血液透析患者の血清マグネシウム濃度と生命予後の関連

JRDRハイライト
(13)血液透析患者の血清マグネシウム濃度と生命予後の関連(図表13)
論文の概要
血液透析患者を対象に透析前血清マグネシウム濃度と1年後の死亡リスクの関連について検討した報告で
ある。
タイトル:Hypomagnesemia is a significant predictor of cardiovascular and non-cardiovascular mortality
in patients undergoing hemodialysis
著者:Sakaguchi Y, Fujii N, Shoji T, Hayashi T, Rakugi H, Isaka Y
収載:Kidney Int 2014;85(1):174-181
対象:2009年末調査において血清マグネシウム濃度のデータが得られた血液透析患者 142,555例
要因:透析前血清マグネシウム濃度
アウトカム:1年後の全死亡、心血管死、非心血管死
結果:透析前血清マグネシウム濃度と全死亡、心血管死、非心血管死のリスクはいずれもU字型であり、
血清マグネシウム濃度 2.7-3.0mg/dLの範囲で有意に低下していた。血清マグネシウム濃度 3.1 mg/dL以
上での心血管死亡リスクの上昇はintact PTH 60 pg/mL以上の患者のみを対象とした場合には認められな
かった。
透析前血清マグネシウム濃度と全死亡リスクの関係
0.09
0.08
調整オッズ比
0.07
0.06
0.05
0.04
0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
血清マグネシウム濃度
(mg/dl)
年齢、性別、body mass index、透析期間、透析時間、
原疾患
(糖尿病)
、血清尿素窒素、
アルブミン、
カルシウム、
リン、
アルカリフォスフ
ァターゼ、
ヘモグロビン、CRP、intact PTH、処方薬
(リン吸着薬、
シナカルセト塩酸塩、活性型ビタミンD製剤)
、
副甲状腺摘出術の既往、
心筋梗塞の既往、脳梗塞・脳出血の既往、四肢切断の既往、大腿骨近位部骨折の既往の有無で調整。点線は95%信頼区間を表す。
(許諾を得て引用・改変)
解説
マグネシウムの不足は高血圧やインスリン抵抗性、血管内皮障害を惹起し、動脈硬化の原因となること
が 知 ら れ て い る。 こ れ ま で にARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)studyな ど の 大 規 模 な
population-based cohortにおいてMg欠乏と虚血性心疾患や脳卒中発症リスクとの関連が報告されてきた。
一方、慢性腎臓病患者、特に透析患者におけるマグネシウムと心血管予後との関係については十分に検
討されていなかった。
本研究では約14万例におよぶ血液透析患者の透析前血清マグネシウム濃度のデータを用い、血液透析患
者においても血中マグネシウム濃度の低下が心血管死亡リスクの上昇と関連することが示された。マグ
ネシウム高値群でも死亡リスクが上昇しており、高マグネシウムによるPTHの過剰抑制が関与している
可能性もうかがわれる。
本報告の後、透析患者のマグネシウムに関する研究が欧米から複数報告されたが、本研究ほどの莫大な
サンプルサイズでマグネシウムと予後との関係を検討した研究は他に存在しない。
今後、介入研究によってマグネシウム補充による生命予後の改善効果が明らかにされる必要がある。また、
現在本邦で市販されている透析液のマグネシウム濃度は1.0 mEq/Lのみであり、欧米で使用されているマグ
ネシウム含有リン吸着剤は本邦では未承認である。マグネシウムの補充方法についても検討が必要である。
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