リサーチ TODAY 2016 年 3 月 16 日 マイナス金利での裁定行為、社債発行+自社株買い・M&A 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 時すでに3月半ば、2016年度運用計画を各金融機関が策定する時期であり、企業は2016年度の投資 計画を策定する段階だ。特に今回はマイナス金利という前例のない局面で計画を立てることになる。下記 の図表は「世界の金利の『水没』マップ」で、国別・年限別の国債利回り、イールドカーブ状況を示す。筆者 は昨年来、同図表を用いながら、マイナス金利(金利水没)のなかで資産運用を行うには「LED戦略」、すな わち「①長く(Long)、②外に(External)、③多様な(Diversify)なリスク」の3分野への投資しか選択肢はな いとした。今日の金融機関の戦略もこのLED戦略に集約される。ただし、こうした運用戦略の暗黙裡の前提 は、「水没」の運用難民を受け入れる確固たる基盤の存在だった。米国経済への信認から米国は水没せず 「浮き輪」の存在となり、世界の運用者が「運用難民」としてこの「浮き輪」に向かった結果、米ドルが上昇し た。しかし、年初来、米国の減速不安からこの「浮き輪」が沈み始め、「浮き輪」不在による「世界水没」不安 が世界の市場を揺るがし、従来のLED戦略と反対の動きが起こり円高回帰、株安が生じた。ただし、3月に なって米国を中心に市場が小康状態に戻ってきたため、2016年度は運用者がこのLED戦略を続けざるを 得ないと展望する。 ■図表:世界の金利の「水没」マップ(2016年3月14日) スイス 日本 ドイツ オランダ オーストリア フランス フィンランド スウェーデン デンマーク アイルランド イタリア スペイン ノルウェー 英国 ポルトガル カナダ 米国 中国 インド 1年 -0.85 -0.14 -0.47 -0.45 -0.38 -0.42 -0.41 -0.50 -0.30 -0.18 -0.07 -0.07 0.45 0.47 0.02 0.54 0.69 2.26 7.34 2年 -0.92 -0.17 -0.46 -0.45 -0.40 -0.42 -0.37 -0.61 -0.23 -0.34 -0.05 0.00 0.61 0.54 0.67 0.58 0.96 2.35 7.31 3年 -0.86 -0.16 -0.44 -0.41 -0.33 -0.33 -0.30 -0.49 -0.13 -0.22 0.01 0.11 0.61 0.74 1.15 0.59 1.14 2.51 7.42 4年 -0.80 -0.17 -0.36 -0.34 -0.29 -0.25 -0.19 -0.36 -0.03 -0.09 0.13 0.19 0.61 0.89 1.54 0.67 1.31 2.67 7.57 5年 -0.73 -0.17 -0.26 -0.29 -0.24 -0.15 -0.13 -0.03 0.07 0.05 0.30 0.39 0.74 0.99 1.82 0.78 1.48 2.81 7.65 6年 -0.62 -0.17 -0.22 -0.17 -0.03 0.00 0.02 0.12 0.31 0.20 0.56 0.68 0.88 1.18 1.69 0.81 1.62 2.83 7.92 7年 -0.55 -0.17 -0.12 -0.06 0.05 0.15 0.13 0.26 0.30 0.38 0.73 0.96 1.04 1.33 2.17 0.98 1.77 2.84 7.94 8年 -0.45 -0.14 0.00 0.09 0.18 0.27 0.29 0.44 0.29 0.61 0.88 1.29 1.20 1.46 2.65 1.14 1.83 2.86 7.82 9年 10年 11年 12年 13年 14年 15年 20年 30年 40年 -0.34 -0.26 -0.22 -0.18 -0.12 -0.05 0.01 0.15 0.31 0.35 -0.10 -0.04 0.00 0.04 0.08 0.12 0.16 0.48 0.75 0.78 0.15 0.28 0.32 0.36 0.40 0.44 0.49 0.75 1.02 0.21 0.37 0.41 0.45 0.48 0.52 0.55 0.95 1.14 0.33 0.49 0.52 0.55 0.58 0.61 0.64 0.91 1.45 0.45 0.62 0.72 0.81 0.90 0.99 1.09 1.24 1.57 0.41 0.59 0.67 0.76 0.84 0.92 1.01 1.08 1.23 0.54 0.63 0.71 0.79 0.87 0.95 1.03 1.42 0.45 0.62 0.64 0.67 0.70 0.73 