubled Waters – Linking Climate Change and Development (2005) -5-
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