ニュートン力学 - あもんノート

あもんノート
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ユークリッド幾何学、ニュートン力学から、相対論、宇宙論、量子論、素粒子論、そ
してひも理論まで、理論物理学を簡潔にかつ幅広く網羅したノートです。TOP へは上
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目次
1
2
ニュートン力学
1.1
運動の法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
1.2
慣性系とガリレイ変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
1.3
非慣性系とみかけの力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
1.4
万有引力の法則とクーロンの法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
1.5
地球の重力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
6
1.6
運動量と角運動量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
1.7
質点系の重心 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
1.8
落下運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
9
1.9
ロケットの推進 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
1.10 接触力と摩擦 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
1.11 剛体と慣性モーメント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
1.12 回転ごまの運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
1.13 力のポテンシャル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
1.14 エネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
1.15 外部ポテンシャル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
1.16 単振り子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
1.17 段差を乗り越える回転体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
1.18 惑星の運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
1
1
ニュートン力学
ニュートン力学のまとめです。ユークリッド幾何学および大学教養程度の応用数
学を既知とします。運動の法則を出発点とし、そこから順に実用的な定理を導い
ていきます。例題として、落下運動、ロケットの推進、回転ごま、単振り子、惑
星の運動等を取り上げます。
1.1
運動の法則
質量を持つ点を質点といい、これが多数あるものとし、物質の構成要素と考え
ます。質点 a の質量を ma , その質点の位置ベクトルを r a , その質点に働く力のベ
クトルを F a と書きます。時間 t による微分をドットで表すことにします。位置
ベクトルの時間微分 ṙ a をその質点の速度、時間 2 階微分 r̈ a を加速度といいます。
(1) 力の働かない全ての質点の速度が一定となる系、すなわち、
F a = 0 ⇔ r̈ a = 0
を満たす系が少なくとも 1 つ存在するものとします。このような系を慣性系とい
います。この要請を慣性の法則といいます。
(2) 慣性系において各々の質点は、
F a = ma r̈ a
に従います。これを運動方程式といいます。つまり各々の質点に関し、力は質量
と加速度の積に等しくなります。
(3) 質点は互いに力を及ぼし合い、質点 a が質点 b から受ける力を F ab と書き
ます。このとき、
F ab = −F ba // (r a − r b ).
すなわち質点が及ぼしあう力は、大きさが同じで互いに逆向き、また 2 質点を結
ぶ線分と平行になります。これを作用反作用の法則といいます (図 1)。
(4) 質点 a に働く力 F a は他の質点から与えられる力の和になります。すなわち、
X
Fa =
F ab .
b
これを合力の法則といいます。
2
図 1: 作用反作用の法則
以上を公理とし、時間、質量、力の概念とします。この公理 (仮定) を用いる物
理の理論をニュートン力学といいます。
(余談) 力や質量や時間の定義を気にする人をたまに見かけますが、公理をもってそれが定義さ
れていると考えます。公理には無定義語が含まれるのが常で、それらの用語は公理によって関連
や運用が示されることで初めて意味を持つと考えるわけです。例えば上の公理において、力を ”ハ
ニタラ”、質量を ”ガテマク” などと適当に置き換えても、別に構いません。ここでの公理以前に
は力や質量という用語には何の意味もないと考えているからです。これはヒルベルトが提唱した
ビールジョッキ思想と形式主義 (公理主義) に代表される、数理科学における大事な考え方です。か
つてマッハがニュートン力学を批判したことは有名ですが、この種の批判は形式主義に対する無
理解によるものと今日ではみなすことができます。
1.2
慣性系とガリレイ変換
ある慣性系から、変換、
r → r0 = r − V t
により等速度 V で運動する別の系に移っても、r̈ 0 = r̈ なので慣性の法則が満た
されます。すなわち新しい系も慣性系です。この変換をガリレイ変換といいます。
ニュートン力学においては慣性系は無数に存在することになります。
図 2: ガリレイ変換
地球の静止系はおおよそ慣性系とみなせますが、実際には地球は自転や公転を
しているため、これはあくまで近似と考えられます。太陽の中心の静止系はどう
かというと、これも銀河系において公転しているため、完全に正確に慣性系であ
3
るとはいえないでしょう。このように突き詰めていくと、では本当に慣性系なん
てあるのか? ということになりそうですが、それが確かに存在するということを
公理としてかかげたものが慣性の法則であるわけです。
1.3
非慣性系とみかけの力
慣性系から、
r → r0 = r − R
で新しい系に移ったとき、R が一般に時間に依存すると、r̈ = r̈ 0 + R̈ ですから、
新しい系における質点 a の運動方程式は、
F a = ma (r̈ 0 a + R̈)
∴ F a − ma R̈ = ma r̈ 0 a
となります。−ma R̈ は系が加速していることにより生じるみかけの力で、慣性力と
呼ばれます。慣性系でない系を非慣性系といいますが、非慣性系においてはみか
けの力が生じると考えることで運動方程式が成り立つ、と考えることができるわ
けです。電車が加速した時、乗っている人は後方に引っ張られるように感じるで
しょうが、これが慣性力の典型的な例です。
一方、あるデカルト座標の基底 ei (i = 1, 2, 3) が慣性系において時間的に変化
しているとき、すなわち系が回転しているときは、基底の微小変化分 dei が無限
小角度ベクトル dθ を用いて dei = dθ×ei と書けることに注意して、
dθ
dt
です。ω は回転系の角速度と呼ばれます。そうすると任意のベクトル A = Ai ei に
関して、
◦
Ȧ = Ȧi ei + Ai ėi = A + ω×A.
ėi = ω×ei ,
ω=
◦
ここで A = Ȧi ei は基底が静止していると考えた場合の時間微分で、すなわち回
転系における時間微分を意味します。これを回転系時間微分と呼びましょう。
特に位置ベクトル r について、
◦
ṙ = r + ω×r.
