20151004 技術者のための構造力学 3 次元等方弾性体に対する仮想仕事式 次元等方弾性体に対する仮想仕事式 三好崇夫 加藤久人 1.概説 本資料では,文献 1),2)を参考として,有限要素法の剛性方程式の定式化などに用いられる,仮想 仕事式を 3 次元等方弾性体に対して導く.また,仮想仕事式は,外力が物体になす外部仕事量と,物 体内部になされる内部仕事量が等しいことを表していることも示す. 2.外部仮想仕事 図-1 は,それぞれ直交座標系 x,y,z 方向の単位面積あたりの外力(表面力){t} = {tx ty tz}T が表 面 St 上に作用するとともに,単位体積あたりの物体力(単位体積重量){b} = {bx by bz}T も作用して, 表面 Su 上で与えられた境界条件の下に釣り合い状態にある 3 次元弾性体を示している.ただし,単位 体積重量は 3 次元弾性体の体積 V 内に分布しているものとし,S のうち境界条件も表面力も与えられ ていない領域は,表面力がゼロと捉えることができるため,St に含めるものとする. 仮想仕事式を導くため,釣り合い状態にある図-1 の 3 次元弾性体に対して,境界条件が与えられ ている表面 Su 上で変位が生じないように,微小な仮想変位{δu} = {ux uy uz}T を作用させる.ただし,{δu} は座標軸に関する連続な 1 階の偏導関数を有するものとし,{δu}を作用させる間は,表面 St 上に作用 する単位面積当たりの外力{t}と単位体積あたりの物体力{b}が変化しないものとする.これらを仮定 すると,仮想変位{δu}によって{t}と{b}が物体になす外部仮想仕事 δWext は次式で表される. δW = ∫ {t } {δu}dS + ∫ {b} {δu}dV = ∫ (t δu + t δu + t δu )dS + ∫ (b δu + b δu + b δu )dV T ext T St St V x x y y z z V x x y y z (1) z 式(1)の最右辺第 1 項は,力学的境界条件式により,応力と表面 St の外向き法線ベクトル成分を用い て表すことができる.次章では,力学的境界条件式について説明する. z C St {n} = {cosα cosβ cosγ}T {tn}∆Sn {cx} bzdV {tn} z y tzdS bydV C bxdV x A B {cy} {n} τxy τyx σy tydS txdS σx {ez} {ey} τyz {ex} O V τzy Su 図-1 A x 平衡状態にある 3 次元等方弾性体 図-2 1 τxz τzx B y {cz} σz 外力の作用する表面 St を含む微小四面体 20151004 技術者のための構造力学 3.力学的境界条件式 力学的境界条件式を求めるため,図-1 において,外力{tn}の作用する表面 St を含む微小四面体を図 -2 のように取り出し,この微小四面体に対して力の釣り合い条件を適用する.なお,この微小四面 体は,{tn}の作用する微小面 ABC と各座標軸に垂直な 3 つの微小面で構成されるものとし,微小面 ABC の面積を ∆Sn,その大きさが 1 の外向き法線ベクトルを直交座標系に関する方向余弦を用いて{n} = {cosα cosβ cosγ}T(方向余弦を用いて表されることは,後で説明する)と表すことにする.また,微 小面 ABC 上に作用する外力ベクトルを{tn},その x,y,z 座標方向成分をそれぞれ tnx,tny,tnz とする と,{tn}は直交座標軸の単位ベクトル{ex},{ey},と{ez}を用いて次のように表される. {tn } = tnx {ex } + tny {ey }+ tnz {ez } {tn } = {t nx または t ny t nz } T (2) 微小面 OBC,OAC および OAB の外向きに作用する単位面積当たりの力のベクトルをそれぞれ-{cx}, -{cy}および-{cz}と表すことにすると,応力の定義より,各座標軸のマイナス方向に垂直な面上の力 の釣り合いを考えることになるため,負号を付した次の関係式が成立する. − {c x } = −(σ x {ex } + τ xy {e y }+ τ xz {ez }) − {c y } = −(τ yx {ex } + σ y {e y }+ τ yz {ez }) − {c } = −(τ {e } + τ {e }+ σ {e }) z zx x zy y z z または τ yx σ x τ zx − {cx } = −τ xy , − {c y } = − σ y , − {c z } = − τ zy (3)1~3 τ τ σ xz z yz 微小四面体に作用する単位体積あたりの物体力によるベクトルを{b} = {bx by bz}T,点 O から微小面 ABC に下ろした垂線の長さを h,微小面 OBC,OAC と OAB の面積をそれぞれ ∆Sx,∆Sy と ∆Sz と表す ことにすると,それぞれ微小四面体の x,y,z 軸方向の力の釣り合い条件は, h∆S n ∆S nt nx − ∆S xσ x − ∆S yτ yx − ∆S zτ zx + 3 bx = 0 h∆S n by = 0 ∆S nt ny − ∆S xτ xy − ∆S yσ y − ∆S zτ zy + 3 ∆S t − ∆S τ − ∆S τ − ∆S σ + h∆S n b = 0 x xz y yz z z z n nz 3 (4)1~3 式(4)の第 1~3 式において,左辺第 5 項の h∆Sn/3 は微小四面体の体積である. 