学び合い,高め合う授業の創造【第2期2年次】

【全体研究計画 福島県会津若松市立謹教小学校(H28 年1月~12月)】
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研究主題
学び合い,高め合う授業の創造【第2期2年次】
~ 自己有用感をもって学ぶ子どもの育成 ~
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研究主題設定の背景
(1)
子どもの姿から
本校の子どもは,学校生活での規範意識が高く,授業にも熱心に取り組む姿が見
られ,勤勉な学習集団であると言える。様々な学習場面において,自分が考えたこ
とを友だちに説明したり,友だちの考えを聞いて考えをまとめたりして,よりよい
解決の方法を見い出しながら,学ぶ子どもが増えてきた。このような子どもの姿は,
「学び合い,高め合う授業の創造」を研究主題とし,日々の授業の中で,友だちと
学び合う場面を大切にし,互いに高め合う学びを目指した実践を 3 年間積み重ねて
きた研究の成果と言える。
さらに,昨年度は,研究主題「学び合い,高め合う授業の創造」を第 2 期として
継続し,副主題を「言語活動を通して,自分の考えや思いを伝え合い,学びをつく
る子どもの育成」として,実践をした。学び合いの中で,「友だちに伝えたいこと
をうまく伝えること」に苦手意識をもつ児童が多いことも分かった。そこで,授業
では,付けたい力を明確にして「伝え合う場」を学習の効果的な場面に位置付け,
「思考力・判断力・表現力等」の育成を目指した。成果として,必要に応じて,ペ
アやグループで伝え合ったり,みんなで話し合ったりすることにより,友だちの考
えから自分の考えを深めたり考え直したりしながら学ぶ姿が授業の中で多く見ら
れるようになった。
本年度は,さらに意欲的に課題解決に向かわせたり積極的な言語活動を展開し
たりするための視点として,「自己有用感」に着目した。伝え合う場を保障する
だけでなく,自分なりの思考や表現したことが他者から認められ,学習の成果と
して表れてくる経験の積み重ねが必要と考えたからである。
そのような視点で授業を振り返ってみた時,学び合い,高め合いを目指してきた
授業において,どの子どもにも「自己有用感」を持たせる指導が十分にできただろ
うかという疑問が生まれる。
例えば,積極的に伝え合い考えを深めている子どものわきで,自分の思いや考え
に自信を持てず,伝え合うことに消極的になりがちな子どもがいなかっただろう
か,みんなの前でよく発言して活躍する子どもに偏りがなかっただろうか,友だち
と課題を解決する心地よさを味わうことがどの子どももできただろうか,などと省
みる。
全国学力・学習状況調査の児童質問紙結果(表1)では,次のような傾向が見られ
る。
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全国学力・学習状況調査児童質問紙結果(表1)
平成 26 年度
項
目
あてはまる
やや
平成 27 年度
あてはまる
やや
自分にはよいところがあると思いますか。
34.3 43.3 32.1 39.7
将来の夢や目標を持っていますか。
73.1 19.4 71.8 14.1
平成 26 年度と平成 27 年度の結果をみると,「自分にはよいところがあると思い
ますか」や「将来の夢や目標を持っていますか」などの項目において「あてはまる」
「ややあてはまる」の回答の割合が低い。さらに過去のデータと照らし合わせてみ
ても低下している現状に気づく。これらの項目は,「自己肯定感」や「夢や希望」
に関する項目であり,「自己有用感」との関係が深い。全国平均と比較しても割合
は,低い。
学校教育を通して,すべての子どもに「自分にはよさがあり,ここに存在するか
けがえのない人間である」という思いを強く持ってほしいと私たちは願う。自己肯
定感が低い現実は,本校の取り組むべき早急な課題と言える。
そして,生徒指導の面から考えても,教育活動全体はもちろんのこと,学校生活
の中心である日々の授業においても自己有用感を高める指導が必要である現実に
気付く。
授業において,「自己有用感」は,主体的で活発な学び合いを生み出す。さらに
子どもの思考を活性化し,真剣に粘り強く課題解決に立ち向かう原動力となる。
「自
己有用感」をもって学ぶ子どもを育てることで,本校の課題を解決し,確かな学力
の定着につながるものと考える。
(2)
本校の教育目標から
本校の教育目標は,「他との関わりの中で個を磨き,自ら学ぶ態度と調和のとれ
た人間性豊かな児童を育成する」ことである。つまり,自ら学ぶ態度と知・徳・体
の調和のとれた人間性豊かな児童を育成するために,友だちと「学び合う」中で個
を磨くことを大切にしている。
そこで,本研究においても,一人一人のよさを認め,生かし,伸ばせるような「学
級づくり」を土台に,友だち同士が互いの立場や考え方を尊重し,「学び合い」に
よって相互の理解を深め,児童一人一人が自分の考えや思いを伝え合い「互いに自
己の学びを高め合っていく」学習活動を大切にしていこうと考えた。
(3)今日的な教育課題から
子どもたちが生きるこれからの社会では,「何を知っているか」「何ができるか」
はもちろんのこと,「知っていること」「できることをどう使うか」という資質・
能力,つまり,知識の習得に加えて,習得した知識を目的に応じて使う力が必要と
される。その資質・能力を育むための具体的な改善の方策の一つが「アクティブ・
ラーニング」である。「アクティブ・ラーニング」とは,「課題発見と解決に向け
て主体的・協働的に学ぶ学習」のことであり,学び合い,高め合う授業
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である。
このようなことから,本研究では,
「学び合い,高め合う授業の創造」を研究主題
とし,副主題を「自己有用感をもって学ぶ子どもの育成」とした。
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研究主題・副主題に込める思い
(1)
研究主題:「学び合い,高め合う授業の創造」とは?