この式をさらに時間で微分すると、
d ◦
◦◦
◦
◦
r + ω̇×r + ω× ṙ = r + ω× r + ω̇×r + ω×(r + ω×r)
dt
◦◦
◦
= r + 2ω× r + ω×(ω×r) + ω̇×r
r̈ =
を得るので、回転系における質点 a の運動方程式は、
◦
◦◦
F a − 2ma ω× r a − ma ω×(ω×r a ) − ma ω̇×r a = ma r a
4
◦
となります。−2ma ω× r a はコリオリの力、−ma ω×(ω×r a ) は遠心力と呼ばれま
す。−ma ω̇ ×r a は角速度 ω が変動する場合に生じるみかけの力ですが、特に決
まった名称はないようです。
(余談) 大学 2 年の時だったか、この回転系時間微分という概念を思いつき、学友に見せてまわっ
たのを覚えています。遠心力やコリオリ力の導出は、特に初等的な教科書では説明が煩雑である
ことが多いです。
1.4
万有引力の法則とクーロンの法則
基本的な力の 1 つに、重力 (万有引力)、
F gab = −G ma mb
r a −r b
|r a −r b |3
があり、ここで G は万有引力定数と呼ばれ、その近似値は、
G ∼ 6.674 × 10−11 m3 /(kg s2 )
です。これを万有引力の法則といいます。
万有引力が作用反作用の法則を満たしていることに注意してください。また、万
有引力の大きさは、
G ma mb
|F gab | =
|r a −r b |2
というように、2 質点間の距離の 2 乗に反比例します。このような力は一般に逆 2
乗力 (逆自乗力) と呼ばれます。
一方、質点 a の電荷を qa としたとき、
F eab =
qa qb r a −r b
4π²0 |r a −r b |3
という力が働き、これを静電気力 (クーロン力) といいます。ここで ²0 は真空の
誘電率と呼ばれ、その近似値は、
²0 ∼ 8.854 × 10−12 s2 C2 /(kg m3 )
です。C (クーロン) は電荷の単位です。これをクーロンの法則といいます。クー
ロン力も作用反作用の法則を満たす逆 2 乗力になっています。
力は重力や静電気力以外にもありますが、多くの場合その詳細には触れず、作用
反作用の法則だけで済ませます。それでもマクロな現象を一通り扱えるのがニュー
トン力学の秀逸なところです。
(余談) 静電気力は磁力と統合され電磁力 (ローレンツ力) と呼ばれますが、磁力は相対論的な現
象であるため、これをニュートン力学で扱うことはできません。磁石に働く力など、部分的もし
くは近似的に扱うことはできるでしょうが、深く追求すると矛盾が見出されることになります。
5
1.5
地球の重力
ある点 r の近傍の微小体積要素 d3 r に含まれる質量の総和を dm としたとき、
dm = ρ(r)d3 r で与えられる ρ(r) を質量密度といいます。
地球の質量密度を ρ(r) とすると、質点 a に働く地球の重力は、
Z
X g
X
r a −r
r a −r b
3
F ab = −Gma
=
−Gm
d
r
ρ(r)
mb
a
|r a −r b |3
|r a −r|3
地球
b∈ 地球
b∈ 地球
と書けます。いま、地球の中心を原点とし、質点 a の位置を r a = (0, 0, h) としま
す。また、積分変数を 3 次元極座標を用いて r = (r sin θ cos φ, r sin θ sin φ, r cos θ)
と表すと、ヤコビアンが r2 sin θ となることに注意して (ユークリッド幾何学の章
参照)、
Z R Z π Z 2π
X g
F ab = −Gma
dr
dθ
dφ r2 sin θ ρ(r)
0
b∈ 地球
×
0
0
(−r sin θ cos φ, −r sin θ sin φ, h−r cos θ)
¡
¢3/2
r2 sin2 θ + (h−r cos θ)2
.
ここで R は地球の半径です (図 3)。
図 3: 地球の重力
球対称性から ρ(r) が r にしか依存しないものとし、これを ρ(r) と書くと、φ
積分を実行できて、
Z R
Z π
X g
sin θ (h−r cos θ)
2
F ab = −2πGma (0, 0, 1)
dr r ρ(r)
dθ 2 2
(h +r −2hr cos θ)3/2 .
0
0
b∈ 地球
6
θ 積分の部分は素朴に積分変数を h2 +r2 −2hr cos θ に置換することで実行でき、
h ≥ r のとき 2/h2 を与えます。結果、
Z
X g
ra
4πGma (0, 0, 1) R
2
dr
r
ρ(r)
=
−GM
m
F ab = −
a
h2
|r a |3
0
b∈ 地球
RR
となり、ここで M = 0 dr 4πr2 ρ(r) は地球の全質量です。このことは一般に、球
対称な物体が及ぼす重力は、その物体の質量が全て中心に集まった場合と同じで
あることを示しています。またこの性質は、今の導出からわかるように、逆 2 乗
力一般に成り立ちます。
特に地表近く (|r a | ∼ R) では、
X
F gab = ma g,
g = g e下 ,
e下 = −
b∈ 地球
ra
R,
g=
GM
∼ 9.807 m/s2
2
R
と整理され、e下 は地球の中心に向かう単位ベクトル、g は重力加速度と呼ばれま
す。これが地上において感じる地球の重力です。
(余談) 重力加速度 g や万有引力定数 G はそれぞれ実験で測定でき、地球の半径は R ∼ 6380 km.
