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機能性物質学
第1回
基本的な勉強
ヒュッケル法とその応用
(tight-binding 近似)
エチレンを例とした計算、ポリアセチレン、グラフェン(グラファイト)のバンド計
算
固体科学の基礎(エネルギーバンド、金属、半導体等)
+
物質に関するトピックス
○ ヒュッケル法に関して (アトキンス
ヒュッケル近似 (π電子近似)
h  

1
N
 c
m
11.6)
m
m
 i  j   ij
(1)
i h i  
(2)
 j h  i   <0 (隣り合う原子のとき)
=0
問題 1
(3)
(隣り合わない原子のとき)
エチレンを例にとり、ヒュッケル法により波動関数、軌道エネルギーを求め
よ。
問題2 慣れると、ヒュッケル法のハミルトニアン(行列式は)は、上のプロセスを
経なくても書き下すことができる。ブタジエン、シクロブタジエン、ベンゼンの場合
に関して、行列式を書いてみよ。シクロブタジエンに関して、固有エネルギーを求め
よ。
問題 1 (答)
h  
hc1  1  c 2  2    c1  1  c 2  2 
左から  1 、  2 をかけて積分する。
c1  1 h  1  c 2  1 h  2   c1  1  1  c 2  1  2
c1  2 h  1  c 2  2 h  2   c1  2  1  c 2  2  2


行列表示で書くと
 1 h 1

  h
1
 2
 1 h  2  c1     1  1
   
 2 h  2  c 2     2  1
  1  2  c1 
 
  2  2  c 2 
上記(1)-(3)を用いて単純化すると



  c1    0  c1 
   
 
  c 2   0   c 2 
したがって
  
上の永年行列式を解いて
  
のとき

    
 c1 

   0

      c 2 

  1 1  c1 
   0
すなわち 
 1  1 c2 
したがって  
  c1 
  

   0
    c 2 
 
1
 1   2 
2
c1  c 2
結合軌道
同様にして

  
問題2
1
 1   2 
2
(反結合性軌道)
(答)
ブタジエン
 

0
0

 

0
0
0

 

0
0

 
シクロブタジエン
 

0


 

0
0
0

 


0

 
 

0
0
0


 

0
0
0
0

 

0
0
0
0
0

 

0
0
0
0

 


0
0
0

 
ベンゼン
シクロブタジエンのときの解
0
0
  E
0

0
0
0
   E 2  4 2


 E
  E 2

0

0
2(  E )
  E 2    E 2  4 2  0
E  0(重解),   2 
機能性物質学
第2回
○環状化合物へのヒュッケル法の応用
(アトキンス
20.9)
行列の例
 c1 
  0 
 c1 
 

 
 c2 
  
 c2 
0 0 
 c     c 
 3

 3 
    
  

c 
c 


   N 

 N
これを解けば求まる
 無限に続く系をどのように記述するか?
例1
一次元鎖(ポリアセチレン)
C m1  C m  C m1  C m (m =0,.....,N-1) ....①
周期的境界条件: C 0  C N
....②
Rm  ma
k  2n /( Na )
問題1
( n=0,1,.....,N-1)
①× e ikRm を計算し、m を変えながら総和をとることにより、対角化してみよ。
エネルギー固有値として Ek  e ika     e  ika     2  cos(ka) が得られることを示せ。
問題2 上の問題等を解く場合、以下に示すフーリエ変換と逆フーリエ変換の関係式
を知っていると都合のよいことが多い。
フーリエ変換
Dk 
1
N
e
m
ikRm
Cm ....③
1
e ikR

N
Cm 
逆フーリエ変換
mD
k
k
 kk '  (1 N ) ei ( k  k ') R
 mm '  (1 N ) eik ( R
m
m
m
 Rm ' )
数学公式
k
k  2n /( Na )
上記の数学公式を証明せよ。ただし Rm  ma 、
(m=0,1,.....,N-1;
n=0,1,.....,N-1)
問題1(答)
①を以下のように変換する。

1
e ikR

N
mC
m 1
1
e ikR

N

m
mC
m

m
1
e ikR

N
mC
m 1

m
1
e ikR

N
mC
m
..
m
....④
すると
 eika  Dk  Dk  e  ika  Dk  Dk
....⑤
  k  eika     e  ika     2 cos(ka)
問題2(答)
 kk '  (1 N ) ei ( k k ') R
(n=0,1,.....,N-1)を示す
m
m
( k  k ' の時) 1  (1 N ) ei ( k  k ') Rm
は明らか
m
( k  k ' の時)
(1 N ) ei ( k  k ') Rm 
m
1  ei ( k  k ')( Na )
0
1  e i ( k  k ')  a
同様にして、  mm '  (1 N ) eik ( Rm  Rm ' ) も証明できる(やってみよ)
k
ちなみにこの公式は 2 次元、3 次元のときも使うことができ、固体物理では非常に応
用範囲が高い
(二次元系の場合の証明)
 kk '  (1 NM ) e
n
 
( k  k ' の時)
  
i ( k k ') Rn ,m
(n=0,1,.....,N-1;m=0,1,.....,M-1)を示す
m
(1 NM ) e
n
  
i ( k  k ') Rn ,m
 1 は明らか
m
 
 

 

(1 NM ) e i ( k  k ')( na )   e i ( k  k ') mb 
n
 m

 

i ( k  k ') Mb 
 
 
i ( k  k ')( na ) 1  e

   
 (1 NM ) e
 1  e i ( k  k ') b   0
n


 
( k  k ' の時)
  n 
 
 
 
 
m 
(m,n:整数) b  a*  a  b  0 、 a  a*  b  b  2 だから
k  k ' a *  b *
N
M
   n 
m   
k  k ' Mb   a *  b *  Mb  2m これを用いると上の式を証明できる。
M
N



