思考力・判断力を育てる社会科授業の工夫

沖縄県立教育センター
研修報告 集 録
<社会>
第 29 集(2-1 )
55-60 2001 年 3 月
思考力・
判断力を育てる社会科授業の工夫
−インターネットを活用した発信型課題解決学習を通して −
那覇市立真和志中学校教諭 山
Ⅰ
内
治
1 社会科が求める思考力・判断力
テーマ設定の理由
(1 )
社会科授業の現状と課題
これまでの社会科は,知識注入型の一斉授業が多
めまぐるしく変化する社会に対応して,教育現場
かったが,子どもの生活や経験を主体にした,体験
では,まもなく新しい学習指導要領に移行する。
新学習指導要領はその基本方針の中で ,
「自ら学び ,
的活動型の授業も増えてきた 。しかし ,その多くは ,
自ら考える力を図るとともに,基礎的・基本的な内
子どもの集団的な自己活動(ひとり思考)になり,
容の確実な定着…」を掲げ,社会科もこの方針のも
見学や調査をした後に,とりあえず討論や意見交換
とに改訂されている。また, 2002 年度からは「総合
をして短絡的にまとめてしまうという,ねりあいや
的な学習の時間」が新設され,ここでもそのねらい
追究する課題の中身や質においても不十分な面がみ
において「学びかた」や「ものの考え方」が強調さ
られた。これは教育課程審議会中間まとめにあった
れている。これらは社会科の目標・内容・方法に共
「知識や掲示された課題について調べる態度は身に
通する部分があることから,今後は教科との関連や
ついているが ,
(中略)それらを自分なりに考えて意
合科的な学習活動において ,重要視されるであろう 。
見を述べたりする能力については,十分でない面が
社会科授業は今,社会の変化とともに「調べる社
会科 」
「考える社会科」へと移りつつある。私自身,
みられる 。」ということからも,新しい社会科への転
換が強く求められていることがわかる。
(2)
授業をふりかえってみると,調べ学習や課題学習に
「生きる力」
としての思考力・
判断力
おいて,その手だてや支援の面で,反省点も多い。
私たちは,日常において何らかの形で課題や問題
たとえば図書館で調べたり,インターネットで検索
場面に出会い,それを自分なりに解決して生きてい
して学習する場面においては,興味・関心も高く意
る。学校教育も今後,変化の激しい社会において主
欲的である。しかし,調べた内容が,資料の丸写し
体的に対応し,創造的に生きていくことのできる能
となったり,画面にでてきた情報のまま発表してし
力を育てることが求められている。
まって,自分のものとはしておらず,知識・理解は
身につけても,そこには考える力,判断する力は,
これからは,学習を通して得た知識や技能,思考
や判断の仕方が自分の価値としてとらえられ,問題
十分ではない。
に出会ったとき,自分なりの考えや判断で問題の解
そこで今回は課題学習の過程において,生徒が興
味を持って取り組めるインターネットを使って,今
決ができることが ,
「生きる力」の育成につながると
考える。
(3)
までの「発表して終わり」型の課題学習から,教室
新社会科のための提案
を飛び出しての直接体験や,地域への参加型の発信
前述した社会科授業の現状と課題をふまえて,新
する課題学習に取り組ませることによって,より主
学習指導要領は ,三分野とも ,キーワードとして「多
体的に 「思考力 」や「判断力 」が育成できると考え ,
面的・多角的 」
「考察する」をあげている。目標の全
本テーマを設定した。
体としては ,「関心を高め」たのちに ,「資料活用」
<研究仮説>
により ,
「多面的・多角的」に「考察」させる。とい
課題解決学習においてインターネットを活用した
う構造である。
り,発信型の課題学習を取り入れることによって,
関浩和( 1999)は,知識と子どもの思考形成の類
より主体的な「思考力 」
「判断力」が養われていくだ
型(図1)で,自分の経験や記憶を再構成する再生的
ろう。
