ニュースレター No.9 [PDFファイル/2.55MB]

浪江町の新しい水産業デザイン実現化事業
ニュースレター No.9
平成 27 年 8 月
(1)シラスの試験操業
8 月 18 日、第八海勝丸さんのシラス試験操業に同行しました。
鎌田さん曰く「震災前は毎日出港していたので、魚がどこにいるかだいたいわかる。しか
し今の試験操業は毎日ではないので、魚を探すのが大変だ。また、今年は暑くて大変だった。
倒れた漁業者もいたようだ。
」さえぎる物のない海での炎天下の作業は過酷でした。今年の
シラス漁は数量制限が 1 回の漁で約 20 カゴ、値段は高値で 200 円/㎏とのことでした。
漁場に到着 晴天 凪 風無し
松川浦沖が今回の漁場
網の巻き上げ 汗だくの作業
この日の水揚げは 21 カゴ(約 420 ㎏)
獲れたてのシラスは最高にうまい
すぐに氷で〆て鮮度を保つ
(2)請戸漁港復旧状況
2015 年 8 月 24 日、請戸漁港を視察しました。復旧工事の進捗をご報告します。
請戸川沿いの防潮堤が着々と進んでおりました。荷捌き場前の岸壁は壊され矢板が
打ち込まれた部分まで岸壁が前に出ることになります。また南側岸壁の嵩上げも 2
ヵ月前から比べると延長されピットも作られており、船を係船できる日が着実に近
づいていると実感しました。
請戸川沿いの堤防
荷捌き施設前の護岸
6 月時点の嵩上げ工事
船が係船できるピットも完成
現在の嵩上げ
嵩上げ約 60 ㎝ほど
2
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ニュースレター No.9
(3)最新の水産物緊急時モニタリング検査結果
6 月 30 日付けで、ケムシカジカが出荷制限解除になりました。これにより出荷制限
魚種は、残り 29 種になりました。
また、8 月 8 日~8 月 17 日かけて採取した
最新の水産物緊急モニタリング検査結果では
海産の魚介類調査地 77 点(42 種)すべての
検体にて基準値 100Bq/㎏を超過する放射性セ
シウムは検出されませんでした。
(福島県 HP
により)
このように基準値を下回る魚が増えてきた
結果から試験操業対象種も徐々に多くなって
くることと思います。請戸地域の場合前浜で
ある海区の自主規制をどのように緩和してい
くかが課題となっています。
ケムシカジカ:汁物で美味しい魚
コラム1
コラム1「浪江町の伝統漁法」
浪江町の伝統漁法」
岩手県や宮城県と比べ福島県には若い漁業者が多く、とりわけ請戸漁港には若い漁業者が多い
印象を受けます。
福島県の沿岸は単調な砂浜域が続いており、河川が流入する河口に村落が形成されました。そ
こで、半農半漁が営まれていました。明治時代から EZZ(排他的経済水域)設定されるまで、遠
洋漁業が発展し、遠くの海でマグロはえ縄やスタントロール及び北洋サケマス漁などが大きく行
われるようになりました。いわき地区では大型船による漁業を経営する漁業会社が現れ、大型漁
船による漁業が行われるようになりました。いわき地区が遠洋漁業に舵を切るに従い、相双地区
からは遠洋漁業の乗組員として多くの若い漁業の担い手がいわき地区等の漁業会社に雇われて行
きました。請戸の漁家でも同様に遠洋漁業の乗組員として雇われ 60 代以降の漁業者には世界中を
航海して魚を追ってきた経験を持つ方もいます。しかし、いわき地区とは異なり請戸地区は遠洋
漁業へは舵を切らず前浜での伝馬船等による小規模な伝統漁業を行い、半農半漁を維持してきま
した。現在も前浜の海で多くの漁業を営んでいます。
漁師さんに釈迦に説法ですが、若い漁師さんは知らない方もいると思うので、明治・大正・昭
和にかけて行われた伝馬船による請戸伝統漁業を一部紹介します。
ヒラメカキ
•3メートルほどの金棒に十二、三本の鉤をつけ、これを長い糸で曳きながら、海底にいるヒラメをひ
っかけて獲る。漁期は3月~4月かけてナダと呼ばれる沿岸近くで漁をする。
一本釣り
•6月~7月になると、南風が吹く。この季節はスズキの一本釣りが主な漁となる。7月が最盛期で漁
の期間が少ない。深さ4、5尋のところで行う。エサはエビを使う。短い棹に20~30尋の糸をつけ、
10〜15mのところに二つの重りをつける。スズキ釣りが当たり前にできるようになると、一人前の
テンマヌリ(伝馬乗り)だという。
•また、メバルやクロガラ(クロメバル)などを一本釣りでとる。深さは10尋ぐらいのナダで手釣り
でとる。エサはカマクラエビ、ドジョウをつける。棹は二間ぐらいの長さの二本使う。糸の長さは
35尋、針は10本ぐらい付ける。
ヒラメテンテン
•9月~10月になると西風が吹くようになるナダで一本釣りの一種であるヒラメテンテンが行われる。
