広島県立広島高等学校 国語科(国語総合) 学習指導案 指導者 三谷 弘子 1 日 時 平成 27 年9月 25 日(金) 第3時限(10:50∼11:40) 2 対 象 高等学校第1学年2組 40 名(男子 18 名,女子 22 名) 3 場 所 高等学校第1学年2組教室 4 単元名 5 単元について 本単元は,高等学校学習指導要領国語 国語総合の「2内容 C読むこと」の指導事項ウ「文章に描 かれた人物,情景,心情などを表現に即して読み味わうこと。」を受けて,特に「人物の心情を表現に 即して読み味わうこと」をねらいとして設定した。 中学校では「歴史的背景などに注意して古典を読み,その世界に親しむこと」 , (中3伝統的な言語文 化に関する事項(1)ア(ア))を指導されていたが,高等学校国語総合では, 「文語のきまり,訓読の きまりなどを理解すること。」(伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項(1)ア(イ))を指導し ていく必要がある。自力で古典を読む力を付けるためには知識理解部分の定着は必須である。 また,4内容の取り扱い (4)イに「文章を読み深めるため,音読,朗読,暗唱などを取り入れる こと」とあるように,音読を繰り返すことによって理解が深まることをねらって,毎時間の音読につい ては斉読や,ペア読みなど,時間を割いて行うようにしていきたい。 「鶏口牛後」は戦国時代の六国合従を成立させた蘇秦の逸話である。遊説家たちは,もともと国への 帰属意識があまりなく,弁舌の力だけで世を渡っていった。自分の理想を実現しようとすれば,その理 想を説くだけでなく,言葉によって相手の心を動かす技が必要である。ここでは鄙諺を用いて巧みに諸 侯を説得する蘇秦の弁舌から,蘇秦の人物像とともに,言葉の持つ力を読み取ることができる教材であ る。高邁な理想論,国の在り方や戦国時代の今後の展望などを語るのではなく,諸侯それぞれに「鶏の 嘴」となれという分かりやすい,プライドをくすぐる言葉で説得していった蘇秦の弁舌の鮮やかさを本 文を丁寧に読み取ることで理解させたい。また,蘇秦に対して手のひらを返すような行動を取った嫂に 対しての蘇秦の嘆息や,その後の「散千金」という行動についても,人間の卑小さに対する蘇秦の思い が読み取れる。 この学年は,比較的標準偏差が大きく,上位層もいるが,下位層もいるという成績分布を示す学年で ある。国語は上位層が少ないが,このクラスは,クラス成績を見ると,国語の古典分野については他ク ラスよりも比較的成績がよく,7月進研学力テストでは,学年平均得点率に比較して古文が 3.8 ポイン ト,漢文が 3.1 ポイント高い。授業の雰囲気も良く,発言も積極的で,小テスト等にも比較的熱心に取 り組んでいるが,基本事項の定着に不安を感じている生徒もおり,授業の中で繰り返し定着をはかって いるところである。 漢文の分野では,漢文入門,故事成語の学習を終え,夏休みを挟んで今学期初めて少し長い文章を読 むことになる。授業に熱心に取り組み,自分の意見を積極的に他者と比較検討しようとする姿勢がある。 また,考えたり話し合ったりすることに積極的に取り組む姿勢がある。そういった雰囲気を大切にしな がら,ことばをもとに思考し,表現する授業を目指したい。 この単元では本文の読み取りを進めた後, 『史記』 「蘇秦列伝第九」の最後にある司馬遷の言葉を紹介 したい。反感を買われることの多い蘇秦を「蘇秦は反感を被り死し,天下共に之を笑ひ,其の術を学ぶ を諱む。」と言いながらも,その後に「其の智,人に過ぐる者有りたればなり」と弁護した司馬遷の言 葉を読むことで,蘇秦の人物像を考えさせることができると考えた。 その際に話し合い活動を仕組むことは,生徒同士の気付きの交流や学びあいという点で有効であると 考える。学習活動が単発の,その場限りのものにならないように,「話し合い活動を通して蘇秦の人物 像について自分の意見をまとめよう。」という単元を貫く目標を提示することにする。各段落の読み取 りの際に,その時間のメインとなる発問を設定し,それに向けて話し合いが収斂していくような授業展 開を工夫したい。 単元の目標 「鶏口牛後」〈十八史略〉 単元・教材観 生徒観 指導観 6 (1)文章に描かれた,人物,情景,心情の描写などを的確に捉え,表現に即して味わおうとする。 (関心・ 意欲・態度) (2)文章に描かれた,人物,情景,心情の描写などを的確に捉え,表現に即して味わうことができる。 (読む能力) 【(1)指導事項のウ】 (3)漢文を読むことに役立つ,訓読の決まりを身に付ける。 (知識・理解)【伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項(1)のアの(イ) 】 7 単元の具体的な評価規準 関心・意欲・態度 読む能力 知識・理解 ・蘇秦の人物像,心情,情景などを, ・蘇秦の人物像,心情,情景など 8 ・漢文訓読の決まり(選択,疑 表現に即して読み味わおうとして を,文脈や表現に即して読んで 問,否定,比較,抑揚,反語 いる。 