システム制御工学Ⅰ 電気電子工学科 2015年度 今日の講義内容 数学の復習2 • ラプラス変換 – 定義 – ラプラス変換(対)表 – ラプラス変換の定理 – 部分分数展開とラプラス逆変換 • ラプラス変換による微分方程式の解法 2 フーリエ変換の条件(1) フーリエ変換が可能な条件(絶対可積分) ∞ 𝑓 𝑡 𝑑𝑡 < ∞ −∞ 重要な関数のいくつかは条件を満たさない ステップ関数 三角関数 ∞ 𝑢 𝑡 −∞ ∞ | sin −∞ 𝑑𝑡 = ∞ 1𝑑𝑡 0 =∞ 𝑡 |𝑑𝑡 = ∞ 𝑡 ∞ のときに |𝑓 𝑡 | が有限の値を持っているため 3 フーリエ変換の条件(2) 𝑡 ∞ のときに値がゼロになるような因子 𝑒 −𝜎𝑡 (𝜎 は 正の実数)をかけてみる ∞ ∞ フーリエ変 換可能 1 |𝑢 𝑡 = = <∞ 𝜎 −∞ 0 一般の関数 に対しても同様に因子をかけてフーリエ 変換すると考えて(ただし積分範囲は0以上とする) 𝑒 −𝜎𝑡 |𝑑𝑡 ℱ[𝑓 𝑡 𝑒 −𝜎𝑡 ] = = 𝑒 −𝜎𝑡 𝑑𝑡 ∞ −𝜎𝑡 −𝑗𝜔𝑡 𝑓 𝑡 𝑒 𝑒 𝑑𝑡 0 ∞ − 𝜎+𝑗𝜔 𝑡 𝑑𝑡 𝑓(𝑡)𝑒 0 𝜎 + 𝑗𝜔 は1つの複素数 ⇒ 𝑠 という記号で表す 4 ラプラス変換の定義 • ラプラス変換 𝐹 𝑠 =ℒ 𝑓 𝑡 ∞ = • ラプラス逆変換 1 −1 𝑓 𝑡 = ℒ [𝐹 𝑠 ] = 2𝜋 𝑓(𝑡)𝑒 −𝑠𝑡 𝑑𝑡 0 𝜎0 +𝑗𝜔 𝐹 𝑠 𝑒 𝑠𝑡 𝑑𝑠 𝜎0 −𝑗𝜔 (注1) 𝑠 は積分が収束するような値である必要があるが,厳密 な議論は省略する. (注2) 積分範囲が−∞~∞ のラプラス変換(両側ラプラス変換) も存在するが,ここでは 0~∞ の片側ラプラス変換のみを 扱う.従って,𝑡 < 0 に対して値を持つ 𝑓(𝑡) に対してはス テップ関数 𝑢(𝑡) を乗じた形 𝑓 𝑡 𝑢(𝑡) で積分する. 5 人物 ピエール・シモン ラプラス (1749-1827) ジャン・バティスト・ フーリエ (1768-1830) いずれもフランスの数学者・物理学者.フランス革命~ナポレオ ン帝政~王政復古という波乱の時代を生きた. (肖像画の出 典はWikipedia) 6 ラプラス変換の例 • 単位インパルス関数 𝛿(𝑡) ∞ ℒ𝛿 𝑡 𝛿(𝑡)𝑒 −𝑠𝑡 𝑑𝑡 = 𝑒 −𝑠0 = 1 = 0 • 単位ステップ関数 𝑢(𝑡) ∞ ℒ𝑢 𝑡 = 0 1 −𝑠𝑡 −𝑠𝑡 𝑢 𝑡 𝑒 𝑑𝑡 = − 𝑒 𝑠 • 単位ランプ関数 𝑟 𝑡 = 𝑡𝑢(𝑡) ∞ ℒ𝑟 𝑡 𝑟 𝑡 𝑒 −𝑠𝑡 𝑑𝑡 = = 0 = 𝑡 −𝑠𝑡 ∞ − 𝑒 𝑠 0 + ∞ 0 1 = 𝑠 ∞ 𝑡𝑢 𝑡 𝑒 −𝑠𝑡 𝑑𝑡 0 ∞ 1 −𝑠𝑡 𝑒 𝑑𝑡 0 𝑠 = 1 𝑠2 7 問 1. 