農業分野における外国人技能実習制度の活用と JA の役割 ——熊本県八代市・宇城市の事例—— 軍司 聖詞 早稲田大学 地域社会における高齢化や過疎化の進行に伴い、外国人労働力調達、すなわち外国人技能実習制度の活用への 注目が高まっている。特に農業分野では、堀口(2013)によれば、常雇の約 15%が外国人によって占められて いる現況がすでにあり、外国人労働力なしには日本の農業は成り立たない状況にある。 この現況に対して、安藤(2014)や軍司(2014)などは、農業作業者の実習生受入数第 1 位である茨城県を 捉え、その受入事例を考察してきた。また、寒冷地については、北倉(2014)や軍司(2015)などが北海道や 長野県の事例を報告している。その他地域においても、実習制度の活用は盛んになりつつあるが、しかしながら、 他地域に関する既往研究は乏しく、その活用現況は十分に明らかにされていない。 ところで、農業分野の実習生受入れにおいては、家族経営農家に外国人を入れることになるため、この双方を 監督・指導する監理団体の役割が極めて大きくなる。そこで、本研究は、全国第 2 位の受入数を誇る、九州地方 の熊本県から、JA やつしろ(八代市) ・JA 熊本うき(宇城市)を捉え、その受入現況と監理の特徴、そして課 題を考察し、この対応としての JA の役割を明らかにした。 JA やつしろは、約 150 名の実習生を斡旋している、県内最多の実習生を斡旋している JA であるが、八代市 内には事業協同組合の斡旋する農業実習生が約 350 名あり、市内でのシェアは決して大きくない。これは、JA やつしろには実習制度専任課はなく、 担い手対策課が実習制度を担当しているが、 課員は出向者含め 4 名であり、 60 戸への斡旋が限界となっているためである。JA やつしろが抱える最大の課題は、実習生の途中帰国問題であ り、JA やつしろはこの対応として、実習生を市民祭に参加させたり、阿蘇市への研修旅行を行ったりするなど しているが、3 年満了者は約 6 割にとどまっている。そのため、監理費用等を安価に設定するとともに、受入農 家には途中帰国リスクへの対応として受入人数を 1 人増やすよう助言している。 JA 熊本うきは、20 戸に約 50 名の実習生を斡旋している。JA 熊本うきもまた、JA やつしろと同じく、斡旋 戸数を限定しているが、20 戸と少ないのは、JA 熊本うきが置く実習制度の専任担当者 2 名が監理できる限度が 20 戸程度であるためである。この専任担当者は、元外国人犯罪捜査官であり、外国人の取扱いに慣れているほ か、語学にも堪能であるため、実習生からの信頼が厚く、実習生の 3 年満了率は 9 割超を達成している。 【引用文献】 安藤光義(2014) 「露地野菜地帯で進む外国人技能実習生導入による規模拡大」 『農村と都市をむすぶ』748 北倉公彦(2014) 「北海道にみる短期滞在型の実習生の実情と課題」 『農村と都市をむすぶ』748 堀口健治(2013) 「日本農業を支える外国人労働力」 『農林金融』66(11) 軍司聖詞(2014) 「認定農業者の営農概況と外国人労働力調達の実際」 『農村と都市をむすぶ』748 ————————(2014) 「寒冷地における外国人技能実習制度の活用現況と JA の役割」 『農業経営研究』印刷中
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