植込み型除細動器の現状と展望

植込み型除細動器の現状と
展望
臨床応用に至る歴史とICD施行適応例、そして臨床成績にみる
現状と問題点さらに将来の展望
.癖(
はじめに
近年、不整脈による心臓急死が注目され、米国
においては、年問三〇∼四五万人が心臓急死を経
験し、その七〇∼八○%が死亡し、さらにその八
○∼九〇%は心室性頻脈性不整脈によると考えら
れている。そのため、心室性頻脈性不整脈に対す
る薬物療法のみならず非薬物療法︵手術、カテー
テルアブレーションおよび植込み型除細動器二日−
巳鋤艮餌醒Φ8こδくR9賊号臣ぼ三象9“ICD︶は
の唯一の治療法である電気的除細動器を体内に植
著しい進歩を遂げた。とくに、心室細動︵VF︶
込み︵言巳き鼠包Φ︶、自動的に放電する︵き8−
ヨ讐ごICDの開発は画期的といえる。わが国で
は未だ治験中であるが、今後の難治性持続性VT
/VFに対する一器汀ぎ凶8の治療法として普及さ
れていくものと考えられる。
本稿では、ICDの歴史、適応、成績、合併症
ついて述べる。
および自験例を中心に、ICDの現状と問題点に
CLINICIAN,93No.418100
特集・不整脈のプライマリーケア
宏
碍
貝
笠
認 衡N
l
は非開胸時における交流通電による除細動が行わ
電気的除細動の臨床応用は、一九四七年に開心
植込み型除細動器の歴史
除細動器や長期植込み実験などが試みられている。
実験モデルに成功し、経静脈性カテーテルによる
提唱に始まる。そして一九六九年には、イヌでの
ICDの概念は古く、一九六〇年の家一8≦ωζの
1986Ventak AICD植込み
1985FDA認可
1988 Ventak1550
1991∼第3世代ICD
1990 Ventak P
八五年にはFDAの認可を受けている︵表①︶。感
知機構や大きさなど種々の改良により、プログラ
ム機能を有する機種く①旨葵一観ρくΦ暮接℃など
︵第二世代と呼ばれる︶が開発され、その植込み例
数は急激に増加し︵図②︶、一九九一年には一五〇
〇〇例に達している。さらに心外膜パッチではな
く、皮下電極や経静脈性電極を用いる非心外膜リ
ング機能やバックアップペーシング機能を有し、
ードシステムによる機種、あるいは抗頻拍ぺーシ
メモリー機能を有する機種が第三世代として開発
され、欧米ではすでに臨床試験が開始されている
︵図③︶。その機種には、℃Ou山一︵三a貸○巳。社
(215)
101CLINICIAN,93No.418
術時のVFへの交流通電に始まり、一九五六年に
(AID−B,BR)
その臨床応用は、一九八○年米国ジョンズホプキ
1980 臨床における植込み成功(AID)
ンス大学で、第一例目の植込みに成功している。
1982 カルディオバージョン機構の開発
れている。一九六二年、[○≦pらはCCUにおける
1976 イヌ実験における植込み成功
VFに電気的除細動を行い、さらに交流通電より
1960植込み型除細動器の概念
その後カルディオバーター機構も開発され、一九
1969実験モデル成功
1970経静脈性カテーテルによる除細動
も直流通電が有効であることを明らかにしている。
①植込み型除細動器の歴史
製︶、くΦ 旨 接 ℃ 菊 図 ︵ O 霞 社 製 ︶ 、 ○ 舞 巳 一 弩 > ↓ ℃
床試験が開始され、さらに一九九一年一〇月には
性頻脈性不整脈に対する手術療法施行症例で、術
らず、自然に出現する再発性持続性VT、④心室
VTである。さらに③抗不整脈薬投与にもかかわ
で、持続性VTあるいはVFが誘発される再発性
除く︶、②抗不整脈薬投与時の電気生理学的検査
心停止が生じた場合︵急性心筋梗塞によるものは
かかわらず、少なくとも一回、VFやVTによる
しては次のごとくである。①抗不整脈薬投与にも
適応は拡大され、FDAで認められている適応と
CDの開発と改良およびその成績から、最近その
下に出現︶を有する症例でもあった。しかし、I
くとも一回は有効と考えられる抗不整脈薬の投与
初期の適応は、二回以上の心停止の既往︵少な
植込み型除細動器の適応
第三世代に属するPCDの臨床試験が開始されて
AJCDTM
ウ
1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989
命さ︵↓色gqO巳8社製︶、く山。。︵く窪巳震社
VENTAKR
のぢΦ罵α3雪︸oおつεコZ
FDAAPPL↓
いる。一九九三年には、厚生省に認可され、市販
↓
↓
AD
CLINICIAN,93No.418102
(216)
一遭町
されることが期待されている。