つまり、次元にこだわらずに、格子点ベクトルを Rn とし、逆格子ベクトルを k として
定義することにより、
 kk '
 (1 N )
e
  
i ( k  k ') Rn
は一般的な式として成立する。
n
-----------------------------------------------------------------------<問題1に関する詳しい解説>
N 個の炭素原子からなる環状分子のエネルギーをヒュッケル法で求めた。(ヒュッケ
ル法自体は環状分子でなくても使えるが、今の場合固体を念頭に、周期的境界条件を
付けて考えている。このため一次元鎖は、環状分子と同等である)
計算にあたって問題となるのは、
1
1
1

e ikRm C m 1  
e ikRm C m  


N m
N m
N
 e ikR
mC
m 1

m
1
e ikR

N
mC
m
という式をどう変形するかである。第2項は Dk と直接おけばよい。
第1項は
1

N
e
ikRm
m
e ika

N
e
m'
1
Cm 1  
N
ikRm '
Cm '  e ika Dk
e
m
ik ( Rm1  a )
e ika
Cm 1  
N
e
m
ikRm1
Cm 1
m
一番最後の式変形は、環状分子であることから、 C 0  C N ; C 1  C N 1 等と定義でき
 2 n 
ること、および kR N  
 Na   2n
 Na 
より e ikRN  1 が成り立つこと、すなわち
e ikRm N  e ikRm  e ikRm N が成り立つことを考慮すると理解できる。すなわち環状分子
を考えていることから、一周する和は、位相部分を除いて皆同じになる。
結局ヒュッケル法の行列は、Cm を基底とする方程式から Dk を基底とする⑤の方程式
に置き換えることができたわけであるが、その意味はなんであろうか。以下少しくど
いかもしれないが、その意味を明らかにしておく(結論だけ知っておくだけでもよい)。
k  2n /( Na ) ( n=0,1,.....,N-1)であるが、n のサフィックスを使って k を分類して
おく。つまり k n  2n /( Na )
⑤の式は、実は以下の N 個の式である。
すると
(  2  cos(k n a )) Dkn  EDkn
( n=0,1,.....,N-1)
行列で書けば

   2  cos(k 0 a ) 0  
 Dk 0 
 Dk 0 





0



  
  

    E   










0

  
  

D

0
  0   2  cos(k N 1a )  DkN 1 

 kN 1 
すなわち、固有値   2  cos(k n a ) に対応する固有ベクトルは、
 Dk 0   0 

  
   
 D   1
 kn   
   
D
  
 k N 1   0 
(n=0,....N-1)(Dkn 以外の Dk はすべてゼロ)
したがって、N 個の固有値に対して N 個の固有ベクトルが存在する。
上の固有ベクトルの場合の Cm を逆フーリエ変換で求めると
Cm 
1
e ik

N
n'
n ' Rm D
kn '

1
N
e ikn Rm
以下 n を省く
固有値   2  cos( ka ) に対応する波動関数の係数は
すなわち
1
Cm 
N
e ikRm
つまり波動関数は  k (r ) 
1
N
 e ikRm  m (r )
m
この関数が固有エネルギー   2  cos( ka ) に対応している。このように位置に関して、
フーリエ変換したような波動関数を"Bloch 関数"という。
最後に、③の式に関して簡単に説明しておく。
この式は、波動関数の変換と強く関係している。もともとの波動関数は原子に局在す
る N 個の規格直交軌道であった。この波動関数を正しく変換するためには、新しい N
個の規格直交軌道が、もともとの N 個の原子軌道から生み出されなくてはいけない。
問題3
Bloch 関数の規格直交性に関して確認せよ
問題3(答)
 k  (r )  k (r ) 
1
e ik 'Rm  m (r )

N
m
 N 1
 e ik 'Rm e ikRm'
1
e ikRm'  m' (r )

N
m'
 m (r )  m' (r )
m m'
N
1
 e ik 'Rm e ikRm' mm'  N 1  e i(k 'k ) Rm   kk '
m m'
m
すなわち新しく作り出された関数は、規格直交関数になっている。(このことは一次
元系にとどまらない)
最後に、固体を扱う場合は、N が大きいので k を連続変数として扱い、総和を
ら


か

に置き換え、微小増分で置き換えるというテクニックが用いられる。 k がもと
もと離散的なベクトルであることを意識するのはこの時である。微小増分の大きさは
いくつであろうか?
一次元の場合は②から k  2 /( Na )  2 / L
(ただし、L は一次元の鎖長である)
2 3 :ただし V  a  b  c は
 

三次元の場合は、逆単位格子の体積( a * b   c * 
m
Vm


実単位格子の体積)を N(格子点総数)で割った

8 3
が、微小増分に相当する。 NVm
NVm
は、実総体積に等しいから、結局

L
、  F  3  Fdk x dk y dk z
F
Fdk (一次元:固体)
8
2
k
k


いる式となる。

(三次元:固体)が用
第3回
機能性物質学
○別解

h  m   m 1   m   m 1

eikRm を両辺にかけて和をとる。
 e h      e
ikRm
m
m
ikRm
m
 e
ika
e
 m 1    eikR  m    eikR  m 1
m
m
m
ikRm
m
m
 m    e
ikRm
 m  e ika  eikRm  m
m
m
書き直すと

h  e ikRm  m    e ikRm  m 1    e ikRm  m    e ikRm  m 1
m

m
 e
ika
m
   e
ika
 e
m
ikRm
m
m
 2  cos ka    e ikRm  m
m
1
N
e
ikRm
 m  k
とおくと
m

h k  2  cos ka   k
固有値は 2  cos ka   、固有関数は
1
N
e
ikRm
 m  k
ブロッホ関数
m
○固有値   2  cos( ka ) に関して
問題1 この固有値は環状分子に関して計算しているので、シクロブタジエン、ベン
ゼンの固有エネルギーを求めることができる。計算してみよ。
シクロブタジエンは不安定であること、ベンゼンは安定であることを示せ。さらに拡
張してπ電子が 4n+2=2(2n+1)個存在するときに安定であることを示せ。
問題1 (答)
Rm  ma
k  2n /( Na )
( n=0,1,.....,N-1)
シクロブタジエンの場合、 ka  0,  / 2,  , 3 / 2
したがって固有エネルギーは
    2 ,  ,   2 , 
π電子は4電子あるので、軌道に順番につめると全軌道エネルギーは 4  4  となる。
これはエチレン2分子分の軌道エネルギーに過ぎない。したがって、シクロブタジエ
ンは不安定である。
ベンゼンの場合、 ka  0,  / 3, 2 / 3,  , 4 / 3,5  / 3
したがって固有エネルギーは
    2 ,    ,    ,   2 ,    ,   
6  8 となり、エチレン3分子ぶんより2だけ増
したがって全軌道エネルギーは
えている。
これが共鳴安定エネルギーとなる。
○逆格子について
  
