演習問題14

微分方程式Ⅰ 演習問題 14
2015 年度前期
工学部・未来科学部 2 年
担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教)
確認問題 14-1. (連立微分方程式の平衡点と安定性)
以下の (1) – (6) の連立微分方程式に対して (i) 平衡点の集合 と (ii) それらがどのような平衡点集
合か を答えなさい。余力があればそれぞれの 相図 も描いてみること (必要ならば 参考資料 6 を
参照のこと)。なお、以下の連立微分方程式は 確認問題 13. で扱ったものと全く同じものです。
{
(1)
{
(4)
x′ =
x+ y
′
y = −2x + 4y
x′ = 2x − y
y ′ = x + 2y
{
(2)
{
∗
(5)
x′ =
−y
′
y = 4x
x′ = 3x − y
y′ = x + y
{
(3)
{
∗
(6)
x′ = x + 2y
y ′ = 2x + y
x′ =
− y
y ′ = 2x − 2y
確認問題 14-2. (行列の指数関数)
確認問題 14-1. (1) – (6) の微分方程式の解の基本系を使って、以下の行列 Aj に対して 行列の指
数関数 etAj を計算しなさい。
(
)
1 1
(1) A1 =
−2 4
(
)
2 −1
(4) A4 =
1 2
(
)
0 −1
(2) A2 =
4 0
(
)
3 −1
(5) A5 =
1 1
(
)
1 2
(3) A3 =
2 1
(
)
0 −1
(6) A6 =
2 −2
チャレンジ問題 14. (生態系の捕食者・被食者モデル)
[やや難]
サバンナにシマウマとライオンが生息している状況を考
えよう。時刻 t におけるシマウマの生息数を x(t), ライオ
ンの生息数を y(t) とする。シマウマはサバンナの草を主食
とし、サバンナの草は十分に生えていて枯渇することがな
いと仮定する。また、ライオンはシマウマのみを捕食する
と仮定しよう。
このとき、シマウマは生息数 x(t) が多いほど生殖による
増加率は大きくなり、その増加率は生息数 x(t) に比例する
(増加率を α とする)。一方でライオンは生息数 y(t) が増
えると、生息数に対して食料となるシマウマの頭数が不足
してしまうため、飢餓によって生息数 y(t) が減少する傾向
を持つ (減少率を −δ とする)。また、シマウマとライオン
が遭遇すると、シマウマはライオンに捕食されて生息数が
シマウマとライオン
減少し、ライオンはシマウマを捕食することによって生殖
(パブリック・ドメイン)
力が増し、生息数が増加傾向になるとする。シマウマとライオンの遭遇率はシマウマの生息数とライ
オンの生息数の 積 x(t)y(t) に比例するものとすると、ライオンとシマウマの増加・減少傾向は次
の (非線形) 連立微分方程式によってモデル化される。
{
x′ = αx − βxy
y ′ = γxy − δy
(α, β, γ, δ > 0)
· · · · · · (∗)
(1) 変数 x, y に関する 2 変数関数 F (x, y) を
F (x, y) = γx + βy − δ log(x) − α log(y)
で定めるとき、連立微分方程式 (∗) の解 (x(t), y(t)) に対して
d
F (x(t), y(t)) ≡ 0 となるこ
dt
とを確かめなさい。
(2) 連立微分方程式 (∗) の平衡点を全て求めなさい。
( ′) (
)
( ′)
x
αx − βxy
x
(3) 色々な (x, y) に対して
=
を計算してみて、ベクトル
を xy 平面内
′
y
γxy − δy
y′
に描き込んだ図を作成しなさい。
∗
(4) (1) より、連立方程式 (∗) の解 (x(t), y(t)) は曲線 F (x, y) = C (C は実数) 上を動くことが