VENTAK1550
製︶、ω一 Φ o 貫 Φ ︵ ω 凶 ① e 9 ω 社 製 ︶ な ど が あ る 。
新規植込み例の変遷(文献8))
わが国では一九九〇年一月からくΦ旨躊℃の臨
②1980年から1989年までの植込み型除細動器の
後にVF、VTが誘発された場合、⑤薬物療法に
によって評価され、そのため多数症例についての
植込み型除細動器の成績
長期問追跡調査が必要である。↓ぎヨ霧らの三六
ICDの成績は、VF、VTによる急死の予防
わが国においても、日本ぺーシング学会ICD
一〇例の報告によれば、平均一二・ニカ月の追跡
もかかわらず失神発作を 繰 り 返 す Q T 延 長 症 候 群
に関する 小 委 員 会 に よ り 同 様 の 適 応 基 準 が 提 案 さ
調査で、全死亡例は三五八例で突然死九四例、心
などである。
れている。しかし、今後第三世代のICDの普及
ぎない。また経静脈性リードシステムでは、追跡
七%、九八・一%であり、突然死は一・二%にす
カ月の追跡調査で、VF、VTへの有効率は九七・
る臨床成績では、心外膜リードシステムでの一一
えないが、わが国で治験中のPCDの欧米におけ
第三世代のICDの長期成績は未だ十分とはい
期成績と、ICDの成績を比較したものである。
図④は電気生理学的検査に基づく薬物療法の長
○%、八九・七±四・○%である。
○・七%、九三・七±一・○%、九三・七±一・
二∼六年では各々九六・五±○・五%、九五・二±
臓死一九一例、非心臓死二五例である。突然死に
本体
により、その適応はさらに増大していくものと考
チ\
ツ
パ
下
皮 一
’ 一
右室電極
上大静脈電極
レ態影、
(217)
103CLINICIAN,93No.418
対する累積生存率は、一年で九八±○・三%に、
非開胸リードシステム(上大静脈、右室
電極と皮下パッチ)と本体
えられる。
③第3世代植込み型除細動器の実例
④電気生理学的検査による抗不整脈薬治療および植込み型除細動器
による心臓急死
50%
Nonresponders
61%
70%
一<>H>餌Pの↑Z国Q山山山
期間は四・五カ月と短いが、VF、VTへの有効
率は九九・二%と高く、突然死は認められていな
い。
植込み型除細動器の合併症
ICDの新規植込みにおける三〇日以内の死亡
率は一・二∼四・四%である。≦ぎ匹Φらによれ
ば、二四時間以内の死亡八例を含む四〇例が三〇
日以内に死亡している︵三・九%︶。そのうち九例は
突然死、二二例は心臓死、九例は非心臓死である。
また、PCDにおける心外膜リードシステムの
ドシステムでは○・三%と有意に低く、後者が侵
手術死が五・四%であるのに対し、経静脈性リー
襲度において優れていることを示している。シス
テムの合併症としては感染、誤放電、リード断線、
心のう液貯留、除細動閾値上昇などがある。経静
脈性リードシステムの合併症としては、リード位
置異常が一三・二%と高い︵︵冠静脈洞︶CSリー
ド六・三%、︵上大静脈︶SVCリード四・七%、
C:LINICIAN,93No.418104
(218)
Noninducible
81
76%
0 0 0 0 0 0 0 0
幽 甑一一1 臨鑑
0
10
0 12 24 36 48
FOLLOW−UP MONTHS
累積生存曲線を示す。上段から植込み型除細動器症例(ICD)、電気生理学的検査による
抗不整脈薬有効症例(responders〉、心室頻拍誘発不能例(noninducible)、抗不整脈薬無
効例(nonrespondevs)(文献9))
98765432
98% 98% 94%
98% 93% 88%
不整脈:VF1例、VF/VT4例、VT12例、
基礎疾患:心筋梗塞7例、拡張型心筋症4例、
不整脈源性右室異形成2例、
肥大型心筋症1例、
明らかな心疾患なし3例
左室駆出率:13∼72%、30%以下8例
臨床成績は近く報告されるものと考えられる。
当施設では、一九九〇年一月から一九九二年五
動器が作動しており、心臓急死は認められていな
い。急性期合併症としては右室穿孔一例、誤作動、
心外膜炎、低心拍出症例群である。また作動によ
る不快感に伴う強い不安感を有する症例もあり、
精神面での管理も重要と考えられる。
PCD植込み一七例中二二例︵七六%︶では経
静脈性リードシステムが成功しているが、,二例で
は経静脈性システムが不成功のため、心外膜リー
ドシステムに変更されている。その原因は右室穿
孔一例と除細動閾値高値一例である。他の二例は
不整脈源性右室異形成で、右室の低電位のため感