式(4)はベクトル表示を用いて次式で表される. τ yx t nx σ x τ zx h∆S n ∆S n t ny − ∆S x τ xy − ∆S y σ y − ∆S z τ zy + 3 t τ τ σ nz xz z yz または ∆S n {t n } − ∆S x {cx } − ∆S y {c y }− ∆S z {cz } + bx 0 by = 0 b 0 z h∆S n {b} = {0} 3 (5) 式(5)の両辺を ∆Sn で除すと次式を得る. {tn } − ∆S x {cx } − ∆S n ∆S y ∆S n {c }− ∆∆SS {c } + h3 {b} = {0} z y z (6) n ここで,式(6)の左辺第 4 項の ∆Sz/∆Sn について考察する. 図-3(a)に示すように,x-y 面内において,点 O から側辺 AB に下ろした垂線の足を点 H,点 H を 通る z 軸と平行な直線と,点 C を通り x-y 面と平行な直線との交点を点 H’とする.このとき,線分 OC と線分 HH’は平行であるから,四辺形 COHH’は平面を形成し,なおかつ点 C と点 H はこの平面上 の点であるから,COHH’の対角線である線分 CH もこの平面に含まれることになる.一方,線分 AB 2 20151004 技術者のための構造力学 z C H’ z cosβ C {n} 1 B y {n} γ H O ※三側面 OAC,OAB, OBC は直角三角形 (a) O {n} nz{ez} cosγ β cosγ ny{ey} γ α cosα H nx{ex} x A (b) 微小三角形 COH を含む切断面 (c) {n}の成分 微小四面体 図-3 微小四面体の側面の底面への投影 は x-y 面と平行であるから,線分 AB は四辺形平面 COHH’にも直交することとなり,線分 CH は線 分 AB に直交することになる. 図-3(a)を参照すると,微小三角形 ABC の面積 ∆Sn と,底面に位置する微小三角形 OAB の面積 ∆Sz はそれぞれ次式で表される. ∆S n = AB ⋅ CH 2 (7)1 ∆S z = AB ⋅ OH 2 (7)2 図-3(a)に示す微小三角形 COH 面は,同図(b)に示すように,∠OHC = γ と表すことにすると, OH = CH cos γ (8) ∆S z = AB ⋅ CH cos γ 2 (9) 式(8)を式(7)の第 2 式へ代入すると, 式(7)の第 1 式と式(9)から AB・CH/2 を消去すると,次式が得られる. ∆S z = cos γ ∆S n (10) 微小三角形 OBC の面積 ∆Sx,微小三角形 OAC の面積 ∆Sy についても,同じ手続きによりそれぞれ 次式が導ける. ∆S x = cos α ∆S n ∆S y ∆S n = cos β (11) (12) 最後に,式(10)の cosγ が微小三角形 ABC に対する外向き単位法線ベクトル{n}の z 方向成分である ことを確認する.{n}はベクトルの分解によって次のように表される. 1 0 0 nx {n} = nx {ex } + n y {ey }+ nz {ez } = nx 0 + ny 1 + nz 0 = ny 0 0 1 n z (13) 式(13)を図形的に解釈すると,図-3(c)に示すようになる.同図より,外向き法線ベクトル{n}と z 軸方向の単位ベクトル{ez}の内積は次のように表される. 3 20151004 技術者のための構造力学 {n}T {ez } = {n}{ez } cos γ (14) {n}T{ez} = nz,|{n}| = 1,|{ez}| = 1 であることから,式(14)を cosγ について解けば次式が成立する. nz = cos γ (15) 同様にして,それぞれ式(11),(12)の cosα,cosβ も,{n}の x,y 方向成分であることが示せる.即ち, 法線ベクトルは次のように表せる. {n} = {nx ny nz } = {cos α T cos β cos γ } T (16) したがって,式(6)の左辺第 2~4 項の係数 ∆Sx/∆Sn,∆Sy/∆Sn および ∆Sz/∆Sn は,それぞれ微小面 ABC の法線ベクトルの方向余弦 cosα,cosβ,cosγ で表されることが分かる.