事業計画書 (PDFファイル)

平成 27 年度
Ⅰ.方
事 業 計 画
針
本研究会は、農山村地域住民の公衆衛生および福祉の向上に寄与することを目
的として昭和 39 年に設立以来、長野、秋田、福島、富山、北海道、広島の1道
5県に研究施設を設置し、農業労働に起因する健康障害、特に農薬中毒、農業機
械化に伴う健康障害ならびにがん、脳卒中、心臓病といった生活習慣病等農村医
学に関する調査研究を行ってきた。
本年度も、引き続き農薬中毒をはじめ、環境汚染、生活習慣病対策などの諸課
題について研究調査を行うほか、自治体等関係機関からの研究を積極的に受託す
るとともに、調査研究に必要な体制の整備を図ることとする。
Ⅱ.調査研究項目
〔日本農村医学研究所〕
1.農薬中毒の診断および治療に関する調査研究
平成 20 年度から日本農村医学会の特別研究プロジェクト「農薬中毒部会」
の調査研究を担当しており、農薬の人体への曝露、影響の実態等に関する調
査を行う。
(方法)
1)農薬中毒臨床例調査
日本農村医学会関連施設に調査票を送付、農薬中毒の臨床例を収集し、
原因農薬、曝露の状況、転帰など中毒の傾向を解析する。
2)施設栽培農家の農薬曝露とその影響の防止に関する研究
施設栽培者の健康診査に合わせ、尿中の農薬代謝物を測定調査し、曝
露や影響の防止の方策を検討する。
3)石灰硫黄合剤による化学熱傷の防止に関する啓発
農薬中毒部会で策定したパンフレットを用い、JAの営農指導部局な
どの協力を得て、啓発活動を行う。
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4)パラコート中毒の臨床的・疫学的研究
1)の農薬中毒臨床例調査で収集された中から、パラコートを原因と
する症例について二次調査を質問票形式で行ない、治療法も含めて解析
を行う。
2.農業に起因する災害の防止に関する調査研究・普及啓発活動
日本農村医学会の特別研究プロジェクト「農機具災害部会」のワーキング
グループの一員として、また、
「全国農業災害事故防止対策協議会」の事務局
として参画するとともに、地域における農業に起因する災害の防止に関する
調査等を行う。
(方法)
1)佐久総合病院および佐久地域における農業に起因する災害事案の調査
昨年まで実施した農林水産省補助事業「農作業事故の対面調査」を
参考に、諸機関と連携協力による災害事案調査を行い事故原因を明ら
かにする。また、予防対策に向けた検討を行う。
2)県内農作業安全推進会議および農作業安全に関する講習会への参画
JA長野県営農センターや佐久農業改良普及センター等と連携し、
全国農作業安全確認運動に併せた啓発活動や各地域・JA等で開催す
る農作業安全に関する講習会に協力する。
3.実践的有機農業や環境保全型農業に関する事業の取り組み
農業者・地域住民・消費者が協同して食と健康を守り育てることを目的に活
動している「佐久市有機農業研究協議会(佐久市、JA佐久浅間、佐久総合病
院(当研究所)など)」で決めた事業計画に準じ、企画・運営に協力する。
(方法)
1)調査研究・教育研修活動の企画・運営
有機農法や減農薬農法など環境にやさしい農業に興味を持つ方を対
象とした調査・研修や学習会を企画・運営を行う。
2)効果的な広報活動の検討および実践
協議会として実施した調査結果等を、関係諸機関の協力を得ながら、
地域住民へ啓発する方法を検討、広報誌等を活用した普及活動を行う。
4.佐久地域における地域食材の利用・消費拡大に関する事業の取り組み
(長野県地域発元気づくり支援金事業受託に向けて申請中)
長野県の多くの住民は、生活の中に地産地消を実践しやすい環境に暮らして
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いる。一昨年度より多くの団体と連携し実施している長寿の里「佐久」プロジ
ェクトとして、健康食「花咲く長寿レシピ」の開発・普及を行なう。
(方法)
1)地域の飲食店で活用できるレシピの検討・開発
佐久総合病院や食に関する専門家と連携し、塩分に配慮し地域食材
の特徴を活かしたメニューの開発を行う。
2)効果的な広報活動の検討および実践
開発したメニューを地域住民へ啓発する方法を検討し普及活動を行
う。
5.各種調査研究の知見に基づいた支援活動及び普及啓発活動
各種調査研究から得られた結果や対策について広報するとともに、農業者や
地域住民、JA組織等にお伝えし、共に学習する機会をつくる。
(方法)
1)農業者および地域住民への農作業安全、介護予防に向けた活動
2)当研究所ホームページの運用
3)JA長野厚生連佐久総合病院付属看護学校における講義「環境学」
の企画・運営
4)農作業を通じた健康な農村づくり「冬の野菜づくりは『健康づくり』」