知不全を起こし得ることと、o曙8巨魯8による
不整脈手術との一期的手術を目的として、心外膜
リードシステムが選択された。経静脈性リードシ
(219)
105CLINICIAN,93No.418
︵右室︶RVリードニ・二%︶。
年齢:32∼68歳
月まで、くΦ昌葵℃は六症例、PCDは一七症例に
PCD植込み例
植込み型除細動器自験例
左室駆出率:15∼70%、30%以下2例
植込まれている︵表⑤︶。人工弁置換術後の一例が
基礎疾患:弁膜症2例、特発性VF4例
わが国における臨床試験では、くΦ日接℃は二七
不整脈:VF3例、V F/VT1例、VT2例
九カ月後に心不全のため死亡したが、三例で除細
Ventak P植込み例
年齢:19∼56歳
症例、PCDは三四症例に植込まれており、その
⑤当施設におけるICD植込み症例
能 機
ン
ヨ
ジ能
︶一機
能バム
機オラ
動ジグ
細ルロ
除カプ
望 ︵︵
展 代代
の 世世
り ℃ 第第
12,000例
500施設
わが国における
長期成績
抗不整脈薬の限界
カテーテルアブレー
ションの限界
手術療法の限界
植込み例の長期成績
第3世代の開発
(醗野)
ステムでは右室電極︵陰性︶、上大静脈電極SVC
︵陽性︶、皮下パッチSQ︵陽性︶によるω8器旨芭
窟一紹法が六例、SQ︵陰性︶、SVC︵陽性︶、S
Q︵陽性︶によるω言巳$器拐讐一8法が一例であ
る。一七例中二一例で除細動器は作動しており、
全例生存している。
植込み型除細動器の展望︵図⑥︶
ICDは第一世代、第二世代の時期を経て第三
世代の機種が開発され、抗頻拍ぺースメーカー機
能を持つことにより、その適応はリエントリー機
序による持続性VTへと拡大すると考えられる。
また非心外膜リードシステムの導入により、開胸
術は不要となり、さらに適応は拡大すると予想さ
れる。
近い将来、除細動に要する最小エネルギーを低
と電池寿命の延長が期待される。また不整脈感知
下させる除細動方法の開発により、さらに小型化
のアルゴリズムの改善も期待されよう。しかし、
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(220)
⑥
↓
小型化
電池寿命延長
ICD適応拡大
↓
(新たな医学的、経済的、社会的問題)
現在その進歩過程にあること、その合併症も少な
一、一九九一
の笠貫 宏”植込み型除細動器、臨床と研究六八二一
這OoO
。&犠旨霞Φも︾O国一一る8♪
ωΦ一Φo瓜8︶H冨ω什もおω①昌9
ゆ]≦o名Φぴ]≦冨こ曾巴。H>HOU貯象o簿一〇房︵℃節6一①艮
くないこと、および本法はVT、VFの停止を目
的とするもので予防効果 の な い こ と な ど 、 そ の 限
界を認識することが大切である。したがって、I
CDの適応決定に当たっては、VT、VFの予防
を目的とする薬物療法︵アミオダロンを含む︶、手
術療法、およびカテーテルアブレーションの現状
と展望をも十分考慮して慎重に検討することが重
の≦ぎ匹ρ勾>こ①け90一。”↓﹃ΦQ舞oヨ9
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︵東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所
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一〇〇〇〇
要である。そして患者に十分説明し、承諾を得る
助教授 循環器内科学︶
心臓ぺーシングニH四三七、一九八六
D笠貫 宏”持続性心室性頻拍に対する薬物治療の検討、
文献
蝉℃蜜ooヨ℃費①α≦一9一ヨ巳Qo$σ一〇〇貰良9<①旨R−α①暁や
の↓﹃o仁P℃廿勺8閃轟ヨヨΦαω鉱ヨ三讐一〇ロー閃三〇Φα誓①﹃−
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鋤Z一ω蝉Pωこ9巴﹂OUo一凶巳8一唇α讐Φ鳳房梓αΦo包ρ
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σユ=象o﹃α①≦o①叶げRg
o℃くぎ辞げΦ﹃①象ヨ①暮o︷
勿笠貫 宏“頻脈性不整脈に対する非薬物療法の適応お
よび長期成績、心臓ぺーシング六”六二八、一九九〇
二九一四、一九九二
の笠貫宏”カテーテルアブレーション、鋸aす轟二九
(221)
107CLINICIAN,93No.418
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