x - 有機物性化学

4章 原子構造と量子化学
4-1)水素型原子
ボーアの原子模型と以下の条件を用いると、水素原子の発光スペ
ボーアの原子模型
クトルは矛盾なく説明できた(2.4式 Rの値まで)
図4.1
1)光の放出、吸収は、原子核(
1)光の放出、吸収は、原子核(電荷+
電荷+Ze)の周りを
運動している電子(
運動している電子(質量m)の異なった二つの定常状
態(エネルギーE1, E2)間の遷移に相当し、2.4
間の遷移に相当し、2.4式
2.4式
(E=hν)が成立する。従って、各一つのスペクトル
線の振動数は式で表される。
線の振動数は式で表される。
hν=E1− E2
(4.1・・・2.5式と同じ)
1・・・2.5式と同じ)
2)電子は原子核を中心とした半径
2)電子は原子核を中心とした半径rの軌道を速度vで回転してい
る(定常状態)。角運動量
る(定常状態)。角運動量 L = mvr は次式で規定される(
は次式で規定される(角運動
量の量子化)
量の量子化)。
L = nħ (ħ=h/2π
/2π, デイラックのh、
デイラックのh、n:主量子数) (4.2)
ボーア
デイラック
(4.2式は仮定である
(4.2式は仮定である)
式は仮定である)
量子(quantum)は、1900年にマックス・プランクが発見・提唱した物理量の最小
量子
単位。不連続な量であり、物理量はこの最小単位の整数倍
整数倍をとることになる。量
整数倍
子を扱う自然科学の理論を量子論と総称する。量子の発見は、20世紀の科学
に革命を起こした。
電子は粒子と波の2重性をもつ:ドブローイの業績
ドブローイ
○整数がごく自然に現れる物理現象として
整数がごく自然に現れる物理現象として波動運動の
として波動運動の方
波動運動の方
程式の定常状態の解がある
程式の定常状態の解がある。原子中
の定常状態の解がある。原子中の電子の安定な
。原子中の電子の安定な運
の電子の安定な運
動の決定に整数が必要である(
の決定に整数が必要である(L=nħ)ことから、電子を単
ことから、電子を単
に粒子とみなさないで,
粒子とみなさないで,周期性(
周期性(波の性質)
波の性質)も与えられなけ
も与えられなけ
ればならない。
ればならない。
●原子核の周囲を回転する電子:電子軌道の円周の
●原子核の周囲を回転する電子:電子軌道の円周の長さ
電子軌道の円周の長さ
(2πr)が電子波の波長(
が電子波の波長(λ)の整数倍なら定常波であり
数倍なら定常波であり(
なら定常波であり(2πr = nλ)、その
条件を満たさない波は干渉により破壊され、存在しえない。
図4.2 原子核の周りを回転するように強制された電子波
の概略図。実線は定常波の一つである。破線の波の波
長はそれよりも少し短いので干渉により破壊される。
●
光を粒子とすれば E = mc2 、光を波とすれば E = hν
両者の性質を持つならば mc2 = hν = hc/
hc/λより
λ =c /ν=h /mc =h /p
(4.3)
2πr = nλに4.3式を入れると
mcr =n h /2
4.3式を入れると2
式を入れると2πr =n h /mcで、変形し mcr
π→ L=nħ(4.2式)
光・電子は粒子と波の二重性をもつ 2
(4.2式)となる→
式)
r
4.2)
4.2 波動関数、波動方程式、軌道エネルギー
運動エネルギー(T)とポテンシャルエネルギー(U)の和を全エネルギー
(E)という。運動エネルギーを運動量 p = mv で示すと T = mv2/2 =
p2/2m となる。
運動エネルギーTを運動量の関数で、ポテンシャルエネルギーUを位
置xの関数して表した場合, TとUの和をハミルトン関数
ハミルトン関数という(4.5
ハミルトン関数
式)。
1 2
H ( p, x) = T ( p ) + U ( x) =
p + U ( x) = E
2m
電荷Zeの原子核から距離r離れた電子(電荷e)は
(4.5)
クーロン力、F=−Ze2/4peor2 を受けるので、
そのポテンシャルエネルギーは
U(r)=−dF/dx =− Ze2/4peor
となり、
2
1
Ze
2
2
2
H=
( px + p y + pz ) −
2m
4πε 0 r
+Ze
(4.6)
図4.4
プランク・アインシュタインの式
hc
E = hν =
λ
= hck
(2.2)
振動数、h:プランク定数、
ν :振動数、h
:光速, λ:波長、k:波数
c:光速,
E = mc2 (粒子)
粒子)
(2.3)
波動速度v
v=νλ
c = νλ
(a)
c : 光速(ms
光速(ms-1)、 ν:振動数(s
:振動数(s-1, Hz)、
Hz)、 λ :波長(m)
:波長(m)
E = h ν = 1/2 mv2
m : 質量(Kg
質量(Kg)、
Kg)、v : 速度(ms
速度(ms-1)
運動量 p = mv = hν/c
アインシュタイン 特殊相対性理論
E = (m2v4 + p2c2)1/2
電磁波では、m = 0で、
0で、 E = pc
(b)
(c)
(d)
(e)
円運動
(f)
角速度 w = θ/t , v = r w
加速度 α = v w = r w2 = v2/r
(g)
求心力 F = mα = m v w = m r w2 = m v2/r (h)
v
位置 r において、運動量 p を持つ質点の角運動量
L = r × p = r × mv (× は外積)
(i)
角運動量の大きさ
|L | = rp sinθ (θはr と p のなす角)
L
r
d L /dt = (dr/dt)×mv + r×m(dv/dt)
= m(v×v) + r×m (dv/dt)
p v×v = 0なので
m d L /dt = r×F
rとFが同一方向なら ゼロ
角運動量は保存される
1)前図で、電子の遠心力とクーロン力が等しい
2)ボーアの仮定が成立( L = nħ
(j)
(j))
1) 遠心力 mv2/r = クーロン力 e2/4πε
(k)
/4πε0r2
(k)
と2)より距離r
と2)より距離rが求まる(そのうち、最も小さなものを
ボーア半径(
ボーア半径(a0 = ε0h2/πme2)という。
(k)より、mv
(k)より、mv2r = e2/4πε
