2013 年度全学体験ゼミナール 電磁気学で使う数学:第 9 回 12 月 17 日 清野和彦 数理科学研究科棟 5 階 524 号室 (03-5465-7040) [email protected] http://lecture.ecc.u-tokyo.ac.jp/~nkiyono/index.html ベクトル場の微分(その 1): 回転ベクトル場 2.6 発散スカラー場は、ある点に注目したとき「ベクトル場に沿って流れているものがその点からど のくらい散って行くか」という「散り寄り具合」を計ろうとして行き着いた微分でした。だから、 座標系を使って成分で表示したとき、ベクトル場の第 i 成分の第 i 変数による偏微分しか出てこ ないのでした。ということは、残りの組み合わせの偏微分によって、この視点では捉えられない状 況を表せるのではないか、つまり、ベクトル場に沿って流れているものが注目した点に寄りも離れ もせず遠巻きに見ている具合、すなわち「その点を中心としてぐるぐると回っている具合」を表せ るのではないか、と期待されます。その期待に応えてくれるのがこの節で定義する回転ベクトル場 です。 2.6.1 「回転」をどう捉えるか ところで、空間において 1 点のまわりをまわっている具合というのはどのようにしたら捉えられ るでしょうか? 例えば、空間内を粒子が一個だけ動いているときでも、その粒子が注目した点 P のまわりを何 回回ったかはどこから見るかによって違ってきてしまいます。ハエが頭のまわりをぶんぶん飛んで いるとき、上から見ると 2 回しか回っていないのに横から見ると 3 回回っているというようなこと があり得ます。(想像してみて下さい。) このように、「回転」というものを素朴に捉えようとするなら、その回転を見る「視点」を決め なければならないことがわかります。もっと高度な考え方を導入してこの困難を解決することも可 能ですが、このゼミはできるだけ素朴な考えに(無理矢理)結びつけるのが方針ですので、「見る 人ごとに回転は違ってくる」という考えで進めることにします。 「視点を決めると回転数が決まる」とは、ハエの例で言えば、例えば地面に映ったハエの影なら 回転数を考えられる、ということだと言えるでしょう。つまり、 注目した点 P を通る平面を決め、それへの正射影を対象にすれば回転を考えられる というわけです。ただし、回転が「正回転」であるか「負回転」であるかを決めるために、平面に は「表裏」を指定しておく必要があります。もちろん平面の表裏を決めてもどちらの回転が正の回 転かは自然が決めてくれるものではないので、人間が決めなければなりません。一人一人が勝手に 決めてもよいのですが、勝手に決められるものは既に多くの人が使っている決め方に従うのがよい 方法です。既に皆が使っている決め方は 表から見て反時計回りの回転が「正回転」 2 第9回 です。我々もこれに従いましょう。 以上は一粒の粒子の運動が相手でした。しかし、我々が相手にしたいのはあらゆる点に同時にベ クトルが存在するベクトル場です。だから、粒子が注目する点のまわりを回っている回数のような ものではありません。各ベクトルを、たとえば風(空気の運動量)だと思うなら、注目する点 P とそれを通る平面 H (表裏付き)に対し、 「H 内で P を中心とした空気の角運動量の平均」と言 えるようなものであるべきだし、あるいは、各ベクトルを力だと思うなら、 「その力が P を中心に H 内で物を回そうとする働きの合計」のようなものを捉えなければなりません。 しかも、我々の観点は「微分」です。全く違う二つのベクトル場でも、もし注目する点 P の近 くではピッタリ一致してしまっているなら、その点の周りの「回り具合」はその二つのベクトル場 で一致していなければなりません。 このように話を進めてくると、次のような考え方にたどりつくでしょう。 • 注目する点 P を決める。 • P を含む平面 H を表裏付きで一つ決める。 • 平面 H 上で P を中心とする半径 l の円を Cl とする。 • ベクトル場 F⃗ の定義域を Cl に制限する。 • そのベクトル場の H に平行な成分(すなわち H への正射影)を取る。 • Cl 上の各点で、その正射影ベクトルの点 P を中心とした「回り具合」(例えば角運動量)を 計算する。 • その「回り具合」を Cl で平均し、その値を ρl とする。 • l → 0 としたときの ρl の極限値を、F⃗ の H における P を中心とした「回り具合」と定義 する。 これで考え方は決まりましたが、面倒が一つ残りました。「Cl での平均値」を求めるには「Cl での積分」をしなければならないことです。これから微分を定義しようというのに積分を使わなけ ればならないなんてなんかイヤと思うのは当然でしょう。そこで、発散スカラー場のときに使った 近似の考え方をここでも使いましょう。そもそも、ベクトル場の微分として意味を持ちそうなもの を見つけるために「散り寄り具合」だの「回り具合」だのという発想を利用してはいますが、本当 にそれに厳密に意味を持たせ、意味を持たせたその値をきっちりと捉えるように完璧に微分を定 義しよう、というのではありませんでした。視点だけ利用してそれなりに微分を定義し、そのよう に「いい加減」に定義したものが本当に意図どおりの量を拾っているかどうかはあとで改めて検証 すればよいと考えていました。(発散スカラー場の場合には、ガウスの発散定理が成り立つことで 「検証」されたと考えたのでした。)というわけで、円 Cl 全体にわたっての平均値を取るのはやめ て、計算しやすそうな有限個の点についての平均値でよいことにしてしまいましょう。 2.6.2 指定された平面に関する「回転」の定義式 以上のように考えて「回り具合」という微分を具体的な式で定義しましょう。そのためには空間 に座標系を決めて成分で考える必要があります。しかし、考察をスッキリ見易くするために、座標 系を固定する前に注目する点 P と P を通る平面 H (表裏付き)を決めてしまい、その後で P と H が特別扱いされるような座標系を入れて考えることにします。具体的には、P を原点とし H を xy 平面とする右手系の正規直交座標系を一つ決めます。このとき z 軸が xy 平面すなわち H を 裏から表へ貫くように決めます。(このように指定することで H に指定してある表裏を「回り具 ⃗ をこの座標系によって成分表示 合」の数値の正負に反映させようというわけです。)ベクトル場 F 3 第9回 したものを、いつものように F1 (x, y, z) F (x, y, z) = F2 (x, y, z) F3 (x, y, z) とします。 平面 H(すなわち xy 平面)において点 P (すなわち原点)を中心とした半径 l の円 Cl 上の有限 個の点として、x 軸および y 軸との交点を考えることにしましょう。つまり、(±l, 0, 0) と (0, ±l, 0) ⃗ の平面 H (すなわち xy 平面)への正射影の成分表示は、z の 4 点です。これらの点における F 成分を 0 にしたもの、つまり、 F1 (±l, 0, 0) F2 (±l, 0, 0) 0 F1 (0, ±l, 0) F2 (0, ±l, 0) 0 です。 ところで、前小節では H 内にある一つのベクトルの「点 P の周りの回り具合」として、例え ばそのベクトルを運動量とした場合の角運動量を考えると言いました。しかし、我々が考えなけれ ばならないのは「平均」です。この平均は Cl の各点におけるベクトルに関する「回り具合」の平 均というだけではなく、 「Cl の半径 l を単位長さに換算した場合の値」という意味での平均でもあ りました。(発散スカラー場を考えたとき、小長方形の面積で割ったことを思い出してください。) 具体的なイメージとして角運動量や力のモーメントを考えるなら、「l を 1 に換算する意味での平 均」も考えなければなりません。ところが、角速度は半径 l によらない概念ですのでその必要があ ⃗ を力や運動量ではなく速度と見ることにしましょ りません。そこで、具体的なイメージとして F う。そして、各ベクトルの回り具合を点 P を中心とした角速度とするのです。そうすれば l を 1 に換算する手間がない分だけ考察がすっきりします。というわけで、以下では角速度をイメージし ながら話を進めることにします。 さて、 「回り具合」として角速度を考えるということは、H への正射影ベクトル全体が「回り具 合」に影響してくるのではなく、そのベクトルの「生えている点」と中心点 P とを結ぶ線に直交す る成分だけが効いてくることになります。(これは角運動量や力のモーメントでも同じことです。) 