これらと g = GM/R2 から地球の質量の近似値が M ∼ 6.0×1024 kg であるとわかります。万有引
力定数 G に相当する量を歴史上最初にきちんと測定したとされる実験に、キャヴェンディッシュ
の実験があります。
1.6
運動量と角運動量
ある質点系 S に対し、
P =
X
ma ṙ a
a∈S
を S の運動量といいます。この式を時間で微分し、運動方程式を用いると、
X
X
XX
XX
Ṗ =
ma r̈ a =
Fa =
F ab +
F ab
a∈S
a∈S
a∈S b∈S
a∈S b∈S
/
1 XX
(F ab + F ba ) と書けるので作用反作用の法則から消え、
ですが、前の項は
2
a∈S b∈S
Ṗ = F ,
F =
XX
F ab
a∈S b∈S
/
を得ます。F は外力と呼ばれます。外力は系の外部から働くマクロな意味での力
を意味しています。外力が 0 なら Ṗ = 0 ですが、これを運動量保存の法則といい
ます。
7
質点系 S がその外部から影響を受けない場合、S を孤立系といいます。S が孤
立系のとき、運動量 P は保存するというわけです。
同様に、質点系 S に対し、
J=
X
ma r a × ṙ a
a∈S
を S の角運動量といいます。時間で微分すると、
X
X
XX
XX
J̇ =
ma r a ×r̈ a =
r a ×F a =
r a ×F ab +
r a ×F ab .
a∈S
a∈S
a∈S b∈S
a∈S b∈S
/
前の項は作用反作用の法則に注意して、
1 XX
1 XX
(r a ×F ab + r b ×F ba ) =
(r a − r b )×F ab = 0
2
2
a∈S b∈S
a∈S b∈S
と評価されるので、
J̇ = N ,
N=
XX
r a ×F ab .
a∈S b∈S
/
N はトルクと呼ばれます。トルクが 0 なら J̇ = 0 となり、これを角運動量保存
の法則といいます。
1.7
質点系の重心
質点系 S の重心 r G を、
rG =
X
±
ma r a M,
a∈S
M=
X
ma
a∈S
で定義します。M は質点系の総質量を意味します。そうすると運動量の定義式
から、
X
P =
ma ṙ a = M ṙ G
a∈S
がわかります。Ṗ = F を用いると、
F = M r̈ G
を得ます。これは外力 F に対して、系の重心が運動方程式に従うことを意味して
います。一方、
r 0a = r a − r G
8
X
で各質点の重心からの相対位置を定義すると、
ma r 0a = 0 がわかりますから、
a∈S
これに注意して角運動量の式は、
X
X
J=
ma r a × ṙ a =
ma (r G + r 0a )×(ṙ G + ṙ 0a )
a∈S
= M r G × ṙ G +
X
a∈S
ma r 0a × ṙ 0a
a∈S
となります。第 1 項は重心に全ての質量が集まったと考えた場合の角運動量と等
価で、軌道角運動量と呼ばれます。第 2 項は重心を基準にした系、すなわち重心
系における角運動量で、スピン角運動量と呼ばれます。質点系の角運動量はこれ
らの和になるわけです。
地表近くで質点系 S が受ける重力は、
X X g
X
g
F =
F ab =
ma g = M g.
a∈S b∈ 地球
a∈S
これを質点系 S の重さといいます。一方、重力によるトルクは、
X X
X
Ng =
r a ×F gab =
r a ×(ma g) = M r G ×g = r G ×F g
a∈S b∈ 地球
a∈S
となります。これは重心に全ての質量が集まったと考えた場合のトルクと等価で
す。重心の概念が非常に有用であることがわかるでしょう。
1.8
落下運動
ここで、地表近くで物体を空中に放ったときに物体がどのような運動をするか
を考えてみましょう。
物体の質量 (質点系の総質量) を M , 物体の重心を r G とすると、物体が受ける
重力は F g = M g. 一方、重心の運動方程式は F g = M r̈ G でしたから、
M g = M r̈ G
∴ r̈ G = g
∴ rG =
1 2
gt + vt + a.
2
ここで v, a は積分定数ですが、v は重心の初速度、a は重心の初期位置を意味す
ることがわかります。
いま、r G = (x, y, z) とし、特に上方を z 方向とすると、g = (0, 0, −g). ここで
g は重力加速度です。また、初期位置を原点とし (a = 0)、水平方向の回転対称性
を利用して v = (vx , 0, vz ) となるように座標を選んだとすると、
x = vx t,
1
z = − gt2 + vz t
2
y = 0,
9
となります。時間 t を消去して、
z=−
g 2 vz
x + x
2vx2
vx
を得ます。これが物体の重心の軌跡を表す式で、上方に凸の放物線であることが
わかります (図 4)。
図 4: 放物線
一般には物体はクルクルとまわりながら、あるいは柔らかい場合はさらに振動
などしながら複雑に運動しますが、その重心に注目すると、それは放物線を描く
というわけです。また、物体の重心の運動は物体の質量 M に依存しないことが
わかります。
(余談) 重い物体も軽い物体も真空中 (空気抵抗を無視できる場合) では同じように落下するとい
うことを最初に明確に指摘したのはガリレオ・ガリレイといわれています。当時、アリストテレス
派の人たちは、重い物体の方が早く落下すると考え、ガリレオの主張に反論しますが、しかしガ
リレオは「では 2 物体をつないで落下させたらどうなるのか」という簡単な思考実験を提示してこ
れを論破しました。つながれた 2 物体を 1 つの物体と考えれば、質量が足され、より質量の大きな
物体とみなせることに注意。ガリレオはコペルニクスの地動説に言及し、ローマ教皇庁から異端
とみなされ軟禁刑に処されたことでも有名です。ガリレオの死から 350 年後である 1992 年、ロー
マ教皇はガリレオ裁判が誤りであったことを認め謝罪しています。地球が動いているか太陽が動
いているかは、座標系の違いというだけで、どちらとも言えないという意見もあるかもしれませ
んが、地球の静止系よりは太陽の中心の静止系の方が宇宙的規模ではずっと慣性系に近く、地動説
の方がもっともらしいと考えられるわけです。
1.9
ロケットの推進
次に、無重力空間の宇宙においてガスを後方に噴出し推進するロケットの運動
を考えてみましょう。ただし時刻 0 におけるロケットの速度を v, 質量を M0 と
し、単位時間あたりに噴出するガスの質量を α, ロケットに対するガスの噴出速度
を β とします。
10
時刻 t におけるロケットの重心位置を r(t) とすると、時刻 t におけるロケット
の運動量は、
P (t) = M (t)ṙ(t).