結晶学では逆格子は、実格子 a 、 b 、 c を用いて、以下のように定義される。
 
 
 



b c
ca
a b
a* 
; b* 
; c* 
(1)
V
V
V
        
(2)
V  a b c  b c a  c  a b
 

b c
(固体物理では、 a*  2
等、2倍した定義が通常用いられる。)
V
   
 
(1),(2)式は、 b  c が b 、 c に垂直で、その面積が、 b 、 c でできた平行四角形と同じ
になることを知っていると、直観的に理解できるであろう。
(1),(2)を用いると、
           
a * b  a * c  b * a  b * c  c * a  c * b  0
     
a * a  b * b  c * c  1( 2 )
(3)
(4)
が即座に理解できる。また
     
  
V *  a *  b *  c *  b *  c *  a *  c *  a *  b * として逆格子体積を定義すると
V *  1 V (固体物理では V *  2  V )
3
(参考)
V *  1 V の証明は、外積の公式
とえば
A  B  C    A  C B   A  B C を用いるとできる。た
 
 

   
V 3 a *  b *  c *  b  c  c  a  a  b
 
   
   
 b  c  c  a   b a  c  a   ab
     
 b  c  a c  a   b
 
 


V 2
したがって
a  b  c  V
*
*
*
1

 
 





機能性物質学
第4回
○結合の長さが異なる環状分子の場合
問題1 結合の長さが異なる環状分子の場合のときのエネルギー固有値を以下の手
順に従って求めてみよ。

h p m   2 q m 1  p m  1 q m
a)

h qm  1 pm  qm   2 pm 1
がハミルトニアンであることを確認せよ。
b) 第3回の別解に習って p k 、 qk を定義し、この波動関数に対する式をたてよ。
c)
pk 、 qk は、すべて直交していることを示せ。これにより、元の波動関数と同じだ
けの数の直交した波動関数が得られているので、以降はこの波動関数を使えばよいこ
とになる。
d) 結合の長さが異なる環状分子のエネルギー固有値を求めよ。
e) 1=2= の時、この解は結合の長さが同じであったときの解、   2  cos( ka ) と
同じになることを確認せよ。
(ただし、a の定義が異なるので、まったく同じ式にはな
らない)
問題1(解)
b)

 e h p     e
ikRm
m
m
2
m
  2e
したがって
同様に
ikRm
ika
qm1    eikRm pm  1  eikRm qm
e
m
m
ikRm
m
qm    e

h p k   2 e ika q k  p k   1 q k

h q k   1 p k  q k   2 e  ika p k
m
ikRm
pm  1  eikRm qm
m
1
N
0
c)
pk qk  
 e
1
N
1

N
1

N
pk pk  
同様に
m
ikRm ik Rm
e
m
 e
ikRm ik Rm
 e
ikRm ik Rm
m
m
e
m
e 
qk qk    k ,k 
e
m
i  k  k   Rm
pm qm
pm pm
 m ,m
  k ,k 
m
つまり pk 、 qk は、すべて直交している。また k の値を変え
ると、元の pm 、 qm と同じ数(N 個)波動関数は存在するので、 pk 、 qk は新しい波動
関数の基底となっていることがわかる。
d)
b)の結果から、 k  cpk  dqk とおくと(c, d は適当な係数)、この関数が固有関数
になっていることがわかる。
hˆk  k
この式に上の式を代入する。この先はエチレンと同じである。(式を補い
ながらよく考えてみよ)


 pk h pk
1 0  c 
pk h qk  c 

    


 



 q h p

qk h qk  d 
 0 1  d 
k
 k


したがって 
ika
 1   2 e
固有方程式は
したがって
 2 e ika  1  c    0  c 
   
 
 d
0





 d 

 
1   2 eika
 2 e ika  1
0
 
   2  1   2e ika
2
 1   2  2 1 2 cos ka
2
2
    12   2 2  21 2 cos ka
e)
ka
ka 
ka

2  2  2  2 cos ka  2  2 1  cos ka   2  2 1  cos 2
 sin 2   4  2 cos 2
2
2
2

だから1=2=の時、     2  cos
ka
2
a の長さが倍になっている。
機能性物質学
第5回
○固体への拡張
分子のヒュッケル法から始まり、環状分子の軌道エネルギーを一括で求める手法に関
して述べた。以下、N(環状分子を構成する原子数)が非常に大きいと仮定して、こ
の手法を固体へ拡張してゆき、重要な概念を説明する。
問題1
N が非常に大きいと仮定して、
    2  cos( ka ) からポリアセチレンの全
軌道エネルギーを求めよ。
○固体のエネルギーバンド
固体では、軌道エネルギーが密になっており、部分的にギャップができている。この
ような電子構造をエネルギーバンドと呼ぶ。
N が大きいときの     2  cos( ka ) 、    1   2  2 1 2 cos ka は、一次元固体の
2
2
エネルギーバンドである。
○ブリルアンゾーン
これまでの k の定義は、 k  2n /( Na ) ( n=0,1,.....,N-1)であった。しかし問題 1 に
もあるように N が大きいときは、k=0 を中心に k  2n /( Na ) ( n= -N/2,....., N/2)で
定義する方が都合がよい。すなわち   a  k   a である。このように原点を中心に
区切られた領域をブリルアンゾーンと呼ぶ。この概念は、2次元あるいは3次元のエ
ネルギーバンドを考えるときに、もっと重要になる。k は実際は不連続な点であるが、
固体物理では連続点として扱うのが、テクニックである。(問題1のエネルギーの計
算法をみよ。)
○バンド充填率、フェルミエネルギー、金属、半導体
2N 個の電子が集まると、エネルギーバンドは満たされる。このとき、バンド充填率 F
を F=1 とすると、ドープされていない環状分子では半分の量子点が埋まっているので、
F=0.5 である。結合の長さが異なる環状分子の場合は、下のバンドが完全に埋まって
おり、F =1 である。また上のバンドは、F=0 である。
バンドの途中まで電子が満たされているとき、その境界となるエネルギーをフェルミ
エネルギーという。また、境となる k をフェルミ波数と呼び、kF で表す。
完全に電子で満たされたバンドと、まったく電子で満たされていないバンドのみで
できている物質は半導体である。満たされていないバンドでもっともエネルギーの低
いところと、満たされたバンドでもっともエネルギーの高いところのエネルギー差が
バンドギャップ(Eg)になる。真性半導体では、化学ポテンシャルはバンドギャップ
の中間にくるため、活性化エネルギーは Eg/2 になる。
中途半端に電子で満たされたバンドをもつ物質は、金属になる。この分類では、半
導体と絶縁体の区別はない。
問題2 第4回で計算したように、結合の長さが異なる環状共役分子は半導体である。
バンドギャップと活性化エネルギーを求めよ。
(     1   2  2 1 2 cos ka を用いて計算せよ)
2
2
問題3(CHBry)N (0<y<1)は、臭素ドープされたポリアセチレンである。Br は完全
にイオン化していて(Br-)となっていて、ポリアセチレンの2重結合から電子を引き
抜いているとする(このように、化学的に活性な元素を加えて、電子数を変える事を
ドープ[あるいはドーピング]という。電子を奪う物質はアクセプター、電子を与える
物質はドナーとよぶ。今の場合、CH はドナーで、Br がアクセプターである。)この
ときのポリアセチレンのバンド充填率を y であらわせ。ただし、ポリアセチレンのバ
ンドは     2  cos( ka ) であらわされるとする。y=0.5 のときのフェルミエネルギーを
求めよ。
問題4
問題3で、結合の長さが異なる場合はどうなるか?この場合のエネルギーバ
ンドは     1   2  2 1 2 cos ka と表されることを用いて、下と上のバンド充填
2
2
率を y であらわせ。y=0.5 のときのフェルミエネルギーを求めよ。
問題1
(答)
全軌道エネルギーは
N 4
E  2   2  cos( 2n N )  2
n 0
N 4
2
   2 cos( 2n
N 1
   2 cos( 2n
N )
n 3 N 4
N )
n N 4
 2a
2
  2  cos( ka )dk
 2   2 a