4 点 (±l, 0, 0), (0, ±l, 0) におけるその値は、それぞれ F2 (±l, 0, 0) F1 (0, ±l, 0) です(図 32)。 これらを中心点 P からの距離 l で割った値がほぼそのベクトルの点 P を中心とし た「回り具合」 (角速度)の値です。 「ほぼ」と言った理由は、符号が違っているかもしれないから です。我々は、z 軸が平面 H (すなわち xy 平面)を裏から表に貫くように座標系を決めました。 だから、z 軸の正の方から見て反時計回りが「正回転」です。ということは、(l, 0, 0) と (0, −l, 0) の 2 点ではその値がそのまま「回り具合」ですが、(−l, 0, 0) と (0, l, 0) ではその値の −1 倍が「回 り具合」になります。(図 32 をよく見て考えてください。) 以上より、4 点 (±l, 0, 0), (0, ±l, 0) におけるベクトルの点 P を中心とした H 内での「回り具 合」の平均値 ρl は、 ρl = 1 4 ( F2 (l, 0, 0) F2 (−l, 0, 0) F1 (0, l, 0) F1 (0, −l, 0) − − + l l l l となります。第 2.4.2 節の注意にあるように lim l→0 f (a + l) − f (a − l) = f ′ (a) 2l ) 4 第9回 F (0, l, 0) l F (−l, 0, 0) 平面 H −l l −l F (l, 0, 0) F (0, −l, 0) 図 32: 「回り具合」に効いてくる成分。 ですので、 ( ) 1 F2 (l, 0, 0) − F2 (−l, 0, 0) F1 (0, l, 0) − F1 (0, −l, 0) lim ρl = lim − l→0 2 l→0 2l 2l ( ) 1 ∂F2 ∂F1 = (0, 0, 0) − (0, 0, 0) 2 ∂x ∂y となることがわかります。 12 倍は邪魔だし大して意味があるとも思えないので無視することにして ⃗ の平面 H 内での点 P の周りの「回り具合」を、上のような右手正規直交 しまい、ベクトル場 F 座標系を使って、 ∂F2 ∂F1 (x, y, z) − (x, y, z) ∂x ∂y (35) という式で定義することにしましょう。 2.6.3 一般の平面に関する回転:回転ベクトル 前小節では、表裏付き平面を決めるごとにそれを xy 平面とする右手正規直交座標系を取ること でその平面に関する回転を与える式 (35) を得ました。しかし、注目する平面を変えるごとに座標 系を取り替えなければならないのでは使い物になりません。この節では、一般の平面に対する回転 を一度に与える式を考えます。 前小節で xyz という右手正規直交座標系を取ることで xy 平面における回転を定義しましたが、 xyz が右手正規直交座標系なら yzx も zxy も右手正規直交座標系です。よって、yz 平面(表裏 は x 軸が裏から表へ貫くように決めます)における回転は ∂F2 ∂F3 − ∂y ∂z であり、zx 平面(表裏は y 軸が裏から表へ貫くように決めます)における回転は ∂F3 ∂F1 − ∂z ∂x ということになります。「xyz 座標に対して添え字 123」だったので、「yzx 座標に対して添え字 231」、「zxy 座標に対して添え字 312」というように xy 平面における回転の定義式 (35) の文字を 入れ替えただけです。これで三つの特別な平面における回転だけは手に入れることができました。 5 第9回 ところで、xy 平面は 0 原点を含み、長さ 1 で裏から表の向きを向く単位法線ベクトルの成分表示が 0 1 となる平面 というようにベクトルを使って特徴付けることができます。「通る点」はその周りの回転を計ろう とする注目の点で分かり切っているのでいちいち断らないことにすると、 平面(表裏付き)⇐⇒ 単位ベクトル という 1 対 1 対応を そのベクトルを裏から表に向いた法線ベクトルとする平面 という関係によって付けることができます。だから、今まで「回転は表裏付き平面を指定するごと に決まる」とい言っていたものを、「単位ベクトルを指定するごとに決まる」と言い換えることが できます。 そんな言い換えをして何が嬉しいのでしょうか? 次のような観察をしてみましょう。xy 平面に 0 対応するベクトルの成分表示は 0 でした。