思考と,想像力を喚起して創造へと向かう創造的思
考を対立軸として位置づけ,2つの側面から新社会
Ⅱ
研究内容
科への提案をしている。つまりこれから求められる
社会科がとして ,
「問題解決の方法原理を思考する授
- 25-
業」への転換を提案しているが,いいかえれば設定
課題を発見できる力をきたえなければならないとい
された問題が解決して終わりではなく,子どもの意
うことから,自己の考えを構築するための工夫とし
見や思いが何らかの形になって外部(一般社会)に
て学習の三段階の展開を図2で示した。このことか
発信することが重要になってくるのである。
ら課題設定の時間を十分にとり,子ども一人一人の
科学的知識
疑問(問い )を重視して ,
「なぜ ,そう思うのか 」や ,
系統主義的
社会科
新社会科
再生的思考
「どうしてだろう」という,そのもとになる経験を
関連づける指導が必要である。
創造的思考
社
経験主義的
生活科
社会科
課
会
総合的な学習
題
把
握
事実確認
基礎・基本
課題の設定
的
実用的知識
図1 知識と子どもの思考形成の類型
事か
追
究・ 考
察
主体的な学習
象か
関
連
考
課題解決学習
思
とわ
(関 ,1999)
のり
2 課題解決における思考力・判断力育成のポイント
自己の考えの構築
思考・判断
社会認識
価値の活動
かつてその活動が「はいまわる社会科」と批判さ
表現・発信
図2 学習の三段階の展開
れた問題解決学習が,思考力の育成にかかわって再
(宮城県仙台市立台原中学校, 1999 改変 )
評価されようとしている。しかし,その方法におい
て注意しなければ結局,誘導された課題,発表する
( 3) 集団思考(
ねりあい)の場面をつくる
ことだけが目的の学習になってしまいかねない。
これからの社会は,討論の場で活発に意見を述べ
そこで,課題解決における思考力・判断力の育成
のポイントとして次の4つの点をあげることとした 。
合い,みんなで知恵を出し合って生産的に問題を解
決していく態度・能力が要求されるだろう。
(1 ) 「
自分に生かせる」
課題づくり
子どもたちが教師の指導,支援のもとで自分のみ
教師が生徒に「課題をみつけなさい 」と言っても ,
つけた課題を追究する,その過程の中で相互に助け
子どもたちはそうそう課題をみつけられるものでは
合うことや,時には競い合ったり認めたりするよう
ない。それは教科書の学習内容が,身近に感じられ
な,ねりあう場面が必要である。そんな経験の積み
ず,子どもにとってはリアルでない,ただ教科書に
重ねがそれぞれの良さや持ち味に気づき,それを生
アンダーラインをひいて覚える,結局テストのため
だけの知識に興味がない,課題がみつからない,と
かして自己課題をやり遂げようと意欲的になるはず
である。
(4 ) 「
思考・判断」
の評価
いう図式が自然に出来上がってしまったのではない
か。このことからも「課題」は,やはり子どもにと
思考・判断の評価は,思考の対象となる社会的事
って身近な問題であり ,実際に解決を迫られるもの ,
象と,思考の主体となる学習者(子ども)とのかか
子どもの直観,予想,仮説を大事にしなければなら
わりで成立する。そこでこれを評価する場合,学習
ない。そのことが自分の体験と結びつき,具体性を
者が社会的事象に対してどのように考えているか,
感じるような「自分に生かせる」課題となるはずで
という点を的確にとらえる必要がある。その評価の
ある。
方法としては次の点があげられる。
(2 ) 「
課題発見力」をきたえる
・学習者の表情や態度の観察
一般的に,課題解決学習の過程は「問題把握→問
題追究→問題解決→発展」であるが,ややもすると
・発言,つぶやきの検討
・ノートや作品の分析
型にはまった指導や,教師の誘導による課題解決に
また判断の評価においては,( 2)で述べた自己の考
なりやすい。しかし,一方で課題は子どもたちの追
えを構築するための工夫との関連から学習者自身の