よって,式(6)に式(10)~(12) を代入すると, {t n } − {cx }cos α − {c y }cos β − {cz }cos γ + h {b} = {0} 3 (17) 式(17)において,点 O から微小面 ABC に下ろした垂線の長さ h→0 の極限をとり,{tn}について解 けば,力学的境界条件式として次式を得る. {tn } = {cx }cos α + {c y }cos β + {cz }cos γ (18) 式(18)に式(2),(3)を代入すると,式(18)は次のように連立方程式表示できる. t nx = σ x cos α + τ yx cos β + τ zx cos γ t ny = τ xy cos α + σ y cos β + τ zy cos γ t = τ cos α + τ cos β + σ cos γ xz yz z nz (on St ) (19)1~3 式(19)において,「on St」は表面 St 上のあらゆる点で成立することを意味する. 式(19)は,表面 St 上のあらゆる点で成立しなければならない,単位体積あたりの外力と応力の条件 式を表している.力学的境界条件式として式(19)を式(1)の最右辺第 1 項に代入すると,次式を得る. δWext = ∫ (t δu St x x + t yδu y + t zδu z )dS + ∫ (b δu V x x + byδu y + bzδu z )dV (σ x cos α + τ yx cos β + τ zx cos γ )δu x = + (τ xy cos α + σ y cos β + τ zy cos γ )δu y dS + St + (τ xz cos α + τ yz cos β + σ z cos γ )δu z ∫ ∫ (b δu V x x + byδu y + bzδu z )dV (20) さらに,式(20)の最右辺第 1 項は,Gauss の発散定理を適用することによって,面積積分から体積積 分に変換することができる.次章では,Gauss の発散定理について簡単に述べる. 4.Gauss の発散定理 図-4 に示すように,境界が凸で滑らかな閉じた 3 次元領域 V の中に定義されたベクトル変数{q(x, y, z)} = {qx qy qz}T を考える.また,同図中に示すように,同領域の表面積 S は,外向き法線ベクトル{n} の x 成分が 0 である閉曲線(y-z 面に平行な曲線)C によって S1 と S2 に分けられるものとする.そし て,この立体を y = 一定,z = 一定の平面で切り刻んで得られる細長い柱の集合に分割し,図-5 に示 すように,そのうちの 1 本を取り出して考える.即ち,この柱の-x 側は必ず S1 の一部であり,+x 側 は必ず S2 の一部である. 4 20151004 技術者のための構造力学 z α1 C S1 S2 x x2 y 1, z 1 y 2, z 2 V y dS1 x dz α2 x {qx(x1, y, z)} {qx(x2, y, z)} S= S 1 + S 2 図-5 図-4 dy {n2} dS2 x1 {n1} y = 一定,z = 一定の面を有する細長い柱 境界が凸で表面の滑らかな 3 次元領域 図-5 に示す柱内のベクトル変数{q(x, y, z)}の x 方向成分 qx の x 方向の変化量は次式で表される. ∫ x2 x1 ∂q x x dx = [q x (x, y, z )]x12 = q x (x2 , y, z ) − q x (x1 , y , z ) ∂x (21) ここに,x1,x2:図-4 に示すように,それぞれ柱の-x,+x 側の x 座標である. 式(21)を y,z 方向に積分すると,ベクトル変数{q(x, y, z)}の x 方向成分 qx の 3 次元領域内での全ての 変化量が次式で表される. z2 y2 x2 z1 y1 x1 ∫ ∫ ∫ ∂q x z y z y dxdydz = ∫z12 ∫y12 q x ( x2 , y, z )dydz − ∫z12 ∫y12 q x ( x1 , y, z )dydz ∂x (22) ここに,y1,y2,z1,z2:図-4 に示すように,それぞれ柱の-x,+x 側の y,z 座標である. 柱の-x,+x 側の端断面での外向き法線ベクトル{n1}と{n2}をそれぞれ次式で表すことにする. {n1} = {cos α1 {n2 } = {cos α 2 cos β1 cos γ 1} T cos β 2 (23) cos γ 2 } T (24) 図-5 より,3 次元領域は閉じた滑らかな領域であるため,{n1}の x 方向成分は負,{n2}の x 方向成 分は正となる.即ち,{n1},{n2}が x 軸となす角をそれぞれ α1,α2 とすれば,π/2 ≤ α1 ≤ π および 0 ≤ α2 ≤ π/2 が成立するから,それぞれ柱の − x と + x 側の端断面における微小表面積 dS1 と dS2 は,式(23)と(24) の方向余弦 cosα1,cosα2 と式(11)の関係を用いて次式のように y-z 面に投影されることになる. − dS1 cos α 1 = dydz (25) dS 2 cos α 2 = dydz (26) 式(25)と(26)を式(22)の右辺に代入すると次のように表される. z2 y2 x2 z1 y1 x1 ∫ ∫ ∫ ∂q x dxdydz = ∫S 2 q x ( x 2 , y, z ) cos α 2 dS 2 + ∫S1 q x ( x1 , y, z ) cos α 1 dS 1 ∂x (27) 式(27)の左辺を体積 V 内の積分,右辺を S 上の積分としてまとめると次式のように表される. z2 y2 x2 z1 y1 x1 ∫ ∫ ∫ ∂q x ∂q dxdydz = ∫V x dV = ∫S q x (x, y, z )cos αdS ∂x ∂x (28) ここに,α:表面 S 上の外向き法線ベクトルが x 軸となす角度である. 