一方、回転は平面を決めるごとにスカラーが決ま 1 るのですから、この考え方では回転は単位ベクトルにスカラーを与えるものと見なされます。ベク 0 トルからスカラーといえばスカラー積です。成分表示が 0 であるベクトルとのスカラー積の 1 値が ∂F2 ∂x − ∂F1 ∂y になるベクトルは ∗ ∗ ∂F2 ∂x − ∂F1 ∂y という成分表示を持つベクトルです。(∗ はどんな値でもよいという意味です。)同様に、yz 平面 1 ∂F2 3 に対応するベクトル 0 に yz 平面における回転の値 ∂F ∂y − ∂z をスカラー積で与えるには 0 ∂F3 ∂y − ∂F2 ∂z ∗ ∗ 0 という成分表示を持つベクトルをとればよく、zx 平面に対応するベクトル 1 に zx 平面に 0 おける回転の値 ∂F1 ∂z − ∂F3 ∂x をスカラー積で与えるには ∂F1 ∂z ∗ − ∗ ∂F3 ∂x 6 第9回 という成分表示を持つベクトルをとればよいことになります。ということは、この三つの平面のど れにおいても、 ∂F3 ∂y ∂F1 ∂z ∂F2 ∂x − − − ∂F2 ∂z ∂F3 ∂x ∂F1 ∂y (36) という成分表示を持つベクトルと平面の単位法線ベクトルのスカラー積がその平面での回転の値を 与えてくれていることになります。実は、このことはこの三つの特別な平面以外の一般の平面に対 しても成り立つのです。ただし、そのことの証明は長い上になかなかわかりにくいので第 2.8 節に 回し、ここでは信じてしまうことにします。 式 (36) を成分表示に持つベクトルを回転ベクトルと呼び、各点にこの式で定義されるベクトル ⃗ の回転ベクトル場と呼ぶことにします。記号は、既に紹 を対応させるベクトル場をベクトル場 F 介してあるように rot F⃗ curl F⃗ または です。 問題 33. 空間に右手正規直交座標系 xyz を一つ固定する。それによって次のように成分表示され ⃗ に対し rot F⃗ の成分表示を計算せよ。 るベクトル場 F −y −y 1 (1) F (x, y, z) = x (2) F (x, y, z) = 2 x x + y2 0 0 ⃗ では x = y = 0 の点は定義域外です。) ((2) の F ( ) ♪ ⃗ に対して rot φF⃗ を計算せよ。 問題 34. (1) スカラー場 φ とベクトル場 F ( ) ⃗ に対して div F⃗ × G ⃗ を計算せよ。 (2) 二つのベクトル場 F⃗ と G ♪ 問題 35. (1) スカラー場 φ に対して rot(grad φ) を計算せよ。 (2) ベクトル場 F⃗ に対して div(rot F⃗ ) を計算せよ。 ♪ 注意. 回転ベクトル場も「各成分について偏微分すること」を形式的に縦に並べたベクトルもどき ∂ ∇= ∂x ∂ ∂y ∂ ∂z を使って表すことができます。∇ × F です。この × は二つの空間ベクトルに対するベクトル積そのものを 意味するのではなく、「ベクトル積を右手正規直交座標系で成分表示したときの数式」の意味です。★ 「一般の平面に対して成り立つ」ということの内容を回転ベクトル場の記号を使って改めてハッ キリ書いておきましょう。 ⃗ のその平 点 P と単位ベクトル ⃗n によって(表裏込みで)決まる平面に対し、ベクトル場 F 面における P を中心とした回転(前小節の式 (35) で定義した値)は、 rot F⃗ (P ) • ⃗n と一致する。 上でも注意したように、これが成り立つことは式を見てすぐわかるようなことでは全然なく、証明 7 第9回 しなければならないことです。しかし証明は後回しにして、ここでは回転ベクトル場に関する「微 積分の基本定理」であるストークスの定理に話を進めてしまうことにします。 2.7 ストークスの定理 F⃗ をベクトル場、S を空間内の曲面(表裏つき)、∂S を S の縁が作る曲線とします。ここで、 ∂S の向きは「S を表から見たとき ∂S は S を左に見ながら回る」というように決ていました(図 33)。 表側 S ∂S ∂S の向き 図 33: S の裏表と ∂S の向きの関係。 このとき ∫ ∫ F⃗ • d⃗l ⃗= rot F⃗ • dS S (37) ∂S が成り立つ、というのがストークスの定理です。