ここで M (t) = M0 − αt です。また、微小時間 ∆t 後の運動量は、この間に噴出
したガスの運動量も含めて、
¡
¢
P (t + ∆t) = M (t + ∆t)ṙ(t + ∆t) + α∆t ṙ(t) + β
と書けるので、運動量保存からこれらは等しく、
d
(M ṙ) + α(ṙ + β) = 0
dt
を得ます。そうすると、Ṁ = −α に注意して、
M r̈ = −αβ
∴ r̈ =
−αβ
M0 − αt
∴ ṙ = β log(M0 − αt) + C.
初速度が v であることから積分定数 C が定まり、
ṙ = v − β log
M0
M0 − αt
を得ます。これが時刻 t におけるロケットの速度です。さらに時間で積分すれば
時刻 t におけるロケットの位置が求まります。
1.10
接触力と摩擦
2 物体 A, B が互いに接触している場合、接触面を通じて互いに力 (外力) を及ぼ
します。2 物体の接触面の近傍をそれぞれ A0 , B 0 とすると、物体 A が物体 B か
ら受ける接触力は、
XX
F 接触
=
F ab
AB
a∈A0 b∈B 0
と書けます。作用反作用の法則から、
接触
F 接触
BA = −F AB
がわかります。
接触力のうち、接触面と垂直な成分を垂直抗力、水平な成分を摩擦力と呼びま
す (図 5)。特に接触面が互いに静止している場合の摩擦力を静止摩擦力、接触面を
擦りながら運動している場合の摩擦力を動摩擦力と呼びます。動摩擦力は運動の
方向と反対の方向に働きます。
11
図 5: 垂直抗力と摩擦力
垂直抗力の大きさを N , 静止摩擦力の大きさを f と書くと、
f < µN
という関係があり、µ は 2 物質の表面の性質だけで決まります。µ は静摩擦係数と
呼ばれます。また、動摩擦力の大きさ f については、
f = µ0 N
という関係があり、µ0 も 2 物質の表面の性質だけで決まります。µ0 は動摩擦係数と
呼ばれます。一般に µ0 < µ です。
例えば、図 6 のように、壁に立てかけられた細い棒について考えてみましょう。
棒は十分に丈夫で、その密度が一様であるとします。また、壁は十分に滑らかで
摩擦を生じないものと仮定します。(壁と棒との接点に軽くて小さなローラーが組
み込まれていると考えてもよいでしょう。)
図 6: 立てかけられた棒
12
棒の質量を M , 長さを L, 壁との角度を θ とし、この状態で棒が静止している
とします。棒と床との接点を原点にとり、図 6 のように垂直抗力と摩擦力を定義
すると、外力 F とトルク N が共に 0 であること (釣り合いの条件) から、
L
M g sin θ = LF cos θ
N = M g, F = f,
2
がいえます。ここで棒の密度が一様であることから、その重心が棒の中央にある
ことを用いました。
棒が滑らずに静止していられる条件は、床と棒の静摩擦係数を µ として f < µN
ですが、上式を用いて、
tan θ < 2µ
となることがわかります。
(余談) 壁が滑らかでない場合は一般に壁からの摩擦力もあり、力に関する未知数は全部で 4 つ
となり、釣り合いの条件を用いてもこれらを決定できなくなります。これは床と壁の間に棒がどれ
くらい食い込んでいるかということに関連した不定性です。私は大学生の頃この不定性になかな
か気がつかず三日ほど悩んだことがあります。
1.11
剛体と慣性モーメント
合同変換 (並進と回転変換) において同一視される物体は合同と呼ばれますが、
時間的に合同であり続ける物体、すなわち変形しない物体は、剛体と呼ばれます。
剛体の重心もしくは固定点を原点に選び、原点のまわりの剛体の角速度を ω と
すると、剛体の各素片 α の速度は ṙ α = ω ×r α と表されます。よって素片 α の
質量を mα とし、そのスピン角運動量を無視できるものとすると、剛体の角運動
量は、
X
X
J=
mα r α ×(ω×r α ) =
mα (|r α |2 ω − r α r α ·ω).
α∈ 剛体
α∈ 剛体
あるいはテンソルを用いて、
J = I ·ω,
I=
X
¡
¢
mα |r α |2 δ − r α r α
α∈ 剛体
と書けます。I は剛体の慣性モーメントと呼ばれます。
慣性モーメントは、剛体に固定された系で考え、剛体の質量密度を ρ(r) とす
れば、
Z
¡
¢
I=
d3 r ρ(r) |r|2 δ − r r
剛体


y 2 + z 2 −xy
−zx
=
d3 r ρ(r)  −xy z 2 + x2 −yz  ,
剛体
−zx
−yz x2 + y 2
Z
13
r = (x, y, z)
となります。これは対称行列ですから回転変換 (直交行列) で対角化することがで
き、対角化されたときの座標系を剛体の主軸系といいます。
図 7: 円柱の慣性モーメント
例として、質量密度が一定値 ρ, 半径 R, 高さ L の円柱の慣性モーメントを求
めてみましょう。重心を原点とし、図 7 のように円柱に固定されたデカルト座標
(x, y, z) を選びます。円柱座標 r, θ, s を、r = (x, y, z) = (r cos θ, r sin θ, s) で定義
すると、ヤコビアンが、
·
¸
¡
¢
∂r ∂r ∂r
= (cos θ, sin θ, 0) × (−r sin θ, r cos θ, 0) ·(0, 0, 1) = r
∂r, ∂θ, ∂s
となることに注意して、
Z
Z
3
2
2
Izz =
d r ρ (x + y ) =
円柱
=
2π
dr
0
Z
M R2
2.
