第 章 単因子論

第
章 単因子論
本章においては
における行列
の行列式因子と単因子
の概念を用いて
における行列の固有多項式,あるいは最小多項
式の特徴付けを行うことについて考察する ここで 体 は実数体
あるいは複素数体 を表し
は 係数多項式全体のつくる
多項式環を表す
行列式因子と単因子
本節においては 行列式因子と単因子の概念を定義し その基本
性質について考察する
体 を実数体 あるいは複素数体 であるとする
を体
に係数を持つ変数 の多項式全体のつくる多項式環であるとする
の
個の元
を 行 列に
並べて得られる配列
を
における
型の行列であるという
型の行列を 次正方行列であるという
における
すなわち
における行列
は
の元を要
素とする行列である 特に 体 の元を要素とする行列
は における行列であるという
における 次正方行列に対する行列式の定義式と全く同じ関
係式によって
における 次正方行列に対する行列式を定義す
に対して
ることができる すなわち 次正方行列
行列式
を関係式
によって定義し これを
と表す ここで定義された行列式に対しても 記号を読み替えること
によって
における 次行列式の基本性質はそのまま成り立つこ
とがわかる 行列式の定義に関しては
節を参照してもらいたい
における 次正方行列
に対し
を満足する 次正方行列
は可逆であるという ここで
このとき 次の命題が成り立つ
命題
における
ための必要十分条件は
の逆行列は
は
が存在するとき 行列
次単位行列である
次正方行列
が可逆である
となることである このとき
によってただ一通りに決定される ここで
行列
は
の余因子
である
証明 が可逆な行列であるとすると 式
より
であることがわかる したがって 行列式
は
の可逆元で
の要素である ゆえに
あるから これは
逆に
が
の元であるとする このとき
の余因子行
列を式
の行列
であるとし
とおけば 明らかに 等式
が成り立つ したがって
は可逆である
いま
は
における可逆な 次正方行列
全
は行列の乗法に関し
体のつくる集合であるとすると
て群になる
このとき が単位元であって 式
の
が
の逆
元である ゆえに 群の一般論により単位元と逆元の一意性が従う
定義
における可逆な 次正方行列
列であるという また これを正則行列であるともいう
は可逆行
にお
ける 次正則行列
に対し 式
の逆行列であるといい
おける
の行列
を
に
と表す
次に
における
型行列のランクの概念を体
におけ
る行列の場合と同様に定義する また ランクのことを階数という
こともある
を
における
型の行列であるとする そのとき
の 次の小行列式のうちに少なくとも一つ でないものが存
在し
次以上の小行列式はすべて であるならば 行列
のランクは であるといい
と表す
定義
,
列であるとする いま
が存在して
を
が成り立つとき 行列
と
同値であるという 特に
方行列であるとき
,
と同様の関係が成り立つとき
であるという
における二つの
型の行
は
がともに
と
における 次正
が存在して
は
同値
同値 あるいは
同値関係であることは容易に確かめられる
同値が
命題
列であるとする いま
が存在して
型の行
を
における二つの
が成り立つとき 等式
が成り立つ
証明 体 における行列の場合と同様にして証明される これに
関しては 定理
を参照してもらいたい
における
型の行列
に対しても
に
おける行列の場合と同様に 次の 種の行列の変形を行なうことが
できる ここでは
の元をスカラーという
一つの行に
の可逆元を掛ける
二つの行を入れ換える
一つの行に他の行のスカラー倍を加える
一つの列に
の可逆元を掛ける
二つの列を入れ換える
一つの列に他の列のスカラー倍を加える
このような 種の行列の変形を行列の基本変形であるという これ
は 次の三つの型の基本行列を左あるいは右から
に掛けるこ
とによって行うことができる
Ⅰ 対角線上の第 番目の要素が
角要素がすべて である対角行列
の可逆元
で 残りの対
Ⅱ 対角線上の第