 Na 
 2
2
  2  cos( x)dx



 2   2


 N 
N
   4  


4 

 N    
 

4 

ベンゼンのときは E  6    
3 

い値になっている。
一電子あたりのエネルギーで見ると、上の式と近
問題2 (答)
この場合、下のバンドは完全に満たされており、上のバンドは全
く空である。したがって、バンドギャップは ka=の点に生じ、その値は
2  1   2  2  1  2 cos   2  1   2 となる。
2
2
(CH)N はπ電子を N 個もつ。(CHBry)N では、このうち yN 個が
問題3 (答)
引 き 抜 か れ る か ら 、 全 π 電 子 数 は N (1  y ) で あ る 。 し た が っ て
F  N (1  y )/ 2 N  (1  y ) / 2
y=0.5 のときは F  1 / 4
 
したがって、 k F   / 4a 、  F    2  cos     2 
4
N を求めるとき、単位格子は炭素2原子を含むことに注意する。
問題4 (答)
(CHCHBr2y)N 上のバンドは、F=0 である。下のバンドは、
F  2 N (1  y )/ 2 N  1  y である。y=0.5 のときは F  1 / 2
したがって、 k F   / 2a 、  F    1   2  2 1 2 cos
2
2

   1   2
2
2
2
1   2 のときに、この値は問題3と一致することがわかる。実は、ポリアセチレンは
結合長の異なる鎖状分子であり、ドーピングしないと伝導性を示さない。臭素ドープ
等で、初めて金属的伝導性を示すようになる。
機能性物質学
第6回
○逆格子に関する説明 (第3回のプリント参照)
○2 次元系でのヒュッケル法 (tight-binding model)
ヒュッケル法の計算は、結局どの原子軌道とどの原子軌道が行列要素  j h  i  
を持つか、という話になる。そこで、今度は2次元電子系での計算に応用してみる。
まず簡単な例として、一つの単位格子に一つの原子がある場合を考える。(上の図参




Rm  R( ma ,mb )  ma a  mbb
照)原子軌道をインデックス (ma,mb)  m
( ma=0,1,.....,Na-1; mb=0,1,.....,Nb-1)NaNb=N で表す。以下の問に答えよ。
問題1
(1) 第3回のときのハミルトニアンに習って

h  Rm   a  Rm  a   Rm   a  Rm  a   b  R b   b  R
....①

m b
m
とかけることを示せ。
 n 
n 
(2) k  a a *  b b * ( na=0,1,.....,Na-1; nb=0,1,.....,Nb-1)を用いて、
Na
Nb
 
①の両辺に e ik  Rm をかけて和をとれ。
(3)
1
N
 
 eik Rm  m  k とブロッホ関数を定義すると、この関数が固有関数となってい
m
ることを示せ。固有エネルギーを求めよ。

(4) k k '   k ,k ' 、即ち k の異なるブロッホ関数は直交していることを示せ。
問題1 (答)
(1) 略
(2),(3)

h  Rm   a  Rm  a   Rm   a  Rm  a   b  R

m b
  b  R

m b


 
 
 
 

ik  Rm
ik  Rm
ik  Rm
ik  Rm

  
 
e
h



e

e

e
 Rm  a


a
a
Rm
Rm  a
Rm
m
m
 b  e
 ae
m
 
ik  a
 be

 
ik  Rm
m
 R
 

ik  Rm  a
e 
 
ik  b
 

m b
m
 b  e
 
 

ik  Rm b
e 
m
m

Rm  a
 

Rm b
 
 
ik  Rm
m
 R

m b
 
 


   e ik  Rm  Rm   a e ik a  e ik Rm  a  Rm  a
m
 be
 
 ik  b
 
 

ik  Rm  b
e 
m
 
  a e ik  a     a e  ik  a   b e ik  b   b e  ik  b
 
 
 2  a cos(k  a )    2  b cos(k  b )  e


m
 
 e
m
 
ik  Rm

m

Rm  b
 
ik  Rm
 R
m
 R
m
したがって
 
 
hˆk  2  a cos(k  a )    2  b cos(k  b ) k


固有エネルギーは
 
 
2  a cos(k  a )    2  b cos(k  b )
逆格子ベクトルを用いると、2次元、3次元の場合も一次元と同じように計算ができ
る。
(4) 一次元の場合と本質的に同じである。
1
N
1

