目 次

vii
目 次
まえがき
第1章
v
光の性質
1
1.1
光の波動説 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
1
1.2
光の二重性 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
3
1.3
光と相対論 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
8
参考文献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
12
第2章
波動光学
13
2.1
平面波の屈折と反射 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
13
2.2
回折と回折格子による分光器 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
19
2.3
マイケルソン干渉計,可干渉距離とスペクトル幅 ・ ・ ・ ・
25
2.4
干渉分光 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
29
2.5
ファブリー–ペロー干渉計 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
31
2.6
波動方程式,キルヒホッフの積分公式 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
34
2.7
結像光学系の分解能,ヤングの回折パターン
・・・・・
41
2.8
位相速度と群速度 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
45
参考文献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
47
第3章
幾何光学
49
3.1
フェルマーの原理 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
49
3.2
測光(3000 M 輝度不変性 3000 M )
・・・・・・・・
55
3.3
光線追跡 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
62
3.4
近軸結像方程式
・・・・・・・・・・・・・・・
71
3.5
光学設計における収差の表示 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
81
3.6
反射光学系の光線追跡
・・・・・・・・・・・・・
99
3.7
各種レンズ系
・・・・・・・・・・・・・・・・
102
viii ――― 目 次
参考文献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
第4章
116
結像理論,像合成
117
4.1
点像と光学伝達関数 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
117
4.2
顕微鏡の結像理論 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
124
4.3
周辺回折波,コロナグラフ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
133
4.4
サイドルッキング · シンセティックアパチャーレーダ
・・
140
電波望遠鏡 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
147
4.6
スダレコリメーター ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
151
4.7
ホログラフィー
・・・・・・・・・・・・・・・
155
参考文献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
162
4.5
第5章
自由電子レーザー,光ファイバ通信,2 次高調波発生などの応用 163
5.1
レーザー光のモード ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
163
5.2
自由電子レーザー光 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
172
5.3
光ファイバ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
177
5.4
光ファイバ通信
・・・・・・・・・・・・・・・
183
5.5
光集積回路 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
197
5.6
2 次高調波発生 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
207
5.7
音響光学素子
・・・・・・・・・・・・・・・・
214
参考文献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
217
第6章
マクスウェルの方程式による解析
219
6.1
マクスウェルの電磁方程式 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
219
6.2
フレネルの透過率と反射率 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
226
6.3
多層膜,反射防止膜,分光フィルター ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
235
6.4
2 次元光導波路と光ファイバ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
241
6.5
結晶媒質中の光の伝搬
248
6.6
結晶素子(3000 M 1/4, 1/2 波長板,Q スイッチ,位相変調
器 3000 M )
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
265
参考文献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
275
索 引
277
1
光の性質
光が実証的な研究の対象になったのはガリレオ・ガリレイ
(Galileo Galilei)の
ころ以降といわれている.屈折の法則はスネル(W. Snell)によって 1621 年に
実験的に見いだされている.フェルマー(Pierre de Fermat)が光の最小時間の
原理を発表したのは 1657 年である.1666 年にはニュートン(Isaac Newton)
は白色光がプリズムによって色の成分に分離されるのを観測し,色の基本的性
質を明らかにしている.ニュートンはさらに光の本質について考察を進め,光
は “明るい物体から放射される微粒子である” と考えた.ニュートンの運動法
則と光の直進性とが結びつけば,この考え方は自然のなりゆきであった.
この当時,光の速度はまだ観測されていなかった.光の速度の有限性はレー
(月)
の蝕の時間を観測することに
マー(Olaf Römer)が 1675 年,木星の衛星
よって発見された.木星の衛星の周期から未来の蝕の時刻を予想できるが,観
測値が予想値よりも遅れる.レーマーは,これは地球と木星との相対距離が変
化し,光が到達するのに時間がかかるためであると考えた.そして地球が太陽
のまわりを回る公転の軌道直径と蝕の遅れから光速を計算し,3 × 108 m/sec
に近い値を導いている.
1.1
光の波動説
光の波動説はホイヘンス
(C. Huygens)
によって大いに発展した
(1678 年).
光が波であるとすると,光はどうして直進できるのかということが問題になる.
