遊園地の乗物を活用した9年間の青空科学教室

科教研報 Vol.24 No.1
遊園地の乗り物を活用した9年目の青空科学教室(Ⅱ)
Ninth Physics Experience Class for Kids in Amusement Park(Ⅱ)
○木幡大河,木村真人,佐藤真里,菅原布美,八木一正
KOHATA Taiga, KIMURA Masato,SATO Mari, SUGAWARA Humi, YAGI Ichimasa
岩手大学教育学部
Faculty of Education, Iwate University
子供達の理科嫌い・理科離れを防止するために、毎年夏休みに岩手県内の小中学生を地元遊園地に集め
て、青空科学教室を開催している。今年で9年目になるが、学習指導要領の改訂により、実感を伴った体
験を重視するようになった背景から、体験的に科学に興味・関心を持ち科学的に考える力を育成し、一人
でも多くの理科好きを育てることを目標として、理科教育の新たな試みを行った。さらに、学習の情意的
側面であるチャレンジ精神の育成、メタ認知能力の向上も目指した。
【キ−ワード】 科学体験、遊園地、理科嫌い、ゆめ基金
1. 目 的
近年 OECD の国際的な生徒の学習到達度調査
(PISA)の結果が発表され中高生の「理科離
れ・学力低下」が改めて世間の関心を呼んでい
る。その中で当研究室では子供達の理科嫌い・
理科離れを防止するために毎年この様なイベ
ントを開催している。学習指導要領の改訂によ
り、実感を伴った体験を重視するようになった
背景から、体験的に科学に興味・関心を持ち科
学的に考える力を育成し、一人でも多くの理科
好きを育てることを目標とし、チャレンジ精神
の育成、メタ認知能力の向上も目指す。
・当日の流れ
① イベント主催者代表によるジェットコー
スターの運動の説明(どの向きにどんな力
がはたらき、そのときに体がどう感じるか
など)。
② 説明のあと、自分の体験したいアトラクシ
ョンへ移動する。移動させる前に、イベン
トで使用するテキストを参加者に配布す
る。また学生スタッフを各アトラクション
に配置する。
③ テキストを用いて、スタッフによる体験学
習の説明と体験前の予想などを行なう。
④ 実験器具を持たせ、アトラクションへ
⑤ 体験をしたら、テキストに結果を記入し、
問題を解く、予想と合っていたか、また違
っていたらなぜそうなったのかなどを考
察する。
⑥ 各アトラクションを時間内にできるだけ
回り、テキストを埋めるようにする。
⑦ アンケートを記入してもらい、提出後解
散。実験結果の回答プリントも配布する。
2. 方 法
小学生(3∼6 年生)
・中学生を対象とし、遊園
地の乗り物を通じて科学を体験的に学習する。
参加費は無料で、「こどもゆめ基金」を活用し
ている。
午前の部(10:00∼13:00)と、午後の部:(13:00
∼16:00)の2回に分けて行う。
また、子ども体験学習を支援するため、各アト
ラクションに学生スタッフを配置する。
会場は盛岡市新庄「岩山パークランド」で行う。
(上の写真は学生に説明を受けながらテ
キストに予想を書き込んでいる様子)
・おもな学習内容例
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① ストップウォッチでコース1周にかかる
ゴーカートの時間を測定することでゴー
カートの「速さ」を求める
② ゴーカート同様、ストップウォッチを用い
て観覧車の1周にかかる時間を測定する
ことで、観覧車の「周期」を求める。
③ 角度測定器で観覧車の角度を測定する
その結果と三角比を用いて観覧車の「高
さ」を求める。
④ ジェットコースターやマンハッタンで重
力を体験
(今回の1番メインの学習内容は「G」の理
解。)
G(加重力)について説明した後、測定器
でアトラクションの G を測定する(ジェッ
トコースターの山で、体が浮くように感じ
るときを最小 G、ジェットコースターの谷
では体が沈むように感じるときを最大 G
とする)。
⑤ この普段感じていても、あまり意識して考
えた事のない G(加重力)というものを、ど
のような状況で、どのように感じるのかを
身をもって体験する事で、加重力に対する
知識・理解へとつなげる。
⑥ G(加重力)がどれくらい理解されている
か、事後アンケートにより理解度を調べる。
・学習の内容は難しかったか
→学習内容の改善が必要
・実験の内容は楽しかったか
→楽しみながら学習出来ている
・実験器具の使い方はよく分かったか
→器具の説明はうまくなされていた
・G がどのようなものか、よく分ったか
→少し難しかった
・もっと理科を勉強しようと思ったか
→楽しみながら理科に興味をもてた
4 考 察・まとめ
どの参加者も積極的にこのイベントに取り
組み、科学のおもしろさを身をもって体感でき
たのではないか。
そして、アンケートの結果を見ると、今回一
番分からせたかった G(加重力)の概念は、小
学校低学年の参加者には少し難しいものだっ
たのではないだろうか。G を理解し、知識を獲
得するには、日常生活の中で体験することが不
可欠であり、この「体験」を支援するためにア
トラクション、実験器具、テキスト等を今後も
いろいろと改良していき、科学をもっと身近に
感じて理科に興味・関心を持ってもらいたい。
また、実際にこの体験を通して理科への見方が
親子ともに変わったというアンケート結果も
多くこの活動はとても意義あるものであった。
そして、「最初は怖かったけど、最後は楽し
くて何度も乗った」など、チャレンジ精神ある
いは勇気などをこの体験で身につけられたの
ではないだろうか。
3. 結 果
今回はイベントの周知不足や当日の悪天候
などもあって参加人数は 53 人と、今まででも
っとも少ない参加人数となったが、人数が少な
かった分、参加者はすべてのアトラクションを
時間内に体験することができた(下図のアトラ
クションでは水が入ったペットボトルを横に
しながらアトラクションに乗った時、ペットボ
トル内の水の水面はどうなるか、ということを
確かめるための体験)。
5.参考文献
1)八木一正.遊園地を科学館に,日本評論社,
数学セミナー,PP.62−65,1998
2)八木一正.
「遊園地は科学実験室」ポプラ
社.1998
3)八木一正.辻敬一郎「遊園地を科学する 落
ちる、浮かぶ、回転する!恐怖や快感を生むメ
カニズム」ニュートン6月号.2007
4)久坂哲也・畠山真也・星野友晴・八木一正
「最大・最小加重力測定器の開発」
2002,pp.108-109
5)八木一正・久坂哲也・畠山真也「地域の子
供たちに豊かな科学的体験を!- 角度から高
さを求める実験を例に - 」2002,pp.115-125
アンケートの質問内容と結果
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