/4πε0
また (j)は m2v2r2 = h2n2/4π
/4π2より
mr= (h2n2/4π
/4π2)/(e
)/(e2/4πε
/4πε0)= ε0h2n2/πe2
r = (ε0h2/πme2)n2
(l)
(l)
運動エネルギー(
運動エネルギー(T)とポテンシャルエネルギー(
ポテンシャルエネルギー(U)の和を全
の和を全
エネルギー(
という。
エネルギー(E)という。
T = ½ mv2, U = -e2/4πε0r → E = ½ mv2 - e2/4πε0r (m)
式(k) mv2/r = e2/4πε0r2と 式(l) r = (ε
(ε0h2/πme2)n2を用い
E = ½(e2/4πε0r) - e2/4πε0r = -½ (e2/4πε0r)
=-(me4/8ε
(n)
/8ε0h2)(1/n2)
これはシュレーディンガー方程式の解に等しい(後述)
ドブロイの仮定: 物質波
λ = h/p
(o)
左辺は波、右辺は粒子
c = νλ, p = h ν/c より p= h / λ
であり、式の変形上問題ないが、「運動量pの物体は全て
波長λの波である」との表現
ボーアの仮定L = nħ (j)と
ドブローイの仮定 λ = h / p
が成立する物質波は
mvr = nh/2
nh/2π
/2π → 2πr = nh/mv
nh/mv = nh/
nh/π = nλ
で定常波の条件を満たす
(o)
(o)
(p)
(p)
シュレーディンガー方程式
1)波の振幅を表す古典的波動方程式(時間+位置)
2)時間と位置を分離
3)シュレーディンガーの波動方程式
1) 古典弦の振幅u(
古典弦の振幅u(x,t
u(x,t)
x,t) その1
水平方向の力 S1 cos α = S2 cos β = S (定数)
(
垂直方向の力 S2 sin β – S1 sin α ≠ 0
P
Q
β
P
Q
α
線密度ρ
線密度ρ PQの重さ
PQの重さρ∆
の重さρ∆x
ρ∆ 力=質量x
力=質量x加速度
S2 sin β – S1 sin α = (ρ∆
∂t2
(ρ∆x)
ρ∆ )∂2u/∂
両辺をS,
で割る
両辺を ∆xで割る
(1/∆
∆x)(S
S2/S sin β – S1/S sin α)= (ρ/S)
∂t2
ρ/ ) ∂2u/∂
S2/S sin β = tan β,
S1/S sin α = tan αより
(tan β − tan α)/∆
∂t2
)/∆x = (ρ/S)
ρ/ ) ∂2u/∂
tan α = (∂
∂u/∂
∂x)x=x, tan β = (∂
∂u/∂
∂x)x=x+∆∆xなので
なので
{(∂
∂u/∂
∂x)x=x+∆∆x − (∂
∂u/∂
∂x)x=x}/ ∆x = (ρ/S)
∂t2
ρ/ ) ∂2u/∂
∆x→0で
で
(∂
∂2u/∂
∂x2)=
= (ρ/S)
∂t2
ρ/ ) ∂2u/∂
力積(力x時間)= 運動量(質量x速度)より
S ∆t = (ρ∆
ρ∆x)v
→ S/ρ
ρ = (∆
∆x/∆
∆t)v=v2を入れると
ρ∆
(∂
∂2u/∂
∂x2)=
= (1/
∂t2
(1/v2) ∂2u/∂
(q)
(q)
古典弦の振幅u(
古典弦の振幅u(x,t
u(x,t)
x,t)の2
進行波
u1 = a sin k(x – vt)
vt)
逆進行波
u2 = a sin k(x + vt)
vt)
重ねると定常波
ねると定常波 u = u1 + u2
=a sin k(x - vt)
vt) + a sin k(x + vt)
vt)
両辺をx、t で2度微分すると
(∂
∂2u/∂
∂x2)=-k2{a sin k(x – vt) + a sin k(x + vt)}
∂t2)=-v2k2{a sin k(x – vt) + a sin k(x + vt)}
(∂
∂2u/∂
∴ (∂
∂2u/∂
∂x2)=(1/v2) (∂
∂2u/∂
∂ t2 )
(q)
**************************
関数e
関数 xの特徴 dex/dx = ex
eiθθ = cos θ + i sin θ オイラーの式
2)時間と位置を分離
2)時間と位置を分離
U(x,t
U(x,t)
x,t) = X(x) A cos wt
とおき(q)
とおき(q)式に入れる
(q)式に入れる
(d2X/dx2) A cos wt = -(w2/v2) X(x)A cos wt
∴
d2X(x)/dx2 = - w2/v2 X(x)
v = λ w/2π
w/2πより
d2X(x)/dx
X(x)/dx2 = - 4π2/λ2 X(x)
X(x)
*****
cos wt の
周期:2
周期:2π/w
→
周波数:w/2
周波数:w/2π
w/2π →
(r)
速度v
速度v = λ w/2π
w/2π
3)シュレーディンガーの波動方程式
E = ½ mv2 + U(x) = p2/2m + U(x)
λ= h/pより
E = h2/2mλ2 + U(x) → 1/λ2 = 2m/h2 {E – U(x)}
式(r)より
(1/4π2)(1/X(x))[d2X(x)/
X(x)/dx
)/dx2]
(r)より 1/λ2 = -(1/4π
-(1/4π
(1/4π2)(1/X(x))[d2X(x)/dx2] = 2m/h2 {E – U(x)}
[d2X(x)/dx2] = -2m(4
4π2/h2) {E – U(x)}X(x
X(x)
X(x)
X(x)
Ψ プサイ h/2π
X(x)→ Ψ(x)
h/2π =ℏ Diracの
Diracのh
-(ℏ2/2m) d2Ψ(x)/
(x)/dx
)/dx2 + U(x) Ψ(x)
(x) = E Ψ(x)
(x)
[-(ℏ2/2m) d2/dx2 + U(x)] Ψ(x)
(x) = E Ψ(x)
H
H Ψ(x)
(x) = E Ψ(x)
波動関数、波動方程式により電子軌道の形状、エネルギーを求
める・・・高学年 シュレーディンガー方程式
1.エネルギーは、先ず、nにより決定される・・主量子数
◎箱(長さaの一次元を考える:金属)
E = n2(h2/8ma2)
(4.4)
Y=aX2の関数
●電子エネルギーは不連続
●箱が大きいほどエネルギーは小さい
