微分積分学および演習Ⅱ 参考資料 5 2015 年度後期 工学部・未来科学部 1 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) ■2 変数関数の極値問題 定義 (臨界点) 偏微分可能な 2 変数関数 f (x, y) に対して fx (x0 , y0 ) = fy (x0 , y0 ) = 0 を満たす (f (x, y) の定義域 Df 内の) 点 (x0 , y0 ) を f (x, y) の 臨界点 critical point と呼ぶ。 1 変数関数の場合と同様に、臨界点は f (x, y) の極値をとる点の 候補 となる。ところが 1 変数関 数の場合とは異なり 2 変数関数の場合には 増減表を描くことが出来ない (!) ため、実際に極大値や 極小値をとるかを確認するのは一筋縄ではいかない。そこで、1 変数関数の場合には 2 階導関数の正 負 (グラフの凹凸) からも極大値、極小値を判定することが出来た ことを踏まえて、2 変数関数の場 合も 2 階偏導関数 を用いて極値の判定が出来るのではないかと画策してみよう。 定義 (ヘッセ行列、ヘッセ行列式) 2 階偏微分可能な 2 変数関数 f (x, y) に対して定まる 2 次正方行列 ( ) fxx (x, y) fxy (x, y) Hf (x, y) = fyx (x, y) fyy (x, y) を f (x, y) の ヘッセ行列 Hesse matrix と呼び、その行列式 ルートヴィッヒ・オットー・ヘッセ hf (x, y) = det Hf (x, y) を ヘッセ行列式 Hessian と呼ぶ。 注: 関数 f (x, y) が 2 階 連続 偏微分可能関数である場合、fxy (x, y) = fyx (x, y) が成り立つので、 t Hf (x, y) = Hf (x, y) となる。つまり、2 階連続偏微分可能関数のヘッセ行列は 対称行列 symmetric matrix となる。 定理 (2 変数関数の極値の判定) 点 (x0 , y0 ) を 2 階 連続 偏微分可能関数 f (x, y) の臨界点とする。 (1) hf (x0 , y0 ) < 0 となるとき、f (x0 , y0 ) は f (x, y) の 極大値でも極小値でもない ( 鞍点 ) (2) hf (x0 , y0 ) > 0 となるとき、 (2-a) fxx (x0 , y0 ) > 0 ならば f (x0 , y0 ) は f (x, y) の 極小値 となる。 (2-b) fxx (x0 , y0 ) < 0 ならば f (x0 , y0 ) は f (x, y) の 極大値 となる。 注: hf (x0 , y0 ) = 0 の と き は 、f (x0 , y0 ) が 極 大 値 か 極 小 値 か (或 い は ど ち ら で も な い か) は Hf (x0 , y0 ), hf (x0 , y0 ) のみからは判断出来ない (!!) ■2 変数関数の極値判定のフローチャート Start 関数 f (x, y) の入力 Step 1. 臨界点の計算 (まだ極値判定していない) 臨界点 (x0 , y0 ) を選ぶ Yes f (x0 , y0 ) は 鞍点 Step 2. hf (x0 , y0 ) > 0 ? No Yes f (x0 , y0 ) は 極大値 Step 3. fxx (x0 , y0 ) > 0 ? No Yes f (x0 , y0 ) は 極小値 まだ未判定の 臨界値がある? No End ■極値判定法の証明 babababababababababababababababababab 【証明の方針】 臨界点 (x0 , y0 ) のごく近くの点 (x, y) で − 常に f (x, y) − f (x0 , y0 ) ≥ 0 なら f (x0 , y0 ) は 極小値 − 常に f (x, y) − f (x0 , y0 ) ≤ 0 なら f (x0 , y0 ) は 極大値 − f (x, y) − f (x0 , y0 ) > < 0 のどちらも起こったら f (x0 , y0 ) は 鞍点 となることに注意。 ⇝ どれになるかを テイラーの近似定理 を用いて調べよう! 臨界点 (x0 , y0 ) のまわりでの f (x, y) に対する 2 次の項までの テイラーの近似定理 よ 【証明】 り、ある実数 0 < θ < 1 が存在して (∗) : f (x, y) − f (x0 , y0 ) = fx (x0 , y0 )∆x + fy (x0 , y0 )∆y 1 + {fxx (x0 + θ∆x, y0 + θ∆y)(∆x)2 + 2fxy (x0 + θ∆x, y0 + θ∆y)∆x∆y 2 + fyy (x0 + θ∆x, y0 + θ∆y)(∆y)2 } が成り立つ (但し ∆x = x − x0 , ∆y = y − y0 とおいた)。ところで (x0 , y0 ) は 臨界点 なので、定 義から fx (x0 , y0 ) = fy (x0 , y0 ) = 0 が成り立つ。また 2 階偏導関数の 連続性 から、近似的に fxx (x0 + θ∆x, y0 + θ∆y) ≈ fxx (x0 , y0 ), fxy (x0 + θ∆x, y0 + θ∆y) ≈ fxy (x0 , y0 ), fxx (x0 + θ∆x, y0 + θ∆y) ≈ fxx (x0 , y0 ) · · · (⋆) が (非常に小さい θ に対して) 成り立つ。