の企画・運営
5)その他
〔北海道農村医学研究所〕
1.大腸がん検診の精密検査受診率向上への取り組み
日本では大腸がんの罹患数が増加している。検診で発見された大腸がん 5 年
生存率は 90%を超える一方、症状出現後に発見された生存率は 60%台であり、
健診の意義は大きい。平成 22 年度の全国における大腸がん精密検査受診率は
63.6%で、A健診センターでも 65.9%と低い。
A健診センターの付属のB病院では内視鏡検査の予約が可能であり、平成
23 年の研究では、その利便性を説明し当日に予約することが精検受診率の向
上に有効と考えられた。これまで、A健診センターでは、精密検査対象者に、
診察・健康相談で受診の必要性を説明していたが、内容は各医師・保健師に任
されており、受診行動につながる効果的な教育ができていなかった可能性があ
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った。
そこで教育方法を改善することにより精検受診率が向上するかどうかを検
証する。
2.H.pylori 除菌療法後のX線画像による H.pylori 感染診断の問題点」
胃 X 線検査を行うにあたり、背景粘膜を把握することは検査精度を上げる
上で重要と考える。本研究では、H.pylori 除菌治療後の胃X線像の特徴を明
らかにするべく検討を行う。
3.施設内ドックにおける、H.pylori 抗体陽性例の検討
〔秋田県農村医学研究所〕
1.検査値から見た農協健康管理推進協議会会員健診結果の推移
(内容)
前年度に引き続き、横手地域の JA 秋田ふるさと農協組合委員で組織する
健康推進協議会健診結果の 25 年間の推移をまとめる。今年度は前年度に行
ったメタボリックシンドローム関連検査値に加え、腎機能検査、肝機能検査
値などの集計を行い、その結果から今後の推進協議会健診を効果的に進める
ための参考とすることを目的とする。さらに、高血圧対策として簡便な食事
からの食塩摂取量調査を行い、その結果を受診者に還元することの効果を検
証する。
(調査方法)
平成元年~25 年の推進協議会種健康診断の検査、および対照として横手
市近郊住民健康診断結果を用い、各種検査の集計を行う。さらに平成 27 年
度に予定されている健康推進事業健診時に、簡便な食事からの食塩摂取量調
査を行う。
(調査結果の分析)
健診結果について統計学的分析を行う。その結果を当研究所技術職員(医
師、保健師、管理栄養士、臨床検査技師)で構成する結果分析会議で検討す
る。
2.人間ドック利用者の満足度分析
平鹿総合病院人間ドック受診者を対象に平成 26 年 4 月から 12 月の偶数月
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に受診者アンケートを行った結果、一日ドック 239 名(男性 149 名・女性 90
名)、二日ドック 120 名(男性 69 名・女性 51 名)より回答を得た。アンケ
ート内容を分析しサービスの向上のために満足度や要望意見を明確にする。
3.平鹿総合病院人間ドックにおける運動指導の効果
平鹿総合病院健診センターでは、平成 26 年度より人間ドック受診者のうち、
希望者に対して小規模の運動教室を開催している。内容は厚労省が提唱する
健康づくりのための身体活動として、今より 10 分以上体を動かす「+10(プ
ラステン)」に基づき、僅かな空き時間でもできるストレッチや自重負荷ト
レーニングとなっている。
今回、教室参加者に対し、アンケート調査を行い、効果を検証したい。
方法は、平成 26 年 6 月から平成 27 年 1 月まで運動教室参加者 163 名(男
性 80 名、女性 83 名、平均年齢 55.45±8.53 歳)を対象にアンケート調査を
行う。アンケートの内容は無記名で性別、年代、運動教室の時間、内容、運
動継続の意思、他に希望する運動内容、運動習慣と生活活動時間について回
答を得、その集計結果から今後の運動教室の運営の参考とする。
4.平鹿総合病院人間ドックにおけるピロリ菌検査の追跡調査
(目的)
2013 年2月よりピロリ菌感染者性の治療にも保険適応を拡大され、平鹿総
合病院人間ドック上部消化管内視鏡検査においてピロリ菌検査(迅速ウレア
ーゼ法)を実施する件数が大幅に増加した。そこでピロリ菌陽性率と追跡が
可能な対象者について除菌率、治療状況を分析する。
(対象・方法)
対象は 2013 年 4 月~2014 年 3 月に平鹿総合病院人間ドックでピロリ菌検
査(迅速ウレアーゼ法)を実施した 274 名について、返信された結果報告書
をもとに、追跡をおこなう。
5.平鹿総合病院における7年間の前立腺がん検診の成績
(はじめに)