◎円軌道(半径r, ベンゼンπ電子)
E = n2h2/8π2mr2 (4.5)
シュレーディンガー
E=9h2/8π2mr2
n=0の場合を除いて、電子の円軌道上の運動は右回
り、左回りの2つがあり、各エネルギー値に対応して2
縮重(縮退
つの準位が共存する。これを2つの準位が縮重
縮重 縮退)
縮退
しているという。一つの電子軌道に最高2つの電子の
みが占有できるので、ベンゼンの6個のπ電子は図4.3
のエネルギー準位のn=1に2個、n=1に4個占め、それ
以上の準位は空である。
E=4h2/8π2mr2
E=h2/8π2mr2
E=0
図4.3 円軌道上の電子のエネルギー準位と
ベンゼンのπ電子の占有 (ベンゼン環を多数持っ
た芳香族炭化水素(多環芳香族炭化水素、ナフ
タレン、アントラセンなど)や金属の電子状態
を考察するモデルとして重要)
14
1) 古典弦の振幅u(
古典弦の振幅u(x,t
u(x,t)
x,t) その1
水平方向の力 S1 cos α = S2 cos β = S (定数)
(
垂直方向の力 S2 sin β – S1 sin α ≠ 0
P
Q
β
P
Q
α
線密度ρ
線密度ρ PQの重さ
PQの重さρ∆
の重さρ∆x
ρ∆ 力=質量x
力=質量x加速度
S2 sin β – S1 sin α = (ρ∆
∂t2
(ρ∆x)
ρ∆ )∂2u/∂
両辺をS,
で割る
両辺を ∆xで割る
(1/∆
∆x)(S
S2/S sin β – S1/S sin α)= (ρ/S)
∂t2
ρ/ ) ∂2u/∂
S2/S sin β = tan β,
S1/S sin α = tan αより
(tan β − tan α)/∆
∂t2
)/∆x = (ρ/S)
ρ/ ) ∂2u/∂
tan α = (∂
∂u/∂
∂x)x=x, tan β = (∂
∂u/∂
∂x)x=x+∆∆xなので
なので
{(∂
∂u/∂
∂x)x=x+∆∆x − (∂
∂u/∂
∂x)x=x}/ ∆x = (ρ/S)
∂t2
ρ/ ) ∂2u/∂
∆x→0で
で
(∂
∂2u/∂
∂x2)=
= (ρ/S)
∂t2
ρ/ ) ∂2u/∂
力積(力x時間)= 運動量(質量x速度)より
S ∆t = (ρ∆
ρ∆x)v
→ S/ρ
ρ = (∆
∆x/∆
∆t)v=v2を入れると
ρ∆
(∂
∂2u/∂
∂x2)=
= (1/
∂t2
(1/v2) ∂2u/∂
(q)
(q)
3)シュレーディンガーの波動方程式
E = ½ mv2 + U(x) = p2/2m + U(x)
λ= h/pより
E = h2/2mλ2 + U(x) → 1/λ2 = 2m/h2 {E – U(x)}
式(r)より
(1/4π2)(1/X(x))[d2X(x)/
X(x)/dx
)/dx2]
(r)より 1/λ2 = -(1/4π
-(1/4π
(1/4π2)(1/X(x))[d2X(x)/dx2] = 2m/h2 {E – U(x)}
[d2X(x)/dx2] = -2m(4
4π2/h2) {E – U(x)}X(x
X(x)
X(x)
X(x)
Ψ プサイ h/2π
X(x)→ Ψ(x)
h/2π =ℏ Diracの
Diracのh
-(ℏ2/2m) d2Ψ(x)/
(x)/dx
)/dx2 + U(x) Ψ(x)
(x) = E Ψ(x)
(x)
[-(ℏ2/2m) d2/dx2 + U(x)] Ψ(x)
(x) = E Ψ(x)
H
H Ψ(x)
(x) = E Ψ(x)
電子波の運動を扱うため、波動
電子波の運動を扱うため、波動を
波動を考え
図4.5
る。空気中で振動
。空気中で振動する音叉は時間
で振動する音叉は時間およ
する音叉は時間およ
び空間で周期的に変化する
空間で周期的に変化する音波を出し
する音波を出し、
音波を出し、
振動している電気的双極子は空間中
振動している電気的双極子は空間中
に電磁波を出す(図4.5)。
に電磁波を出す(図 )。時間
)。時間および
時間および
空間で
空間で周期的に変化する波が波動
周期的に変化する波が波動で
変化する波が波動で
ある。この
ある。このような波動は、サインまたはコサイン関数で
。このような波動は、サインまたはコサイン関数で
記述できる。フックの法則に従うバネにつながれて
記述できる。フックの法則に従うバネにつながれている粒子(
つながれている粒子(調和振
いる粒子(調和振
動子:
動子:電磁場は調和振動子の
電磁場は調和振動子の集まり
振動子の集まりとして理解できる
集まりとして理解できる)の運動は
として理解できる)の運動は4.7
)の運動は
x
式で表せる。
φ = A sin 2π ( − vt )
λ
(4.7)
単位の長さに含まれる波長の数は
number)である。
である。4.7
単位の長さに含まれる波長の数は波数
の長さに含まれる波長の数は波数(wave
波数
である。
式を振動数(
式を振動数(ν)、波数(
波数(k)を用いて表すと4.8
を用いて表すと4.8式となる。
4.8式となる。
φ = A sin 2π (kx − νt )
(4.8)
図4.6は
φ1 = A sin 2π (κx − νt ) と φ 2 = A sin[ 2π (kx − νt ) − δ ]
の2つの波で、φ2はφ1にくらべx方向にδ/2πkずれている。
図4.6
これを、φ1とφ2は位相
位相(phase)が
δずれているという。
位相
●δ = 2πn (n = 1,2••)ならば同一位相
同一位相の波という。
同一位相
● δ がπの奇数倍なら逆位相
逆位相という。
逆位相
●逆位相の波を重ねると合成された波の振幅は零である。
●4.8式の波はx方向に速度ν/kで進む進行波
進行波である。
進行波
●前方にも後方にも進まない波を定在波
定在波と言い、
定在波と言い、4.9
と言い、4.9式で表される。
4.9式で表される。
φ = A sin 2π (kx − νt ) + A sin 2π (kx + νt ) または
φ = 2 A sin 2πkx cos 2πνt
(4.9)
●4.9式をφ(x,t) = ϕ(x) cos2πνtとして時間を含まない波動ϕ(x)を考え, 4.9式
をxで二回微分した4.10式は時間を含まない波動方程式