これらを (∗) 式に代入して 1 f (x, y) − f (x0 , y0 ) ≈ {fxx (x0 , y0 )(∆x)2 + 2fxy (x0 , y0 )∆x∆y + fyy (x0 , y0 )(∆y)2 } 2 を得る。このことと【証明の方針】での考察を踏まえると、結局 f (x0 , y0 ) が 極値であるかどうか は (∆x, ∆y に関する) 2 次式 fxx (x0 , y0 )(∆x)2 + 2fxy (x0 , y0 )∆x∆y + fyy (x0 , y0 )(∆y)2 の ∆x, ∆y を動かしたときの値の 正負 を調べることによって判定出来ることが分かる。 ここで例えば ∆y ̸= 0 と仮定すると fxx (x0 , y0 )(∆x)2 + 2fxy (x0 , y0 )∆x∆y + fyy (x0 , y0 )(∆y 2 ) { } ( )2 ∆x ∆x 2 + 2fxy (x0 , y0 ) · + fyy (x0 , y0 ) = (∆y) fxx (x0 , y0 ) ∆y ∆y となるので、この値が ∆x, ∆y を動かしたときに常に正となるか負となるかを調べるのは 2 次 関数 g(t) = fxx (x0 , y0 )t2 + 2fxy (x0 , y0 )t + fyy (x0 , y0 ) が常に正の値をとるか負の値をとるか を調べること に他ならない。これは 判別式 を用いて調べられる (高校の『数学Ⅰ』の範囲!)。 そこで 2 次方程式 g(t) = 0 の判別式 D (の 4 分の 1 倍) を計算してみると D/4 = {fxy (x0 , y0 )}2 − fxx (x0 , y0 )fyy (x0 , y0 ) = − hf (x0 , y0 ) となり、ヘッセ行列式が登場する ことを観察しよう。 (ア) fxx (x0 , y0 ) ̸= 0 のとき fxx (x0 , y0 ) で括ってから 平方完成 して fxx (x0 , y0 )(∆x)2 + 2fxy (x0 , y0 )∆x∆y + fyy (x0 , y0 )(∆y)2 ( )2 fxy (x0 , y0 ) fxx (x0 , y0 )fyy (x0 , y0 ) − {fxy (x0 , y0 )}2 = fxx (x0 , y0 ) ∆x + ∆y + fxx (x0 , y0 ) fxx (x0 , y0 ) ( )2 hf (x0 , y0 ) fxy (x0 , y0 ) ∆y + = fxx (x0 , y0 ) ∆x + fxx (x0 , y0 ) fxx (x0 , y0 ) を得る。したがって fxx (x0 , y0 )(∆x)2 + 2fxy (x0 , y0 )∆x∆y + fyy (x0 , y0 )(∆y 2 ) の値は − fxx (x0 , y0 ) > 0 かつ hf (x0 , y0 ) > 0 のとき常に 正 (⇝ 極小値 ) − fxx (x0 , y0 ) < 0 かつ hf (x0 , y0 ) > 0 のとき常に 負 (⇝ 極大値 ) − hf (x0 , y0 ) < 0 のときは正にも負にもなる (⇝ 鞍点 ) となる。 (イ) fyy (x0 , y0 ) ̸= 0 のとき fyy (x0 , y0 ) で括ってから 平方完成 して (ア) と同様に計算すると、 2 fxx (x0 , y0 )(∆x) + 2fxy (x0 , y0 )∆x∆y + fyy (x0 , y0 )(∆y)2 の値は − fyy (x0 , y0 ) > 0 かつ hf (x0 , y0 ) > 0 のとき常に 正 (⇝ 極小値 ) − fyy (x0 , y0 ) < 0 かつ hf (x0 , y0 ) > 0 のとき常に 負 (⇝ 極大値 ) − hf (x0 , y0 ) < 0 のときは正にも負にもなる (⇝ 鞍点 ) となる (各自確認すること)。(ア) とは違って fyy (x0 , y0 ) の符号による場合分け が現れるが、 hf (x0 , y0 ) > 0 のときには fxx (x0 , y0 )fyy (x0 , y0 ) > fxx (x0 , y0 )fyy (x0 , y0 ) − {fxy (x0 , y0 )}2 = hf (x0 , y0 ) > 0 となり、fxx (x0 , y0 ) の符号が自動的に fyy (x0 , y0 ) の符号と等しくなってしまう ことに注意 しよう。 (ウ) fxx (x0 , y0 ) = fyy (x0 , y0 ) = 0 のとき hf (x0 , y0 ) = −{fxy (x0 , y0 )}2 より、hf (x0 , y0 ) ̸= 0 と 仮定すると hf (x0 , y0 ) < 0 である。特に fxy (x0 , y0 ) ̸= 0 である。このとき fxx (x0 , y0 )(∆x)2 + 2fxy (x0 , y0 )∆x∆y + fyy (x0 , y0 )(∆y)2 = 2fxy (x0 , y0 )∆x∆y は、∆x, ∆y を適当に定めれば正にも負にもなる (⇝ 鞍点 ) 以上の場合分けを整理すると定理の通りとなる。 □ 注: f (x, y) − f (x0 , y0 ) の符号が問題となっているため、実際には 2 階偏導関数の 連続性 による近 似 (⋆) の 誤差 についてももう少し真面目に考察すべきである。気になる人は、例えば三宅 敏恒著『入門微分積分』(培風館) の 定理 4.3.4 の証明などを参照して下さい。
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