昨年に続いて前立腺がん検診の現状を把握し、今後の保健活動に活かすべ
く、7年間の成績をまとめる。
(対象と方法)
対象は平成 19 年から 25 年の 7 年間で県南 1 市の前立腺がん検診を受診し
た 50 歳以上の男性、延べ 17,506 例を対象とし、方法は、がん発見率・精検
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受診率等を分析したうえで、昨年からの課題であった精検受診率向上に向け
た対策を考える。
以下の研究項目については次年度も引き続き調査研究を計画している。
6.多目的コホートによるがん・循環器疾患の疫学的研究
〔福島県農村医学研究所〕
1.胃がん集団検診に関する調査研究事業
(内容)
胃がん発見率向上のため、行政と連携した胃集団検診を実施し、胃がん発
見率と受診率の変化、発見胃がんに関する調査を行う。
(調査の方法)
実施した胃がん集団検診のデータを収集・分析しながら行う。
(調査結果の分析)
放射線技師が中心となって行う。
〔富山県農村医学研究所〕
1.農業災害事故に関わる調査研究
(1)農作業事故のリスクアセスメント開発に関わる調査研究
農作業事故を予防するため、様々な農作業におけるリスクについて、作業
者を明らかにするため、事故受傷者、遺族への聞き取り、事故現場の調査を
通じて、農作業事故の原因とその予防対策について検討する。
(調査方法)
各種・営農集団において作業員に農作業中のヒヤリハット体験等のアン
ケート調査を実施し、農作業におけるリスク評価を行う。
(調査結果の分析と発表)
リスク表に基づき、過去の調査に基づきリスクの頻度、重症度を区分し、
農作業におけるリスクアセスメントを行うための基礎資料を作成する。
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(2)農業機械の騒音に関する調査研究
農業機械の騒音について、作業時の騒音測定を行い、農作業者の騒音性難
聴の発生を防ぐことを目的とする。
(調査方法)
各種農業機械の作業時の騒音について、特に騒音性難聴を惹起するとさ
れる 4000Hz の騒音について 1/3 オクターブ分析ができる騒音計を用いて、
測定する。
(調査結果の分析と発表)
農業機械の騒音は、作業時以外での測定は多くなされているが、作業時
の騒音測定はほとんど行われていない。特に、4000Hz 周辺の騒音が大き
い物については、防護の徹底を呼びかけ、騒音性難聴を防ぐ指針を作成す
る。
〔広島県農村医学研究所〕
1.腫瘍マーカーによるがんスクリーニング
—アミノインデックスによるがんリスクスクリーニングとの
相関について(内容)
胃や大腸、肺、乳腺、子宮のがん検診ではそれぞれスクリーニング法が確
立されており、疫学的にも有効性が明らかにされている。多くのがんは早期
に発見できれば、治癒する確率も高いため、がん検診受診が推奨されている。
しかし、日本においてのがん検診受診率はまだ低く、また、人口の高齢化に
伴い、がんに罹患する人が増え続けている。がん検診を受けない理由として、
検査の身体的苦痛や検査時間が長いこと、X 線被曝等が考えられる。そこで、
確立されたがん検診とは異なり、血液でがんの可能性を調べる“腫瘍マーカ
ー”を用いる方法も模索されている。今回、JA女性組合員を対象に、腫瘍
マーカー(AFP、CEA、CA19-9、CA125、CA15-3、SCC 抗原、HER2 蛋白、カル
シトニン、p53 抗体)を測定して、がん検診に代替できるか検討する。これ
までに、血漿中アミノ酸バランスの変動を解析して、がんの可能性を把握す
るアミノインデックス検査を胃や肺、大腸、乳腺、子宮・卵巣のがんを対象
におこなってきた。腫瘍マーカーとアミノインデックス検査との相関につい
ても検討する。
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(調査の方法および結果の分析)
JA 組合員を対象に、地区別にがん予防講座をおこない、希望者に腫瘍マ
ーカーの測定をおこなう。
腫瘍マーカーにはそれぞれ基準値が設定されているので、それを参考に、
受診者にコメントし、必要があれば精密検査を勧める。また、1 年間の追跡
調査もおこなう予定である。
Ⅲ.研究成果の公表
1.各研究所が取り組んだ研究成果については、本年も「研究報告会」を開催し
発表する。
2.その他、日本農村医学会学術総会や日本農村医学会地方会をはじめ、地域
住民やJA組合員を対象とした啓発活動の集会等において啓発行動を行う
とともに、自治体・関係機関に対する提言を行う。
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