今後の課題は超長期50年債、外貨建国債発行も

リサーチ TODAY
2016 年 5 月 16 日
国債管理政策、今後の課題は超長期50年債、外貨建国債発行も
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
2016年度に入り、多くの投資家は新たな運用戦略に着手しているが、TODAYでこれまで何度も紹介し
てきた「世界の金利の『水没』マップ」にあるように、国別・年限別の国債利回りの多くがマイナスになる(水
没する)なか、運用に窮する状況が続いている。筆者は昨年来「水没」マップを用い、マイナス金利(金利
水没)のなかで資産運用を行うには「LED戦略」、すなわち「①長く(Long)、②外に(External)、③多様な
(Diversify)なリスク」の3分野への投資しか選択肢はないとしてきた。現段階で「水没」比率を考えると、日
本の国債はおよそ2/3が水没した状況にある。すなわち、プラスのイールドを求めるには、年限で14年以上、
国債では20年債以上の債券に投資せざるをえない。長期債へのニーズが増すため、発行側としても超長
期の債券市場の一層の拡大が課題になる。それゆえ、日本でも国債に50年のメニューが加わってもいいの
ではないか。また、新たな国債商品としては、ドル建て国債の発行も有益ではないかと考える。今日の金利
「水没」状況は、今後の国債発行にも影響を与えると考えている。
■図表:世界の金利の「水没」マップ(2016年5月12日)
スイス
日本
ドイツ
オーストリア
オランダ
デンマーク
フィンランド
スウェーデン
フランス
アイルランド
イタリア
スペイン
英国
ポルトガル
カナダ
ノルウェー
米国
中国
インド
1年
-0.82
-0.28
-0.50
-0.48
-0.51
-0.39
-0.50
-0.50
-0.49
-0.18
-0.13
-0.15
0.37
0.04
0.57
0.53
0.52
2.36
7.02
2年
-0.85
-0.25
-0.51
-0.47
-0.50
-0.40
-0.47
-0.60
-0.43
-0.36
-0.05
-0.06
0.39
0.64
0.57
0.57
0.75
2.47
7.12
3年
-0.87
-0.24
-0.53
-0.41
-0.46
-0.30
-0.43
-0.52
-0.38
-0.31
0.01
0.02
0.56
1.16
0.55
0.61
0.91
2.59
7.23
4年
-0.81
-0.24
-0.47
-0.38
-0.45
-0.20
-0.28
-0.44
-0.29
-0.14
0.15
0.37
0.72
1.63
0.63
0.75
1.07
2.74
7.32
5年
-0.75
-0.23
-0.38
-0.34
-0.39
-0.09
-0.23
-0.20
-0.17
-0.01
0.37
0.58
0.82
1.97
0.71
0.89
1.24
2.86
7.42
6年
-0.65
-0.24
-0.32
-0.15
-0.17
-0.03
-0.07
-0.04
-0.09
0.19
0.72
0.64
1.01
2.22
0.87
1.00
1.39
2.87
7.58
7年
-0.57
-0.23
-0.23
-0.09
-0.04
0.04
0.01
0.12
0.04
0.40
0.94
0.91
1.17
2.47
1.00
1.10
1.54
2.87
7.56
8年
9年 10年 11年 12年 13年 14年 15年 20年 30年 40年
-0.45 -0.36 -0.29 -0.25 -0.22 -0.17 -0.11 -0.06 0.07 0.22 0.25
-0.20 -0.15 -0.12 -0.09 -0.06 -0.03 0.00 0.04 0.26 0.33 0.34
-0.13 0.01 0.15 0.19 0.22 0.25 0.28 0.31 0.58 0.87
0.02 0.19 0.36 0.38 0.40 0.42 0.44 0.46 0.76 1.36
0.10 0.24 0.37 0.44 0.51 0.57 0.64 0.71 0.80 1.01
0.10 0.26 0.42 0.44 0.47 0.50 0.52 0.55 0.69 0.96
0.14 0.26 0.44 0.51 0.59 0.67 0.75 0.83 0.90 1.04
0.33 0.41 0.50 0.58 0.65 0.73 0.81 0.89 1.28
0.18 0.36 0.51 0.60 0.70 0.79 0.88 0.98 1.28 1.48