N
1

N
k k 
 
 
 
 
 e ik Rm eik Rm  m  m
m
m
 e ik Rm eik Rm  m,m
m
m
  
i  k  k   Rm
e 
m

  k ,k

この N 個の関数は直交して入るので、 m
k を変えるとブロッホ関数 k は N 個できる。
に代わる新しい直交関数系として用いることができる。
機能性物質学
第7回
○バンドの分裂について
(第5回のときの問題に関する解説の追加)
  1   2 
  2
a' = 2a
  1   2
1 + 2 = 

  1   2
  1   2 
  2


a


a
0


a
a
結合長が異なるときは、単位格子の長さが倍になる。このためブリルアンゾーンの長
さは、半分になる。バンドの構造は大まかには折り返されたようになることに注意。
ただし量子点の密度は同じになる。バンドの端は平坦になることに注意。
問題1
量子点の密度はそれぞれの場合でどうなるか
○2 次元の Brillouin Zone
エ ネ ル ギ ー バ ン ド を 記 述 す る k は 、 一 次 元 系 で は 0<k<2/a=a* 、 あ る い は
-/a(=-a*/2)<k</a(=a*/2) で考えてきた。この考えを拡張してゆくと、逆格子に直交
する2等分面でできる六角形(あるいは多面体:3次元の場合)を考えればよいこと
になる。このような多面体を Brillouin Zone と呼ぶ。Brillouin Zone の体積は、逆単位
格子の体積と同じである。
2 次元の Brillouin Zone を示す図
Brillouin Zone の面積は逆単位
 
格子ベクトル a * , b * でできる
平行 4 角形と同じ
Brillouin Zone はもとの結晶格子と同じ対称性を持っている。ゾーンの各点に記号をつ
けるのが一般的である。
○k 空間で量子点が占有する体積について
3次元系の格子点は、




Rm1,m 2,m3  m1a  m2 b  m3 c
(m1=0,1,.....,N1-1; m2=0,1,.....,N2-1 m3=0,1,.....,N3-1)
となる。また逆格子点は
 n 
n 
n 
k  1 a* 2 b * 3 c *
N1
N2
N3
(n1=0,1,.....,N1-1; n2=0,1,.....,N2-1; n3=0,1,.....,N3-1)
とするとよい。一次元の場合と同様に考えると

(1)各 k に対応して、波動関数が対応している。

(2) k は逆単位格子の中に分布している。
問題2
量子点1個が逆格子点上で占める体積を求めよ。
3

2 
  
  
a
*

b
*

c
*

(ヒント
[結晶学では a * b * c *  1 V ]を用いよ。)
V
○実際のエネルギーバンドについて
ヒュッケル法に基づくバンド計
算は、自由電子モデルと異なり、
かなり実際の系に近い結果を与
える。ヒュッケル法の経験に基
づいて考えると、より複雑な現
実のバンド計算も理解できる。
1.
原子 -> 軌道
ヒュッケル法で、N 原子ある
と N×N の行列式ができるとい
っていたのは、結局 N 個の
π軌道を考えていたからである。正しくは、N 個の軌道を考えると N×N の行列式が
できるといいなおすべきである。たとえば N 個の水素原子からなる系で、S,Px,Py,Pz
の軌道を考えたとする。この場合、エネルギー固有値を計算する行列式は 4N×4N に
なるはずだから、全部で 4N 個の量子点ができるはずである。
2. N 個の単位格子があり、一つの単位格子内に M 個の軌道が存在する場合。
1 に従えば、全部で MN 個の量子点ができるはずである。異なる k を持つ波動関数は
混じらないので、この MN 個の量子点は M×N に分かれる。つまり、M 個のバンド
ができる。一つのバンドには必ず単位格子の数だけ量子点がある。
3.
問題2の結果は一般的で、各量子点は k 空間で V *  (2 ) 3  の体積を占有してい
る。(は試料の全体積)
問題1 (答)
結合長が同じとき
k  2 /( Na )  2 / L ただし L は試料の長さである。
結合長が異なるとき
格子の数は半分になり、その代わり格子長は倍になっている
ことに注意。両者を掛け合わせた試料の長さは同じだから、量子点の間隔は結合長が
同じときと変わらない
k '  2 /( N ' a ' )  2 / L ただし L は試料の長さである。
(答)



a*  b* c*
V*
(2 ) 3


V * 




N1  N 2 N 3  N1 N 2 N 3 N1 N 2 N 3V
問題2
V は単位格子の大きさ、 N1 N 2 N 3 はセルの数を表すので、 V ( N1 N 2 N 3 ) は全体積に等
(2 ) 3
全体積が大きくなれば、量子点は事実上連続的に逆

単位格子を占めているといえる。
しい。すなわち、 V * 
機能性物質学
第8回
○グラファイトのバンド計算
問題1 これまでの応用として、グラフェン(グラファイトのうち1層だけを取り出
したもの)のπ電子のバンド構造をヒュッケル法で計算してみよう。下に示したのが
グラフェンの構造である。すべての結合は等価であるから、共鳴積分はとおいてよ
い。また単位格子は a、b であること、単位格子内には2つの原子が存在することが
わかる。(この 2 種類の原子はわかりやすくするために、太い黒丸と細い黒丸で示し
てある。実際は両方とも炭素で区別はない。)
こ れ か ら 、 バ ン ド は 2 つ に 分 裂 す る こ と が わ か る 。 (ma,mb)  m




Rm  R( ma ,mb )  ma a  mbb 、格子 m の原子 p の原子軌道を pm、格子 m 原子 q の原子軌道
を qm、として以下の問いに答えよ。また= 0 とせよ。必要に応じて、第4回問題1、
第6回問題1を参考にせよ。
(1)第 6 回の問題1の①に習ってハミルトニ
アンを書け。
(2)第 4 回の問題に習って、エネルギーバン
ドを計算せよ。
(3)グラフェンの 2 次元ブリルアンゾーンを
書いてみよ。(正 6 角形のゾーンができるは
ずである)
(4)2 つに分裂したグラフェンのエネルギー
バンドは、ある特定の点でくっつく。くっつ
く場所を計算で求めよ。ブリルアンゾーンの
どの点に対応するか。
問題1 (答)