時間を含まない波動方程式である。
時間を含まない波動方程式
∂ ϕ
2
+
(
2
π
k
)
ϕ =0
2
∂x
2
(4.10)
4.10式にドブローイの関係(κ=1/λ=p/h)を入れると電子の波動方程式である
シュレディンガー方程式が得られる[
4.5式から p2 = 2m(E − U)を得、
シュレディンガー方程式
∂ 2ϕ
∂ 2ϕ
p 2
∂ 2ϕ
∂ 2ϕ 8π 2 m( E − U )
2
2 2 m( E − U )
+ (2πk ) ϕ = 2 + (2π ) ϕ = 2 + 4π
ϕ=
+
ϕ =0
∂x 2
∂x
h
∂x
h2
∂x 2
h2
より、
∂ 2ϕ
− 2
+ Uϕ = Eϕ
2
8π m ∂x
h2
(4.10)
となりハミルトン演算子
ハミルトン演算子を
ハミルトン演算子
∂2
H =− 2
+U
2
8π m ∂x
h2
(4.11)
と定義すると、一次元のシュレディンガー方程式(4.12)となる。
Hϕ = Eϕ
つまり、
∂2
Hϕ = (− 2
+ U )ϕ = Eϕ
2
8π m ∂x
h2
(4.12)
(4.13)
結局、量子力学では、4.12式, 4.13式のシュレディンガー方程式を解き、一定値E
を与える波動関数ϕを求める。エネルギー値Eを系の固有値
固有値(eigen-value)、これに
固有値
対する波動関数を固有関数
固有関数(eigen-function)という。
固有関数
例1) 自由電子(長さaの一次元の箱にある電子を考える、図4
自由電子(長さ の一次元の箱にある電子を考える、図4.7:これは金属中
の一次元の箱にある電子を考える、図4 7:これは金属中
の電子の運動を考えるモデル)。ポテンシャルエネルギーは箱の中で零、箱の外
で∞とすれば、
2
∂ ϕ 8π m
+
Eϕ = 0
2
2
∂x
h
2
→
を4.13式に代入、変形し
1 2
h ∂
p =−
2m
2m ∂x 2
∞
H=
図
4.7
U
2
(4.14)
この形は二回微分して元の関数の形に戻るので、その解は
この形は二回微分して元の関数の形に戻るので、その解は指数
形は二回微分して元の関数の形に戻るので、その解は指数
0
x
関数または三角関数であり、
で示すことにすると,
で電子
関数または三角関数であり、ϕ = c sin Axで示すことにすると
で示すことにすると x = 0で電子
密度が0また、
でもϕ = 0であるから、
であるから、Aa
= nπ (n = 1,2,3••)となり、
となり、
密度が また、x
また、 = aでも
であるから、
である。これを4.14式に入れるとエネルギー
式に入れるとエネルギーE
ϕ = c sin nπx/aである。これを
である。これを
式に入れるとエネルギー
が得られる。
nπ 2
nπx 8π 2 m
nπx
− ( ) (c sin
)+
E (c sin
)=0
2
a
a
a
h
2
h
E = n2 (
)
2
8ma
より
(4.4)
a
2)箱の大きさaが大きくなると、運
動エネルギーは減少する(電子の
動エネルギーは減少する(電子の
動き回る空間が広いほどその運
動エネルギーは低くなる)。
動エネルギーは低くなる)。
→
∞
以上をまとめると、右図ポテンシャ
ルの箱中の電子は、
1)nは整数値であるから電子エネ
は整数値であるから電子エネ
ルギーEは不連続な、とびとびの
値になる。
値になる。
図
4.7
U
0
x
a
2
h
E = n2 (
)
2
8ma
例2)ベンゼンのp電子
電子の粗い近似波動関数を4.15式で表すことができ
電子
(4.15)
る。
ϕ = cos Ax
円軌道の半径をrとすると、波動関数が一価で連続であるとの条件から
(4.16)
ϕ ( x = 0) = ϕ ( x = 2πr )
従って、cos2πrA = 1 → Ar = n (n = 0, 1, 2, 3・・・)。これを、4.16式にい
nx
れると
(4.17)
ϕ = cos
r
これを4.13式に入れてEを求めると
E=n2h2/8π2mr2
(4.5)
n=0の場合を除いて、電子の円軌道上の運動は右回り、左回
りの2つがあり、各エネルギー値に対応して2つの準位が共存
縮重(縮退
する。これを2つの準位が縮重
縮重 縮退)しているという。一つの
縮退
電子軌道に最高2つの電子のみが占有できるので、ベンゼン
の6個のp電子は図4.7左のエネルギー準位のn=0に2個、n=
1に4個占め、それ以上の準位は空である。
E=n2h2/8π2mr2
図4.7
図4.8
1
13
11
12
14
10
2
9
E=9h2/8π2mr2
3
7
5
6
8
4
E
E=4h2/8π2mr2
E=h2/8π2mr2
E=0
n
図4.8 円軌道上の電子のエネルギー準位とベンゼンのp
電子の占有 (ベンゼン環を多数持った芳香族炭化水素
(多環芳香族炭化水素、ナフタレン、アントラセン(右図14
個のπ電子)など)や金属の電子状態を考察するモデルと
して重要)
●化学では、物質間での電子のやりとりが重要であり、そのやりとり
●化学では、物質間での電子のやりとりが重要であり、そのやりとりに
では、物質間での電子のやりとりが重要であり、そのやりとりに
は電子が詰まっている一番上の軌道、その一つ上にある電子が詰まっ
電子が詰まっている一番上の軌道、その一つ上にある電子が詰まっ
ていない一番下の軌道が大きく関係する。それで、分子において
いない一番下の軌道が大きく関係する。それで、分子において電子
おいて電子
が占有している一番上の軌道を最高被占分子軌道
が占有している一番上の軌道を最高被占分子軌道(highest
最高被占分子軌道
occupied molecular orbital: HOMO), 一番下の空の軌道を最低
一番下の空の軌道を最低空
最低空
軌道(
)という(
軌道(lowest unoccupied molecular orbital: LUMO)と
)という(両者
いう(両者
をフロンティア軌道という:
フロンティア軌道という:福井謙一)。
という:福井謙一)。
●準位としては最高被占準位
●準位としては最高被占準位、最低
位としては最高被占準位、最低空
、最低空準
位という。HOMOと
