地域の特色や教育力を活用した学校づくりの充実 ―地域の物的環境と人的環境を効果的に活用して― 1 はじめに 本校は平成9年に開校し,18年目を迎えた市内で最も新しい学校である。学区は JR 佐倉駅南口 周辺から JR 物井駅周辺までの広範囲に及ぶ。鹿島川やその周辺の大地をはじめとする自然環境,近 年急激に開発された商業施設密集地,学校周辺に配置されている文化・福祉施設と,それぞれの特徴 が混在する学区となっている。 特に文化・福祉施設については本校の教育活動にも大いに影響しており,隣接する社会福祉法人「愛 光」 ,本校と建物が繋がっている佐倉南図書館や,県立佐倉南高等学校,千葉敬愛短期大学などが徒歩 で行ける距離にある。保護者や地域の学校教育に対する関心は非常に高い。 本年度は,生徒数252名,学級数11(うち特支2) ,職員総数28名(県費負担職員22,市職 1,その他5)でスタートした。学校教育目標を「独創性と勇気を持ち,心豊かにたくましくこれか らの時代を生き抜く生徒の育成」とし,特に「独創性と勇気」(originality)には,生徒一人一人が「ど うしてもやり遂げたい,解決したい」というテーマを持って,その実現のために夢を抱き勇気を持っ て挑戦させたい,という願いが込められている。 2 実践の概要 (1)福祉学習の取り組み【物的環境の活用】 本校は,隣接する社会福祉法人「愛光」及び佐倉市社会福祉協議会の全面協力を得て, 「総合的な学 習の時間」を中心に福祉学習に取り組んでいる。 ①ねらい 「認め合い,学び合い,共に生きようとする心と実践力をもった生徒の育成」 ・対等な人間観をもった社会人に成長するために, 「気づき」の機会を提供する。 ・身近な地域に目を向け,様々な問題や課題に気づくことで,福祉を自分たちの問題として自覚 できるようにする。 ・地域の問題解決のために,自分たちでできる課題を見つけることができるようにする。 ②各学年のテーマと具体的な取り組み 〔1学年〕 「障がいを知る」 ・障がいを知るための講話 ・車いすとその介助,アイマスクとガイドヘルプ体験 ・障がい者・支援者の立場で街を歩く体験 ・障がい者支援施設の見学を通して,自分にできること に気づく 〔2学年〕 「共に生きる姿勢に学ぶ」 ・手話,点字講座を通しての交流 (1年 車いす体験) 〔3学年〕 「共に生きる社会を考える」 ・ 「愛光」利用者との交流 ・3年間の福祉学習のまとめ ③主な成果 ・実際に障がいをもっている方々を招き,実生活に基づいた体験談を伝えていただいたことで, 福祉に関する基本理念,障がいをもっている方の考え方,関わり方などを理解することができ た。 ・障がい者と支援者(介添え者)のそれぞれの立場に立った実体験をすることで,地域の一員と して気づく目を持たせることができた。 ・手話や点字を介して実際に障がいのある方々と交流を図ることができ生徒の自信につながった。 (2)読書指導の取り組み【物的環境の活用】 校舎の2階と廊下でつながっている市立佐倉南図書館は,平成12年2月に開館し,現在の蔵書 数は約20万冊である。図書館の運営方針の一つには「根郷中学校と連携を密にし,図書館が学校 図書館の役割も担う。 」という項目がある。各学年のメディアコーナーには,直接図書館の本を検索 したり,自分で貸出作業ができる端末機器が設置されている。 ①ねらい ・読書活動を通して,生徒自らが主体的に学び,確かな学力を培う。 ・読書活動を通じて,様々な立場の考え方や社会の様子を学び,自らの生き方を考える。 ・読書活動を通じて,人間の多様な感情や気持ちに触れ,豊かな心を育む。 ②具体的な取り組み ・朝読書時の読み聞かせ…学校図書館司書の出勤日に,学級ご とに物語や科学に関するノンフィクションなどを中心とした 読み聞かせを実施している。 ・昼休みの図書館利用…一般利用者と同様の貸出サービスを受 ける。 (メディアコーナーと貸出端末機) ・メディアコーナーの活用…各学年のフロア等にスペースがあり, そこに学校独自の蔵書が配架されている。 (メディアコーナー蔵書数約1万冊) 普通教室フロ アには文学作品や辞書類などを配置し,特別教室等フロアにはそれぞれの教科に関連した図書 を置き,授業中などにも気軽に利用できる。 ・図書紹介コーナー…ふだん生徒が目にする図書が 限られてしまうため,新着図書が入荷した際など に展示し,全校生徒が触れることのできるように している。 ・先生方のお勧め図書コーナー…生徒委員会が中心 となり,インタビュー,ポスター作製及び当該図 書の実物を置き,生徒が実際に借りて読むことが できるようにしている。 (図書館との通路に設けた新書コーナー) ・授業における図書館利用…国語科,社会科及び総合的な学習の時間を中心に,図書館や学校図 書館司書を活用した授業を実践している。 (例)*「中国の名言」(国語科)における図書館資料を活用した 授業 *古典の授業(国語科)でのブックトークを活用した授業 *「身近な地域の調査」(社会科)における図書館資料及び学 校図書館司書を活用した授業など ③主な成果 ・読書活動の充実を中心とした校内環境を整えたことで,生徒の 読書に対する関心が高まり,読書好きな生徒が増えた。 (図書館で司書と調べ学習に取り組む) ・本をきっかけとしたコミュニケーションが増え,生徒と教師,生徒同士の人間関係形成が深ま った。 (3)地域の人材を活用した取組【人的環境の活用】 ①環境整備への取り組み 本校は校門やフェンスがなく,敷地内を住民が自由に行き来することができる。地域の方々は, 「学校は自分たちの庭である」という意識で手入れをしてくださり,周辺に居住する方が,年間を 通して敷地内の樹木伐採や除草作業に積極的に取り組んでいる。その姿を目にしている生徒には「学 校が地域に支えられている」という意識が育っている。 ②学校行事への支援 音楽部の定期演奏会などでは,地元自治会や根郷地区社会福祉協議会の方々が運営の一助を担 い,受付や駐車場係,会場係などを行い, 「地域が支える行事」となっている。この行事以外でも, 根中祭体育の部・文化の部,感謝祭(予餞会)などでは,多くの地域の方々に支援して頂いている。 また,ミニ集会では地域の方々と企画から運営まで共催で開催し,多くの方々の参加を得,有 意義な行事となっている。 ③授業への支援 ・ 「チャレンジ体験講座」 (1年)の講師に,地域の茶道,華道,武道・球技のスポーツ指導員, もの作りの指導員などの方々を招いて授業を展開している。 (総合的な学習の時間) ・技術科の授業において,畑の土づくりや苗植え作業に地域の方が支援者として参加している。 ・交通安全教室,薬物乱用防止教室では,地域の交通安全協会の方々,南部地区薬物乱用防止対 策協議会の方々が中心となり,授業を支援している。 ・家庭科における子育て支援講座では,地域の保健師会等が授業を行っている。 生徒の健全育成や教育目標を実現させる上で地域社会の果たすべき役割が非常に大きいことは,以 前から認識されている。学校は前述した取組を通して地域の人々と活動や交流を繰り返すことで生徒 の豊かな心を育み,社会性やコミュニケーション能力を育てることができると考える。そして生徒一 人一人が,地域の方々に支えられていることを実感し,市民としての自覚や郷土愛を育むことを 期待している。
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