複素正弦信号 𝑥1 𝑡 = 𝑒 𝑗𝜔𝑡 𝑢(𝑡) のラプラス 変換を計算せよ. 2. 複素正弦信号 𝑥2 𝑡 = 𝑒 −𝑗𝜔𝑡 𝑢(𝑡) のラプラ ス変換を計算せよ. 3. 1.と2.の結果を用いて sin 𝜔𝑡 𝑢(𝑡), cos 𝜔𝑡 𝑢(𝑡)のラプラス変換を求めよ. (注) ラプラス変換は線形の変換であり,重ね 合わせが成り立つ. 8 ラプラス変換(対)表 𝒇(𝒕) 𝑭(𝒔) 𝒇(𝒕) 𝑭(𝒔) 𝛿(𝑡) 1 1 𝑒 −𝛼𝑡 − 𝑒 −𝛽𝑡 𝑢(𝑡) 𝛽−𝛼 𝑢(𝑡) 1 𝑠 1 𝑠2 1 𝑠𝑛 sin(𝜔𝑡) 𝑢(𝑡) 1 (𝑠 + 𝛼)(𝑠 + 𝛽) 𝜔 𝑠2 + 𝜔2 𝑠 𝑠2 + 𝜔2 𝑟 𝑡 = 𝑡𝑢(𝑡) 𝑡 𝑛−1 𝑢 𝑡 𝑛−1 ! 𝑛 = 1,2, … 𝑒 −𝛼𝑡 𝑢(𝑡) 𝑡𝑒 −𝛼𝑡 𝑢(𝑡) 𝑡 𝑛−1 𝑒 −𝛼𝑡 𝑢(𝑡) 𝑛−1 ! 𝑛 = 1,2, … 1 𝑠+𝛼 1 (𝑠 + 𝛼)2 1 (𝑠 + 𝛼)𝑛 cos(𝜔𝑡) 𝑢(𝑡) sin 𝜔𝑡 + 𝜃 𝑢(𝑡) 𝑠 sin 𝜃 + 𝜔 cos(𝜃) 𝑠2 + 𝜔2 cos 𝜔𝑡 + 𝜃 𝑢(𝑡) 𝑠 cos 𝜃 − 𝜔 sin(𝜃) 𝑠2 + 𝜔2 𝜔 (𝑠 + 𝛼)2 +𝜔 2 𝑒 −𝛼𝑡 sin 𝜔𝑡 𝑢(𝑡) 𝑒 −𝛼𝑡 cos 𝜔𝑡 𝑢(𝑡) 𝑠+𝛼 (𝑠 + 𝛼)2 +𝜔 2 9 ラプラス変換の定理(1) • 加法定理 (線形性) ℒ 𝑓1 𝑡 ± 𝑓2 𝑡 = ℒ 𝑓1 𝑡 ± ℒ[𝑓2 𝑡 ] • 定数倍(線形性) ℒ 𝑘𝑓 𝑡 = 𝑘ℒ[𝑓 𝑡 ] • 微分 ℒ 𝑓 ′ 𝑡 = 𝑠𝐹 𝑠 − 𝑓(0) 初期値 𝑓(0) を忘 れないように! 𝑛 ℒ𝑓 𝑛 𝑡 = 𝑠𝑛𝐹 𝑠 − ただし 𝑓 𝑛 𝑡 𝑠 𝑛−𝑘 𝑓 𝑘−1 (0) 𝑘=1 𝑑 𝑛 𝑓(𝑡) = 𝑑𝑡 𝑛 10 ラプラス変換の定理(2) • 積分 𝑡 𝐹(𝑠) 𝑓 𝑡 𝑑𝑡 = 𝑠 0 ℒ 𝑡 𝑡 ℒ 𝑡 … 0 0 𝑓(𝑡)(𝑑𝑡) 0 • たたみ込み積分 ℒ 𝑓1 𝑡 ∗ 𝑓2 𝑡 𝑛 1 = 𝑛 𝐹(𝑠) 𝑠 ∞ =ℒ = ℒ 𝑓1 𝑡 ℒ 𝑓2 𝑡 0 𝑓1 𝜏 𝑓2 𝑡 − 𝜏 𝑑𝜏 = 𝐹1 (𝑠)𝐹2 (𝑠) たたみ込み積分が普通の積に変わる 11 ラプラス変換の定理(3) • 時間遅れ ℒ 𝑓 𝑡 − 𝜏 = 𝑒 −𝜏𝑠 𝐹(𝑠) 時間遅れ 𝜏 を むだ時間 とも言う.