演習問題10

微分方程式Ⅰ 演習問題 10
2015 年度前期
工学部・未来科学部 2 年
担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教)
確認問題 10. (定数係数 2 階線形微分方程式: 非斉次の場合Ⅰ)
以下の微分方程式の一般解を求めなさい。
※ 別紙「未定係数法に於ける解のおき方」も参照のこと。
※ 未定係数法 の計算はとにかく 慣れる ことが重要なので、本問に限らず手持ちの教科書等の問題も積極的
に解いてみること!
(1)
(3)
(5)∗
y ′′ + 3y ′ + 2y = 2x2 + 4x − 3
y ′′ − 4y ′ + 3y = −e2x
y ′′ + 6y ′ + 9y = xe−3x
(2)
(4)
(6)∗
y ′′ − 2y ′ + 2y = sin x + 2 cos x
y ′′ − y ′ = −2x − 1
y ′′ + 2y ′ + 5y = e−x cos(2x)
[(6) のヒント: y = xe−x (A cos(2x) + B sin(2x)) とおいてみよう]
チャレンジ問題 10.∗ (RLC 直列回路)
[計算はやや繁雑, 電気系の必須教養]
R
L
電気抵抗 R の抵抗器、自己インダクタンス L の
コイル、静電容量 C のコンデンサーを直列に繋いで
C
外部交流電力に接続した回路を考える (このような
I(t)
回路を RLC 直列回路 と呼ぶ)。抵抗器 R に (時刻
に依存する) 電流 I(t) が流れるとき、オーム*1 の法
則 により RI(t) だけ電圧が降下することが知られて
V (t)
いる。またコイル L に電流 I(t) が流れると、ファラデー*2 -レンツ*3 の電磁誘導の法則 により電流
dI
dI
に比例する誘導起電力 L
が、電流の流れを妨げる方向に発生する。最後に、コン
dt
dt
デンサ C に蓄えられている電荷を Q(t) とすると、静電容量の定義からコンデンサ C の両端の電圧
Q(t)
差は
となる。
C
以上の事実と キルヒホッフの電圧降下則 (キルヒホッフ*4 の第 2 法則) を併せると、外部起電力
の時間変化
の大きさを V (t) で表すとき
L
dI
Q
+ RI +
= V (t)
dt
C
1
······ ⃝
1 の両辺を t で微分して、電流が単位時間当たりに流れる電荷であることから自然
が成り立つ。式 ⃝
に得られる式
dQ
= I(t) を用いると、電流 I(t) と時刻 t に関する 非斉次 2 階線形微分方程式
dt
L
d2 I
dI
1
+R
+ I = V ′ (t)
2
dt
dt
C
が得られる。
*1
*2
*3
*4
Georg Simon Ohm (1789–1854)
Michael Faraday (1791–1867)
Heinrich Friedrich Emil Lenz (1804–1865)
Gustav Robert Kirchhoff (1824–1887)
2
······ ⃝
外部起電力の大きさを V (t) = V0 sin(βt) (V0 は定数) とするとき、以下の設問に答えなさい。
2 の同伴方程式 L
(1) 微分方程式 ⃝
dI
1
d2 I
+R
+ I = 0 の一般解を求めなさい。特性方程式の
2
dt
dt
C
解の種類に応じて場合分けすること。
(2)
∗
2 の同伴方程式の解を計算しなさい。
初期条件 Q(0) = Q0 , I(0) = 0 の下での ⃝
(3) (1) のいずれの場合でも、抵抗 R 及び自己インダクタンス L が 0 でないならば、(初期条件
によらず) 時刻 t を大きくするにしたがって補関数 (同伴方程式の解) が 0 に収束することを
確かめなさい。
2 の特殊解 I0 (t) に収束する (定常
(4) (3) より、R, L > 0 ならば I(t) は十分時間が経った後には ⃝
状態) ことが分かる。未定係数法を用いて I0 (t) を求めなさい。また、適当に R, L, C, V0 , β 等
の値を定めて、V (t) と I0 (t) のグラフの概形を書き、その様子を比較しなさい。
(5) 特殊解 (定常解) I0 (t) の最大値が最も大きくなるときの外部起電力 V (t) の角振動数 β を求
めなさい (この状態のとき RLC 直列回路は 共振 resonance しているという)。また、そのと
き I0 (t) と V (t) はどのような関係になっているかを調べなさい。
オーム
キルヒホッフ
ファラデー
レンツ
回路理論 (+ 電磁気学 ) の礎を築いた人々
【略解】
確認問題 10.