Z
R
0
Z
L/2
ρπR4 L
dθ
ds r ρ r =
2
−L/2
2
d3 r ρ = ρπR2 L は円柱の質量.
ここで M =
円柱
同様に、
Z
Z
3
Ixx =
2
2
d r ρ (y + z ) =
4
2
3
Z
2π
dr
0
円柱
=
Z
R
0
2
L/2
dθ
ds r ρ (r2 sin2 θ + s2 )
−L/2
2
ρπR L ρπR L
M (3R + L )
+
=
4
12
12.
また、Iyy = Ixx , Ixy = Iyz = Izx = 0 がわかるでしょう。すなわち (x, y, z) はこの
円柱の主軸系です。
剛体に固定された系は、通常、回転系であり、このため一般に慣性モーメント I
は、その成分は時間に依存しませんが、テンソル自体は時間に依存することにな
ります。すなわち I = Iij ei ej において、Iij は時間に依存しませんが、基底であ
る ei が時間に依存し、このため I は時間に依存すると考えられるわけです。
14
特に回転の方向が一方向に限られている場合は問題が簡単になります。ある慣
性系の基底を eX , eY , eZ とし、剛体が Z 方向に回転している場合、角速度は
ω = ωeZ . 一方、剛体に固定された基底を ex , ey , ez とすると、剛体は Z 方向に
しか回転しないので ez = eZ とできます。このとき角運動量の Z 成分は、
JZ = eZ ·(I ·ω) = eZ ·(I ·eZ )ω = ez ·(I ·ez )ω = Izz ω
のように、Izz だけで表されるわけです。
(余談) 一般に質点系について N = J̇ であったので、N =
呼ばれ、剛体の回転運動を決定する方程式になります。
1.12
d
(I ·ω). これはオイラー方程式と
dt
回転ごまの運動
ここで剛体の回転運動の例題として、比較的難しいと考えられる回転ごまの運
動に触れておきましょう。
図 8: オイラー角
地上の静止系のデカルト座標を (X, Y, Z), こまの軸の方向を z 軸、これに合わ
せて回転座標 (x, y, z) をとります。ただし y 軸は常に X-Y 平面内にあるとします。
図 8 のように角 θ, φ を定義し、z 軸まわりのこまの自転角を ϕ とします。これら
3 つの角度は一般に剛体の姿勢を完全に記述し、オイラー角と呼ばれます。
こまの角速度は、
ω = ϕ̇ ez + θ̇ ey + φ̇ eZ
15
ということになりますが、こまの自転角速度の大きさ ϕ̇ が θ̇ や φ̇ に比べ十分大
きいとし、
ω = ϕ̇ ez
と近似します。こまの慣性モーメントは (x, y, z) 系で対角化されているはずで、
I = Ixx ex ex + Iyy ey ey + Izz ez ez . よって角運動量は、
J = I · ω = Izz ϕ̇ ez
と書けます。時間で微分すると J̇ = Izz (ϕ̈ ez + ϕ̇ ėz ) ですが、ここで、
e˙z = θ̇ ey ×ez + φ̇ eZ ×ez = θ̇ ex + φ̇ sin θ ey
に注意して、
³
´
J̇ = Izz ϕ̇θ̇ ex + ϕ̇φ̇ sin θ ey + ϕ̈ ez
となります。一方、こまに対するトルクは、こまの全質量を M とし、床との接点
(原点) からこまの重心までの距離を l, 重力加速度を g とすると、
N = lez ×(−M g eZ ) = M gl sin θ ey
ですから、N = J̇ より、
θ̇ = ϕ̈ = 0,
φ̇ =
M gl
(一定)
Izz ϕ̇
を得ます。すなわち自転するこまの自転軸先端は円を描いて動くわけで、これを
歳差運動 (首振り運動、すりこぎ運動) といいます。歳差運動の角速度 φ̇ は、自転
角速度 ϕ̇ に反比例することがわかりますが、このことは回転ごまで遊んだことが
ある人なら皆経験していることでしょう。勢いよく回っているこまほどゆっくり
と歳差運動するわけです。
1.13
力のポテンシャル
質点 a の位置ベクトル r a = (x1a , x2a , x3a ) に関するナブラを ∇a と書きます。す
なわち、
∂
(∇a )i = i
∂xa .