の概念規定
友だちや教師と関わりながら,課題を見出し,自分や友だちの考えを伝え合い,考え
ることを通して,自分や集団の考えを発展させ,よりよい解決の方法を探求し,協力し
ながら課題解決をすることで,友だちと学ぶよさや共に高まり合う心地よさを感じる授
業を創り出すこと
「学び合い,高め合う授業」とは,いわゆる「課題の発見と解決に向けた主体的・
協働的な学び」である。そのためには,
「言語活動が充実していること」が大切であり,
これまで次のような視点に立った実践を積み重ねてきた。
【言語活動充実の視点】
①
単元の中で「付けたい力」を明確にし,その手段として意図的に「言語活動」を
授業に組み込むこと。
②
子ども一人一人が本気で,思考し,判断し,表現できる言語活動を仕組むこと。
(2)
副主題:「自己有用感をもって学ぶ子ども」とは?
【学びにおける自己有用感とは】
自己有用感とは,他者と交流を通して得られる「自分がしたことを感謝されてう
れしかった」「自分は必要とされている」「自分も誰かの役に立っている」などの感
情のことである。つまり,
「他者との関係で自分の存在を価値あるものとして受け止められる感覚」
である。
自己有用感を構成するものを次の三つととらえた。
<自己有用感を構成するもの>
・「存在感」:他者や集団の中で,自分は価値のある存在であるという実感
・「承 認」:他者や集団から,自分の行動や存在が認められているという状況
・「貢 献」:他者や集団に対して,自分が役に立つ行動をしているという状況
*栃木県総合教育センターの研究参照
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さらに,自己有用感の獲得において重要なものが「関係性」であり,自己有用
感を支える土台となるものである。
これらの構成要素を授業の具体的な子どもの姿として見ると,次のような姿が
あげられる。
構成要素
存在感
子どもの姿
「自分はこう考えている」
「友だちに自分の考えや思いを伝えてよかった」
「みんなからたよりにされている」
「自分はクラスの一員だ」
「わからないところを教えてもらえた」
承 認
「みんなに自分の考えをわかってもらえた」
「みんなが真剣に聴いてくれた」
「〇〇さんの考えも聴いてみたい」
「友だちに,いいね!すごいね!なるほど!と言われた」
「先生にほめられた」
貢 献
「自分の考えや思いを伝えてよかった」
「みんなが納得する考えを言えた」
「自分の意見が解決の役に立った」
「〇〇さんの意見を聞いて考えなおしたい」
関係性
「みんなで学ぶのが楽しい」
「みんなといると安心」
「みんなを信頼している」
「みんなに支えられている」
学び合いの中で,「貢献」し,「承認」されることで,集団における「存在感」
が高まったり,「存在感」が集団の中で「貢献」したいという意欲につながり,
「貢献」できたことで満足感を得たり,「承認」されたりしながら,構成する主
な要素が相互に関連して,「関係性」が築かれ,自己有用感が高まっていくと考
えられる。
【自己有用感をもって学ぶことで,期待する効果】
学校生活の中心となる授業において,子どもが自己有用感をもって学ぶ姿によ
り,次のような効果を期待している。
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〇 学習意欲が向上する。
〇 根気強く課題解決に向かう強い原動力となる。
〇 積極的に友だちとかかわり,課題解決しようとする意欲が高まる。
○ 「できる」「できない」「わかる」「わからない」にかかわらず真剣に学ぶ
姿につながる。
○ 自分の考えだけに固執せず,様々な意見を取り入れながら,柔軟に思考
できる子どもが育つ。
○ 考え続ける姿勢が身に付く。
○ 学力が向上する。
〇 学級の中に温かくコミュニケーション豊かな仲間関係が構築され,認め
合い,高め合える集団となる。
子どもたちが生きるこれからの社会においては,一人一人が他者と多くかか
わり,お互いに支え合い,高まり合っていくことがますます求められる。自己
有用感をもって仲間と学ぶことに価値を感じる子どもは,さらには次のように
社会性が育つ。
他者とつながりながら社会を生きていくことの意味を見い出すことができ
る。そして,人とつながる心地よさを体感し,よりよい人間関係を築くこと
ができる。
(3)
自己有用感を高める授業の視点
自己有用感を構成する要素から,授業の視点を次のようにとらえた。
「存在感」
自己選択・自己決定できる主体性を発揮する場
「承
認」
友だちとかかわり合う協働的な思考や認め合いの場
「貢
献」
協働的な学びによる自己の高まりを振り返る場
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目指す子どもの姿
本研究では,自己有用感を持って学ぶ子どもを育成することによって,次のよ
うな子どもの姿を目指したい。