(1) y = x2 − x − 1 + C1 e−x + C2 e−2x (C1 , C2 は任意の実数)
3
4
(2) y = cos(x) − sin(x) + C1 ex cos(x) + C2 ex sin(x) (C1 , C2 は任意の実数)
5
5
(3) y = e2x + C1 ex + C2 e3x (C1 , C2 は任意の実数)
(4) y = x2 + 3x + C1 ex + C2
(C1 , C2 は任意の実数)
※ y = Ax + B の形で計算すると行き詰まるので、 y = x(Ax + B) の形で特殊解を探そう!
(5) y =
1 3 −3x
x e
+ C1 e−3x + C2 xe−3x
6
※ y = (Ax + B)e
−3x
(C1 , C2 は任意の実数)
は補関数 (同伴方程式の一般解) であり、左辺に代入すると 0 になってしまう。
また y = x(Ax + B)e−3x でもまだ巧くいかない。したがって y = x2 (Ax + B)e−3x の形で特殊解を
探そう!
(6) y =
1 −x
xe sin(2x) + C1 e−x cos(2x) + A2 e−x sin(2x) (C1 , C2 は任意の実数)
4
※ y = e−x (A cos(2x) + B sin(2x)) は補関数 (同伴方程式の一般解) であり、左辺に代入すると 0 に
なってしまうので、 y = xe−x (A cos(2x) + B sin(2x)) の形で特殊解を探そう! (計算は相当面倒)
チャレンジ問題 10. 静電容量の C と紛らわしいので、本問ではパラメータとして A1 , A2 を用いる。
1
4L
= 0 であるから、その根は判別式 D = R2 −
で
C
C
分類される。
√
L
4L
2
, 即ち R > 2
の と き 、特 性 方 程 式 は 2 つ の 相 異 な る
(ケース 1) R >
C
C
√
−R ± R2 − 4L
C
実数根 λ =
を 持 つ の で 、同 伴 方 程 式 の 一 般 解 は
2
√ 2 4L
√ 2 4L
(1) 同伴方程式の特性方程式は Lλ2 + Rλ +
−R+
I(t) = A1 e
R −
C
2
4L
, 即ち R = 2
(ケース 2) R =
C
−R−
t
+ A2 e
√
2
R −
C
2
t
(A1 , A2 は任意の実数)。
R
L
のとき、特性方程式は重根 λ = − を持つので、
C
2
一般解は I(t) = (A1 + A2 t)e− 2 t (A1 , A2 は任意の実数) となる。
R
√
4L
L
, 即ち R < 2
の と き 、特 性 方 程 式 は 2 つ の 互 い に 共
(ケース 3) R <
C
C( √
)
1 4L
R
2
±
− R i を 持 つ の で 、一 般 解 は
役な複素数解 λ = −
2
2 C
(( √
(( √
) )
) )
1
1
4L
4L
R
R
I(t) = A1 e− 2 t cos
− R2 t + A2 e− 2 t sin
− R2 t
2 C
2 C
2
(A1 , A2 は任意の実数) となる。
dI
dI
1 より Q(t) = C(V0 sin(βt) − RI(t) − L
(2) 式 ⃝
(t)) だから Q0 = −LC (0) が成り立つこ
dt
dt
とに注意しよう。
(ケース 1) 電流に関する初期条件√A1 + A2 = 0 √
から A2 = −A1 となるので、 電流
2 4L
2 4L
I(t) は I(t) = A1 (e
−R+
R −
2
C
t
−e
−R−
R −
2
C
t
) と表せる。このとき I ′ (0) は
√
4L
と計算出来るので、電荷に関する初期条件 Q0 = −LCI ′ (0) を用
C
Q0
Q0
1
1
√
いると A1 = −
=−
と計算出来る。以上
·√
2
2
LC
L
R C − 4LC
R2 − 4L
C
√ 2 4L
√ 2 4L
R −
−R−
R −
−R+
Q0
1
C
C