究に応じて,度々変更されることも予想され,課題
学習過程における反省や,たとえばある事象に対し
として成りたつかどうかの不安もでてくる 。教師は ,
て賛成か反対か,今の自分に何ができるか,行動の
そのところを十分留意しなければならない 。そこで ,
意図を問う等,自己の変容や意志決定がみえるよう
子どもたちに思考のプロセスを把握させることと,
な工夫をさせることが必要である。
- 26-
3
インターネットと発信型課題学習
(1 )
ージを検索して,それをまとめる作業に変わっただ
新学習指導要領にみるインターネット
けにすぎない。そうならないためにも,インターネ
新学習指導要領では ,
「各教科の指導に当たっては ,
ットで調べ学習をする場合は,場所の確保と時間を
生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの
かけることは言うまでもなく ,
「何のために調べるの
情報手段を積極的に活用するための学習活動の充実
か」という課題に対する切実感と見通しをもつとい
に努めるとともに,視聴覚教材や教育機器などの教
材,教具の適切な活用を図ること」と積極的に活用
うこと,また情報を活用するためにリンク集や学び
方など,その手だてをすることも必要である。
(4 )
することが示されている。また,全教科の「内容」
発信型の課題解決学習
または「内容の取扱い」にも情報に関連する何らか
これまでの課題解決学習は,確かに主体的に調べ
の記述がみられることが,今回の学習指導要領の大
学習をして,課題をみつけていた。しかし,そのほ
きな特徴と言える。
とんどがいわゆる「発表して終わり」であった。は
課題解決学習で,それを支援する情報がインター
たして本当にこれでよかったのだろうか。
ネットで得られるようになったことは,教科書や資
苦労して調べてようやくわかった,まとめたもの
料集だけでなく,何よりも新しい情報が教科の学習
であれば,これをぜひ,多くの人に伝えたいという
に役立てることで今後は,ますます重要な視点とな
気持ちが出てきてもいいはずである。このことから
るであろう。
も今後は,創造的な思考形成による「発信型の課題
(2 )
インターネットの役割
学習」でなければならないと考える。発信型とは,
これからの学校教育は ,
「生きる力」を育むために
受信型の知識ではなく,自分の頭で考えて課題をみ
自ら学び ,自ら考える教育への転換が図られている 。
つけ,それに対する答えを自分の仲間に発信,社会
そのねらいの方法のひとつに,インターネットが
に発信し,広く言えば国際社会に発信できる「発信
あげられる。インターネットは,課題解決の力を育
型の知的な力」と言える。
てる上で,その力を大いに発揮することと考える。
以下,インターネットのもつ機能を3つあげた。
①
そのためには「調べる 」にあたって取材をしたり ,
インタビューをしたり,現実の社会事象への直接参
情報収集機能
加など ,
「体験」を通して,さまざまな情報源に自分
課題解決学習では,資料をさがす道具として図書
から積極的に働きかけていくわけである。そしてそ
館の本や,新聞記事があるが,インターネットを使
の「体験」が,インターネットで調べた情報との比
うことでその時間や,労力が大幅に短縮される。
較によって,それぞれの情報源との実際の温度差を
また,子どもたちが一斉に同じ資料を手に入れる
ことができる。
② コミュニケーション機能
体感することで発信する能力や態度が身につき,自
分なりの思考力・判断力が育つはずである。
Ⅲ 指導の実際
ネット上の情報にかかわることで,意見や感想な
どの交流や,いろいろな価値観等,ものの見方の多
様性を知ることができる。
③
1 単元名
情報発信機能
2 単元について
インターネット上で学習した結果(成果)をホー
(1 )
ムページで公開し,自らの意見表明することで,主
体的に情報社会への参加ができる。
(3 )
「身近な地域」
新学習指導要領とのかかわり