ホイヘンスは光の波面がある平面まできたとき,その平面から 2 次波が出ると
2 ――― 第 1 章 光の性質
図 1.1
光の屈折.
(a)2 次球面波による光の屈折の考え方.
(b)
粒子説による
光の屈折の考え方
考えた.この 2 次球面波の包絡面の平面が次の瞬間の波面であり,波面が平面
(a)参
であれば光は直進するわけである.また屈折の法則も説明できる(図 1.1
の大きい媒質中の光速 v のほうが屈折率(n)の小
照).この場合,屈折率(n )
さい媒質中の光速 v よりも小さいことになる(v / sin θ = v/ sin θ, n sin θ =
n sin θ).屈折の法則は光の粒子説でも導くことができる.2 つの媒質の境界に
おいて,光速の境界に平行な成分が,屈折する際変わらないとすればよい.こ
の場合,屈折率の大きい媒質中の光速は,屈折率の小さい媒質中の値よりも大
( b)
参照).
きくなる(v sin θ = v sin θ. 図 1.1
光の波動説は権威あるニュートンの認めるところとならず,1 世紀の間中断
してしまった.1802 年ヤング(T. Young)が単色光源から出た光を 2 つのス
リットを通して通過させると,2 つの 2 次球面波が干渉し合い干渉縞ができる
ことを示した.光が波であることを示す決定的な実験結果であった.また水中
の光速は空気中の光速よりも遅いことが確かめられ,光の波動説が確立した.
やキルヒホッフ(G. Kirchhoff)等によって光の
その後フレネル(A. J. Fresnel)
波動説はさらに体系化されていく.当時,一方では電磁気学の分野でファラ
1.2 光の二重性 ――― 3
デー(M. Faraday)の法則が発見され,マクスウェル(J. C. Maxwell)がそれま
での実験結果を一連の電磁方程式にまとめあげ,電磁波の存在を予測した.そ
してその速度が光速と一致することが判明した.かくして光の電磁波理論が確
[1.2],
[1.3])
.
立した(文献[1.1],
1.2
光の二重性
光の伝搬の現象については電磁波理論で完全に説明できるようになったが,
19 世紀の終わりになると光の放射,吸収など,光と物質(原子)との相互作用
に関しては,光の波動説では説明のできない現象が発見されてきた.プランク
(Max Planck)は黒体放射の分光特性についての実験値によく合う公式を見つ
けたが,もしプランクがこれだけで満足してしまっていたら,彼の仕事は単
なる思いつきにすぎなっかたかもしれない.彼はしかしこの公式のよってく
る深い根をつきとめるために心をくだいた.不眠不休の数週間後に彼はつい
にエネルギー量子という概念に到達した.量子力学の曙である.振動する電
子は 電磁場のエネルギーを連続値として放出するのではなく,光の周波数
を ν とすると,量子単位 hν の整数倍というとびとびの値で放出する.ここで
h = 6.6260755 × 10−34 Js はプランクの定数とよばれる.
光電子効果は,可視光,紫外線,X 線を,物質,特に金属に当てると,その
の実験に
表面から電子が飛びだしてくる現象である.レーナルト(P. Lenard)
よると,飛びだしてくる電子 1 個 1 個のエネルギーは入射光の強度に依存せ
ず,光の振動数が大きいほど大きい.入射光の強度を大きくすると飛びだして
くる電子の数が増えるだけである.
この現象を光の波動説で説明することは困難である.アインシュタイン(A.
Einstein)はレーナルトの実験を光の粒子性によるものと考えた.電子が光量
子から hν のエネルギーをもらって飛びだしてくる.しかし電子は金属中に束
縛されているので飛びだすために必要なエネルギー W を引いて,結局飛びだ
.ミリカ
してくる電子のエネルギーは E = hν − W になると考えた(1904 年)
ン(R. A. Millikan)は水銀燈のスペクトル線を使って飛びだしてくる電子の最
4 ――― 第 1 章 光の性質
高エネルギーと振動数の関係を調べ,アインシュタインの予測を実験的に確認
した(1916 年).