むだ時間の ラプラス変換は有限次数の多項式にならない ため数学的な扱いが難しく,しばしば制御系 の安定性を損なう. • 最終値の定理 lim 𝑓 𝑡 = lim 𝑠𝐹(𝑠) 𝑡 ∞ 𝑠 0 システムの十分時間を経た状態(定常状態) を調べるのに役立つ 12 部分分数展開 有理式 𝐹 𝑠 = 𝑄(𝑠) 𝑃(𝑠) ラプラス逆変換 時間領域の式 𝑓(𝑡) ラプラス逆変換は複素積 分なので,真面目に計算 するのは結構大変 ラプラス変換表の利用 1 (𝑠+𝛼)𝑛 や 𝑠 𝑠 2 +𝜔2 の形 部分分数展開が必要 13 分母の根に重複の無い場合 𝑄(𝑠) 𝑄(𝑠) 𝐹 𝑠 = = 𝑃(𝑠) 𝑠 − 𝑝1 𝑠 − 𝑝2 … (𝑠 − 𝑝𝑛 ) この式を 𝐴1 𝐴𝑛 𝐹 𝑠 = + ⋯+ 𝑠 − 𝑝1 𝑠 − 𝑝𝑛 の形にしたい.上の式の両辺に 𝑠 − 𝑝𝑘 をかけると 𝑠 − 𝑝𝑘 𝐹 𝑠 = 𝐴1 (𝑠−𝑝𝑘 ) 𝑠−𝑝1 + 𝐴𝑛 (𝑠−𝑝𝑘 ) ⋯ +𝐴𝑘 + ⋯ 𝑠−𝑝𝑛 よって, 𝐴𝑘 = (𝑠 − 𝑝𝑘 )𝐹(𝑠)|𝑠=𝑝𝑘 (𝑘 = 1,2, … 𝑛) とすれば良いことが分かる. 14 例 • 𝐹 𝑠 = 𝑠+2 𝑠(𝑠+1) 𝐴 𝑠 = + 𝐵 𝑠+1 と展開する場合 𝑠+2 𝐴 = 𝑠𝐹 𝑠 |𝑠=0 = |𝑠=0 = 2 𝑠+1 𝑠+2 𝐵 = (𝑠 + 1)𝐹 𝑠 |𝑠=−1 = |𝑠=−1 = −1 𝑠 2 1 ∴𝐹 𝑠 = − 𝑠 𝑠+1 ラプラス変換表をみて逆変換すると, 𝑓 𝑡 = 2𝑢 𝑡 − 𝑒 −𝑡 𝑢 𝑡 = 2 − 𝑒 −𝑡 𝑢(𝑡) 15 例 • 𝐹 𝑠 = 𝜔 𝑠 2 +𝜔2 の場合 𝜔 𝐴 𝐵 𝐹 𝑠 = = + (𝑠 + 𝑗𝜔)(𝑠 − 𝑗𝜔) 𝑠 + 𝑗𝜔 𝑠 − 𝑗𝜔 と考えれば重複の無い場合と同じ 𝜔 𝑗 𝐴 = 𝑠 + 𝑗𝜔 𝐹(𝑠)|𝑠=−𝑗𝜔 = |𝑠=−𝑗𝜔 = 𝑠 − 𝑗𝜔 2 𝜔 𝑗 𝐵 = 𝑠 − 𝑗𝜔 𝐹(𝑠)|𝑠=𝑗𝜔 = |𝑠=𝑗𝜔 = − 𝑠 + 𝑗𝜔 2 𝑗 1 1 ∴𝐹 𝑠 = − 2 𝑠 + 𝑗𝜔 𝑠 − 𝑗𝜔 ラプラス逆変換して 𝑗 −𝑗𝜔 𝑓 𝑡 = 𝑒 − 𝑒 𝑗𝜔 = sin(𝜔𝑡) 2 16 問 𝐹 𝑠 = 𝑠−2 𝑠(𝑠+1)(𝑠+2) のラプラス逆変換を求めよ. 17 分母の根に重複がある場合(1) • 𝐹 𝑠 = 𝑄(𝑠) (𝑠−𝑝1 )𝑚1 ⋯(𝑠−𝑝𝑛 )𝑚𝑛 を以下の形に展開 𝐴1,𝑚1 𝐴1,1 𝐴1,2 𝐹 𝑠 = + +⋯ 2 𝑠 − 𝑝1 (𝑠 − 𝑝1 ) (𝑠 − 𝑝1 )𝑚1 𝐴𝑛,𝑚𝑛 𝐴𝑛,1 𝐴𝑛,2 +⋯+ + + ⋯+ 2 𝑠 − 𝑝𝑛 𝑠 − 𝑝𝑛 (𝑠 − 𝑝𝑛 )𝑚𝑛 重複が無い場合と同様に考え,両辺に (𝑠 − 𝑝𝑘 )𝑚𝑘 を乗 じて 𝑠 𝑝𝑘 とすると,最高次の係数が求まる. 𝐴𝑘,𝑚𝑘 = (𝑠 − 𝑝𝑘 )𝑚𝑘 𝐹(𝑠)|𝑠=𝑝𝑘 18 分母の根に重複がある場合(2) ・次に,微分して最高次の係数を消去する. 