新学習指導要領は,全体構成から見ると三つの大
項目からなり ,「( 1 )世界と日本の地域構成 」
「( 2)地
インターネットの利用上の留意点
域と規模に応じた調査 」
「( 3 )世界と比べて見た日本 」
課題解決学習において,インターネットは今後,
となっている。
そのベースになると言えるが,一方では問題点もあ
ることを認識しなければならない。
本実践では,大項目( 2 )の中項目「身近な地域」を
取り上げ,生徒が校区及び地域周辺を調査し,課題
それは,あまりの情報の多さから子どもが何を選
を見つけ,インターネットによる資料の収集や,課
んでいいのかわからず ,
「つまらない 」「インターネ
題の追究・考察をまとめたり発表する,主体的な学
ットも本も同じ」になってしまうことである。イン
習活動を展開させ,地域的特色をとらえる視点や方
法などの学び方を身につけさせたい。
ターネットが調べるだけのツールになってしまい,
結局図書館で調べた本をまとめる作業が,ホームペ
- 27-
(2 )
指導観
域の人々との交流を図ることで地域社会の一員とし
これからの地理的分野の学習指導は,地理的特色
ての自覚や,地域社会の創造していく態度や,能力
を単に覚えるのではなく,地理的特色をとらえる技
の育成につないでいきたい。
能を培う指導を行うことが大切だと考える。そのた
3
(1)
めには,地理的技能となる地図の見方やフィールド
ワークの手法を身につけさることが必要である。ま
た地域的特色をとらえ,その成果を「生きる力」と
目標
地域調査など,具体的な活動を通して,生徒
が活動している地域に対する関心を深め,市町村規
模の地域的特色をとらえる視点や方法を身につける 。
(2)
するために,学習していく過程の中で家庭や地域社
様々な資料を適切に選択・活用して,各自の
会の人々の声を取り入れたり,その学習成果を家庭
課題を多面的・多角的に考察し,公正に判断すると
や地域にフィードバックできる活動を積極的に行う
ともに,適切に表現・発信する能力を身につける。
ことが必要である。このことからグループ学習を行
うことで生徒相互のかかわり合いを深め,生徒と地
4 指導計画 (全 12 時間)
段階
時間
学
習
内
容
活動形態
○ 那覇市知ってるつもり?
1
課
※教師の支援
・ワークシートに各自の持つ那覇市のイメージを
那覇市のイメージ
自由に書かせる。
那覇市は,○○なところです。
○ 地域を調べよう
2
の
【関心・意欲】
・那覇市の位置,地域的特色をインターネットで
調べる。
題
・評価
【技能・表現】
・白地図を使って読みとり方を学ぶ。
地図のきまり
・前時で調べた資料をもとに自分のことばで紹介
他府県に住んでいる友達に自分の
する。
【思考・判断】
住んでいる地域を紹介しよう。
設
○ 課題をつくろう。
3
定
・班ごとにテーマ(課題)を設定し,調べたいこ
班をつくって課題を設定する。
とや疑問に思ったことを話し合う。
学習計画を立てる。
【思考・判断 】
【関心・意欲】
調べる方法を考える。
※直感的発想の重視,ひとりひとりが課題を明確に
持ち,意欲的になっているか。
○ テーマ検討会
班で設定した課題を発表しよう。
課
4
題
○ 聞き取り調査のマナーについて
・班ごとに課題,学習計画を発表し意見を出し合
う。
【技能・表現】
※ 仮説や学習計画をたて,見通しを持って進めら
確認しよう。
れるようアドバイスする。
○ 課題の追究
の
5
・各自の課題についてインターネットで情報を収
野外調査やインターネットで課題
集する。
【技能・表現】
を追究しよう。
目的に応じて情報を収集できたか。
※ インターネットでの情報の収集や,手紙や電話
での取材・インタビューの方法を指導する。
○ 課題の追究
追
6
※ マナーやルールを守って迷惑にならないように
取材活動及び野外調査
指導する。
情報収集
意欲的に課題に迫ることができたか。
【関心・意欲】
究
○ 中間報告会
7