分かる。曲線 F (x, y) = C が 閉曲線 となることを示しなさい。
【略解】
確認問題 14-1. それぞれの解の基本系については 確認問題 13. の略解を参照すること (相図の矢印
が若干見にくくなっています。すみません)。
(
)( )
( )
1 1
0
x
(1) (i) 連立方程式
=
の解を求め
0
y
−2 4
(
)
1 1
れ ば 良 い 。行 列
−2
は 正 則 な の で 、解 は
4
(x, y) = (0, 0) のみ。
(
)
( )
( )
x(t)
3t 1
2t 1
(ii) 解 の 基 本 系 は
= e
,e
で、
y(t)
2
1
limt→∞ e3t = +∞, limt→∞ e2t = +∞ より (0, 0)
は 不安定結節点 である。相図は右図の通り (紫
色の線が固有ベクトルの方向
)。) ( )
(
( )
(2) (i) 連立方程式
0
0
れ ば 良 い 。行 列
=
(
0
4
0 −1
4
)
−1
0
x
y
の解を求め
は 正 則 な の で 、解 は
0
(x, y) = (0, 0) のみ。
(
) (
) (
)
x(t)
cos(2t)
sin(2t)
=
,
(ii) 解の基本系は
y(t)
2 sin(2t)
−2 cos(2t)
で、t → ∞ とするとそれぞれ振動するので、(0, 0)
は 渦心点 である。相図は右図の通り。
(
)( )
( )
1 2
0
x
(3) (i) 連 立 方 程 式
=
の解を求め
0
y
2 1
(
)
1 2
れ ば 良 い 。行 列
は 正 則 な の で 、解 は
2
1
(x, y) = (0, 0) のみ。
(
)
( )
( )
x(t)
1
−t
3t 1
= e
,e
で、
(ii) 解の基本系は
y(t)
−1
1
limt→∞ e−t = 0, limt→∞ e3t = +∞ より (0, 0) は
鞍点 である。相図は右図の通り (紫色の線が固有
(
)( )
2 −1
x
=
の解を求め
y
1 2
(
)
2 −1
ベクトルの方向
。
( ))
(4) (i) 連立方程式
0
0
れ ば 良 い 。行 列
は 正 則 な の で 、解 は
1
2
(x, y) = (0, 0) のみ。
(
)
(
)
(
)
x(t)
sin(t)
2t cos(t)
2t
(ii) 解の基本系は
=e
,e
y(t)
sin(t)
− cos(t)
で、limt→∞ e2t = +∞ より (0, 0) は 不安定渦状点
である。相図は右図の通り。
(
)( )
( )
(5) (i) 連立方程式
0
0
れ ば 良 い 。行 列
=
(
3
1
3 −1
1
)
−1
1
x
y
の解を求め
は 正 則 な の で 、解 は
1
(x, y) = (0, 0) のみ。
(
)
( )
(
)
x(t)
2t 1
2t t + 1
(ii) 解の基本系は
= e
,e
で、
y(t)
1
t
limt→∞ e2t = +∞ より (0, 0) は 不安定結節点
である。相図は右図の通り (紫色の線が固有ベクト
ルの方向: 1 つしかない
(!!)。
( )
(6) (i) 連立方程式
0
0
れ ば 良 い 。行 列
)( )
0 −1
x
=
の解を求め
y
2 −2
(
)
0 −1
2
−2
は 正 則 な の で 、解 は
(x, y) = (0, 0) のみ。
(
(
)
)
x(t)
cos(t)
−t
(ii) 解 の 基 本 系 は
= e
,
y(t))
cos(t) + sin(t)
(
sin(t)
で、limt→∞ e−t = 0 より
e−t
− cos(t) + sin(t)
(0, 0) は 安定渦状点 である。相図は右図の通り。
確認問題 14-2.