一般に、質点 a が質点 b から受ける力が、
F ab = −∇a Uab
と書けるとき、Uab をこの力のポテンシャルといいます。
16
例えば、万有引力のポテンシャルは、
g
Uab
=−
Gma mb
|r a −r b |
g
と書けます。実際このとき、F gab = −∇a Uab
= Gma mb ∇a
µ
1
∇a
|r a −r b |
¶
1
ですが、
|r a −r b |
¢
∂ ¡
2 −1/2
|r
−r
|
a
b
∂xia
¢−3/2 ∂
1¡
(xja −xjb )(xja −xjb )
= − |r a −r b |2
i
2
∂xa
¶
µ
1
r
−r
a
b
=−
2(xja −xjb )δij = −
3
2 |r a −r b |
|r a −r b |3 i
=
i
に注意して、万有引力の法則が導かれます。同様にしてクーロン力のポテンシャ
ルは、
qa qb
e
Uab
=
4π²0 |r a −r b |
と書かれます。
多くの力はポテンシャルにより記述でき、力はポテンシャルの現れと考えるこ
とができます。一般に力のポテンシャル Uab が a, b について対称で、特に 2 質点
の距離 |r a −r b | だけの関数で与えられるとき、その力は作用反作用の法則を自動
的に満たすことに注意してください。
1.14
エネルギー
質点系 S の運動エネルギー K, およびポテンシャルエネルギー U を、
X ma
1 XX
K=
|ṙ a |2 , U =
Uab
2
2
a∈S
a∈S b∈S
で定義します。それぞれの時間的変化分を考えると、
X
X
X
dK =
ma ṙ a ·dṙ a =
ma dr a ·r̈ a =
F a ·dr a ,
a∈S
a∈S
a∈S
´
XX
1 X X³
F ab ·dr a
dU =
∇a Uab ·dr a + ∇b Uab ·dr b = −
2
a∈S b∈S
a∈S b∈S
となるので、
dE = dW,
E = K + U,
dW =
XX
a∈S b∈S
/
17
F ab ·dr a
R
を得ます。E を系 S のエネルギーといいます。 dW を系 S がされた仕事といい
ます。dW/dt を仕事率 (power) といいます。系の外部と相互作用がなく dW = 0
のときは、dE = 0 がわかり、これをエネルギー保存の法則といいます。
重心からの相対位置 r 0a = r a − r G を用いると、系 S の運動エネルギーは、
K=
X ma
a∈S
2
|ṙ a |2 =
X ma
M
|ṙ G |2 +
|ṙ 0 a |2
2
2
a∈S
となります。すなわち質点系の運動エネルギーは、重心に全ての質量が集まった
と考えた場合の重心の運動エネルギーと、重心系における運動エネルギーの和に
なります。
特に剛体の場合、剛体の重心系における運動エネルギー (上式第 2 項) は、
X mα
X X ma
|ṙ α |2 +
|ṙ a − ṙ α |2
2
2
a∈α
α∈ 剛体
α∈ 剛体
のように、各素片の重心の運動エネルギーと、各素片の重心系における運動エネ
ルギーの和になるでしょう。後者を KI と書きましょう。前者は、
´
X mα
X mα
X mα ³
2
2
2
2
2
|ṙ α | =
|ω×r α | =
|r α | |ω| − |r α ·ω|
2
2
2
α∈ 剛体
α∈ 剛体
=
α∈ 剛体
1
ω·(I ·ω)
2
と、慣性モーメントと角速度を使って表せます。よって剛体の運動エネルギーは、
K=
1
M
|ṙ G |2 + ω·(I ·ω) + KI
2
2
と表すことができます。
KI は熱や振動による微視的な運動エネルギーを意味します。ポテンシャルエネ
ルギーにも微視的な部分があり、これを UI と書き、微視的ポテンシャルと呼び
ましょう。
EM = E − KI − UI
を力学的エネルギーといいます。力学的エネルギーは巨視的に想定されるエネル
ギーですが、摩擦や衝突など、熱や振動への変換がある場合は保存しません。力
学的エネルギーが保存しない系は一般に散逸系と呼ばれます。
あるエネルギーが微視的エネルギーかそうでないかは、問題の取り扱い方に依
存します。微視的と巨視的の境界を決めているのは、結局のところ、問題を考え
ている “人間” であることに注意してください。このことは系の内部と外部の境界
についてもいえます。質点系のニュートン力学がやや複雑に見えるのは、実用の
際にこの境界の設定を行う必要性があるからです。
18
(余談) 万有引力やクーロン力においては
Uaa は発散します。よってポテンシャルエネルギー
P
U = (1/2) a,b Uab は実は発散するわけですが、ポテンシャルエネルギーはその微分にしか意味が
なく、通常、その絶対値は問題になりません。Uaa /2 は質点 a の自己エネルギーと呼ばれます。ポ
テンシャルエネルギーから自己エネルギーの寄与を除き、
U (r) =
X
1X
1X
Uab −
Uaa =
Uab
2 a,b
2 a
a<b
でポテンシャルエネルギーを定義する教科書も多いでしょう。これはいわば “くりこまれたポテン
シャルエネルギー” などと呼ぶべきものです。相対論や量子論ではこのようなくりこみの処理 (無
限大の相殺) が非常にトリッキーになり、また重要になってきます。
1.15
外部ポテンシャル
質点系 S の外部が定常的 (静止している) とみなせるとき、
XX
0
U =
Uab
a∈S b∈S
/
で S の外部ポテンシャルを定義します。このとき、
XX
XX
dU 0 =
∇a Uab ·dr a = −
F ab ·dr a = −dW
a∈S b∈S
/
a∈S b∈S
/
なので、dE = dW は、
dE 0 = 0,
E0 = E + U 0
を与えます。E 0 を外部ポテンシャルを含むエネルギーといいます。dE 0 = 0 はや
はりエネルギー保存の法則と呼ばれます。
外部からの仕事の効果をエネルギー E に上乗せすることで、上乗せされたエネ
ルギー E 0 は保存するというわけです。外部ポテンシャルによる力は保存力と呼ば
れます。
例えば地表近くで、系の外部から働く力が地球の重力だけと考えられる場合、
X X g
X
0
dU = −
F ab ·dr a = −
ma g·dr a = −d(M g·r G )
a∈S b∈ 地球
a∈S
よって、
U 0 = −M g·r G
です。この式には定数を加える不定性がありますが、簡単のためその定数を 0 に選
びました。外部ポテンシャルにはこのように定数を加える不定性が常にあります。
特に上方を z 方向とし、r G = (x, y, z), g = (0, 0, −g) としたときは、U 0 = M gz
です。これは高校物理でもお馴染みの式でしょう。
19
1.16
単振り子
エネルギー保存の法則を用いる簡単な例題として、単振り子を紹介します。
図 9 のように、長さ l の軽くて丈夫な棒に質量 m のおもりが繋がれた振り子を