魚が餌に食いつくとき、糸を魚の頭部を軽くたたくようにあてながら、餌に食いつかせ釣り上げる
方法である。ちょうど子どもをあやすときの「おつむテンテン」に似ているところから、この漁法
名があるという伝承が請戸にある。
•ヒラメテンテンは5から10尋で産卵したヒラメが沖へ出たところで行う。エサはサバをつける、糸
の長さは30尋ぐらい、針は長め目の物を使い、糸の結び目に鉛をるけ生きたサバ餌をつけ引く。
タコ釣り
•10月~11月にかけてはタコ釣りをする。タコ漁はタコ壺ではなく伝馬船での漁はタコガイといって、
竹に石の重りと数本の針を付けたもので、引っかきとる方法。あとには鉛製のものとなった。
•ブリ釣りをしながらタコ釣りをする。深さ18~20尋ぐらいの場所でエサはボラや肉を使う。最も良
いのはカニである。タコガイは磯の根をすりびく様に引く。手前と先と、タコガイを二個用いて漁
をする。
延縄
•12月頃からはネナと呼ばれる夜間の延縄漁がおこなわれる。カスベやドンコ・ハモなどをとる。延
縄をナと呼ぶ。特に夜間行うものをネナと呼んでいる。ナの漁場は水深4~5尋ぐらいのところの磯
を狙って磯のへりにつけてゆく。糸は約100尋の長さで、ナバチと呼ばれる竹の浅いの縁に藁を巻き、
そこに針を刺しておく。一回の漁で20枚ぐらいを持っていく。これをつないで入れるので全長4㎞程
になる。エサはサンマ、メロ、エビ、ホッキなどでとる魚種によって違う。
•ナは二人乗りの伝馬船、ナフネとも呼んでいる。
わかめかき
•5月から一ケ月げるくらいの期間にわかめをとる。長い竹竿の先に穴をあけ、そこに樫などの硬い木
を十字の形に何本も差し込む。ねじるように先にわかめを絡ませる。そして引き上げる。ねじりん
棒とも呼ぶ。
•獲ったわかめは砂浜に一本ずつ並べて干す。その場所を確保するのに大変であったという。
カニかご
•がにつりといって、ドンコやサガボ(鮫)の頭を餌にカニをつる。4月~7月かけて毎朝行う。また
金属製のかごにサンマなどを入れてとる。アカガニやタタリガニをとる。ガニカゴをガニワッカな
どとも呼ぶ。
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(浪江町史別巻Ⅱ~浪江町の民俗~より作成)
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コラム2
コラム2「ガニマキ」
「ガニマキ」
あるとき漁協さんから「ガニマキ食いぃちぇなぁ」と聞いた。
阿高「ガニマキ?」何ですか「ガニマキ」って?
漁協「知らないの?ガニマキちゃぁモクズガニをつぶして
エキスを汁にするんだよ。季節になると請戸川で採って
きて作って食べたもんだぁ」
阿高「エキスだけを料理するなんて贅沢ですね!」
漁協「そうだぁ、最高だぁ」
魚食については目のない私は一瞬にして「ガニマキ」を食べたくなりました。そこで、女性部
や漁師さんに「ガニマキ」のことを聞いて回り、ある女性部部員は「懐かしいねぇ。最近食べて
ないなぁ。おばあちゃんに作ってもらって食べたもんだぁ。
」ある方は「家にガニマキ専用の石
臼があり、震災後流された家に石臼だけは残っていた、家に持って来て残してある。また作りて
ぇなぁ」と言っていました。その他聞き取りしたほとんどの方が「ガニマキ」について懐かしい
思いを抱いていました。
ガニマキについて調べてみると、やはり請戸の郷土料理として位置づけられていました。浪江
町史別巻Ⅱ-浪江町の民俗-によると郷土料理の欄に「古くから人々に愛されて受け継がれてきた
ガニマキとサケの粗汁」という記述がありました。さらに作り方も載っておりました。
「捕ったばかりの
捕ったばかりのモズクガニを洗って
捕ったばかりのモズクガニを洗って、
モズクガニを洗って、丸ごと臼に入れて細かく潰し、それに味噌と水を
丸ごと臼に入れて細かく潰し、それに味噌と水を少し
、それに味噌と水を少し
入れて笊で漉す。このつゆを
入れて笊で漉す。このつゆを別に煮立たせていた
で漉す。このつゆを別に煮立たせていたお湯の中に、杓子で一杯ずつ静かに入れる。ま
別に煮立たせていたお湯の中に、杓子で一杯ずつ静かに入れる。ま
もなく黄色く
もなく黄色くかたまっ
黄色くかたまって
かたまって浮き上がってくる。それに醤油
浮き上がってくる。それに醤油で少し
醤油で少し味をつけ
で少し味をつけ、葱・ミツバ・ニラなど
味をつけ、葱・ミツバ・ニラなど
を入れて仕上げる。豆腐
」
を入れて仕上げる。豆腐を入れる
豆腐を入れる人
を入れる人もいる。
ガニマキの季節は春と秋だと言います。絶対食べたい。秋はすぐそこ、何とかならないだろう
か.
.
.
。
(写真:浪江史より)
以上
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