half cell

環境応用化学演習Ⅱ(第14週)
物質循環化学
問1 発酵と呼吸の本質的な違いを説明し、呼吸の例を挙げてみよ。
★資5-1、図3、表1、図4、5等を参照のこと
ATP生成機構が異なる。
発酵:ATP生成に基質が直接関与する(「基質レベルでのAPT生成」)。
基質=有機物(電子供与体)を有機物(電子受容体)で酸化する。
呼吸:基質から得た高エネルギー電子(e-)を電子伝達系(=チトクロム系
または呼吸鎖)で受け渡す過程でATPが生成される。
最終的なe-(H+)の受け入れ先(=電子受容体)によって、呼吸の
種類が異なる。
好気呼吸:O2
嫌気呼吸:NO3-、SO42-、CO2等
問2 光合成の明反応・暗反応とは何かを説明し、呼吸との共通点
と相違点を整理せよ。また、非光合成的炭酸固定との共通点と相
違点を整理せよ。
★資6-1、図7、図8を参照のこと
明反応:光エネルギーを吸収し、水等の電子供与体を酸化(=脱水素)して
還元力を得る過程←光が必須
暗反応:明反応で得た還元力を用いてCO2を有機物[CH2O]nに還元する
過程←暗くても進行
呼吸との共通点・・・ATP生成が電子伝達系で行われる点。
相違点・・・光利用システム(明反応)の有無と電子供与体の違い。
呼吸では電子供与体は主に有機物(一部無機物)で
酸化されてエネルギーを放出する。
光合成ではこれが水・硫化水素等で、[H+](e-)源として
だけ使われ、エネルギーではない(エネルギー源は光)。
問2 光合成の明反応・暗反応とは何かを説明し、呼吸との共通点
と相違点を説明せよ。また、非光合成的炭酸固定との共通点と相
違点を整理せよ。
非光合成的炭酸固定との相違点・・・光合成の明反応の部分を化学反応
(NO2-、Fe2+、S等の酸化)で行う点。
共通点・・・暗反応部分は光合成と同じ。
問3 独立栄養と従属栄養の違いを説明し、それぞれの例を挙げよ。
地球上の物質循環への寄与が大きいのはどちらのタイプの生物か?
それは何故か?
独立栄養:CO2から有機物を合成でき、無機物のみで生育できる。
従属栄養:CO2から有機物を合成できず、有機物を栄養として必要とする。
どちらがいなくなっても物質循環(特にC/O循環)が滞るので重要度に差
はない。ただし、物質循環のスタートは光合成・非光合成的炭酸固定であ
り、これがなければ従属栄養生物は生きられないこと、C/Oだけでなく、
N、P、S等の循環にも独立栄養生物の寄与が大きいので、独立栄養生物
の方が寄与が大きいと判断される。
問4 次のケースは、栄養形式で分類すると何に相当するか?
a)肉を食べ、空気で呼吸する動物(ヒトなど)
b)空気を吹き込んで水中有機物を活性汚泥処理
c)鉄を空気酸化し、無機物だけで生育する鉄酸化細菌
d)沼地で有機物をSO42-で酸化して生きる硫酸還元菌
a) 従属栄養、好気呼吸
b) a)と同じ
c) 独立栄養、好気呼吸
d) 従属栄養、嫌気呼吸
本質的に同じである
問5 酸化還元電位(EhまたはE0’)が、エネルギー代謝(細胞内の
現象)の計算にも、また環境指標(嫌気度の指標)にも使えるのは
何故か?本質を簡単に説明せよ。
Eh(E0’)は還元力の強さ(=電子を放出する程度・強さ)の指標である。
好気的=酸化的、嫌気的=還元的であり、電子の移動は常に還元側(高
エネルギー)→酸化側(低エネルギー)なので、ORPの大小は嫌気度の指
標に使え、また細胞内のhalf cellのE0 ’の差から得られるエネルギーの
大きさがわかるので、異質な両者に適用できる。
還元的/嫌気的/高エネルギー
-
Eh(E0’)
+
e-
電流
酸化的/好気的/低エネルギー
問6 次のhalf cellを組み合わせると、電流はどちら向きに、何Vの
起電力で流れるか?ただし、標準状態を仮定せよ。
ピルビン酸:乳酸、NAD+:NADH
(標準酸化還元電位のデータは、授業資料を参照のこと)
NAD+/NADH=-0.32V
e-
電流
ピルビン酸/乳酸=-0.19V
E0’のマイナスの大きい方から小さい方にe-が流れ、起電力は両方の