光の粒子性が著しく現れるもう 1 つの有名な現象は 1923 年に発見された コ
ンプトン(Compton)効果である.X 線を物体に当てると散乱された X 線の
一部に入射 X 線より波長の長い X 線が観測される.この現象は,X 線光量子
が運動量 p = h/λ を持っていて粒子のように電子と弾性衝突し,X 線光量子
の運動量が減るという考え方で定量的に説明できることが明らかになった.
かくして光は波でもあり,粒子でもあるという二重性(dualism)をもってい
ると考えられるようになった.そして光子(photon)とも呼ばれている.
波と粒子の二重性は光子のみならず電子にもあてはまるとド・ブロイ(de
Broglie)は考えた(1924 年).電子の運動量を p,エネルギーを E とするとき
λ = h/p,
ν = E/h
(1.1)
の波長と振動数を持った波のように振舞う,というのである.発想の逆転であ
(スイス連邦
る.シュレーディンガー(E. Schrödinger)がチューリッヒの ETH
工科大学)
でのセミナーでド・ブロイの理論を紹介したときデバイ(P. Debye)
が “もし電子の波があるのなら,その波動方程式がなくてはならない” と言っ
たという逸話があるそうである.その後シュレーディンガーの方程式が発表
されたのは 1925 年である.そしてこの理論はこれからふれるハイゼンベルク
(W. Heisenberg)のマトリックス力学と数学的に同等であることがわかった.
1913 年ボーア(N. Bohr)は水素原子のスペクトル構造を調べ,水素原子の中
の電子はある不連続な固有状態にあり,固有状態は固有エネルギー値 Wn を持
に変えるとき
つと考えた.電子が固有状態を Wi から W(
j Wi > W j )
hν = Wi − Wj
(1.2)
の 振 動 数 を 持 つ 光 子 を 出 す .ま た 逆 に 電 子 は hν の 光 子 を 吸 収 し て Wj
の固有状態から Wi の固有状態に励起されると考えた.そして対応原理
(Complementarity Principle)にもとづいて原子のスペクトル構造を解明して
いった.ハイゼンベルクはこのモデルを発展させマトリックス力学を展開した
(1925 年).
1.2 光の二重性 ――― 5
ハイゼンベルクは光を粒子と考える場合,古典的な粒子の概念ではなく,そ
の位置と運動量の値に本質的な不確定性をもっていると考えた
(1927 年).光
学結像系を例にとって考える.光学結像系の空間分解能 Δx は
Δx ∼
λ
2 sin θ
で与えられる
(2.7 節参照).一方,光の伝搬ベクトル k = (2π/λ)s(s は伝搬
方向の単位ベクトル)の x 成分 kx = (2π/λ) sin θ は 2(2π/λ) sin θ の広がりを
もつと考えてよい(2.7 節).そうすると
ΔxΔkx ∼ 2π
(1.3)
の関係がある.また光のスペクトル幅を Δν とし,c を真空中の光速度として
その可干渉距離を L とすると Δν は
Δν ∼ c/L
で与えられる(2.3 節参照).光が L を通過する時間を Δt とすると Δt = L/c
で
ΔνΔt ∼ 1
(1.4)
となる.この関係式を光子の立場から見ると p = h/λ, E = hν の関係より
ΔxΔp ∼ h,
ΔEΔt ∼ h
(1.5)
に還元される.すなわち,光子の位置 x と運動量 p は
(1.5)のような不確定性
を本質的にもっている.また光子のもつエネルギー
(振動数)
の広がり ΔE と
光子の寿命 Δt の間にも同様な関係が存在する.これを ハイゼンベルクの不確
定性原理(uncertainty principle)という.この原理は電子にも適用される.
アインシュタインは光の放射,吸収過程を図 1.2 に示すように考えた.電子
の 2 つの固有状態があるとすると
にエネルギー準位が WL と WU(WL > WU )
き,上の準位にある電子からの光の放出は,入射光がなくても起こる自然放射
(spontaneous emission)と,入射光の強度に比例して起こる誘導放射(induced
emission あるいは stimulated emission)がある.一方,下の準位の電子は,入
射光の強度に比例して光を吸収(absorption)する.光子の単位体積あたりの数
6 ――― 第 1 章 光の性質
図 1.2
電子が光子を放射,吸収する過程.