いる。 など)を理解している。 単元の指導計画 (5時間) 次 時 学習内容 評価 関 読 知 単元の学習活動と目標を確認し,見 戦国時代について時代の状況を大ま かに知る。第1段落前半を中心に,蘇 形)を身に付けている。 〇 〇 秦の行動を理解する。 したかを考える。(学習の手引き1) や表現に即して読み味わおうとし 形)を身に付けている。 ◎ ○ 表現に即して読み味わっている。 ・漢文訓読の決まり(否定形,疑問 ノ ー ト 像を考える。 蘇秦が嫂の行動に対して「笑」から 行動の 観察 第2段落を中心に蘇秦の行動と人物 3 の記述 ・蘇秦の人物像,心情,情景などを, の点検 (本時) 1 観察 ・漢文訓読の決まり(比較形,選択 ノ ー ト よ同盟を締結するにあたって「鄙諺」 を使ったことがどのように諸侯に奏功 ・蘇秦の人物像,心情などを,文脈 行動の ている。 第一段落後半を読み,蘇秦がいよい 2 評価方法 ・漢文訓読の決まり(選択形,比較 通しを立てる。 1 評価規準 形)を身に付けている。 の記述 ◎ ○ ・蘇秦の人物像,心情,情景などを, の点検 「歎」に変化した理由を考える。 表現に即して読み味わっている。 行動の 観察 第3段落を中心に蘇秦の行動と人物 ・漢文訓読の決まり(抑揚形,反語 ノ ー ト 像を考える。 4 蘇秦が「散千金」のはなぜか,考え 形)を身に付けている。 の記述 ◎ ○ ・蘇秦の人物像,心情,情景などを, の点検 る。 表現に即して読み味わっている。 行動の 観察 司馬遷の蘇秦評を読み,蘇秦の一般 的評価と,司馬遷の評価とを読み取り, 5 ・蘇秦の人物像を表現に即して読み ノ ー ト 味わおうとしている。 の記述 遊説家としての蘇秦はどんな人物だっ ◎ 〇 の点検 たのかを考える。 行動の 確認 9 教科のテーマ 「学び,思考し,つなぐ授業づくり」 本校の国語科では,今年度「学びの変革アクション・プラン」をふまえて,教科の研究・実践 テーマを,「学び,思考し,つなぐ授業づくり」とした。「知的興味が喚起され,思考力を高める ことができる授業」 「学んだ知識を活用して,複数の単元や作品,他教科の内容,ひいては現実社 会とつないで考えていく授業」を作っていきたいと考えている。教えるべきところを明確にし, しっかりと考えさせ,伝え合いの中で深めさせる授業を目指し,上記のテーマを設定した。 10 本時の展開(本時:第2時) (1) 本時の目標 ① 漢文訓読の決まり(比較形,選択形)を身に付ける。 ② 蘇秦の人物像を表現に即して読み味わう。(読む能力) (2)学習の展開 学 習 活 動 指 導 上 の 留 意 点(◇) 「努力を要する」状況と判断される生徒への手だて(◆) 評価規準 (評価方法) 前時までのふりかえり 導 1 本時の目標を確認する。 ◇一段落を,意味を考えながら音読さ せる。 入 蘇秦はなぜ諸侯を説得するのに「鶏口牛後」という諺を使ったのか。その効果 (5) を考えよう。 2 粛侯に対しての蘇秦の働 きかけについて理解する。 3 諸侯に対しての蘇秦の働 きかけについて理解する。 ◇文章中のことばに注目して,どうい ・漢文訓読の決まり う意味かを考えさせる。 (比較形,選択 ◇各自で考えたことを隣同士または 形)を身に付けて グループで確認させながら進めて いる。【知識・理 いく。 解】(ノートの記 ◆「明説漢文」を参照させる。 述の点検,行動の 観察) 展 ・蘇秦の人物像,心 4 「鶏口牛後」という諺がな ぜ諸侯の心を動かしたのか 開 を考える。 (35) ◇「鶏口」と「牛後」がそれぞれ何を 譬えているか考えさせる。 ◇「鶏口牛後」という「鄙諺」を使う ことの効果を考えさせる。 ◆諺を使わないとしたらどのように 説得するか。そうした場合と諺を使 情,情景などを, 文脈や表現に即 して読んでいる。 【読む能力】(ノ ートの記述の点 検,行動の観察) う場合とを比較させる。 ◇各自で考えたことを隣同士または グループで確認させながら進めて いく。 4 蘇秦が「鶏口牛後」を使っ て諸侯を説得した理由をノ ◇100 字程度でまとめるように指示す る。 ートにまとめる。 ま 【生徒のまとめ例】諺を用いて,秦の属国となることを「牛後」,一国の王であるこ と とを「鶏口」に譬え,選択の形で提示し,王としてのプライドを持つよう促すことで, め 言葉を尽くして説くよりは効果的な説得ができると考えたから。 (10) 5 次時の予告 ◇次回までの家庭学習課題として,蘇 秦が嫂の行動に対して「笑」から 「歎」に変化した理由を考えてくる よう指示する。 11 授業参観者に見てもらいたいポイント 文章の記述に沿って,ことばを押さえた読み取りが行われているか。 意欲的・主体的に参加できるような授業展開になっているか。
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