※ お互いが意見を出し合い,ねりあうことでより
これまでの調査結果を報告しよう 。
切実な課題をつくりあげられるよう助言する。
・課題について再吟味し,場合によっては再調査
を行う。
【思考・判断】
・発表会にむけての準備をする。
- 28-
○ 課題追究
8
・課題の修正や補足,追加取材などを行う。
班で課題について解決案を話し合
・インターネットで収集した情報や仮説とのズレ
おう。
を検証する。
○ 課題のまとめと発表会の準備をし
【技能・表現】
・課題についてきちんと解決案がまとめられたか
9
よう。
整理する。
10
地図や資料も活用し,取材を通し
てわかったことと関連づけて報告
・未解決の課題について,図書館なども利用させ
る。
書にまとめよう。
・班で苦労した点,強調したいところを工夫させ
○ 課題のまとめと報告会にむけて準
【思考・判断】
る。
【技能・表現】
備をしよう。
成
果
○ 成果報告会(本時)
・班ごとに解決した課題を発表する。
11
【技能・表現】
の
・各班の発表を聞いてわかったことや質問や意見 ,
発
感想などを自分の考えと関連づけてワークシー
表
トにまとめる 。
○ 学習成果のまとめ
ま
12
と
・報告書にまとめることで自分の学習の過程をふ
共通の課題 についてみんなで考え
りかえり,学習の成果や変容に気づくことがで
よう。
きるようにする。
解決案について行動化する。
【思考・判断】
※ オープンエンドの意志決定ができる討論の場と
・ホームページの発信
め
【思考・判断 】
なるようにアドバイスする。
・意見書の提出
・パンフレットの作成
授業の考察
5
ら課題を共有する意識が高まったと考える。
(2 ) 集団思考(ねりあい)の場面において
生徒が課題追究する過程で,インターネットを活
用し,発信型課題解決学習に取り組むことでより主
テーマ検討会や中間発表会を持ったことで,お互
体的な「思考力 」「
・ 判断力」が育つであろうという
いが質問やアドバイスをしあい,新たなる疑問や課
仮説のもと,授業を計画してきた。ここで指導の段
階に沿って生徒の変容から考察したいと思う。
題が見つかり ,フィードバックする部分が出てきた 。
また,発表することで他者を意識し,自分の考えを
(1 )
課題設定の段階
相手にわかりやすく説明しようと班で打ち合わせを
6つの班がそれぞれ課題を設定したが,最初は何
したり,役割分担をすることでねりあいの部分も深
を課題にしていいのかとまどう生徒もいた。そこで
まったと考える。また成果報告の際,他の班のよか
課題を設定する視点として「地域の特色 」
「地域の変
ったところを書かせると以下のようになった。
化」
「地域の課題」を柱に,自分たちが身近に感じる
調べる方法
(
)は人数
ものを課題にするよう助言したら次のようになった 。
○インターネットでよく調べていた 。
( 15 )
○ 新都心について(りうぼう)
○電話でインタビューしていた 。
( 12 )
○ 新都心について(TSUTAYA)
○聞き取り調査をしていた。( 17 )
○ 安里地区の変化
発表の方法
○ 栄町市場について
○新聞にしてよくまとめていた。( 4)
○ 国際通りについて
○とりのこ用紙でよくまとめていた。( 17 )
○ 校区内のコンビニについて
○パワーポイントを使っていた。( 16 )
課題によっては,あまり深まりのないものもあっ
○ホームページを作ってた。( 4)
たが,あくまで生徒たちの視点で取り組ませること
発表の仕方
にした。学習後のアンケートでは,男女あわせて 82
○声が大きかった。( 16)
%がすすんで課題に取り組んだと答えていることか
○原稿を見ないで発表していた。( 18 )
- 29-
このように考える場や発表する場を設定すること
で,課題のおもしろさや他者のよさ,意見を取り入
したいという思いからホームページの作成や商店街
マップを作成した。
れながら自分なりのものの見方や,考え方を確立し
ていったと考える。
(3 )