( a)
自然放射,
(b)
誘導放射,
( c)
吸収
および光子の単位体積,単位周波数あたりのエネルギーをそれぞれ n,ρ(ν),
上および下の準位の電子の単位体積あたりの数をそれぞれ NU , NL とすると
光子の数は
dn
= ANU + BUL NU ρ(ν) − BLU NL ρ(ν)
dt
(1.6)
で与えられる.ここで A は上の準位の電子が光子を自然放射して下の準位に
遷移する単位時間あたりの確率であり,BUL ρ(ν) は上の準位の電子が光子を誘
導放射して下の準位に遷移する単位時間あたりの確率である.また BLU ρ(ν)
は下の準位の電子が光子を吸収して上の準位に遷移する単位時間あたりの確率
である.定常状態においては
ANU + BUL NU ρ(ν) = BLU NL ρ(ν)
となり,光のエネルギー密度 ρ(ν) は
ρ(ν) =
A
1
BUL BLU NL /BUL NU − 1
になる.温度 T の熱平衡状態では
WU
,
NU ∝ exp −
kT
WL
NL ∝ exp −
,
kT
(1.7)
1.2 光の二重性 ――― 7
hν
W U − WL
NU
= exp −
= exp −
NL
kT
kT
となる.ここで k はボルツマン定数(k = 1.380658 × 10−23 J/K)である.
T → ∞ のとき ρ(ν) → ∞ になるためには BLU = BUL ≡ B でなくてはなら
ない.そうすると
ρ(ν) =
A/B
exp(hν/kT ) − 1
(1.8)
が導かれる. hν � kT のとき ρ(ν) = (kT /hν)(A/B) となる.1 辺の長さ
が L の立方体の空洞の中の光の単位周波数あたりのモード数は 8πν 2 L3 /c2 で
あるので[1.4],hν � kT のときは ρ(ν) = (8πν 2 /c2 )kT になるはずである.
したがって
8πν 2
A
= hν 3
B
c
となり
ρ(ν) =
hν8πν 2 /c3
exp(hν/kT ) − 1
(1.9)
(1.10)
が導かれプランクの黒体放射の式が再現される.
ここで(1.6)式について再考する.ρ(ν) と n の関係は hνn = ρ(ν)Δν であ
るから,
(1.6)は
dn
= ANU + B(NU − NL )ρ(ν)
dt
となる.熱平衡状態では,エネルギー準位の高い電子の密度はいつもエネル
ギー準位の低い電子の密度より小さく,NL > NU であるから,上式の右辺第
2 項はいつも負である.光の強度が強いときは自然放射の項は誘導放射の項に
比べて無視できる.したがって光は通常吸収されることになる.しかし,もし
なんらかの工夫をしてこの関係を逆転し,反転分布の状態が実現できれば,光
子の数は時間とともに増加していくはずである.
1954 年タウンズ(C. H. Townes)はアンモニア分子を用いて 23.87 GHz のマ
イクロ波の増幅発振に成功した.量子エレクトロニクスの誕生である.誘導放
射によるマイクロ波増幅(Microwave Amplification by Stimulated Emission
of Radiation)の頭文字をとって,メーザー(MASER)と名付けられた.この着
想は 1950 年代初期にタウンズ(アメリカ),バソフ(N. Basov,ソ連),プロホ
8 ――― 第 1 章 光の性質
ロフ(A. Prokhrov,ソ連)
によって独立に提案されたものである.メーザーの
原理を光の領域に広げようとする試みは,1960 年メイマン(T. H. Maiman)に
よるルビーレーザーの成功によって実現した.かくして Microwave を Light
に置き換えたレーザー(LASER)という言葉が生まれた[1.5].
1.3
光と相対論
今世紀に入って量子力学の登場という物理学の大きな革命があり,光が重
要な役割を果していることを述べたが,もう 1 つの大きな革命は相対性理
論であり,ここでも光が主役を演じている.ある絶対静止空間で光が光速 c
で伝搬しているとき,絶対静止空間に対して一定速度 v で走っている慣性
座標系でその光を見るとどうなるかという問題を考える.地球の公転速度は
v = 3 × 104 m/s であり,光速 c = 2.99792458 × 108 m/s の 10−4 に相当す
る.常識的に考えれば地球の進行方向に向かっては c − v の速度で伝搬し,そ
の逆方向では c + v と考えられる.1987 年マイケルソン(A. A. Michelson)と
モーリー
(E. W. Morley)はマイケルソン干渉計を用いてこの速度を観測しよ
うとしたが,実験結果は公転速度の 1/4 以下ということであった.