考えます。おもりの大きさは l に比べて十分小さいとし、よってスピンによる運
動エネルギーは無視できるものとします。また、振り子の支点 O は摩擦なく自由
に回転できるとします。
図 9: 単振り子
おもりの位置は、x = l sin θ, y = −l cos θ と表されるので、外部ポテンシャルを
含む系のエネルギーは、重力加速度を g として、
m 2
ml2 2
2
E = (ẋ + ẏ ) + mgy =
θ̇ − mgl cos θ
2
2
となり、これは保存量です。最大の振れ角 (振幅) を Θ とおけば、
E = −mgl cos Θ
ですから、これらより、
2g
(cos θ − cos Θ)
l
を得ます。この微分方程式は変数分離形であり、t = 0 ⇔ θ = Θ および θ̇ ≤ 0 の
仮定のもとで、
Z Θ
p
1
dφ
√
t = l/g I(θ, Θ), I(θ, Θ) = √
cos φ − cos Θ
2 θ
θ̇2 =
と解けます。一方、振動の周期 T は、θ = 0 を与える時刻の 4 倍のはずですから、
T =4
p
2T0
I(0, Θ),
l/g I(0, Θ) =
π
20
T0 = 2π
p
l/g
図 10: 単振り子の周期
となります。グラフを図 10 に示します。
振幅が十分小さく Θ ¿ 1 のときは、cos x = 1−x2 /2+· · · に注意して、I(θ, Θ) ∼
arccos(θ/Θ) が確かめられるので、解と周期はそれぞれ、
p
θ ∼ Θ cos( g/l t), T ∼ T0
と近似されます。このように力学変数が時間変数の三角関数として与えられる運
動は、一般に単振動と呼ばれます。
振幅が一定のもとで周期が一定なので、単振り子は時計として機能します。ま
た単振り子の実験により重力加速度 g を精度よく決定することができます。
(余談) 定積分 I(θ, Θ) は積分の境界 (φ = Θ) に特異性を持つ、いわゆる広義積分ですが、cos φ =
1 − 2 sin2 (φ/2) に注意し、x = sin(φ/2)/ sin(Θ/2) で積分変数を x に変換すると、
Z 1
dx
p
I(θ, Θ) =
√
2
1 − x 1 − sin2 (Θ/2) x2 .
sin(θ/2)/ sin(Θ/2)
さらに x = cos ψ で積分変数を ψ に変換すると、
Z
arccos(sin(θ/2)/ sin(Θ/2))
dψ
p
I(θ, Θ) =
1 − sin2 (Θ/2) cos2 ψ
0
となり、特異性を回避できます。特に、
Z
π/2
dψ
p
I(0, Θ) =
0
2
1 − sin (Θ/2) cos2 ψ.
これは楕円積分と呼ばれる特殊関数の 1 つです。数値積分の際にはこちらの表示の方が境界の処理
をしなくて済むので便利です。
21
1.17
段差を乗り越える回転体
次にエネルギー保存則と角運動量保存則の両方を用いる例題として、段差を乗
り越える回転体の問題を紹介します。
質量 M , 半径 R, 回転軸の周りの慣性モーメント kM R2 の回転体が、スリップ
せず、またころがり摩擦なく水平な平面上を転がり、図 11 のような高さ h (< R)
の段差を乗り越える運動を考えます。ただし点 O との衝突時、回転体は O から離
れず、スムーズに段差を乗り越えるものとします。回転体の中心の初速度を v0 と
したとき、段差を乗り越えた後の中心の速度 v を求めてみましょう。重力加速度
を g とします。
図 11: 段差を乗り越える回転体
O との衝突時、力学的エネルギーは一般に保存しませんが、O のまわりの角運
動量は保存します。衝突時に回転体に作用する撃力 (ごく短時間に作用する大きな
力) は、力の作用点が O にあるため、そのトルクは 0 だからです。衝突直後の回
転体の中心の速度を図 11 のように v 0 とすると、O のまわりの角運動量保存則は、
0
v0
0
2 v
M (R − h)v0 + kM R
= M Rv + kM R
R
R
2
と書けます。v0 /R や v 0 /R は、それぞれ衝突前後の回転体の自転角速度を意味し
ていることに注意。これを v 0 について解いて、
¶
µ
h
0
v0 .
v = 1−
(1+k)R
一方、衝突後は、重力による外部ポテンシャルを含めた力学的エネルギーが保
存するはずなので、段差を乗り越えた後の回転体の中心速度を v として、
µ 0 ¶2
³ ´2
1
1
1
1
02
2 v
2
2 v
M v + kM R
+ M gR
+ M g(R − h) = M v + kM R
2
2
R
2
2
R
22
µ
です。これを v について解くと v =
õ
v=
1−
2gh
v 02 −
1+k
h
(1+k)R
¶1/2
¶2
v02 −
ですが、v 0 の式を代入して、
2gh
1+k
!1/2
を得ます。これが求めたかった式です。
1.18
惑星の運動
もう一つ重要な例題として、太陽系における惑星の運動を考えてみましょう。
太陽の質量を M とし、ある惑星の質量を m とします。M À m を仮定すると、
近似的に太陽の中心の静止系の 1 つを慣性系とみなすことができます。そこで太
陽の中心を原点とし、考えている惑星の中心の位置ベクトルを r とします。(惑星
の半径) ¿ |r| の場合、惑星の重心 r は、惑星の全ての質量が r にあると考えた
場合の運動方程式に従うので、惑星をそのような 1 つの質点と仮想した場合の力
学的エネルギー、
m
C
E = |ṙ|2 −
C = GM m
2
|r|,
が保存するはずです。また、同じ仮想のもとでの角運動量、すなわち惑星の軌道
角運動量、
J = mr× ṙ
も保存するはずです。角運動量の全体は保存するため、惑星のスピン角運動量も
保存し、すなわち惑星の自転の角速度が一定であることがわかります。
惑星の軌道角運動量 J が一定であることから、惑星の軌道は太陽を含むある面
内に限られ、この面を θ = π/2 とするように 3 次元極座標 (r, θ, φ) を張ります。
このとき、
r = rer ,
ṙ = ṙer + rėr = ṙer + rφ̇eφ
に注意して、エネルギーと軌道角運動量の大きさは、それぞれ、
E=
m 2
C
(ṙ + r2 φ̇2 ) −
2
r,
J = |J | = mr2 φ̇
と書けます。J の式から、
φ̇ =
J
mr2 ,
ṙ = φ̇
dr
J dr
=
dφ mr2 dφ
ですから、E の式にこれらを代入して整理すれば、
µ ¶2
2mE 4 2mC 3
dr
=
r + 2 r − r2
2
dφ
J
J
23
あるいは、r = 1/u で変数を置換して、
µ ¶2
du
2mE 2mC
=
+ 2 u − u2
2
dφ
J
J
となります。この微分方程式は変数分離形ですから解くことができ、結果、
µ
¶1/2
1
l
J2
2EJ 2
r= =
ここで l =
²= 1+
.