また,安里地区の変化を調べた班は,那覇市内の
交通環境を通して,モノレールにかける期待と不安
インターネットの活用から
など,那覇市長に電話でインタビューする企画まで
インターネットでの情報収集では,複数の検索サ
イトを利用し ,ホームページまで作る班が出てきた 。
また,内容を吟味し,うまく発表していたことか
考えていた。それが,成果報告会当日,市長自らが
授業に参加してくれて生徒たちの質問に答えてくれ
るという,予想外のうれしい展開になった。
(5 )
らもインターネットの活用は大いに役立っていたと
検証授業を終えての感想から
思われる。学習後のアンケートでは,1学期と比べ
授業の最初の段階で ,
「那覇市のイメージ」や「地
て男女あわせて 69 %がよくできたと答えている。さ
域の紹介」を,県庁や国際通り,新都心等,著名な
らに生徒の中には検索できなかった課題を,自分の
場所をあげることにとどまるだけだったが,授業を
力で予想を立て,他の方法で検証することで,思考
終えて那覇市のイメージが変わったかを尋ねると,
力・判断力をより確かなものにしている生徒もいた 。
全員が変わったと答え,地域への意識の高まりを感
この生徒は「最近,安里地区にマンションの建設が
じた。以下,生徒の感想を書いた。
多いのはなぜだろう」という課題から,この地域に
私は栄町市場を調べてみて感じたことは,栄町
新都心や大型スーパーがあり交通の便がよいという
市場にもっとお客さんが来てくれたらいいなあと
条件に気づく。しかし,この地域が必ずしも交通環
思いました。りうぼうなど大型スーパーとの競争
境の面でよいとはいえないことから ,
「信号機の謎」
は大変だけど,お互いがうまく成り立っていける
へと追究が始まり,思考の深まりを感じた。
ようになればと思いました。また私たちも,地域
以下,生徒のワークシートの一部を示す。
のことをもっと知るべきだと感じました。ホーム
予想としてこの通りの信号機が短い(歩行者の
ページを作ってよかったと思います。栄町はあっ
渡る時間)のは,時間が長いと交通渋滞をまきお
た方がいい 。
(M子さん )
こすからだと思う。
Ⅳ
結果
まとめと今後の課題
沖縄県警交通管制センターに電話で問い合わせた
ところ,まず安里地区を通る車の台数が1日平均
インターネットを活用して,生徒が主体的に課題
34,320 台ということがわかった。ちなみに那覇市
に取り組み,実際に地域を取材をしながらそこで住
で最も交通量の多いところは泊交差点の1日平均
10 万台だということがわかった。このことから信
む人や働く人たちの声を聞き,自分たちの考えをま
号機の青が早く変わるのは交通量の多い交差点ほ
いえる。
とめ,発信することで思考力・判断力が高まったと
ど渋滞を緩和させるため,信号機の時間を調整し
反省として,コンピューター操作の不安な生徒へ
ていることががわかった。
の教師の支援が不十分であったこと,また放課後の
(4 )
時間がうまく活用できなかったこと,課題について
発信型の課題解決学習を通して
生徒たちはインターネットで得られなかった情報
の追究意欲をいかに持続させるかが課題となった。
を,企業や市役所に電話を入れ教えてもらったり,
今後はさらに生徒が課題と地域的特色との関連に
直接現地で,取材活動をしたりして,追究意欲を高
気づき,広がりを持って追究できる眼が持てるよう
めていった。特に栄町市場を調べた班は,地域の人
な指導と生徒が興味を示す教材の工夫に,力を入れ
々とのふれあいを通して出てきた「課題」を何とか
ていきたい。
<主な参考文献>
波
巌
2000 『 意志決定の力がつく問題解決学習』
宮城県仙台市立台原中学校
関
中元
浩和
順一
1999 『中等教育資料』№ 735
明治図書
文部省
1997 「豊かな興味・関心や発想を育てる授業づくりの課題 」
『社会科教育』№ 438
1996 「思考力を育てる授業づくり 」
『教育じほう』№ 581
東京都立教育研究所
- 30-