この意外な実験結果は 1905 年アインシュタインの特殊相対性理論によって
見事に説明される.アインシュタインは
(1) すべての慣性座標系は同等である
(2) 光の速度は光源の運動には無関係である
(2)は “光の速度はすべての慣性系で同じであ
という 2 つの仮説を設定した.
る” という意味である.座標系 S と S� とが互いに等速で運動している場合,S
系における座標 (ct, x, y, z) と S� 系における座標 (ct� , x� , y � , z � ) の変換は線形
でなければならない.そうでないと S 系と S� 系との同等性が失われる.いま
座標系の原点を適当に移して S における 4 次元の時空の原点 O と S� におけ
る原点 O� とが一致するようにしておく.そして S 系の x 軸と S� 系の x� 軸
とが重なる状態で S� 系が S 系に対して一定速度 v で x の正の方向に進んで
いるとしよう
(図 1.3).この場合 O と O� とが重なったとき y � = y ,z � = z
1.3 光と相対論 ――― 9
図 1.3
S 座標系と S 座標系 S 座標系は S 座標系に対して v の等速運
動をしている.
となるから,S から S への変換行列は
⎡
⎤ ⎡
ct
A
⎢ x ⎥ ⎢ D
⎢
⎥ ⎢
⎣ y ⎦ = ⎣ 0
z
0
B
E
0
0
⎤⎡
0 0
ct
⎢ x
0 0 ⎥
⎥⎢
1 0 ⎦⎣ y
0 1
z
⎤
⎥
⎥
⎦
(1.11)
(1.11)
という形になる.S 系の原点 O は S 座標では (ct, 0, 0, 0) であるから,
式により S 系の座標で表すと ct = Act, x = Dct となる.原点 O は S 系
に対して −v の速度で動いているから,x = −vt であり
v
D
=−
A
c
が得られる.S 系の原点 O は S 座標では (ct, vt, 0, 0) であるが,S 座標で
は (ct , 0, 0, 0) である.したがって x = Dct + Ex = Dct + Evt = 0 となり
v
D
=−
E
c
が得られる.したがって
E=A
である.
次に t = t = 0 のとき S の原点 O と S の原点 O とが重なるが,このと
き O から光が出たとする.S 座標系においては時刻 t で x 軸上の x = ct の
10 ――― 第 1 章 光の性質
点を通るが,この点は S� においては時刻 t� で x� 軸上の x� = ct� にならなけ
ればならない.ct� = Act + Bx, x� = Dct + Ex より
ct� = Act + Bct = x� = Dct + Ect.
したがって
B = D.
そして変換行列は
⎡
となる.この逆変換は
γ≡
として
⎡
�
γ 2 /A
⎢ (v/c)γ 2 /A
⎢
⎣
0
0
となる.
−Av/c
A
0
0
A
⎢ −Av/c
⎢
⎣
0
0
1−
v
c
2
⎤
0 0
0 0 ⎥
⎥
1 0 ⎦
0 1
(1.12)
�−1/2
⎤
(v/c)γ 2 /A 0 0
γ 2 /A
0 0 ⎥
⎥
0
1 0 ⎦
0
0 1
このマトリックスは
(1.12)において v を −v におきかえたものに等しいは
ずであるから,
A=
でなければならない.すなわち
⎡
1
=γ
(1 − (v/c)2 )1/2
⎤ ⎡
ct�
γ
⎢ x� ⎥ ⎢ −(v/c)γ
⎢
⎥ ⎢
⎣ y� ⎦ = ⎣
0
�
z
0
−(v/c)γ
γ
0
0
各成分で表すと
γv
x,
c
γv
ct,
x� = γx −
c
ct� = γct −
⎤⎡
0 0
ct
⎢ x
0 0 ⎥
⎥⎢
1 0 ⎦⎣ y
0 1
z
⎤
⎥
⎥.
⎦
(1.13)