例題11

例題 11
情報工学科 篠埜 功
2015 年 6 月 29 日
例題 区間 [−π, π] 上の f (x) = x のフーリエ級数に対するパーセバルの等式を使っ
て以下の級数の値を手順 (1)-(5) に従って求めよ。
∞
∑
1
k=1
k2
(1) 以下の直交関数系の線形結合のうち、関数 f (x) に最も近いものを求めよ。近
さの尺度としては、講義で説明した、y 座標の差の 2 乗を区間 [−π, π] におい
て積分したもの (の半分) を用いよ。
1
{ , cos x, sin x, cos 2x, sin 2x, . . . , cos nx, sin nx}
2
(2) 関数 f (x) の区間 [−π, π] におけるフーリエ級数を示せ。
(上記 (1) で求めた線
形結合の n を大きくしたときの極限が関数 f (x) の区間 [−π, π] におけるフー
リエ級数である。)
(3) (2) で得られた級数を正規化せよ。
(4) (3) で得られた級数に対するパーセバルの等式を書け。
(5) 級数
∞
∑
1
k=1
k2
の値を求めよ。
補足 内積空間 L および L 内のベクトル u について、L の正規直交基底 {ei |i ≥ 1}
の線形結合
n
∑
ck ek
k=1
のうち、u との差のノルムの 2 乗 J が最も小さいベクトルが n が大きくなるに従っ
て u に収束するとき( lim J = 0 のとき)、以下の等式(パーセバルの等式)が成
n→∞
り立つ。
kuk =
2
∞
∑
k=1
1
c2k
解答例
(1) 仮に、以下の等式が成り立つと仮定する。
n
∑
1
(ak cos kx + bk sin kx)
f (x) = a0 +
2
k=1
(1)
(この等式を満たす a0 , . . ., an , b1 , . . ., bn は存在しないが、仮にこの等式が成り立
つ場合を考える。)等式 (1) の両辺を区間 [−π, π] で積分すると、
∫
∫
π
−π
f (x)dx =
π
1
a0 dx
2
−π
= a0 π
となり、
a0
1∫π
=
f (x)dx
π −π
1∫π
=
xdx
π −π
= 0
となる。
等式 (1) の両辺に cos kx をかけて区間 [−π, π] で積分すると、
∫
∫
π
−π
となり、
ak
f (x) cos kxdx = ak
π
−π
= ak π
cos2 kxdx
1∫π
f (x) cos kxdx
=
π −π
∫ π
1
=
x cos kxdx
π −π
= 0 (x cos kx は奇関数なので)
となる。
等式 (1) の両辺に sin kx をかけて区間 [−π, π] で積分すると、
∫
∫
π
−π
f (x) sin kxdx = bk
π
−π
sin2 kxdx
= bk π
となり、
1∫π
f (x) sin kxdx
π −π
∫
1 π
=
x sin kxdx
π −π
bk =
2
∫π
となる。ここで、
∫
−π
x sin kxdx を別に計算すると、
[
π
−π
x sin kxdx =
=
=
=
=
=
]π
∫ π
− cos kx
− cos kx
x
−
dx
k
k
−π
−π
∫ π
− cos kx
1
− [x cos kx]π−π
(
dx は 0 なので)
k
k
−π
1
− (π cos πk − (−π) cos(−πk))
k
1
− (π cos πk + π cos πk)
k
2π
− cos πk
k
2π
− (−1)k
k
となる。よって、bk の計算の続きをすると、
bk
1∫π
=
x sin kxdx
π −π
2π
1
· − (−1)k
=
π
k
2
= − (−1)k
k
となる。
以上をまとめると、f (x) に最も近い線形結合は
n
∑
2
− (−1)k sin kx
k
k=1
である。
(2) f (x) = x のフーリエ級数展開は、(1) で得られた線形結合の n を大きくしたと
きの極限であり、
∞
∑
2
− (−1)k sin kx
k
k=1
である。
(3) sin kx のノルムを計算すると
k sin kxk =
√
(sin kx, sin kx)
√∫
=
=
√
3
π
π
π
sin2 kxdx
となり、(2) で求めた f (x) = x のフーリエ級数は以下のように正規化される。
∞
∑
√ sin kx
2
2
− (−1)k sin kx =
− (−1)k π · √
k
k
π
k=1
k=1
∞
∑
(4) パーセバルの等式より、以下の等式を得る。
kf k =
2
∞
∑
(
)2
√
2
− (−1)k π
k
k=1
(2)
等式 (2) の左辺を計算すると
kf k2 = (f, f )
∫
=
∫
=
π
−π
π
f (x)2 dx
x2 dx
−π
]
3 π
[
=
x
3
(
=
=
−π
3
)
π
π3
− (− )
3
3
2 3
π
3
となる。等式 (2) の右辺を計算すると
RHS =
=
=
=
=
=
∞
∑
k=1
∞
∑
(
√
2
− (−1)k π
k
)2
4π
((−1)k )2
2
k
k=1
∞
∑
4π
k=1
∞
∑
k2
(−1)2k
4π
((−1)2 )k
2
k
k=1
∞
∑
4π
k=1
∞
∑
k2
1k
4π
2
k=1 k
= 4π
∞
∑
1
k=1
k2
となる。従って、f (x) = x のフーリエ級数に対するパーセバルの等式は以下のよ
うになる。
∞
∑
1
2 3
π = 4π
2
3
k=1 k
4
(5) 級数
∞
∑
1
k=1
k2
の値は以下のように得られる。
∞
∑
1
k=1
k2
=
1 2 3 1 2
· π = π
4π 3
6
1
補足 得られた値 π 2 はゼータ関数 ζ(n) の n = 2 の時の値である。ゼータ関数は
6
以下の関数である。
∞
∑
1
ζ(n) =
n
k=1 k
つまり、ζ(2) =
∞
∑
1
k=1
k2
1
= π 2 である。
6
5