◆ 新泉地紀行 その八十三 広島県比婆山温泉(1) 湯老人・佐藤哲治 米国サブプライムローン問題に端を発した世界金融危機は一向におさまることなく、いまや米国ビッグスリーは破 綻に瀕し、政府の援助引出しに必死の状況である。 筆者のなけなしの蓄えも世界同時株安の直撃を受けて惨憺たる有様に陥り、愚妻から日夜うるさく小言をくら う始末で気の休まる時がない。パソコンで株価ボードとにらめっこしていても事態が好転するわけはなく、くさく さする気持を振り払うため 3 泊 4 日の旅に出た。 今回は旅の主眼を中国地方のローカル線一部乗車に置き、当然ながら温泉を 3 ヶ所稼ぐこととした。 (2008 年 12 月時点) 皆様は備後落合(びんごおちあい)という駅をご存知で しょうか。 中国山地を横断する芸備(げいび)線(備中神代(びっち ゅうこうじろ)/広島 159.1KM.)の山間駅で、広島県とは いうものの岡山県、鳥取県、島根県に近い高地 (海抜 600M.ほどか)に位置する。 かなり昔、松本清張が備後落合について書いた文章を読 んだ記憶がある。 もはや記憶は曖昧であるが多分次のような内容であった と思う。「まだ子供の清張は所用あって生まれ故郷・小倉 から山陰の親類を訪ね旅に出る。終戦間もない混乱期で 食料不足の時代、鉄道ダイヤは乱れており、米持参の不自 由な旅であった。清張少年は備後落合の宿で一泊するこ とになる。持参の米を炊いてもらって夕食をすませ、大 きな部屋の中央に置かれたこたつに泊り客全員が足を突 っ込み円形になって就寝した。翌朝一面の銀世界の中、 一夜を共にした泊り客達は皆無言で思い思いの方向に散 って行くのであった。」 発車を待つ備後落合行ディーゼル・ワンマンカー、 三次駅にて たったこれだけの短いものだが、さすが清張、ゆるみな い簡潔な語り口で情感あふれる描写がすばらしい。 清張の貧しかった生い立ちからくる暗さを筆者はどうし ても好きになれないのだが(例えば「鬼畜」)、やはり彼 の才能は凄い。この文章を読み、当時国鉄全線乗車に夢 中だった筆者はまだ見ぬ備後落合駅へ行くことを渇望し たものである。 備後落合駅から木次(きすき)線(宍道(しんじ)/備後 落合 81.9KM.)が分岐、出雲地方へ下ることができる。 この路線には雄大なスイッチバックがあり、鉄キチに評判のロー カル線である。 夕暮れ迫る備後落合駅 清張は木次線を舞台に二つ(と思う)の作品を発表している。 一つは有名な「砂の器」で亀嵩(かめだけ)駅が出てくる。 禁無断転載 …掲載内容に関するお問合せは、弊社営業担当又は "[email protected]" までどうぞ。… MLG CARGO WEEKLY DIGEST 商船三井ロジスティクス株式会社 1 山間駅は早夕闇の中 もう一つ、作品名を忘れたが木次駅からほど近い出 雲湯村温泉に触れた短編である。 国民宿舎と旅館 1 軒に共同湯だけの忘れられたような 静かな湯場・出雲湯村に筆者が宿泊した時、台風に直撃 され、一晩中まんじりともしなかったことが懐かしい。 本来、こういう所を秘湯と言うべきであろう。 「砂の器」といえば、松竹・野村芳太郎監督の映画が大ヒ ットした。 清張作品の映画化ではやはり野村監督が第一人者と思 われる。筆者が見た清張作品の映画では「張り込み」が ベストワン、次点が「砂の器」で、いずれも野村監督の作 品である。 「砂の器」は大作かつ力作なれど、丹波哲郎扮する刑事 が立派過ぎて現実感がなくどうもしっくりこない。 ハンセン病の父とその子供が生まれ故郷を追われ、美しい四季の風景の中を流浪するシーンには思わず息を呑むのだ が。第三位は「ゼロの焦点」(野村監督)・「鬼畜」(野村監督)・「黒い画集 あるサラリーマンの証言」(東宝・堀川弘道監督) など甲乙つけ難い。 北九州市の小倉城内に市立「松本清張記念館」がある。 よく工夫された展示が目を引く内容豊富な記念館で、第 56 回菊池寛賞を受賞している。北九州に来られる機 会のある方で清張にご興味のある方は、この記念館で半日つぶしても損はないと思います。 清張だか鉄道だか訳の分らぬ内容で恐縮、次回は温泉について語ります。 *続く* ■ ■ ■ ■ MLG CARGO WEEKLY DIGEST VOL. 327 MLG CARGO WEEKLY DIGEST のバックナンバーは URL: http://www.mol-logistics.co.jp でご覧になれます。 ・ 記事に関するお問い合わせは、弊社営業担当 または [email protected] までどうぞ。 ・ 恐れ入りますが、発行者の許可無く転載されることはご遠慮願います。 禁無断転載 …掲載内容に関するお問合せは、弊社営業担当又は "[email protected]" までどうぞ。… MLG CARGO WEEKLY DIGEST 商船三井ロジスティクス株式会社 2
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