u 1−² sin(φ+α),
mC,
mC 2
これが惑星の軌道の式です。α は積分定数です。
• E > 0 のとき ² > 1. このとき軌道は双曲線
• E = 0 のとき ² = 1. このとき軌道は放物線
• E < 0 のとき ² < 1. このとき軌道は楕円
となることに注意 (図 12)。l は軌道の半直弦、² は離心率と呼ばれます。図の点線
の 1 目盛りは半直弦の長さを意味します。
図 12: 惑星の軌道
E < 0 の場合の惑星の公転周期は、J = mr2 φ̇ に注意して、
Z T
Z
Z
m 2π
ml2 2π
dφ
2
T =
dt =
dφ r =
J 0
J 0 (1 − ² sin φ)2
0
24
ですが、この積分は、例えば留数定理により実行できます (関数論と応用数学の章
を参照)。結果、
ml2
2π
2π
√
T =
=
J (1 − ²2 )3/2
GM
µ
l
1 − ²2
¶3/2
となります。l/(1 − ²2 ) は楕円の長半径を意味することに注意。
太陽系における各惑星の軌道や周期は、ティコ・ブラーエとケプラーにより詳
しく観測され、次のような性質が指摘されていました。
(1) 惑星は太陽を 1 つの焦点とする楕円軌道を描く。
(2) 各惑星ごとに面積速度 (r2 φ̇/2) が一定である。
(3) 惑星の公転周期の 2 乗はその軌道の長半径の 3 乗に比例する。
これをケプラーの法則といいます。これら観測結果を運動の法則および万有引力
の法則で説明できることを示したのはニュートンで、ニュートン力学は地上のみ
ならず、太陽系という大きなスケールにおいてもよく成り立っていることがわかっ
たわけです。
(余談) 「リンゴは木から落ちるのに、月はなぜ地球に落ちてこないのか? 月も落ちているので
はないか? しかし地球の丸みに沿って落ちているため空中に永遠にとどまっているのだ。そのよ
うな引力とはどのようなものか?」というような推察を経て、ニュートンは万有引力の法則を発
見したといわれています。ちなみにニュートンがハレーに勧められるまでこの発見の公表をため
らったのは、星の大きさの効果についてよくわからなかったためといわれています。つまりこの節
の最初の部分で説明した、星を質点と仮想してよいとする理屈が、当時よくわかっていなかった
わけです。ニュートンは 1687 年「自然哲学の数学的諸原理」(通称「プリンキピア」) を書き上げ、
ニュートン力学の公理的体系を世に知らしめました。現在でも宇宙探査機の軌道計算はニュート
ン力学で行われ、それで十分な精度が得られます。
25
索引
あ
さ
運動エネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .17
運動の法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
運動方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
運動量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
運動量保存の法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
エネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
エネルギー保存の法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
遠心力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
円柱座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
オイラー角 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
オイラー方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .15
重さ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
歳差運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
作用反作用の法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
散逸系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
時間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
自己エネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .19
仕事 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
仕事率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
質点 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
質量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
質量密度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
重心 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
重心系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
重力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
重力加速度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
主軸系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
真空の誘電率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
垂直抗力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
スピン角運動量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
すりこぎ運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
静止摩擦力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
静電気力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
静摩擦係数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
接触力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
速度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
か
回転系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
回転系時間微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
回転ごま . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
外部ポテンシャル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
外力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
角運動量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
角運動量保存の法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
角速度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
加速度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
ガリレイ変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
慣性系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
慣性の法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
慣性モーメント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .13
慣性力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
軌道角運動量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
逆 2 乗力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .5
逆自乗力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
キャヴェンディッシュの実験 . . . . . . . . . . . . . . . 7
クーロン . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
クーロンの法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
クーロン力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
首振り運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
形式主義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
撃力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
ケプラーの法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .25
剛体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
公理主義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
合力の法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
コリオリの力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
孤立系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
た
楕円積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
単振動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
単振り子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
力 ......................................... 2
地球の重力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
釣り合いの条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .13
電荷 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
動摩擦係数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
動摩擦力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
トルク . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
な
ニュートン力学 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
は
半直弦 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
万有引力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
万有引力定数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
万有引力の法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
26
ビールジョッキ思想 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
非慣性系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
プリンキピア . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
保存力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
ポテンシャル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
ポテンシャルエネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
ま
摩擦力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
みかけの力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
ら
落下運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
力学的エネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
離心率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
わ
惑星の運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
27