特に、S が球面や浮き輪のようにそれ自身閉じて ⃗ が何であっても いて縁を持たないとき、右辺の線積分は積分範囲がないので 0 になり、F ∫ ⃗=0 rot F⃗ • dS S が成り立つことになります。ストークスの定理のイメージの説明と証明がこの節の目標です。 2.7.1 ストークスの定理の意味 証明の前にストークスの定理の意味(イメージ)を考えてみましょう。 ⃗ と S の表向き単位法線ベクトルとのスカラー積を S 式 (37) の左辺は S の各点において rot F 全体にわたって合計したものです。S のある点における表向き単位法線ベクトルとはその点におけ る S の接平面(S と同じ表裏)の表向き単位法線ベクトルのことであり、表裏つき平面の表向き ⃗ とのスカラー積とは F⃗ のその平面内での「回り具合」 法線ベクトルと回転ベクトル rot F (表から 見て反時計回りが正)でした。だから、式 (37) の左辺は S の各点で F⃗ の「S 内での回り具合」をすべて足し上げたもの と解釈できます。ところが、大雑把に考えたとき、S 内の点とその「となりの点」との回り具合は 「接する部分」では符号が逆になるので互いに打ち消しあってしまいます。ということは、すべて 足し上げると「『となりの点』に囲まれていない点」からの寄与だけが残るでしょう。「『となりの 8 第9回 図 34: ストークスの定理の大雑把なイメージ。 ⃗ の ∂S に沿った部分だけが打ち消し合わずに残 点』のない点」とは S の縁の点 ∂S です。結局 F ⃗ の線積分でしょう。まさしく式 (37) の右辺です。(図 34。) ります。それは ∂S に沿った F と、一応説明らしきことはできますが、勾配ベクトル場の基本定理はもちろんのことガウスの発 散定理のイメージ的な説明に比べてもかなり怪しい感じがぬぐえないでしょう。「回り具合」とい うものの定義がかなり無理矢理だった上に、「となりの点の回り具合と打ち消し合う」などそのま ま信じるわけにもいかない感じです。やはり、 ストークスの定理 (37) が成り立つことを証明することによって、逆に我々の rot の定 義が妥当なものであったことが裏付けられる と見るべきなのです。 問題 36. 空間に右手正規直交座標系 xyz を入れておく。 (1) この座標系による成分表示が (y + 1)(z 2 − 1) (x + 1)(z 2 + 1) (x + 1)(y + 1) ⃗ に対し、rot F⃗ をこの座標系で成分表示せよ。 であるベクトル場 F (2) 曲面 S を、単位球面の z ≥ 0 の部分 S = {(x, y, z) | x2 + y 2 + z 2 = 1, z ≥ 0} ⃗ に対して で原点から見える側を裏とする。(1) のベクトル場 F ∫ ⃗ rot F⃗ • dS S を計算せよ。 ♪ 9 第9回 解答 問題 33 の解答 (1) F (x, y, z) の成分を上から F (x, y, z), G(x, y, z), H(x, y, z) とすると、 F (x, y, z) = −y G(x, y, z) = x ⃗ の成分表示は です。よって、rot F Hy − Gz Fz − H x = Gx − Fy H(x, y, z) = 0 0−0 0 0−0 = 0 1 − (−1) 2 となります。 □ (2) F (x, y, z) の成分を上から F (x, y, z), G(x, y, z), H(x, y, z) とすると、 F (x, y, z) = − y x2 + y 2 G(x, y, z) = ⃗ の成分表示は です。よって、rot F Hy − Gz Fz − Hx = Gx − Fy x x2 + y 2 0−0 0−0 −x +y (x2 +y 2 )2 2 2 − H(x, y, z) = 0 −x +y (x2 +y 2 )2 2 2 0 = 0 0 となります。 □ 問題 34 の解答 ⃗, G ⃗ がそ 右手系の正規直交座標系 xyz を一つ決め、それによってスカラー場 φ とベクトル場 F れぞれ F1 (x, y, z) F (x, y, z) = F2 (x, y, z) F3 (x, y, z) f (x, y, z) G1 (x, y, z) G(x, y, z) = G2 (x, y, z) G3 (x, y, z) で表されているとします。 ( ) (1) rot φF⃗ を成分表示を使って計算すると、 (f F3 )y − (f F2 )z fy F3 + f (F3 )y − fz F2 − f (F2 )z ∇ × (f F ) = (f F1 )z − (f F3 )x = fz F1 + f (F1 )z − fx F3 − f (F3 )x (f F2 )x − (f F1 )y fx F2 + f (F2 )x − fy F1 − f (F1 )y fy F3 − fz F2 f (F3 )y − f (F2 )z = fz F1 − fx F3 + f (F1 )z − f (F3 )x fx F 2 − fy F 1 f (F2 )x − f (F1 )y fx F1 (F3 )y − (F2 )z = fy × F2 + f (F1 )z − (F3 )x = (∇f ) × F + f ∇ × F fz F3 (F2 )x − (F1 )y 10 第9回 となります。(式が長くなるのを避けるために、変数 (x, y, z) は省きました。)これで、 ( ) rot φF⃗ = (grad φ) × F⃗ + φ rot F⃗ となることがわかりました。 □ ( ) ⃗ を成分表示を使って計算すると、 (2) div F⃗ × G F2 G3 − F3 G2 ∇ • (F × G) = ∇ • F3 G1 − F1 G3 F1 G2 − F2 G1 = (F2 G3 − F3 G2 )x + (F3 G1 − F1 G3 )y + (F1 G2 − F2 G1 )z = (F2 )x G3 + F2 (G3 )x − (F3 )x G2 − F3 (G2 )x + (F3 )y G1 + F3 (G1 )y − (F1 )y G3 − F1 (G3 )y + (F1 )z G2 + F1 (G2 )z − (F2 )z G1 − F2 (G1 )z ( ) ( ) ( ) = (F3 )y − (F2 )z G1 + (F1 )z − (F3 )x G2 + (F2 )x − (F1 )y G3 ( ) ( ) ( ) + F1 (G2 )z − (G3 )y + F2 (G3 )x − (G1 )z + F3 (G1 )y − (G2 )x (F3 )y − (F2 )z G1 F1 (G3 )y − (G2 )z = (F1 )z − (F3 )x • G2 − F2 • (G1 )z − (G3 )x (F2 )x − (F1 )y G3 F3 (G2 )x − (G1 )y = (∇ × F ) • G − F • (∇ × G) となります。(式が長くなるのを避けるために、変数 (x, y, z) は省きました。)これで、 ( ) ( ) ( ) ⃗ = rot F⃗ • G ⃗ − F⃗ • rot G ⃗ div F⃗ × G となることがわかりました。 □ ⃗, G ⃗ から二つを選んで、ただの積・スカラー倍・ 二つのスカラー場 φ, ψ と二つのベクトル場 F スカラー積・ベクトル積によって別の場を作る組み合わせは φψ φF⃗ ⃗ F⃗ • G ⃗ F⃗ × G の四つがあります。このうち、これまでのいくつかの問題で grad(φψ) = ψ grad φ + φ grad ψ ( ) rot φF⃗ = (grad φ) × F⃗ + φ rot F⃗ ( ) div φF⃗ = (grad φ) • F⃗ + φ div F⃗ ( ) ( ) ( ) ⃗ = rot F⃗ • G ⃗ − F⃗ • rot G ⃗ div F⃗ × G という公式の成り立つことを見てもらいました。これらは、1 変数関数の積の微分法 df dg d(f g) (x) = (x)g(x) + f (x) (x) dx dx dx の一般化と見られます。 11 第9回 一方、残りの二つの組み合わせ ) ( ⃗ grad F⃗ • G ( ) ⃗ rot F⃗ × G は上のような簡単な公式にはなりません。興味のある方は計算してみてください。 このように微分と積の組み合わせによって式が簡単になったりならなかったりする事情は微分形 式という視点から見るとわかりやすくなります。これについては補足プリントで説明する予定です。 問題 35 の解答 (1) 空間に右手正規直交座標系 xyz を一つ固定し、それによってスカラー場 φ を表す関数を f (x, y, z) とします。