平成26年度3学期始業式挨拶

平成27年1月8日
県立伊丹高等学校 26年度3学期始業式講話
校長 秋田久子
皆さん、明けましておめでとうございます。
三学期始業式、そして平成27年の始まりに当たり、教育の目的についてお話したいと
思います。
皆さんは教育の目的はなんだと思いますか。私は幸せ作りだと思っています。教育は私
やあなたの幸せをつくるもとですし、私やあなたの幸せは周囲の人たちを幸せにします。
そして、さらに社会の幸せにつながります。中でも女性が教育を受け品性を高くすること
は、幸せの座標軸を伸ばし、次世代の幸せ作りに直結していくと私は考えています。
15年前、夫と私は、NGO の支援団体に、アジアの貧しい国の女の子の教育を支援した
いと申し込み、学校に行きたいというバングラデイッシュの6歳の女の子、チョビちゃん
の支援を始めました。ご存じのとおり、バングラデイシュは世界最貧国の一つです。絶望
的な貧困から立ち上がるには、将来お母さんになる女の子の教育が大切だと考えました。
その支援団体から、家族の重要な働き手である子供を学校に行かせるためには、家族の生
活費も支援する必要があると説明を受けました。現地では月5000円あれば家族の生活
費とチョビちゃんの学費・教材費が賄えるとのことでした。
チョビちゃんからの手紙が少しずつ長い文章になっていくのがとても楽しみでした。2
年に一度くらい写真も届きました。最初はチョビちゃん一家の写真。土を固めた小さい家
の前で、5人家族が立っていました。チョビちゃんの瞳は強く、好奇心がキラキラしてい
ました。2枚目はお母さんとチョビちゃん。お母さんはこれ以上ないくらい痩せて、窪ん
だ眼とほとんど歯のない暗い口が写っていました。お母さんは自分の正確な年齢がわから
ないと説明がついていました。チョビちゃんが10歳というところから考えて、おそらく
30歳前後だろうと思うのですが、とてもそうは見えませんでした。チョビちゃんは2年
のうちに芯の強そうな深い目をした少女になっていました。
それから1年ほども経った頃から、チョビちゃんの手紙が届かなくなりました。仲介の
支援団体から「家を訪ねたがチョビに会えなかった」という報告がありました。更に1年
が経ちました。日本でいえば中学校進学の年になります。気がかりが膨みだした頃、2年
ぶりに手紙が届きました。が、手紙は、仲介してくれていた支援団体からのものでした。
「調査が済みました。残念な報告をしなければなりません。チョビはいませんでした。
2年前に父親が彼女を売りました。それを隠したまま、家族は生活費の補助を受けていた
ことをお知らせせねばなりません。神のご加護がありますように」
チョビちゃんは親に売られていました。なんとかエイズや幼い妊娠から逃れて生きてい
てくれますように。文字を手に入れた考える力が彼女を救ってくれますように。そうでな
ければ、教育は彼女にとって苦しみを増幅する働きしか持てなかったことになります。何
度も祈りました。今も祈っています。
改めて考えてみると、今までたくさんのチョビちゃんが親に売られて家族を食べさせ、
親自身も疑問や改善の手段を持たない環境の中で育ってきたのでしょう。不幸な連鎖を断
つのは難しい。もうチョビちゃんに私たちの支援は届きません。ですが、今もアジアの女
の子への支援を続けています。点を線にし、面に変えていくのは教育の力だと思うのです。
ひるがえって、今、私たちは道徳や衛生観念、栄養の知識を当たり前のこととして享受
できる社会にいます。国民皆が教育を受けられ、自分の意思で生き方を選択でき、行動の
自由がある。営々と今の社会を築いてきた先人たちに感謝するとともに、私たちは未来の
若者にそれらを保障し繋いでいかねばなりません。
県高が、文武両道を課し、生徒諸君に行事を任せ、「今は何をするときか」と問い、「一
歩前へ」と呼びかけて、
「しんどいは楽しい」を体得させているのは、君たちに社会のいろ
んなところで体温のあるリーダーになってもらわねばならないからです。それが校訓「誠
実、克己、忠恕」の意味するところであり、県高生の在り方です。
どうぞ、一人一人が真剣に教育を受けて幸せの基を築いてください。力を蓄えてくださ
い。そして将来、恵まれたチャンスを活かして社会の色々なところで、人のために働ける
リーダーになってください。力いっぱい高校生活を送っていきましょう。