t
t
2
2
√
−e
)
より I(t) = −
(e
2
2
L R C − 4LC
A1
R2 −
(ケース 2) 電流に関する初期条件より A1 = 0 となる。このとき I ′ (0) = A2 なので、電
荷に関する初期条件から Q0 = −LCI ′ (0) = −LCA2 が得られる。以上より
I(t) = −
Q0 − R t
te 2
LC
√
A
4L
2
(ケース 3) 電流に関する初期条件より A1 = 0 となる。このとき I ′ (0) =
− R2 で
2 √ C
あるから、電荷に関する初期条件より Q0 = −LCI ′ (0) = −LA2 4LC − RC 2
) )
(( √
1
Q0
1 4L
R
t
−
√
− R2 t
が従う。ゆえに I(t) = −
e 2 sin
L 4LC − R2 C 2
2 C
√
√
√
4L
4L
(3) (ケース 1) では L > 0 より R2 −
> R2 = R なので −R ± R2 −
< 0 が成り
C
C
立つ。このことは、同伴方程式の根 λ1 , λ2 がいずれも負の実数であることを意味するので、
t→∞
I(t) = A1 eλ1 t + A2 eλ2 t −−−→ 0 が分かる。
t→∞
t→∞
また (ケース 2), (ケース 3) でも、R > 0 より e− 2 t −−−→ 0 であることから、I(t) −−−→ 0 が
R
従う。
2 に代入すると
(4) 特殊解が I0 (t) = A cos(βt) + B sin(βt) の形であるとして ⃝
1
L(A cos(βt) + B sin(βt))′′ + R(A cos(βt) + B sin(βt))′ + (A cos(βt) + B sin(βt)) = βV0 cos(βt)
C
)
) )
)
(
(
((
1
1
2
2
A + βRB cos(βt) + −βRA + −β L +
B sin(βt) = βV0 cos(ωt)
∴
−β L +
C
C
であるから、係数を比較して
(
)
1
2
−β L +
A + βRB = βV0 ,
C
(
)
1
∴
−βL +
A + RB = V0 ,
βC
1
−βL +
βC
∴
A=
(
)2 V0 ,
1
2
R + −βL +
βC
(
)
1
−βRA + −β L +
B=0
C
(
)
1
−RA + −βL +
B=0
βC
2
B=
R
(
)2 V0
1
2
R + −βL +
βC
と求まる。したがって特殊解 I0 (t) は
V0
I0 (t) =
R2
と求まる。
(
)2
1
+ −βL +
βC
((
1
−βL +
βC
)
)
cos(βt) + R sin(βt)
R = L = 3, C = 1, V0 = 2, β = 1 としたときの I0 (t) 及び V (t) のグラフは以下のよう
になる (参考までに初期条件 Q(0) = Q0 = 30, I(0) = 0 での同伴方程式の解との重ね合わ
せ I(t) もオレンジ色で示した; かなり大きな初期値 Q0 に対しても I(t) が急速に定常電流
I0 (t) に収束していく様子が観察出来る)。
I, V
V (t) = V0 sin(βt)
I0 (t)
t
O
I(t)
※ この様に回路を流れる電流は急速に定常電流に収束してゆくことから、回路理論では非斉
次 2 階線形微分方程式の 特殊解 以外は殆ど扱われません。しかし、折角この手の微分方程
式が解けるようになったのですから、一度補関数の部分 (減衰部分) も含めて回路方程式の完
全な解を求めてみるのは非常に良い経験になると思います。また、そうした研鑽を積むこと
で、回路理論で導入されるより抽象的な諸概念についても一層理解が深まることでしょう。
注意 ここで右図の角度 ϕ を用いると、
βL −
1
R = cos(ϕ), −βL +
= − sin(ϕ)
βC
より 三角関数の合成 を用いて I(t) は
1
βC
v
(
u
u
tR2 + βL −
ϕ
V0
)2 sin(βt − ϕ)