とLUMOのエネルギー差に
のエネルギー差に
という。
相当する光を当てると
の電子は
相当する光を当てると、
する光を当てると、HOMOの電子
の電子はLUMO
にたたきあげられ(
にたたきあげられ(励起)、その
励起)、そのエネルギーに相
)、そのエネルギーに相
当する部分が吸収された光を見ることになる
当する部分が吸収された光を見ることになる。
が吸収された光を見ることになる。
その領域が可視領域の場合、色が
その領域が可視領域の場合、色が見える。
領域が可視領域の場合、色が見える。
ベンゼンのHOMO-LUMO励起は
励起は紫外領域
ベンゼンの
励起は紫外領域に
紫外領域に
相当する
相当するので透明
するので透明である。
ので透明である。
LUMO
励起
HOMO
励起分子
図4.9
4.3)
4. ハイゼンベルグの不確定性原理
粒子が波動性を帯びると、粒子の位置(∆q)と運動量(∆p)の
積、またはエネルギー(∆E)と時間(∆t)の積に不確定性が生じ
る(ハイゼンベルグの不確定性原理
ハイゼンベルグの不確定性原理)。
ハイゼンベルグの不確定性原理
(4.18)
∆p•∆q = ∆E•∆t ≥ ħ/2
ハイゼンベルグ
不確定性原理による現象 1.零点エネルギー
◎.零点エネルギーは量子力学の系 における最も低いエネルギーで
ある。量子力学では、すべての粒子には波動性を持っているため、基
底状態であっても振動した状態にあり、零点エネルギーというエネル
ギーを持つことになる。結果として、絶対零度であっても振動している
ことになる。たとえば、液体Heは零点エネルギーの影響で、大気圧中
ではどんなに温度を下げても固体になることはない。
◎古典量子論による調和振動子
調和振動子(分子振動のモデル)のエネルギー
調和振動子
はEn = nhνで与えられるが、これは正しくない。これならば、最低エネ
ルギー準位はn = 0で、エネルギー零つまりポテンシャル曲線の極小
点となる(図4.10)。しかし、これでは完全に定まった位置と完全に定
まった運動量を持つことになり、不確定性原理から許されない。波動
として取り扱うと、振動子のエネルギー準位は4.19式で、基底状態に
おいても4.20式に等しい残留零点エネルギー
零点エネルギーを持つ。
零点エネルギー
1
E n = ( n + ) hν
2
(4.19)
1
E 0 = hν
2
(4.20)
図4.10 水素分子のポテンシャルエネルギー曲線。振動エネ
ルギー準位(ν = 0-13)も示す。二個の水素原子は安定な水
素分子を形成し、その解離エネルギー(分光学的解離熱De)
は109.5 kcal/mole (458.1 kJ/mole、 青矢印), 核間距離は
0.740Å(赤矢印)である。化学的解離熱D0とDeはDe = D0 +
hν/2 で関係する。
不確定性原理による現象 2.トンネル効果
◎非常に微細な世界にある粒子が、古典的には乗り越えることができ
ないポテンシャル(エネルギー)障壁を、量子効果すなわち、時間とエ
ネルギーとの不確定性原理により乗り越えてしまう(透過してしまう)現
象。量子トンネル効果
量子トンネル効果ともいう。
量子トンネル効果
一定のポテンシャルエネルギーUの領域の波動方程式は
一定のポテンシャルエネルギー の領域の波動方程式は(d
の領域の波動方程式は 2ϕ/dx2) +
(8π
π2m/h2)(E − U)ϕ = 0である。これは次のような一般解をもつ。
である。これは次のような一般解をもつ。
2πix
ϕ = A exp [
2m( E − U ) ]
h
(4.21)
21)
箱の中では、E
で平方根の中は正であるが、箱の外ではU
で、
の中では、 > Uで平方根の中は正であるが、箱の外では
で平方根の中は正であるが、箱の外では > Eで、
4.21式の平方根の中は負である。従って
21式の平方根の中は負である。従って√
を掛け合わせると、箱の
21式の平方根の中は負である。従って√-1を掛け合わせると、箱の
外(障壁が無限に高くなくまた無限に広くない限り)での波動関数の挙
動は4.22式で示される。
動は4 22式で示される。
2πx
ϕ = A exp [(−
) 2m(U − E ) ]
h
(4.22)
22)
波動力学では、電子が負のエネルギー領域に入る確率は零ではなく、
箱の外に(漏れ)でる距離とともに指数関数的に減少するようなある正
の値である。これをトンネル効果
の値である。これをトンネル効果という(図4
トンネル効果という(図4.11
という(図4.11右)。
.11右)。
図4.11
図4
一次元の箱の中の電子。
左)ポテンシャル関数
中)許される電子波の形とエネル
ギー準位
右)トンネル効果
江崎玲於奈
PN接合ダイオードの研究に着手し、ゲルマニウムのPN接合幅を薄くすると、その電流電圧
特性はトンネル効果による影響が支配的となり、電圧を大きくするほど逆に電流が減少する
という負性抵抗を示すことを発見した。固体でのトンネル効果を初めて実証した例
4.4) 水素型原子の電子軌道と量子数
非常にめんどうな式が多いので、エッセンスのみ記す。+Z
eの原子核と-eの電子より成る水素型原子では、4.6式の
古典的ハミルトン関数と4.13式を用い、シュレディンガー方
程式を求め、これを解いてϕの形とEを求める。
この時、直交座標を極座標(r,θ,φ, 図4.12)に変換し、動径
部分(r)と角部分(θ, φ)に分けて解くと、波動関数の空間的
広がりを示す動径部分、角度部分の形状を示す角部分に
分離できる。
1
Ze 2
2
2
2
H=
( px + py + pz ) −
2m
4πε 0 r
(4.6)
図4.12 直交座標と極座標
∂2
Hϕ = (− 2
+ U )ϕ = Eϕ
8π m ∂x 2
h2
(4.13)
動径部分R
動径部分 n,l(r)
波動関数の空間的広がりを示す。R(r)は2つの量子数n,
lで指定される関数で、主量子数
主量子数nの増加とともに軌道が
主量子数
広がる。n = 1, 2, 3,・・・に対応した電子軌道をK殻
殻、L殻
殻、
M殻
殻、・・・(図2.4)といい、水素型原子(電子が一個の原
子)では、電子軌道のエネルギーは主量子数のみに依
存し、ボーアが導出した4.23式に等しい。 (4.23)