0.61 0.77 0.86 0.95 1.03 1.12 1.20 1.29 1.48 1.85
1.20 1.35 1.51 1.59 1.68 1.77 1.86 1.94 2.28 2.69
1.29 1.45 1.62 1.71 1.79 1.88 1.96 2.05 2.32 2.85
1.30 1.28 1.40 1.52 1.63 1.74 1.85 1.96 2.14 2.29 2.11
2.96 3.04 3.23 3.32 3.40 3.48 3.57 3.65 3.99 4.18
1.11 1.21 1.32 1.38 1.45 1.51 1.58 1.64 1.97 1.99
1.19 1.30 1.38
1.61 1.68 1.75 1.79 1.84 1.88 1.92 1.96 2.17 2.60
2.88 2.89 2.90 2.94 2.98 3.03 3.07 3.11
7.56 7.60 7.42 7.77 7.79 7.62 7.73 7.79 7.76 7.88
0%未満
0%以上0.5%未満
0.5%以上1.0%未満
1.0%超
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
運用者とすれば、水没していないフロンティアの地域を探す必要に迫られる。具体的にLED戦略を考え
ると、「L」:長期化については、金利を確保するために運用者は長期化を進めざるを得ない。日本では10
年までが水没しているので、20年債中心の運用にならざるをえないだろう。また、少しでもスプレッドがつい
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たクレジット商品に投資対象を拡大することになる。また、その延長線上でハイイールド債、バンクローン等
の商品も投資対象になりやすい。下記の図表はG7諸国の年限別の国債発行の割合を示す。日本におい
て最も長期の国債は40年債である。40年債が発行されたのは2007年度以降であるが、この背景には生保・
年金を中心にした長期負債を有する投資家層のALMマッチング運用の進展があった。最近は、一層金利
が低下するなか、投資家の間で超長期債券での運用ニーズが高まっている。一方、発行サイドの企業や
公的企業においては、国債以外でも超長期での発行ニーズがある。それゆえ、債券のプライシングを考え
るためにベンチマークを50年程度まで伸長させ、新たな超長期国債市場の創出を図ることには価値がある。
新しい市場の場合は、コンベンショナル方式による通常の入札方式以外の手法で安定的な国債発行を行
う選択肢もある。イギリス、ドイツ、フランスでは、超長期国債や物価連動国債の一部でシ団方式が採用さ
れていることも認識する必要がある。また、主幹事方式での発行も選択肢となるだろう。
■図表:G7諸国の年限別国債発行構成比
100%
90%
80%
70%
インフレ債
60%
40.5年以上
50%
20.5-40.5年
40%
10.5-20.5年
30%
5.5-10.5年
5年以下
20%
10%
フランス
ドイツ
カナダ
イタリア
英国
米国
日本
0%
(資料)OECD、財務省等よりみずほ総合研究所作成
もう一つの国債の発行の可能性は、外貨建て、なかでもドル債、の発行である。筆者は長らく、日本の国
債発行のメニューとして外債発行を議論してきたが1、実際に発行が実現しなかった背景には、いくつかの
要因があったと考えられる。その一つは、日本が国内で円貨で調達できない程、財政状況が悪化したので
はないかとの思惑が海外で広がることだった。同時に、日本が外貨を調達しても財政面で外貨を使うニー
ズが乏しいとの判断があったからとも考えられる。ただし、今日、日本の経常収支も黒字拡大が定着し、国
債の調達の不安は低下しているので、今のうちに外貨の選択肢を拡大しておくことには意義がある。また、
使途については、日本の企業や金融機関向けの外貨貸し出しへの活用が考えられる。今日、日本企業に
とって大きな制約は外貨調達であるために、そのファンディングを助けることには価値がある。「金利水没」
は運用だけでなく、発行市場にも新たな発想を迫るものになる。
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『国債暴落』
(高田 創 中央公論新社 2013 年)
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
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