(1) h pRm   qRm  pRm   qRm  a   qR

m b

h qRm   pRm  qRm   pRm  a   pR

m b
(2)
 
e ik  Rm を掛けて和をとると、
 
 
 
 
 

h  e ik  Rm pRm    e ik  Rm qRm    e ik  Rm pRm    e ik  Rm qRm  a    e ik  Rm qR
m
m
m
m
m

m b
 
 
 
 
 

h  e ik  Rm qRm    e ik  Rm pRm    e ik  Rm qRm    e ik  Rm pRm  a    e ik  Rm pR
m
1
N
m
m
 
 eik Rm qm  qk 、
m
1
N
 
 
m
 

 pk     e ik a   e ik b qk
 
 

h qk   pk  qk   e  ik a pk   e  ik b pk

 
 

 qk     e ik a   e ik b pk
k  c1 pk  c2 qk とおく。

h k  k となるように c1, c2 を決める。

h c1 pk  c2 qk    c1 pk  c2 qk 
左から pk を掛けて積分する
1
N
0
 e
1
N
1

N
1

N
 e
ikRm ik Rm
 e
ikRm ik Rm
pk qk  
pk pk  
を用いると
m
m
m
ikRm ik Rm
e
m
e
m
e
m
e 
i  k  k   Rm
m
m
 eik Rm pm  pk とブロッホ関数を定義すると
 
 

h pk   qk  pk   e ik a qk   e ik b qk

m
pm qm
pm pm
 m ,m
  k ,k 
①
②

m b




c1 pk h pk  c2 pk h qk   c1 pk pk  c2 pk qk  c1
同様に左から qk を掛けて積分すると




c1 qk h pk  c2 qk h qk   c1 qk pk  c2 qk qk  c2
したがって

 pk h pk  


 q h p
k
k


pk h qk  c1 
   0



qk h qk    c2 
これに①、②の具体的な係数を代入すると、

 

  1  eik a  eik b



 1  e ik a  e ik b  c1 
   0
 c
 
 2 
 
 

2
したがって  k     1  e ik a  e ik b ( pp*  p を利用している。)

これがグラフェンのバンド構造である。
(3) ブリルアンゾーンの書き方に関しては、第 7 回を参照のこと
グラフェンの場合は、正6角形になる。
(4)
 
 



k  xa *  yb * とおくと上下のバンドがくっつく条件は、 1  e ik a  e ik b  0
 
 
すなわち 0  1  e ik a  e ik b  1  e ix  e iy  1  cos x  cos y  i (sin x  sin y )
sin x  sin y  0 ....①
1  cos x  cos y  0 ...②
①より x   y  2n ③ または
x  y    2 n
④
(n:整数)
④のときは cos x   cos y だから ②を満たさない。したがって③ このとき
cos x  cos y だ か ら 、 cos x  cos y  1 / 2 0  x, y  2
で 考 え る と 、 x  2 / 3 、
 1 

y  4 / 3 ; x  4 / 3 、 y  2 / 3
すなわち、 k  a * 2b *
3
 1  
および k  2a * b * これらの点はそれぞれ、2 と 1 になる。
3




逆格子ベクトルだけ動かすと、4,6 は 2 と同等、3,5 は 1 と同等になるので、結局
1,2,3,4,5,6 のすべての点で、上と下のバンドがくっついていることになる。グラファ
イトでは、3次元的な相互作用のために、非常に小さなフェルミ面ができる。このよ
うな電子状態を"半金属"と呼ぶ。
近年、純粋なグラフェンを作る方法が確立して、グラフェンの特異的な電子構造に興
味がもたれている。
機能性物質学
第 10 回
○
金属、半導体、半金属
バンド理論によれば、0,1 でない中途半端なバンド充填率をもつ物質は金属である。
金属は温度が下がるにつれ電気抵抗が減少する電気伝導性を示す。k 空間で (k)= F
となる等エネルギー面をフェルミ面という。
完全に電子で満たされたバンドと、まったく電子で満たされていないバンドのみで
できている物質は半導体である。
半金属は、グラファイトのように部分的に上下のバンドがくっついた物質である。
○ k 空間の運動方程式
  k x 
 1 d
 1

v    k y  


d
k

  k z 
(A0)
 
k  F
(A1)
1  2
(F :
力)
1
(A2)
(m*: 有効質量)
 2 k 2 m *
これらの2つの式は実空間のニュートン方程式に対応するものである。エネルギーバ
ンドで記述される k 空間では、電子は、A1 に従って運動する。k 空間の各点のとこ
ろにある電子は、実空間では A0 式に従って運動している。
(k 空間では、速度(ある
いは運動量)しか指定されていないことに注意)

○ Drude model による電気伝導度



v
緩和時間
mv  eE  m
運動方程式

定常状態を考えると左辺はゼロであるから

e 
v E
m


 ne 2 
j   nev 
E  E
m
ne 2
m
この式はもっとも直感的に直流電気伝導度を表している。一見するとバンド構造と関
係付けるのが大変そうであるが、実は m が A2 であらわされる有効質量の平均値とす
1
ると、バンド構造と関係付けることができる。 すなわち  dc  ne 2
m average
  dc 
○ボルツマン方程式を用いた議論

(advanced)

r, k,t
 f 
 
 t  c
collision がなければ
r, k ,t
df
f f  f 
 0     k    r
dt
t k
r
現実には collision があるため
df  f 
  0
dt  t  c
f f  f 
 df 
      k    r
 dt  c t k
r
......①
ボルツマン方程式
f  f0
 df 
  
 dt  c

f 0 ( ) 
f 0: Fermi の分布関数(熱平衡時の分布関数)
: relaxation rate ......②
1
1  exp(   ) kT 
2)熱起電力、電気伝導度
 