差なので、0.32-0.19=0.13V
電源の向きはe-と逆なので、ピルビン酸 → NAD+
問7 光活性化反応開始点のE0’=-0.60V、終点がチトクロムC1と
すると、光合成で得られる標準自由エネルギー変化ΔG0は、いくら
になるか計算せよ。(1電子対=2e-が移動する時の自由エネル
ギー変化を求める)。
はじめ
光活性化→-0.60V
e-
チトクロムC1→+0.23V
ΔE0’
おわり
ΔG0=-2×23.062×{+0.23-(-0.60)}
=-38.3kcal/mol
*96500はクーロン(c)単位でカロリー計算の時は23.062kcal/mol・voltを使う
(Jへの換算は1cal=4.18J)
問8 地球上の窒素循環で主な特徴を3つ挙げて説明せよ。
1) Nは化学結合が多様に変化するため、C(O)より変化過程が複雑
2) 大半が生物活動の代謝作用(同化、異化)により変化(=化学的変換)する
例:N固定・硝化・脱窒、アミノ酸合成→タンパク質合成→NH3+への分解
3) 人工的N固定量が生物的N固定量に匹敵ないし上回るようになりつつあり、
人間活動の寄与が無視できないほど大きいこと
4) N固定・硝化・脱窒等はO2濃度、有機物の有無、pH等種々の環境条件の
影響を受け、相互に複雑に関連すること
例:pHにより硝化か脱窒かが決まることがある
また両者を同時に進める微生物さえ存在する
問9 硝化と脱窒に関与する微生物・反応について、相互の関係
を整理して述べよ(図解可)。
基本的には上の図。
問9 硝化と脱窒に関与する微生物・反応について、相互の関係
を整理して述べよ(図解可)。
アンモニア酸化(硝化)NH3→NO2-→NO3-を行う微生物は主に独立栄養。一部
従属栄養。
脱窒は
NO3-→NO2-→N2O→N2
の2種類あり。
異化型(エネルギーを得るための酸化剤として
NO3-、NO2-を使用し、N2として捨てる)
NH3 同化型(栄養源としてNを取り込む)
N固定はバクテリア(原核生物)が行い、植物(真核生物)は共生の場を提供す
る役割。
問10 生物的窒素固定の特徴を、人工的窒素固定(ハーバー・
ボッシュ法)と比較して整理せよ。これを可能とするために、窒素固
定能を持つ生物はどんなメカニズムを用いているか?
ハーバー・ボッシュ法 : 高温・高圧でN2、H2ガスから触媒を用いてNH3を一段階
合成
生物的N固定
: 常温・常圧でN2を使うが、H2ガスは使わず他の有機物
等から[H]を供給する。
酵素(ニトロゲナーゼ)を用い、複雑な多段階反応で
NH3を生成する。
メカニズム:ニトロゲナーゼはO2に弱いので、嫌気的雰囲気を作る仕組みが
必要。また[H]を供給するメカニズムも必要。
(1月27日の授業で解説)
問11 イネやムギその他の作物に、遺伝子操作で窒素固定能を
付加することが可能となった場合の、利害得失について考察せよ。
特に、環境影響はどうなるか?
★資12-3を参照のこと
利点: N肥料の投入が不要になる(省エネ・省コスト)
作物の収量が増大(→CO2固定量増大)
欠点:生態系にNH3(NH4+)を大量投与したのと同じなので、生態系内の
N循環量が増大する
→富栄養化(水系)が進行しやすい。
硝化・脱窒がスムーズに進まないとNO2-蓄積などが生じやすい
N2O発生量が増加する可能性大(温暖化係数が大きい)
問12 生元素としてのリンの特異性について説明し、地球上の
リンの循環の概略を説明せよ。
リンの特異性:生物に必須で、人体では6番目に多い元素である。
核酸(遺伝情報物質)、ATP等(エネルギー物質)
細胞膜(リン脂質)、骨(リン+Ca)
いずれもリンを含む
自然界で生物の利用可能なリン(主に水中のPO43-)濃度は極めて低い。
すなわち、自然界は常にリン不足の状態にあり、リンの供給可能量が生物
の存在量を制限することが多い。
問12 生元素としてのリンの特異性について説明し、地球上の
リンの循環の概略を説明せよ。
リン循環の概略:下図参照。大半が生物作用によって進行する。