me 4
E=−
n = 1,2,3,⋅ ⋅ ⋅
2 2 2
8ε 0 h n
表4.1にn, lで指定される動径部分を示す。
表4.1 n, lで指定される動径波動関数
n
1
2
殻
K
L
3
M
l
0
0
1
0
1
2
動径波動関数
2(Z/a0)3/2 exp(−ρ/2)
(1/2√2)(Z/a0)3/2 (2−ρ)exp(−ρ/2)
(1/2√6)(Z/a0)3/2 ρ exp(−ρ/2)
(1/9√3)(Z/a0)3/2 (6−6ρ−ρ2) exp(−ρ/2)
(1/9√6)(Z/a0)3/2 (4ρ−ρ2) exp(−ρ/2)
(1/9√30)(Z/a0)3/2 ρ2 exp(−ρ/2)
a0 = h2/4π2me2 = 0.529×10-8 cm = 0.529Å, ρ = Zr/a0
L殻にはlの異なる二つの軌道が、またM殻にはlの異なる三
つの軌道が存在する。原子核から半径rにある厚さdrの球殻
に電子が存在する確率を示す
動径分布関数
動径分布関数D
分布関数 n,l(r)は、 Dn,l(r)=4πr2{Rn,l(r)}2 で、
図4.13に示す。この動径分布関数が最大になるrが軌道の
平均半径に相当する。
主量子数nに対して、l = 0, 1, 2,・・・(n-1)までのn個の軌道が
あり、それぞれs軌道
軌道、
軌道、
軌道、
軌道、・・という。lの
軌道、p軌道
軌道、d軌道
軌道、f軌道
軌道
異な2s, 3s, 3p軌道において、小さなrの位置に小さなピーク
が見られ、少しの割合の時間ではあるが電子が核の近くに
いる可能性があること、つまり、大きな静電効果によりこの
状態が安定化することを示す。
図4.13水素原子の動径波動関数Rn,l(r)のr依存性(1s, 2s, 2p) (上図)と動径
分布関数Dn,l(r)のr依存性(1s, 2s, 2p, 3s, 3p, 3d)(下図)。
4.5
5) 水素型原子の波動関数の形
球面調和関数
波動関数のθ, φに関する角部分Θ(θ)Φ(φ)は球面調和関数
といわれYl,m(θ,φ)で示される。方位量子数
方位量子数l、磁気量子数
方位量子数 磁気量子数m
磁気量子数 l
は波動関数の角度部分の形状を決定する。n = 2では、2s
軌道と三個の2p軌道が同一のエネルギーをもつ。Φ(φ)は
Φ=
1
2π
e
iml φ
ml = 0,±1,±2,⋅ ⋅ ⋅
(4.24)
となり、波動関数が全空間で一価、連続であるから磁気量
子数mlは整数で、ml = 0, ±1,±2,・・・±lまでの(2l + 1)個の値
をとる。
l = 2までの角部分を表4.2に示す。s軌道には一種、p軌道
はml = +1, 0, −1の三種、d軌道はml=+2, +1, 0, −1, −2の五
種類がある。
●s軌道の角度部分はθ, φに依存せず、球状である(図4.1
4)。s軌道以外は、複素関数であり、そのままでは軌道の
形とならないが, 実空間変換により図4.15のp軌道、図4.1
6のd軌道が得られる。p軌道は有機物、d軌道は重原子や
遷移金属にとり重要である。
図4.14
表4.2 球面調和関数
l 軌道
0
1
s
p
2
d
ml
0
0
±1
0
±1
±2
ΘΦ
図4.14 s軌道
(1/4π)1/2
(3/4π)1/2 cos θ
図4.15 p軌道
1/2
±i
φ
(3/8π) sin θe
(5/16π)1/2(3 cos2 θ−1)
(15/8π)1/2 sin θ cos θ e±iφ 図4.16 d軌道
(15/32π)1/2 sin2 θ e±2iφ
図4.16
図4.15
4.6
6) 電子スピン、パウリの排他律とフントの規則
電子スピン、パウリの排他律とフントの規則
原子内の電子は軌道運動の他にスピン運動(古典的には
自転運動)を行い、それに伴ってスピン角運動量
スピン角運動量を持つ。
スピン角運動量
スピン角運動量Sおよびそのz成分Szは
S = s ( s + 1)h
(4.25)
Sz = msħ ms =(s, s-1,・・・-(s-1), -sで、電子においては±1/2) (4.26)
である。スピン量子数
スピン量子数s= +1/2, −1/2の2種のスピンがあり、
各々アップスピン
アップスピン(
スピン)、ダウンスピン
スピン)という。
アップスピン α-スピン
スピン ダウンスピン(
ダウンスピン β-スピン
スピン
磁場がないと、これらのスピンのエネルギーは同じである。
●以上、4種類の量子数n, l, ml, sが電子の状態を規定する。
原子番号の順に電子軌道に電子を詰めてゆくと周期表が出
来るが、以下の二つの法則に従う必要がある。
パウリの排他原理:二つの電子は四つの量子数n,
l, ml, sを
パウリの排他原理
同一には出来ない。基底状態は電子が排他原理に従って最
も低い可能なエネルギー準位にある状態で,最も低い軌道か
ら次々に電子を原子の核電荷数まで詰めることにより原子
が出来上がる。n, l, mlが同一の電子軌道の場合、アップスピ
ン1個とダウンスピン1個の2個が入る。
フントの規則:同一エネルギの軌道に2個の電子が入ると電
フントの規則
子間で大きな静電反発が生じる。従って、同一エネルギーの
準位に磁気量子数の異なる縮退した軌道がある場合、電子
は異なる磁気量子数の軌道に、スピン量子数を同一にして
入る。
3章4節、図3.11、表3.3,3.4参
3章4節、図3.11、表3.3,3.4参照
4節、図3.11、表3.3,3.4参照
4.7
7) 多電子原子の電子軌道と電子配置
多電子原子では、他の電子とのクーロン相互作用などにより、クー
ロンポテンシャルは球対称でなくなる。このため、主量子数が同じ軌
道でも方位量子数が異なると、軌道エネルギーも異なるようになる。
●Neの次の元素Na(Z = 11)からAr(Z = 18)までは、電子が素直に3s,
3pを埋める。
●アルゴン(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p6)の次に来る元素から、電子は3d軌
道よりもエネルギーの低い4s軌道に入る;K(Z = 19,(1s2, 2s2, 2p6, 3s2,