)( )
( 3t ) ( 2t )
( ′)
( ) (
1 1
x
e
e
x
x
の解の基本系は
, 2t より
(1) 連立微分方程式
= A1
=
3t
′
y
2e
e
y
y
−2 4
(
e
tA1
=
e3t
2e3t
e2t
e2t
)(
e3·0
2e3·0
e2·0
e2·0
)−1
(
−e3t + 2e2t
−2e3t + 2e2t
=
e3t − e2t
2e3t − e2t
)
)( )
( ′)
( ) (
(
) (
)
0 −1
x
x
x
cos 2t
sin 2t
=
A
=
の解の基本系は
,
(2) 連立微分方程式
2
y′
y
y
2 sin 2t
−2 cos 2t
4 0
より
(
etA2 =
cos 2t
2 sin 2t
sin 2t
−2 cos 2t
)(
cos(2 · 0)
2 sin(2 · 0)
sin(2 · 0)
−2 cos(2 · 0)
(
)−1
=
cos 2t
2 sin 2t
1
− sin 2t
2
cos 2t
)
)( )
( ′)
( ) (
( −t ) ( 3t )
1 2
x
x
x
e
e
(3) 連立微分方程式
= A3
=
の解の基本系は
, 3t より
−t
y′
y
y
−e
e
2 1
(
e−t
−e−t
etA3 =
e3t
e3t
)(
e−1·0
−e−1·0
( ′)
( ) (
2
x
x
(4) 連立微分方程式
= A4
=
′
y
y
1
e3·0
e3·0
)−1
=
1
2
(
e−t + e3t
−e−t + e3t
−e−t + e3t
e−t + e3t
)
)( )
( 2t
) ( 2t
)
−1
x
e cos t
e sin t
の解の基本系は
,
y
e2t sin t
−e2t cos t
2
より
(
)
(
cos t
sin t
cos 0
· (e2·0 )−1
sin t − cos t
sin 0
etA4 = e2t
(
( ′)
( )
3
x
x
= A5
=
(5) 連立微分方程式
′
y
y
1
)−1
(
)
sin 0
cos t − sin t
= e2t
− cos 0
sin t cos t
)( )
( 2t ) (
)
−1
x
e
(t + 1)e2t
の解の基本系は
,
y
e2t
te2t
1
より
(
etA5 =
e2t
e2t
(t + 1)e2t
te2t
)(
e2·0
e2·0
(0 + 1)e2·0
0 · e2·0
)−1
= e2t
(
t+1
t
)
−t
−(t − 1)
(
)( )
( ′)
( )
(
)
0 −1
x
x
x
cos t
−t
(6) 連立微分方程式
= A6
=
の解の基本系は e
,
y′
y
y
cos t + sin t
2 −2
(
)
sin t
−t
より
e
− cos t + sin t
e
tA6
(
)
(
cos t
sin t
cos 0
−1·0 −1
=e
(e
)
cos t + sin t − cos t + sin t
cos 0 + sin 0
(
)
cos t + sin t
− sin t
=
2 sin t
cos t − sin t
−t
sin 0
− cos 0 + sin 0
)−1
チャレンジ問題 14.
(1) F (x(t), y(t)) を t で微分すると、合成関数の微分法を用いて
(
)
(
)
d
x′ (t)
y ′ (t)
δ
α
′
′
′
′
F (x(t), y(t)) = γx (t) + βy (t) − δ
−α
= x (t) γ −
+ y (t) β −
dt
x(t)
y(t)
x(t)
y(t)
となるが、ここで x′ (t) = αx − βxy, y ′ (t) = γxy − δy を代入すると
(
)
(
)
d
δ
α
F (x(t), y(t)) = (αx(t) − βx(t)y(t)) γ −
+ (γx(t)y(t) − δy(t)) β −
=0
dt
x(t)
y(t)
となることが確認出来る。
(2) 平衡点は 連立方程式 αx − βxy = x(α − βy) = 0, γxy − δy = y(γx − δ) = 0 の解だから
(
)
δ α
(x, y) = (0, 0),
の 2 点。
,
γ β
(3) 右 図 の 様 に な る (右 の 図 で は
α = 4, β = 2, γ = δ = 1 とし
δ
ている)。直線 x =
より右側
γ
′