言語活動を駆使し,真剣に課題に立ち向かい,仲間と共に考え続ける子ども
5
研究仮説
学びがいのある課題設定を工夫し,協働的な思考を促す言語活動や,振り返りの
場の充実を図っていけば,
「自己有用感」を高め,意欲的に仲間と共に学ぶ子どもが
育つであろう。
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研究内容
前述した3つの視点をもとに,次のような内容について研究していく。
①
子どもたちが課題を見出すための工夫
自己有用感をもつためには,学びがいのある課題でなければならない。そのために
は,教材とのかかわりにおいて,友だちと話し合う中で,子ども自らが課題を見出し
ていくことができる工夫について考えていく。
②
協働的な思考を促す言語活動の充実
それぞれの教科・領域の特質を生かして,付けたい力を明確にし,「伝え合う学び」
(ペアやグループなど)を学習の効果的な場面に位置づけ,言語活動の充実を図って
いく。さらに自己有用感の獲得につながる認め合う場や工夫について考えていく
③
学びの高まりを実感する振り返りの工夫
主体的・協働的な学びにより成長した自分を実感できるように,学んだことや解決
に至った学びの道筋を振り返ったりする場を工夫していく。
④
自己有用感を測る評価方法の開発
先行研究などを参考に,子どもたちの自己有用感を測る尺度やその評価方法につい
て自校化していく。実践資料を累積していくことにより,子どもの一人一人の自己有
用感を高める学級づくりやその手立てについて具体的に模索していく。
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全体実践構想
学び合い,高め合う授業の創造【第2期2年次】
~「自己有用感」をもって,学ぶ子どもの育成~。
人とつながりながら社会を生きていくよさを実感し,
よりよい人間関係を築いていく社会性の獲得
目指す子どもの姿
言語活動を駆使し,真剣に課題に立ち向かい,仲間と共に考え続ける子ども
子どもの姿
の実現へ
自己有用感の高まった子ども
主体的・協働的な学び
言語活動の充実(具体的な手立て)
承
研究内容②
協働的な思考を促す
言語活動の充実
貢
認
自己有用感
存在感
献
認
研究内容③
学びの高まりを実感
する振り返りの工夫
研究内容①
子どもたちが課題を
見出すための工夫
承
認
関係性
全員が自己有用感をもって学ぶ学級づくり
子どもの実態
○
〇
●
●
学習課題に対して意欲的に思考し,判断するという学習習慣が身に付いてきている。
友だちと学ぶよさを実感し,友だちに伝えたり考えを聞いたりして学ぶ子どもの姿が増えてきている。
「友だちに伝えたいことをうまく伝えること」に苦手意識をもつ子どもが多い。
自己肯定感が低い傾向にある。
研究内容④
自己有用感を測る評価方法の開発
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研究の方法・評価
研究の方法・評価において,次の2点を重視する。
<1> 「目指す子ども像」や「各教科・領域で付けたい力」を明確にし,どのように言語
活動を充実させ,伝え合う学びを位置づければ,子どもたちに「付けたい力」が身に
付き,自己有用感をもって学ぶ姿が,「目指す子どもの姿」の実現につながったかに
ついて,授業での子どものエピソードをもとに検証する。
<2> 研究内容を精選し,研究の分析の仕方,研究の成果・課題を第三者の立場からでも
できるだけ分かりやすい形にしていく。
(1)
研究の方法
①~③の方法で,研究の推進と評価の一体化を図る。
① <共同研究による実践研究>
・ 教科・領域を含む5部会・全学年における実践検証
(特別支援,国語科,算数科,理科,道徳)
・ 部会による実践検証
↑ ↓
②<個人研究による実践研究>
・ 個人実践による実践検証
↑ ↓
③<理論研究>
・ 研究図書・資料,先進校視察, 講師招聘,伝達講習会等
(2)
研究の評価
①
「子どもの変容」から
基礎的な知識・技能などの定着度,発展応用問題の解決力,学びの意欲や持続,
深まりなどをテスト,アンケート,行動観察から評価する。
②
「自己有用感の高まり」から
本研究で作成する「自己有用感尺度評価」を使って,学級全体の自己有用感の変
容をとらえる。授業の中で数名抽出し,自己有用感の変容や授業での学ぶ姿,学力
との関係を考察する。
「自己有用感尺度評価」…5 月,7 月,9 月,12 月に実施。
③
「教師の変容」から
研修日の演習や理論研究,先進校の視察等の機会を通して,子ども観,教材観,
指導観・授業観,評価観,教育観等について,会津若松市学校教育指導委員会小学
校部会で作成した「『教えの心得』実践チェックリスト」や「現職教育意識調査」
を活用し,変容を見る。
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