(
1
R2 + βL −
βC
I0 (t) = √
· · · (♡)
1
)2
βC
R
O
と表すことが可能となる。この式は、RLC
/√直列回路に流れる電流が
(
『大きさは外部電圧の大きさ V0 の 1
R2
1
+ βL −
βC
)2
倍となり、さらに 位相 が
外部電圧と比較して ϕ だけ遅れる』
ということを表している。このことを、微分方程式などを解くことなく簡便に記述するため
に導入された概念が 複素インピーダンス complex impedance に他ならない。
√
(5) (♡) の表示式より、電流の最大値/最小値を大きくするためには
(
)2
1
R2 + βL −
を
βC
なるべく小さくすれば良い。抵抗 R の値を換えることは出来ないので、この値が最小
1
1
= 0 となるとき、即ち β = √
のときである。このときは
βC
LC
1
1
I0 (t) = V0 sin(βt) = V (t) となるため、外部起電力が電流の R 倍というオームの法則そ
R
R
のものの関係が成り立っており、この RLC 直列回路 (RLC 共振 回路) は恰も「抵抗器 R し
になるのは βL −
か存在しない回路」と同じ様に振舞うことが観察出来る。
babababababababababababababababababab
【コラム】 回路理論に現れる微分方程式: 共振回路とラジオの選局の原理
チャレンジ問題 11. では、定数係数 2 階線形微分方程式の電磁気学への応用ということ
で、RLC 直列回路の問題を扱いました。先ず注目していただきたいのは、RLC 直列回路
2 が チャレンジ問題 10. (強制振動) の運動方程式 ⃝
2 と全く同じ形をし
の回路方程式 ⃝
ている (!) ということです。強制振動という力学で扱われる現象と、電磁気学で扱われる
RLC 直列回路という一見して全く異なる対象が、 全く同じ形の微分方程式 に従って振る
舞っていることは大変興味深いことですし、一見すると全く異なる現象について、その本質
を抽出して同じ法則性に従っていることを看破することが出来るのも、微分方程式という
抽象的な数学の理論を援用した恩恵であるとも言えるでしょう。
さて、チャレンジ問題 11. (5)
では RLC 直列回路の共振現象に
スピーカー、イヤホン
ついて扱いましたが (この共振現
象も チャレンジ問題 10. で扱っ
R
たものと本質的に同じ原理による
ものです)、この共振現象を応用
したものとして ラジオの選局 の
C
検波器
(バリコン)
原理です。最も単純なラジオは右
図の様な回路から成り立ちます。
ここでコンデンサーは静電容量が
可変な、所謂 バリコン variable
capacitor としておきます。コイ
ルの自己インダクタンス L は固定
L
アンテナ
アース
ラジオの選局の原理
したものとしておくと、チャレン
1
なので、バリコンで設定さ
LC
ジ問題 11. (5) の結果より、この回路の共振角振動数 は √
れた静電容量 C に応じて共振角振動数を変えることが出来ます。したがって、アンテナか
ら受信された様々な周波数の電波の中で、(バリコンで設定された静電容量 C に応じた) 共
1
に近い角振動数以外の電波はカットされ、共振角振動数に近い角振動数
LC
の電波のみが回路に影響します (アースに繋がれているのは、不要な高周波を流すためのも
振角振動数 √
のです)。このようにして選出された共振周波数に近い電波を、検波器 (ダイオード) を通
して整流して、音声信号に変換してスピーカー乃至イヤホンから出力するようにしたもの
が、原始的なラジオの原理なのです。つまり、ラジオの選局ダイアルは、バリコンの静電容
量を操作して、受信する電波の特定の角振動数をもつものが共振角振動数となるように調
整する役割を担っていたわけですね。共振現象は、ともすると機器の損壊を招きかねない
警戒すべき現象でもありますが、ここで取り上げたラジオの選局の原理のように、巧く使い
こなすことで、我々の生活に役立てることが出来る場合もあるのです。