0.75 0.89 1.17 0.78 0.86 0.94 1.03 1.11 1.19 1.28 1.47 1.86 1.17 1.31 1.40 1.49 1.58 1.68 1.77 2.09 2.51 1.39 1.47 1.58 1.69 1.79 1.90 2.01 2.24 2.69 1.32 1.43 1.44 1.55 1.65 1.74 1.84 1.94 2.03 2.20 2.33 2.17 2.77 2.93 3.01 3.10 3.18 3.27 3.35 3.64 3.87 1.25 1.34 1.42 1.49 1.56 1.64 1.71 2.08 2.09 1.90 1.96 2.00 2.04 2.08 2.11 2.15 2.35 2.73 2.88 2.89 2.94 2.99 3.03 3.08 3.13 7.71 7.60 8.04 8.07 8.06 8.07 8.09 8.15 8.17 0%未満 0%以上0.5%未満 0.5%以上1.0%未満 1.0%超 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 具体的にLED戦略を考えてみよう。「L」:長期化については、金利を確保するために運用者は長期化を 進めざるを得ない。日本の金利は10年までが「水没」したなか、20年債を中心とした運用になる。また、少し でもスプレッドがついたクレジット商品に投資対象を拡大することも考えられる。また、その延長線上でハイ イールド債、バンクローン等の商品も運用対象になりやすい。さらにインフラ投資のように安定したものにも 1 リサーチTODAY 2016 年 3 月 16 日 関心が向かいやすい。 「E」:海外については、一度、円高に振れたことから慎重な姿勢も必要になった。また、日本の金融機関 は、外貨ファンディングがコスト上昇しているので、海外投資を抑制しやすい。ただし、国内の債券が限ら れているので、依然として海外に依存する割合を下げるわけにもいかない状況に変化はない。 問題は、「D」:多様な投資対象の模索なかにおける株式の扱いだ。下記の図表は日本の配当利回りと 長期金利の推移を示す。配当利回りと金利の関係は株式と債券の関係になる。今日、配当利回りと金利の 関係が歴史的レベルにまで拡大した「債券割高・株式割安」状況であり、このなかでの裁定行為は「割高売 り・割安買い」すなわち、「債券売り・株買い」となる。投資家にとって、債券のもたらすインカムはマイナスで も株式の配当はマイナスにはならないので、インカムを確保するには、キャッシュフローが安定する「ニュー ソブリン」と称される株式が投資対象となりやすい。同時にマイナス金利の下でも賃料はマイナスにならない ので、株式と同様に安定したキャッシュフローを生み出す不動産への投資が生じやすい。こうした動きはす でに1年以上先にマイナス金利を導入した欧州で実証済みである。一方、企業の立場からみると、「債券売 り・株買い」は「社債調達・株買い」を意味する。ここで、株の買いを自社株にすれば自社株買いとなり、他 社であればM&A等の株式投資となる。 ■図表:日本の配当利回りと長期金利の推移 10 (%) 長期金利 東証一部配当利回り 8 6 4 2 0 長期金利 - 配当利回り -2 -4 1990 1995 2000 2005 バブル崩壊後最低水準 (年) 2010 2015 (注)東証一部配当利回りは加重平均、2000 年 9 月までは単体、その後は連結ベース。長期金利は 10 年国債利回り。 (資料)NEEDS-Financial QUEST よりみずほ総合研究所作成 今日、貸出金利に一段の低下圧力が加わっている。日本の貸出金利はもともと低水準で貸出競争が激 化していたが、市場金利の一層の低下状況においては、プライベートエクイティファンドのように、企業に対 し出資の機能を強めることも選択肢になるのではないか。上場株式を金融機関が保有するのは、コーポレ ートガバナンスや保有株式のボラティリティが強まるなかでは容易でないが、金融機関のもつ目利き力を活 かしてプライベートエクイティファンドのように、「ヒト、モノ、カネ」の全面で企業をサポートし、育成するという 金融仲介の原点に返ることも、金融機関には重要な選択肢といえる。そこでは、調査・コンサルティング機 能が重視される。日本の金融機関の貸出は単なるデットでなく「疑似エクイティ」であり、エクイティ性を帯び たものだった。それゆえに、今後の運用の対象としては、エクイティとデットの両方の性格を併せ持つハイブ リッド商品も重要となろう。 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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