rot(grad φ) のこの座標による表示(それを rot(grad f ) と書くことにします) を計算してみましょう。面倒なので、変数の (x, y, z) は省略して書きます。 (fz )y − (fy )z fzy − fyz fx rot(grad f ) = rot fy = (fx )z − (fz )x = fxz − fzx fz (fy )x − (fx )y fyx − fxy ここで、高次偏微分は偏微分する変数の順序によらないこと、つまり、fxy = fyx などが成り立つ こと 31 より、 fzy − fyz 0 fxz − fzx = 0 fyx − fxy 0 となります。よって、スカラー場 φ が何であっても rot(grad φ) は任意の点でゼロベクトルを値に 持つベクトル場になります。 □ (2) 空間に右手正規直交座標系 xyz を一つ固定し、それによってベクトル場 F⃗ を成分表示したもの F (x, y, z) ⃗ ) のこの座標系による表示(それを div(rot F ) を F (x, y, z) = G(x, y, z) とします。div(rot F H(x, y, z) と書くことにします)を計算してみましょう。面倒なので、変数の (x, y, z) は省略して書きます。 Hy − Gz div(rot F ) = div Fz − Hx = (Hy − Gz )x + (Fz − Hx )y + (Gx − Fy )z Gx − Fy = Hyx − Gzx + Fzy − Hxy + Gxz − Fyz = 0 ⃗ が何であっても div(rot F⃗ ) は任意の点で値が 0 のスカラー となります 32 。よって、ベクトル場 F 場になります。 □ 結局、スカラー場にベクトル場を対応させる写像 grad とベクトル場にベクトル場を対応させる 写像 rot を合成した写像 rot ◦ grad はどんなスカラー場もゼロベクトル場にしてしまうゼロ写像、 31 そもそも fxy などが考えられるためには少なくとも f は 2 階偏微分可能でなければなりませんが、たとえそうでも fxy = fyx が成り立つとは限りません。しかし、例えば f の 2 階偏導関数たちがすべて連続ならこの順序交換が成り立ちま す。このゼミは関数の滑らかさに起因する面倒は深く追求しないというスタンスで進めていますので、ここでも fxy = fyx などはすべて成り立つ場合しか扱っていないと考えてください。 32 前の脚注と同じ理由です。 12 第9回 すなわちスカラー場にゼロベクトル ⃗0 を掛ける写像であり、rot とベクトル場にスカラー場を対応 させる写像 div を合成した写像 div ◦ rot はどんなベクトル場もゼロベクトル場にしてしまうゼロ 写像、すなわちスカラー 0 を掛ける写像であることがわかったわけです。 ⃗ となるスカラー場 φ を持つベクトル場 F⃗ のことをポテンシャルを 第 2.3.2 節で − grad φ = F 持つベクトル場と呼ぶということを学びました。上で rot(grad φ) = ⃗0 であることを示したので、 F⃗ がポテンシャルを持つ =⇒ rot F⃗ = ⃗0 ⃗ = ⃗0 は F⃗ がポテ の成り立つことが分かりました。この逆は言えるのでしょうか? つまり、rot F ンシャルを持つことの必要十分条件なのでしょうか? このことについては、次回ストークスの定理 を証明したあとで考えることにします。 注意. xyz の成分表示によって grad f = ∇f rot F = ∇ × F div F = ∇ • F ∇= ∂ ∂x ∂ ∂y ∂ ∂z と書けるので、上のことは ∇ × (∇f ) = 0 ∇ • (∇ × F ) = 0 (38) が任意のスカラー場(の成分表示)f と任意のベクトル場(の成分表示)F に対して成り立つと書き表すこ とができます。ここで、∇ が「微分する」という操作であることや f と F が場(の成分表示)であること を忘れて ∇ と F を 3 次元数ベクトル、f をスカラーと見ると、上の二つの式は a × (ra) = 0 a • (a × b) = 0 という式に見えます。