番目の要素が で 残りはすべて であり
対角線上にない要素は
要素と
要素が で 残りは
すべて である行列
Ⅲ 対角線上の要素はすべて で
で 残りの要素はすべて
に対し
である行列
要素が
これらの基本行列は正則行列である
次に
における行列の行列式因子の定義を与える
定義
における
型行列
の 次の小行列
式の全体の最大公約数
は行列
の行列式因子であるとい
う ただし
とする
ここで 定理
の証明のために 次の補助定理を証明する
補助定理
ける二つの
を
型行列であるとし
であるとする そのとき
にお
であれば
の 次の小行列式全体の最大公約数
と
の 次の小行列式全体の最大公約数
は
の可逆元の差を
除いて一致する したがって 特に 最高次の係数が であるものは
一致する ただし
とする
証明 式
対し 等式
より
に
が成り立つ.ここで
とおいた これは
の 次の小行列式はどれも
の
すべての 次の小行列式の 次結合で表わされることを意味してい
る
は正則であるから 等式
が成り立つ したがって 上と同様に
の 次の小行列式はどれ
のすべての 次の小行列式の 次結合として表わされるこ
も
とがわかる ゆえに 行列
の 次の小行列式全体の最大公約
数
と行列
の 次の小行列式全体の最大公約数
と
の可逆元 すなわち
の
は互いに他を約するから それらは
元だけの違いしかない 特に
と
の最高次の係数が で
あるものは一致する
定理
を
に基本変形
る
行なうことによって 行列
における
型の行列であるとす
を繰り返し
を次の形の行列
に変形できる ここで は行列
のランクで 対角要素
は次の条件を満足する最高次の係数が の多項式である
は
で約される
は一意に決定される
証明 まず 帰納法を用いて 行列
が基本変形によって
の形の行列で条件
を満たすような行列に変形できることを示す
のときは明らかである
次に
または
のときを考える いま
を
行列
の要素
の最大公
約数であるとする そのとき
となるから
であるか または
であるかで
ある
となる要素があれば その要素が
要素になるように基本変形を行う
また すべての
に対し
れば そのうちで次数が最小である要素が
本変形を行う 次に
であ
要素によるように基
とおく ここで
は であるか
かつ
である このとき 第 列 第 列 … 第 列にそれぞ
れ第 列の
倍を加える そうして得
られた行列
は
と同値で そのすべての要素の最大公約数はやはり
で
となる要素があ
ある 上と同様にして
れば その要素が
要素になるように基本変形を行なう また
すべての でない
に対し
であれ
ば そのうちで次数が最小である要素が
要素になるように基本
変形を行なう そうして得られた行列をやはり
で表して
おく そのとき
であると仮定してよい なぜならば でないすべての
に対
し
である場合
の
である このとき
であるとしてよ
いから
とおく
ここで やはり
である
であるか
したがって
かつ
のも
のがあれば それを
要素になるように基本変形することによっ
の形に書いたとき 条件
が成り立つように
て 式
できる ここで また
のときには
とでき
である このときは
とおく このとき
であるか
で
である いま ある
が でないならば 第 列を
第 列に加え さらに そうして得られた行列の第 列に
を掛けて第 行に加えると
要素は でなくて その次数は
より小さくなるから これが
要素になるように
は
の形の行列
基本変形することによって 行列
と同値になり
を満足する行列が得られる これをやはり
で表すことにする したがって いま この
の形
の行列で 条件
を満たすものを求めた操作を繰り返すこと
により,
なる
要素の列が得られるが
は有限であるから
このような操作は有限回で終わらなければならない したがって 最
後には
となるから このとき
は可逆元
の形に表される いま
の最高次の係数を
であるとする ここで 式
ることにより 行列
として
の形の行列の第
列を
倍す
は行列
と同値であるようにできる このとき
となる ここで
である なぜならば それは