では y = y(γx − δ) > 0 よりベ
クトルは上向きとなり、左側で
はベクトルは下向きとなる。ま
α
より上側では
β
′
x = x(α − βy) < 0 よりベク
た、直線 y =
トルは左向きとなり、下側では
ベクトルは右向きとなる。した
がって結局右図のように、平衡
)
(
点のひとつである
δ α
,
γ β
を中心とした「渦状」のベクトルが描かれる*1 。
(
) (
)
α
δ
(4) (3) より, 例えば初期条件 (x(0), y(0)) = c,
但し 0 < c <
に対する (∗) の解
γ
(
) β
δ α
(x(t), y(t)) が描く解曲線は、平衡点
,
のまわりを回って、t = t0 に於いて再び線分
γ β
(
(
)
)
α
δ
α
y=
0<x<
と交わることが観察出来る。その交点を c′ ,
とする。この解曲線
β
γ
β
(
)
(
)
α
′ α
が成り立つ筈である。こ
は F (x, y) = C 上にある筈なので、特に F c,
=F c,
β
β
こで
(
g(x) = F
α
x,
β
)
(
)
α
α
= γx − δ log(x) + β · − α log
β
β
δ
1
γ
の範囲で g ′ (x) = γ − δ > γ − δ · = 0 となることより 単調減少 な関数
γ
x
δ
′
である。したがって g(c) = g(c ) が成り立つためには c = c′ が成り立たなければならない。
は0<x<
以上より (∗) の解曲線が閉曲線であることが示された。
*1
このような図を ベクトル場 vector field の図を呼ぶ。
babababababababababababababababababab
【コラム】 ロトカ・ヴォルテラの捕食者/被食者モデル
本講義最後のチャレンジ問題では、生態
系の神秘を微分方程式を用いて数学的にモ
デル化した ロトカ・ヴォルテラの捕食者
/被食者モデル Lotka-Volterra predatorprey model を扱うことにしました。我々
の棲むこの地球は、草食動物やそれを捕食
する肉食動物など、実に多用な生命体に満
ち溢れた「生命の星」と呼ぶに相応わしい
アルフレッド・ロトカ*2
ヴィト・ヴォルテラ*3
天体ですが、この様な多彩な生命体がひとつの天体に共存出来ているという事実は、あたり
前のことのようでいて実に不思議なものです。肉食動物が草食動物を喰い尽くして絶滅し
て草食動物が絶滅しまうようなことは何故起きないのでしょうか?
このような素朴な疑問に対し、捕食者 (ライオン) と被食者 (シマウマ) の 2 者しか存在
しないという状況で、(∗) という非常に単純な微分方程式を用いて解答を与えたのがアメリ
カの統計学者アルフレッド・ロトカでした。彼の着想には、フェルフルストの人口論 (ロジ
スティック・モデル, チャレンジ問題 2. 参照) が大きく影響していたようです。ロトカは
その後、生物学や統計学に微分方程式などの数学的手法を積極的に導入し、彼の功績は現在
では 数理生物学 mathematical biology と呼ばれる分野の礎ともなっています。一方でイ
タリアの数理物理学者ヴィト・ヴォルテラも、アドリア海の漁獲高の研究からロトカとは独
立に同様のモデルの構築に至りました。水産資源の調査という観点では、フォン・ベルタラ
ンフィの研究 (チャレンジ問題 5. 参照) とも関係すると言えるかもしれません。
ロトカ・ヴォルテラ方程式 (∗) の特徴的な点は、
何といっても 解曲線が閉曲線となっていること で
す。つまり、ライオンとシマウマという捕食者と
被食者が同時に存在する状況でも、「ライオンの数
が多過ぎれば餌となるシマウマの頭数が足りなく
なるのでライオンの生息数が減ってゆき」「ライオ
ンの数が減ればライオンに捕食される危険性が減
るのでシマウマの生息数が増加する」という絶妙
なバランスで、ライオンもシマウマも過度に増え
ロトカ・ヴォルテラ方程式の解曲線群
過ぎたり減り過ぎたりすることなく周期的に増減
を繰り返し続けるということが、解曲線が閉じて
いることから窺いしれるのです。このような神秘的とも呼べる生態系の調整作用が、(∗) と
いう単純な連立微分方程式で表されてしまうということはやはり驚くべきことですし、数
学的手法の強力さ、面白さをも暗示しているように思えてなりません。
*2
*3
Alfred James Lotka (1880–1949)
Vito Volterra (1860–1940)