3p6, 4s1)), Ca(Z = 20, 1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p6, 4s2)。
●4s軌道が満たされた次のZ = 21-23までは4p軌道に電子が入ると予
想されるが、3d軌道が優先する。
●Sc(Z = 21)からCu(Z = 29)の最初の遷移金属
遷移金属系列では3dが順次満た
遷移金属
され、これらは、種々の原子価を取る、強く着色した化合物を作る、単
体は硬く、高融点の重金属で、多くは磁性を示すなどの共通点を持つ。
このうち、Cr(Z = 24)(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p6, 3d5, 4s1)とCu(1s2, 2s2, 2p6,
3s2, 3p10, 4s1)以外は4s2の電子配置を持つ。多電子原子における電子
収容の順序を図4.17(表3.4, 3.5と同じ)に示す。
図4.17 電子収容の順序。左肩上がりの矢印に沿ってs,p,d,f軌道に2個,6個,10
個,14個づつ詰める。l =0,1,2,3,4の軌道をs(sharp), p(principal), d(diffuse),
f(fundamental)軌道とする。4f軌道、5f軌道が未閉殻の元素がランタノイド、アク
チノイドである。
n
l = m=0,±1,••±l
総軌道数 殻に入る
殻 n−1,
軌道数 2l+1 n2
総電子数
2n2
・・・0
1 K 0 1s
2 L 0 2s
1 2p
3 M 0 3s
1 3p
2 3d
4 N 0 4s
1 4p
2 4d
3 4f
5 O 0 5s
1 5p
2 5d
3 5f
4 5g
0
0
±1,0
0
±1, 0
±2, ±1, 0
0
±1, 0
±2, ±1, 0
±3, ±2, ±1, 0
0
±1, 0
±2, ±1, 0
±3, ±2, ±1, 0
±4, ±3, ±2, ±1, 0
1
1
3
1
3
5
1
3
5
7
1
3
5
7
9
総電子数
1
4
2
8
2
9
18
28
16
32
60
25
50
110
Ernest Rutherford, 1st Baron Rutherford of Nelson (1871– 1937) was a New Zealand-born
British physicist who became known as the father of nuclear physics.
Encyclopædia Britannica considers him to be the greatest experimentalist
since Michael Faraday (1791–1867). In early work he discovered the
concept of radioactive half-life, proved that radioactivity involved the
transmutation of one chemical element to another, and also differentiated
and named alpha and beta radiation. This work was done at McGill
University in Canada. It is the basis for the Nobel Prize in Chemistry he
was awarded in 1908 "for his investigations into the disintegration of the
elements, and the chemistry of radioactive substances".
Rutherford moved in 1907 to the Victoria University of Manchester (today University of
Manchester) in the UK, where he proved that alpha radiation is He ions. Rutherford
performed his most famous work after he became a Nobel laureate. In 1911, although he
could not prove that it was positive or negative, he theorized that atoms have their charge
concentrated in a very small nucleus, and thereby pioneered the
Rutherford model of the atom, through his discovery and interpretation of Rutherford
scattering in his gold foil experiment. He is widely credited with first "splitting the atom" in
1917 in a nuclear reaction between nitrogen and alpha particles, in which he also discovered
(and named) the proton. Rutherford became Director of the Cavendish Laboratory at
Cambridge University in 1919. Under his leadership the neutron was discovered by
James Chadwick in 1932 and in the same year the first experiment to split the nucleus in a
fully controlled manner, performed by students. The chemical element rutherfordium
(element 104) was named after him in 1997.