𝑑 𝑑𝑠 𝑠 − 𝑝𝑘 𝑚𝑘 𝐹(𝑠) = 𝑑 ⋯ + 𝐴𝑘,𝑚𝑘−2 (𝑠 − 𝑝𝑘 )2 +𝐴𝑘,𝑚𝑘−1 𝑠 − 𝑝𝑘 + 𝐴𝑘,𝑚𝑘 + ⋯ 𝑑𝑠 = ⋯ + 2𝐴𝑘,𝑚𝑘 −2 𝑠 − 𝑝𝑘 + 𝐴𝑘,𝑚𝑘 −1 + 0 + ⋯ したがって微分してから 𝑠 𝑝𝑘 とすると 𝐴𝑘,𝑚𝑘 −1 が得ら れる.これを一般化して, 𝐴𝑘,𝑚𝑘−𝑙 1 𝑑𝑙 = 𝑠 − 𝑝𝑘 𝑙 𝑙! 𝑑𝑠 𝑚𝑘 𝐹(𝑠) (𝑙 = 1, ⋯ , 𝑚𝑘 − 1) 𝑠=𝑝𝑘 19 例 • 𝐹 𝑠 = 𝑠+3 (𝑠+2)(𝑠+1)2 = 𝐴 𝐵 𝐶 + + 𝑠+2 𝑠+1 (𝑠+1)2 𝐴 = 𝑠 + 2 𝐹(𝑠)|𝑠=−2 = 𝑠+3 |𝑠=−2 2 (𝑠+1) 2 𝑠+3 |𝑠=−1 𝑠+2 𝐶 = (𝑠 + 1) 𝐹(𝑠)|𝑠=−1 = 𝑑 𝐵= (𝑠 + 1)2 𝐹(𝑠)|𝑠=−1 𝑑𝑠 = −1 |𝑠=−1 2 (𝑠+2) と展開 =1 =2 = −1 したがって, 𝐹 𝑠 = 1 1 2 − + 𝑠+2 𝑠+1 (𝑠+1)2 −2𝑡 −𝑡 逆変換すると 𝑓 𝑡 = 𝑒 −𝑒 + 2𝑡𝑒 −𝑡 𝑢(𝑡) 20 問 𝐹 𝑠 = 𝑠−1 𝑠(𝑠+1)(𝑠+2)2 のラプラス逆変換を求めよ. 21 微分方程式の解法 微分方程式 (例) 𝑥 ′ 𝑡 + 3𝑥 𝑡 = cos(𝑡) 両辺をラプラス変換 𝑠 𝑠𝑋 𝑠 − 𝑥 0 + 3𝑋 𝑠 = 2 𝑠 +1 𝑋(𝑠) について解く 𝑠 𝑥(0) 𝑋 𝑠 = + 2 (𝑠 + 3)(𝑠 + 1) 𝑠 + 3 ラプラス逆変換 3 3 1 −3𝑡 𝑥 𝑡 = 𝑥 0 − 𝑒 + cos 𝑡 + sin(𝑡) 10 10 10 22 例 直列RC回路 微分方程式 𝑖(𝑡) 𝑑𝑞(𝑡) 1 𝑅 + 𝑞 𝑡 = 𝐸𝑢(𝑡) 𝑑𝑡 𝐶 𝑡=0 𝑅 𝐸 ラプラス変換 𝑞(𝑡) 𝐶 𝑅 𝑠𝑄 𝑠 − 𝑞 0 1 𝐸 + 𝑄 𝑠 = 𝐶 𝑠 初期電荷はゼロとすると 𝑞 0 = 0 𝐸 1 1 1 𝑄 s = = 𝐸𝐶 − 1 𝑅 𝑠 𝑠+ 𝑠 𝑠+ 1 𝐶𝑅 𝐶𝑅 ∴ 𝑞 𝑡 = 𝐸𝐶 1 − 𝑒 1 −𝐶𝑅 𝑡 𝑢(𝑡) 23 問 時刻0で直列RLC回路に直流電圧 𝐸 を加えた場 合の微分方程式をラプラス変換を用いて解け. 𝐿 𝑅 𝐶 𝑞(𝑡) 𝐸 微分方程式 𝑑𝑞(𝑡) 𝑑2 𝑞(𝑡) 1 𝐸𝑢 𝑡 = 𝑅 +𝐿 + 𝑞(𝑡) 2 𝑑𝑡 𝑑𝑡 𝐶 24 練習問題 1.下図の機械系の微分方程式を書け. 2. 𝑓 𝑡 = 𝛿 𝑡 のとき,ラプラス変換を用いて微 分方程式の解を求めよ.ただし,質量 M は時 間0のとき原点で静止している(𝑥 0 = 0, 𝑥 ′ 0 = 0) とする. 𝑥(𝑡) 𝐾 M 𝑓(𝑡) 25
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