E ,T に関して一次
静的な温度勾配、電場
f
0
t
 f  f
  f
1   f
.....③
k    k  0   eE   0   eE  vk 0


k
k
k 
 f  f
 f
 f
 f 

r    vk  (T
  )  vk  (T 0   0 )
r
T

T

     f 0

 vk  (T
  )
T

①、②、③より
 
 f
     f 0
  (eE   )  v k 0  v k  T


T 


f  f 0  g とおく。また  / e は結局電場として観測されるから、以下 E に含めることにする。

f  f0
         f 0
g    eE  v k  v k  T


T  





J    ev k fDk dk    ev k gDk dk
Dk :k 空間の状態密度
電流密度


dk あたり Dk dk
Dk 1 / 4 3

1
        f 0  
   
J  3    e 2 v k ( E  v k )  ev k (v k  T )

 dk

T    
4
  
  
 

  
v k ( E  v k )  (v k ; v k ) E 、 v k (T  v k )  (v k ; v k )T
 vxvx
  
v ;v    v y v x
v v
 z x
vxvy
vyvy
vz v y
v x vz 

v y vz 
v z v z 
(ディアデック)
を用いると



T
J  L00 E  L01
T
2
e
   f  
L00  3   v k ; v k   0  dk
  
4
L01  
........④
e
   f 0  
(



)
v

 dk
k ; v k  
  
4 3 
直流電気伝導度
dc:

T  0
e 2    f 0  
 dc  L00  3  v k ; v k    dk
  
4
熱起電力 S :
1
S  L00 L01T 1


E
J  0 の時の 
T
......⑥
......⑤



T
1
④より E  L00 L01
T
○具体例
電気伝導度
⑨、⑩を用いて計算する。c.g.s.単位系ではの単位は s-1 になる。実用単位との換算には
1-1·cm-1=8.991011 s-1 を用いる。
⑨の計算には
 d
 f 0 

   (   F ) 、 dk   dS F
  
 vk
dSF Fermi 面上の面素
を用いると見通しがよい。
これを用いると
ex.1)
 dc 
e 2
4  3
自由電子モデル(3次元)
 dc xx 
e2
 2
 v 
2
k x
dS F

vk
e2

v dS F
2  k
3
e2
k F

dS F
2 
3
m
e 2 k F
2

4k F
2
3 m
4ne 2

m

ex.2)
  dS F
k ; vk  
vk
 v
1次元物質



( v k  x   v k  y   v k  z 
(n
2
2
2
1 2
vk )
3
1 4 3
k F :電子数密度)
4 3 3
(//a)
2 2 8 2 8 2 a
SF  2 



b
c
bc
Vm
e
dS
 dc 
v2 F
3 
4 
v
2
SF フェルミ面の面積
e 2
vF S F
4  3
e 2 vF 8 2 a


4 3 Vm

tight-binding model
( Vm  abc :単位格子体積)
のとき
  dc  
4  a 2 e 2
sin k F a
 2Vm
問題1
 dc  ne 2
1
mxx
  2  cos ka
vF  
2a
sin k F a

を使っても同じ式を導くことができる。やってみよ。
average
問題1
(解答)
N e  nV 
n 
1
maa
1
4 3
2V
8 3

 f (
k
)dk
f ( k )dk 

average

 / b  / c kF
1
4 3
   dk dk dk
b
 1  2 k
f ( k ) 2
2
  k a
 f ( k )dk
 dc 

したがって
e 2
4 3


dk

 

 1  2 k
f ( k ) 2
2
  k a
e 2 1
4 3  2
c
a
 / b  / c  kF
 1  2 k
f ( k ) 2
2
  k a
4 3 n

dk


 / b  / c kF
   2a  cos ka dk
2
 / b  / c kF
e  1 4 2
1
k
2  a 2  sin ka Fk F
3
2
4  bc
a
4  a 2 e 2 sin k F a

 2Vm

2

dk


第 11 回
機能性物質学
<半導体>
○有効質量近似

このようにして有効質量を定義して、エネルギーバンド  k を自由電

1  2
1
2 
2
 k
m*
子モデル
2
 2 k
k 
2m*

で代用する。この有効質量近似は、金属でも用いられるが、半導体の場合はバンドの
底(あるいは頂上)の電子のみが伝導に寄与するので特に有用である。
○状態密度   
エネルギーを変数とした状態密度    は、単位エネルギー、単位体積(2次元の時は
単位面積、一次元の解きは単位長)あたりの量子状態数(スピンも含める)である。
問題1 自由電子モデルのエネルギーバンドを用いて、3 次元、2次元、1次元の時
の状態密度を求めよ。
 2 kx 2  k y 2  kz 2
ただし自由電子モデルのエネルギーバンドは、  k 
(3次元)、
2m*
 2 kx 2
 2 kx 2  k y 2
k 
(2次元)、  k 
(1次元)である。
2m*
2m*







 
問題2
 k x   2  cos( k x a ) のときの状態密度はどうなるか?
問題1
(答)
(1 次元)
k 空間で L    Dk k x  2 
L
k x
2
(スピンを考慮して2倍する)
したがって、
  2m*
 2 
1

1
2
2


1 k x 1 d
2  k
2  
1D   
 2
  * x     *
   dk x
 m 

m


1/ 2



1


1/ 2

1  2m* 


 








第2項から第3項に移項したときに、2がつくのは、バンドが対称で両側で k が増え
るからである。
k 空間で Lx L y     Dk  k x k y   2 
(2次元)
したがって、
   
Lx L y

 k x k y 
2 2
1  k x k y 
2 2 
 と    の間に挟まれた k 空間の面積  k x k y  は 2kk 。ただし  
d  2 k

dk m*
だから
 k x k y 

つまり 2 次元では  2 D   
1
 2k 
2kk
2m*

 2k  *   2


m 
1 2m* m*
 2
2 2  2

k 空間で Lx L y Lz     Dk  k x k y k z   2 
(3次元)
したがって、    
2k 2
2m*
1  k x k y k z 
4 3

Lx L y Lz


 k x k y k z 
2 2 2
 と    の間に挟まれた k 空間の体積  k x k y k z  は 4k 2 k 。ただし  
d  2 k

dk m*
   
だから
 k x k y k z 

1 4km*
m*

k
4 3  2
 22
m 
   
* 3/ 2
 
問題2
2
1
 2k 
4k 2 k
4km*

 4k 2  *  

2
m 
k
2m*
を代入すると
2
2
3
(答)
1 k x 1 d
1D   
 2
   dk x
1
までは問題1の1次元の場合と同じ
 k x   2  cos( k x a ) だから
2
  
d
   a 4  2   2
 2  a sin( k x a )  2  a 1  cos 2 ( k x a )  2  a 1  
dk x
 2 
したがって 1D   
2
a 4  2   2
2k 2
2m*
○真性半導体の活性化エネルギー

