第3回EBM研究フォーラム 東京2004/10/16 Mindsに新たに公開される診療ガイドラインの概要について ー胃潰瘍ー 自治医科大学内科学講座消化器内科部門 菅野健太郎 胃潰瘍とは? 粘膜上皮 粘膜筋板 粘膜下層 固有筋層 漿膜 びらん 潰瘍 症状:上腹部痛、食欲不振、胃重感など 合併症:出血、穿孔、狭窄 胃潰瘍治療の目的 症状の緩和 合併症の防止 潰瘍治癒 再発の防止 できるだけ早く できるだけ効果的に できるだけ安く 消化性潰瘍の主要原因 2 8 4 5% 1% 8% H.pylori(+) HP(+) H.pylori(? ) HP(+) NSAID(+) NSAID(+) NSAID(+ ) HP(-),NSAID(-) 232 胃潰瘍: HP(+)=94% Nishikawa et al. :E. J. G. H. 12, 635, 2000 HP(-),NSAID(-) 86% 消化性潰瘍: HP(+)=94% N=729(1992-98) 自治医大 わが国の胃潰瘍診療の問題点 多種類の薬剤が使われている。 多剤併用療法が行われている。 必要性?いつまで続けるのか? 原因に応じた治療選択が不十分。 本当に有効なのか? 長期維持療法が行われている。 使い分け・選択基準は? ヘリコバクター・ピロリ、非ステロイド消炎薬(NSAID) 医療経済的な考え方がなされていない。 出血性胃潰瘍の治療 あり あり 出血 高リスク出血 内視鏡的止血術 止血 不可能 手術 なし 酸分泌抑制薬注射 可能 なし 通常潰瘍治療 通常(非出血性)潰瘍の診療の流れ 胃潰瘍 あり NSAID なし 可能 NSAID中止 不可能 NSAID 潰瘍治療 H. pylori なし あり なし 除菌適応 あり 除菌治療 非除菌治療 Step 1. 潰瘍患者さんには、まず 消炎鎮 痛薬(NSAID )の使用歴を聞く 検査が不要ですぐ結果がわかる。 潰瘍の独立した危険因子である。 NSAIDを継続使用する場合、それに応じ た治療が必要。 H. pylori 除菌治療の必要性に関係する。 非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAID)による 胃潰瘍に対する治療 NSAIDは可能ならば中止する。 NSAID継続下ではプロトンポンプ阻害薬, プロスタグラン ジン薬、H2受容体拮抗薬(ファモチジン高用量)がよい。 防御因子増強薬、H2受容体拮抗薬(常用量)の治療 効果を示すエビデンスはない。 H. pylori除菌がNSAID潰瘍治癒に有効という エビデンスはない。 NSAIDによる胃潰瘍の 発生を予防することが大切 医師がNSAIDを処方する場合が多い。 高齢者、全身疾患合併症患者に処方する場合が多い。 重篤な潰瘍合併症(出血・穿孔)を起こすことがある。 • PPI, PG製剤, H2受容体拮抗薬(ファモ チジン高用量)が有効。 • H2受容体拮抗薬(常用量)、防御因子増強薬は予防効果を示す 根拠はない。 • H.pylori 除菌の効果は不明確 • 選択的COX2阻害薬は従来のNSAIDより安全。 NSAIDの使用がない場合 NSAIDを中止した場合 Step 2. H. pylori 除菌治療適応を考える。 除菌治療を優先した理由 高い除菌率(80-90%) 潰瘍治癒率の向上(90%以上) 再発率の抑制 潰瘍合併症の抑制 重大な副作用の発現は低率 費用対効果比が高い 除菌治療は除菌によらない従来治療より効果が高く、 医療費は低額となり、費用対効果に優れる。 除菌治療の意味 単に潰瘍を治すのではなく、胃粘膜全体の炎症を治すこと これが真の意味の潰瘍治療である。 除菌前 除菌後 Step 3. 除菌治療適応のない場合どう治療するか 単剤治療で十分か? 多剤併用療法は必要? 維持療法は? • PPIを第1選択、PPI不適の場合次にH2RAを選択 • 防御因子増強薬の単剤投与(下記以外勧められない) スクラルファート、ミソプロストール、エンプロスチル • PPIまたはH2RAと防御因子増強薬との併用療法 現時点では治療効果のエビデンスが不十分であり 強くは勧められない。 胃潰瘍の維持療法はどうするか • H. pylori 除菌治療を行わない場合: 潰瘍治癒後、維持療法を行うことが勧められる。 • 維持療法の有効性が示されている薬剤は限ら れる。 H2受容体拮抗薬、スクラルファート、プロトンポンプ阻害薬 • H. pylori 陰性、除菌成功例での維持療法の有効性 を示すエビデンスはない。 • 日本人のエビデンスの集積が必要。 胃潰瘍診療ガイドラインによる診療の流れ 適応あり H. pylori 陽性 除菌治療 適応なし NSAIDなし 治癒 H. pylori 陰性 非除菌治療 未治癒 胃潰瘍 NSAIDの中止 NSAIDあり NSAIDの投与継続 NSAID潰瘍治療 維持療法 胃潰瘍診療ガイドラインの詳細 内容 ・胃潰瘍の一般的解説 ・ガイドラインの内容とその根拠 ・ガイドラインの評価法 ・患者に対する情報提供 EBMの基本 エビデンス 診療ガイドライン 情報の公開、共有 Minds 医師 患者 保険診療による制限があるために、ガイドラインで推奨している治療が困難な場合がある。
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