Niels Henrik David Bohr (1885–1962) was a Danish physicist who made
foundational contributions to understanding atomic structure and quantum
theory, for which he received the Nobel Prize in Physics in 1922. Bohr was
also a philosopher and a promoter of scientific research. Bohr developed
the Bohr model of the atom, in which he proposed that energy levels of
electrons are discrete, and that the electrons revolve in stable orbits
around the atomic nucleus, but can jump from one energy level (or orbit)
to another. He conceived the principle of complementarity: that items could be separately
analysed in terms of contradictory properties, like behaving as a wave or a stream of
particles. The notion of complementarity dominated Bohr‘s thinking in both science and
philosophy. Bohr founded the Institute of Theoretical Physics at the University of
Copenhagen, now known as the Niels Bohr Institute, which opened in 1920. Bohr
mentored and collaborated with physicists including Hans Kramers, Oskar Klein, George
de Hevesy and Werner Heisenberg. He predicted the existence of a new zirconium-like
element, which was named hafnium, after the Latin name for Copenhagen, where it was
discovered. Later, the element bohrium was named after him. During the 1930s, Bohr
helped refugees from Nazism. After Denmark was occupied by the Germans, he had a
famous meeting with Heisenberg, who had become the head of the German nuclear
energy project. In September 1943, word reached Bohr that he was about to be arrested
by the Germans, and he fled to Sweden. From there, he was flown to Britain, where he
joined the British Tube Alloys nuclear weapons project, and was part
of the British mission to the Manhattan Project.
Werner Karl Heisenberg (1901–1976) was a German theoretical physicist
and one of the key creators of quantum mechanics. He studied physics and
mathematics from 1920 to 1923 at the Ludwig-Maximilians-Universität
München and the Georg-August-Universität Göttingen. At Munich, he studied
under Arnold Sommerfeld and Wilhelm Wien. At Göttingen, he studied
physics with Max Born and James Franck, and he studied mathematics with
David Hilbert. He received his doctorate in 1923, at Munich under Sommerfeld.
He published his work in 1925 in a breakthrough paper. In the subsequent
series of papers with Max Born and Pascual Jordan, during the same year, this
matrix formulation of quantum mechanics was substantially elaborated. In 1927 he published
his uncertainty principle, upon which he built his philosophy and for which he is best known.
Heisenberg was awarded the Nobel Prize in Physics for 1932 "for the creation of quantum
mechanics". He was instrumental in planning the first West German nuclear reactor at
Karlsruhe, together with a research reactor in Munich, in 1957. Considerable controversy
surrounds his work on atomic research during World War II. Following World War II, he was
appointed director of the Kaiser Wilhelm Institute for Physics, which soon thereafter was
renamed the Max Planck Institute for Physics. He was director of the institute until it was
moved to Munich in 1958, when it was expanded and renamed the Max Planck Institute for
Physics and Astrophysics. Heisenberg was also president of the German Research Council,
chairman of the Commission for Atomic Physics, chairman of the Nuclear Physics Working
Group, and president of the Alexander von Humboldt Foundation.
Louis-Victor-Pierre-Raymond, 7th duc de Broglie, (1892 – 19 March 1987)
was a French physicist who made groundbreaking contributions to quantum
theory. In his 1924 PhD thesis he postulated the wave nature of electrons and
suggested that all matter has wave properties. This concept is known as waveparticle duality or the de Broglie hypothesis. He won the Nobel Prize for Physics in
1929.
The wave-like behaviour of particles discovered by de Broglie was used by
Erwin Schrödinger in his formulation of wave mechanics. Louis de Broglie was
the sixteenth member elected to occupy seat 1 of the
Académie française in 1944,
and served as Perpetual
Secretary of the French
Academy of Sciences.
1925年から1926年にかけてシュレーディンガーは、フランスの物理学者ルイ・ド・ブ
ロイが発見した物質波の概念を基にして波動方程式をハミルトン-ヤコビ方程式など
を用いて導出し、波動力学を展開した。また、波動力学がドイツの理論物理学者
ヴェルナー・ハイゼンベルクの提唱した行列力学と、数学的に同等であることを証
明し、量子力学の確立に大いに貢献した。なお、シュレーディンガー方程式を解くこ
とが、デンマークの理論物理学者ニールス・ボーアの提唱した量子論の結果を完璧
なものにした。
1927年にはフンボルト大学ベルリンにてドイツの物理学者マックス・プランクの後任
として教授を務める。しかし1933年にドイツの政治家アドルフ・ヒトラーがナチ政権を
掌握すると、ユダヤ人学者の弾圧に反対してベルリン大学を辞職した。同年、イギ
リスに渡ってオックスフォード大学のフェローとなり、シュレーディンガーの導出した
波動力学は行列力学と数学的に同等であることを証明したものをディラックによって
完全なものとなり、その業績によりディラックと共にノーベル物理学賞を受賞した。
シュレーディンガー
「シュレーディンガーの猫」
蓋のある箱を用意して、この中に猫を一匹入れる。箱の中には猫の他に、放射性
物質のラジウムを一定量と、ガイガーカウンターを1台、青酸ガスの発生装置を1台
入れておく。もし、箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すと、これをガイガーカ
ウンターが感知して、その先についた青酸ガスの発生装置が作動し、青酸ガスを
吸った猫は死ぬ。しかし、ラジウムからアルファ粒子が出なければ、青酸ガスの発
生装置は作動せず、猫は生き残る。一定時間経過後、果たして猫は生きているか
死んでいるか。
この系において、猫の生死はアルファ粒子が出たかどうかのみにより決定すると
仮定する。そして、アルファ粒子は原子核のアルファ崩壊にともなって放出される。
このとき、例えば箱に入れたラジウムが1時間以内にアルファ崩壊してアルファ粒子
が放出される確率は50%だとする。この箱の蓋を閉めてから1時間後に蓋を開けて
観測したとき、猫が生きている確率は50%、死んでいる確率も50%である。したがっ
て、この猫は、生きている状態と死んでいる状態が1:1で重なりあっていると解釈し
なければならない。
我々は経験上、猫が生きている状態と猫が死んでいる状態という二つの状態を認
識することができるが、このような重なりあった状態
重なりあった状態を認識することはない。
重なりあった状態
朝永振一郎 「光子の裁判」 岩波