電子のエネルギーバンド
2
2
2

2 kx  k y  kz
e k   g 
2me
正孔のエネルギーバンド
h k  

とする。すると状態密度は
     h   
mh 3 / 2
2

(  g)
(0 <  < g)
 2
 
2
2
2mh
 23
    0
2
2 kx  k y  kz
2   g 
me 3 / 2
     e   

 

(  )
3
上の式を用いると電子濃度は

n   f ( )  e  d
g
f   
1
1 e
    kT
化学ポテンシャル  は、0 <<  << g だから、  g では
f   
1
1 e
2 me 
 23
3/ 2
n
 e     kT と近似できる。したがって
    kT


e     kT
g
   d  2 m kT 
e
 2 
g
2
正孔濃度は p   1  f ( )  h  d
0

3/ 2
  g
exp
 kT
  では 1  f   



e     kT
 e     kT
1  e     kT
と近似で
きる。したがって
2 mh 
 23
3/ 2
p

0
e

    kT
 m kT 
  d  2 h 2 
 2 
3/ 2

exp

 kT 
m 
 2   g
真性半導体では p = n だから  h   exp
 kT
 me 
 mh 
1

  1 とすると    g
2
 me 
m 
1
3
    g  kT log h 
2
4
 me 
これが活性化エネルギーとなる。
 
 kT 
me mh 3 / 2 exp g
pn  4
2 
 2 
 kT
3




  ni 2 ここで ni は真性半導体のキャリア濃度である。

○価電子バンドと伝導バンド
化学ポテンシャル(金属に習ってフェルミエネルギーとも呼ばれる) より高いと
ころにあるバンドを伝導バンドと呼ぶ。また  より低いところにあるバンドを価電
子バンドと呼ぶ。
○不純物半導体と真性半導体
半導体は不純物が入ることにより化学ポテンシャル を変えることができる。
○p 型半導体と n 型半導体
半導体は不純物が入ることにより化学ポテンシャル を変えることができる。伝導バ
ンドが に近いときは、電子が主キャリアとなる n 型半導体になる。一方価電子バン
ドが に近いときは、正孔が主キャリアとなる p 型半導体になる。
○少数キャリア
n 型半導体においても正孔は少ないながらも存在し、p 型半導体においても電子は少
ないながらも存在する。こうした、少ないキャリアを少数キャリア(minor carrier)と
呼ぶ。小数キャリアまで考慮すると以下の式は、p 型、n 型を問わず成り立つ。
 
 kT 
me mh 3 / 2 exp g
pn  4
2 
 2 
 kT
3

  ni 2

この式は半導体の理論では非常に重要な式である。
化学ポテンシャル、あるいは活性化エネルギーは温度により変化する。(以下の図参
照)これは、不純物準位にあったキャリアが、高温では出払うことによる。
左図 n 型および p 型半導体
の活性化エネルギー
高温部(図の左側)の傾きは
ゲルマニウムのバンドギャ
ップに対応する活性化エネ
ルギーに対応し、右側の傾き
は不純物準位に対応した活
性化エネルギーに対応する。
後者は p 型と n 型で異なるの
に対して、前者は両方で一致
することに注意
機能性物質学
第 12 回
<半導体(続き)>
○金属-半導体接合
金属-半導体接合のため、ショットキー接合を持つ半導体の電気抵抗は2端子法では
正確に測れない。
a)ショットキー接合
金属と半導体界面で、キャリアが金属に流れ出すときに、キャリアがなくなる空乏層
ができ、これが障壁となる。
空乏層の厚み
d
2V B
eN D
ND :不純物濃度キャリア濃度
b)Ohmic 接触
ホールがメインキャリアで、金属のフェルミレベルが HOMO(の EF)よりも下にあ
るとき、また電子がメインキャリアで、金属のフェルミレベルが LUMO(の EF)よ
りも上にあるときは、金属からキャリアが半導体に流れ込むので、空乏層ができない。
このときは Ohmic な接触になる。
(Ohmic 接触であってもポテンシャルはできるが、
空乏層ができない。)
Ohmic 接合のもうひとつのタイプは、キャリア濃度が高い半導体である。この場合
空乏層の厚みが薄くなるので、トンネル効果により電極から電流が注入できるように
なる。真空準位とフェルミレベルのエネルギー差は仕事関数と呼ばれる。
授業のまとめ
1.
ヒュッケル法による電子構造の計算
-分子から固体まで-
a) π電子近似
分子の電子構造
エチレンを例として
共役分子のエネルギーを計算するための行列式を書けるようにしておくこと
b) 共役環状分子の電子構造 ブロッホ関数の導入、固体への拡張
ヒュッケル法を周期的に並んだ系に適用するための方法を理解すること
一次元系 -ベンゼン、シクロブタジエン、ポリアセチレン
c) k 空間、エネルギーバンド 総和を積分で行う
2
L
2
S
k Ak   2   Ak dk    Ak dk (1D) k Ak  2 2  Ak dk  2 2  Ak dk (2D)






L


 L 
A
k
k

2
 2 


 L 
V
3
 A dk  4  A dk
k
3
k
(3D) V  L3 ;
S  L2 ;
L は試料の一辺の長さ
d) バンドの分裂 (結合交替のある共役環状分子)
単位格子の中に軌道が N 個あるとどのような効果が出現するか
授業では 2 通りの がある場合について計算したが、通りの がある場合も同じよう
に計算できる
e) 2次元系への拡張
グラファイト(グラフェン)のバンド計算
2. 固体電子論に関する基礎知識
a) 金属、半導体、半金属の区別
b) 金属のフェルミ面
c) k 空間の運動方程式、有効質量
  k x 
 1 d
 1

v    k y  


d
k

  k z 
 
k  F
1  2
2
 k
2

1
m*
これらの式は何を意味するか
d) Drude モデルと直流電気伝導度
e) エネルギー状態密度
自分で計算できること
3 半導体の基礎概念
a) 価電子バンドと伝導バンド
価電子バンドは分子の HOMO、伝導バンドは分子の LUMO に対応する
b) 不純物半導体と真性半導体、p 型半導体と n 型半導体 pn  ni 2
c) ショットキー接合とオーミック接触