上のような基本変形によって 各要素の最大公約数は変わらない
からである そこで 式
の行列の第 列 第 列 …
第 列に それぞれ第 列の
倍を
行にそれぞれ第 行の
加え さらに 第 行 第 行 … 第
倍を加えることにより 行列
と同値な行列
を得る
このとき
または
であるならば これは式
の形の行列になっているから 定理は証明されたことになる
そこで
の場合に
型行列に対して定
理は正しいと仮定しておくと 帰納法の仮定によって 行列
は 行列
と同値になる
ここで
は
は行列
て 行列
で約される
以上によっ
と同値になる
ここで
が
で約されることを調べる必要がある しか
が行列
において
し これは
の最大公約数のうち最高次の係数が のものとして得られる
ことに注意すれば明らかである なぜならば
は式
の行列の要素の最大公約数であるからである よって
が満たさ
れる
次に
を証明する 上に証明されたように
における
型行列
に対し ある
における正則行列
が存
在し
が成り立つ 補助定理
の行列式因子
行列式因子は一致するから
によれば 最高次の係数が
と行列
である 最高次の係数が である
より一意に定まるから
は行列
の行列式因子は行列
によって一意に定まる ただし
定義
定理
における
の単因子であるという
注意
単因子は
定理
定理
系
である
の
に
とおく
を行列
行列の基本変形として Ⅱ Ⅲ のみを考えれば
における逆元を除いて一意に決定される この場合
の
が成り立つ
の証明に使われた重要な事実を系として挙げておく
における
型行列
が である でない行列式因子を
とおく そのとき
する ただし
の最高次の係数
であると
は行列の単因子である ここで
系
は一致する
とおく
における二つの同値な
型行列の単因子
証明 補助定理
によって 同値な二つの行列の最高次の係
より
数が である行列式因子が一致することが従うから 系
直ちに系
が従う
固有多項式と最小多項式
本節においては 最小多項式の概念の定義を与え 単因子論を用
いて 固有多項式と最小多項式の特徴付けとそれらの関係について
考察する
体 を実数体 あるいは複素数体 であるとする
このとき
における 次正方行列 の最小多項式を単因子論を
用いて特徴付けすることを考える
そこで まず 行列 の最小多項式の定義と基本性質を述べる
ハミルトンケーリーの定理によって
次正方行列 が与えられ
たとき 変数 の恒等的に でない多項式
で
を満
足するものが存在することがわかる なぜならば 行列 の固有多
項式
はそのようなものである したがって
を満
足する恒等的に ではない多項式
のうち次数が最小で,かつ,
最高次の係数が であるものが存在する このような多項式を行列
の最小多項式であるといい これを
と表す
次正方行列
の最小多項式
は次の命題によって特徴付けられる
命題
恒等的に でない多項式
最小多項式であるための必要十分条件は
を満足することである
が 次正方行列の
が次の条件
恒等的に
つならば
を満足する
ではない多項式
に対し
は
で約される
は
の多項式である
が成り立
を満たす最高次の係数が であるただ一つ
証明 多項式
が行列の最小多項式であるとする そのとき
定義によって
したがって
が成り立つ
いま
が
を満足する任意の恒等的に ではない多
項式であるとすると 条件
あるいは
を満足する多項式
と
が存在する このとき
より
でなければならない したがって
でなければ これは
が最小多項式であることに矛盾
は
で約される
する ゆえに
次に 恒等的に ではない多項式
が条件
を満足す
るいま一つの多項式であるとする このとき 条件
によって
が成り立つ ゆえに
でなければならない
ければならない ところが
ばならないから 式
であるから
でな
と
の次数が等しくなけれ
より
かつ
でなければならない このとき
であるが
はともに最高次の係数が
でなければならない ゆえに
が示さ
であるから,
れた
逆は最小多項式の定義より明らかである.
系
次正方行列
項式で約される.