この場合には左の式は a × (ra) = r(a × a) であることから 0 になることは当たり前(なぜなら同じベクトルのベクトル積は 0 だから)ですし、右の方 の式も a × b は a と直交する というベクトル積の定義、あるいは、 a • (b × c) = (a × b) • c の成り立つことから、 a • (a × b) = (a × a) • b となるので、やはり 0 になるのは当たり前です。 しかし、だからといって二つの式 (38) も同じ理由で当たり前というのは間違いです。なぜなら ∇ はベク トル場ではないからです。空間ベクトル a に対して a × a = 0 が成り立つのは「平行四辺形がつぶれて面積 が 0 だから」です。しかし ∇ は空間ベクトルではないのでこのように考えることはできず、キチンと成分で 計算して確かめなければならないことです。 「とはいえ a × a = 0 は数ベクトルとしても成り立つ、つまり成分計算で成り立つことはわかっているの だから、∇ × ∇ が 0 であることはやはり当たり前だ」と思うかも知れません。しかし、∇ の「成分」は数 ではなく「偏微分する」という「操作」ですので、やはり「当たり前」といってしまうわけにはいきません。 a × a = 0 とは別に改めてキチンと確認しなければならないことです。 例えば、∇ を少し変えて ∂ x ∂x ∂ D= x ∂y ∂ x ∂z としてみましょう。つまり D は ∇ を施してからすべての成分を x 倍するという「操作」です。すると、 xfx (xfz )y − (xfy )z xfzy − xfyz 0 D × (Df ) = D × xfy = (xfx )z − (xfz )x = xfxz − fz − xfzx = −fz xfz (xfy )x − (xfx )y fy + xfyx − xfxy fy 13 第9回 となり 0 になりません。(例えば (xfy )x は積の微分法により ( ) ∂ ∂f ∂x ∂f ∂ ∂f ∂f ∂2f (xfy )x = x = +x = +x = fy + xfyx ∂x ∂y ∂x ∂y ∂x ∂y ∂y ∂x∂y となります。) このように、∇ × ∇ を施すという操作が「0 との積」という操作になることは当たり前ではありません。 もちろん、ポイントは(脚注にあるように場が十分滑らかなら)、 ∂ ∂x という操作と ∂ ∂y という操作は施す順序を入れ替えられる ということです。これが成り立つから数ベクトルのときと同じ計算ができるわけです。一方、D × D を施す 操作が 0 との積にならないのは ∂ ∂x ∂ という操作と x ∂y という操作が入れ替えられない ということが理由なわけです。 このように、記号の見た目などに惑わされずにキチンと中身を確認することが正しい理解には欠かせません。 ★ 問題 36 の解答 (1) 定義に従って計算するだけです。 F = (y + 1)(z 2 − 1) G = (x + 1)(z 2 + 1) H = (x + 1)(y + 1) ⃗ の成分表示は とすると、rot F Hy − Gz (x + 1) − 2z(x + 1) (x + 1)(1 − 2z) Fz − Hx = 2z(y + 1) − (y + 1) = (y + 1)(2z − 1) Gx − Fy (z 2 + 1) − (z 2 − 1) 2 となります。 (2) xy 平面内の単位円板を T とします。すなわち { } T = (x, y, z) | x2 + y 2 ≤ 1, z = 0 です。ただし、z 軸が裏から表に貫いているように表裏を付けます。すると、S の縁 ∂S と T の 縁 ∂T はどちらも xy 平面内の単位円周で向きも一致します。よって、ストークスの定理を二回使 うことにより、 ∫ ∫ S ∫ ∫ F⃗ • d⃗l = ⃗= rot F⃗ • dS ∂S F⃗ • d⃗l = ∂T ⃗ rot F⃗ • dS T となります。T には、例えば x=s y=t z=0 { } E = (s, t) | s2 + t2 ≤ 1 というように裏表に適合したパラメタ付けを取れます。よって、 s+1 0 ∫ ∫ ∫ ⃗ ⃗ rot F • dS = 1dsdt = 2π −t − 1 • 0 dsdt = 2 T となります。 □ E 2 1 E
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