の固有多項式
は
の最小多
ここで 次正方行列 の最小多項式を単因子論を用いて特徴付け
における行列
の単因子
するために
を求める
すなわち 次の定理が成り立つ
定理
を体
における 次正方行列であるとする
における行列
の単因子
は次の
ように与えられる
のジョルダンの標準形において固有値 を含
む小行列の次数の高いものから順に
であるとし
のときには
とおく このとき
である
は行列
の最小多項式である
証明 系
より体 における 次正則行列 に対し 行列
と
の単因子は一致するから 行列
が
行列 のジョルダンの標準形である場合に対して行列
の単因子を計算すればよい そこで,行列 の相異なる固有値を
であるとするとき
のジョルダンの標準
次正方行列
は
形を用いて
と表されているとしてよい ここで
である.そのとき ジョルダンの標準形は その中に含まれる小行列
の順序を除いて定まるから ここでは
が成り立つように ジョルダンの標準形の小行列の順序を定めてお
く 行列
が
次正方行列
に同値になることは容易に確かめられる したがって 行列
は 次正方行列
と同値になる ゆえに 行列
次正方行列
したがって 行列
は
と同値であることがわかる 式
列で その対角成分は 順番に
の
によって与えられる ただし
いま 行列
の行列式因子を
とすると
で与えられる ここで
であるものとする
次正方行列は対角行
であるとする
である
のとき
とおくとき 行列
に対し
の単因子
は
で与えられる.式
より
であることがわかる すなわち
である ここで
のとき
は負でない整数で
に対し
を満足するものとする
次に 行列
の単因子の最高次のものである
は行列
の最小多項式であることを示す
ベクトル空間
の一般化された固有空間による直和
分解
において
であることは
の選び方からわかる これから
であ
ることは容易にわかる 次に
を満たす任意の でない多
は
で約されることを示す そのために 定理
項式
の証明におけると同様にして 多項式
に対し
とおく そのとき 多項式
ないから 多項式
は共通因数を持た
を
となるように選ぶことができる このとき
が成り立つから
とおくと
である ここで
という事実を用いると
が得られる そのとき
であることが,定理
式
より
の証明と同様にして示される.
が成り立つ 各
ラー展開式を用いると
が成り立つ 第
に対し
節の式
の
と同様にして
が成り立つことが従う ゆえに
が成り立つ ゆえに 任意の多項式
が成り立つ
のまわりでのテイ
に対し
いま
を
る このとき
よって
を満足する任意の
であることより 式
であることが従う
の選び方から
なるベクトル
でない多項式とす
,
に
の中には
が存在する.このとき
は 次独立である したがって
であることが従う このことは
が方程式
の解であって それぞれの重複度は少なくとも
なければならないことを意味する したがって 多項式
で約される これによって 単因子
あることがわかる
系
固有多項式
が成り立つ
ⅰ を体 における
と最小多項式
は
は
が行列
で
は
の最小多項式で
次正方行列であるとする
の
の間には次の
の関係
で約される
で約される
証明 の単因子を
であるとすると
であるからである
系
項式
証明 系
行列 の相異なる固有値の全体は 行列
の相異なる解の全体と一致する.
の最小多
より明らかである
定理
体 における二つの 次正方行列
あるための必要十分条件は
における行列
単因子が一致することである
と
が相似で
の
証明 系
によれば 二つの 次正方行列
が相似であ
るための必要十分条件は それぞれのジョルダンの標準形がその中
に含まれる小行列の順序を除いて一致することである 行列
のジョルダンの標準形が上の条件を満足するとき
における行
列
と
の単因子が一致することは定理
より明
らかである
逆に行列
と
の単因子が一致すると仮定する その
の固有値はその重複度を含めて一致する もし 行
とき 行列
列
が相似でないとすると それらのジョルダンの標準形はその
中に含まれる小行列の順序を並べ換えても一致しない このことは
行列
のジョルダンの標準形においてその中に含まれる小行列
の次数の互いに異なるものが存在することを意味する そのとき,
定理
によって計算される行列
と
の単因子は
異ならなければならない しかし これは仮定に反する ゆえに 行
列
は相似でなければならない
定理
体
における 次正方行列が対角化可能である
の最小多項式が重複解を有しないことで
ための必要十分条件は
ある
証明 行列 のジョルダンの標準形が対角行列であるための条件
において
は定理
が成り立つことであるからである
定義
対角化可能な行列は半単純であるという