式(28)を誘導したのと同じ手続きにより,y,z 方向に関してもそれぞれ次式を得る. ∫∫ ∫ x1 z 2 y2 x1 z1 y1 y1 x2 z2 y1 x1 z1 ∫∫ ∫ ∂q y dydzdx = ∫ ∂q z dzdxdy = ∂z ∫ ∂y V V ∂q y ∂y dV = ∂q z dV = ∂z 5 ∫ q (x, y, z )cos βdS (29) ∫ q (x, y, z )cos γdS (30) S S y z 20151004 技術者のための構造力学 式(28)~(30)の辺々を足し合わせると次式を得る. ∂q x ∫ ∂x V + ∂q y ∂y + ∂q z ∂z dV = ∫ (q S x cos α + q y cos β + q z cos γ )dS (31) 式(31)は Gauss の発散定理(3 次元 Divergence の定理)と呼ばれ,面積分を体積分,あるいは体積分 を面積分に変換するのに用いられる. 外力と仮想変位{δu}が物体になす仮想仕事 δWext を表す式(20)の最右辺第 1 項を整理すると,次のよ うに表される. δWext (σ x cos α + τ yx cos β + τ zx cos γ )δu x = + (τ xy cos α + σ y cos β + τ zy cos γ )δu y dS + St + (τ xz cos α + τ yz cos β + σ z cos γ )δu z ∫ (σ xδu x + τ xyδu y + τ xzδu z )cos α = + (τ yxδu x + σ yδu y + τ yzδu z )cos β dS + St + (τ zxδu x + τ zyδu y + σ zδu z )cos γ ∫ ∫ (b δu x + byδu y + bzδu z )dV (32) ∫ (b δu x V x V x + byδu y + bzδu z )dV 式(32)の最右辺第 1 項の被積分関数を式(31)右辺の被積分関数と対比すると,次の関係があることが わかる. σ xδu x + τ xyδu y + τ zxδu z = q x τ yxδu x + σ yδu y + τ yzδu z = q y τ δu + τ δu + σ δu = q yz y y z z zx x (33)1~3 式(33)を式(32)の最右辺第 1 項の被積分関数に代入すると, δWext = ∫ (q St x cos α + q y cos β + q z cos γ )dS + ∫ (b δu V x x + b yδu y + bzδu z )dV (34) 式(34)の右辺第 1 項は,式(31)の Gauss の発散定理によって次のように表される. ∂q x ∂q y ∂q z dV + ∫V (bxδu x + byδu y + bzδu z )dV + + ∂z ∂x ∂y δW = ∫ ext V (35) 以上の手続きによって,面積分が体積分に変換された. 式(35)の右辺に式(33)を代入して,共役せん断応力 τxy = τyx,τyz = τzy,τzx = τxz(5章で説明する)を考 慮すると,以下のように変形できる. ∂ ∂x (σ xδu x + τ xyδu y + τ xzδu z ) ∂ δWext = ∫V + (τ yxδu x + σ yδu y + τ yzδu z ) dV + ∫V (bxδu + byδv + bzδw)dV ∂y ∂ + (τ zxδu x + τ zyδu y + σ zδu z ) ∂z ∂δu x ∂δu y ∂δu y ∂δu x ∂δu z +σy +σz + τ xy + σ x ∂x ∂y ∂z ∂y ∂x ∂τ xy ∂τ zx ∂δu z ∂δu y ∂σ ∂δu x ∂δu z + τ zx = ∫V + τ yz + + + + bx dV + δu x x + ∂z ∂x ∂y ∂z ∂z ∂y ∂x ∂τ ∂σ y ∂τ yz ∂τ ∂τ ∂σ z + δu y xy + + + by + δu z zx + yz + + bz ∂y ∂z ∂y ∂z ∂x ∂x 6 (36) 20151004 技術者のための構造力学 式(36)最右辺の被積分関数内の第 7~9 項は,外力や物体力の作用する 3 次元等方弾性体が釣り合い 条件式を満足していればいずれもゼロとなる.この釣り合い条件式は平衡方程式と呼ばれる.次に, この平衡方程式の誘導について示す. 5.平衡方程式 図-6 は,図-1 に示した 3 次元弾性体内の任意点の微小要素を取り出し,この微小要素に生ずる応 力の正の向きの定義を示している.この微小要素は直交座標系の x,y と z 方向の単位体積あたりの物 体力{b} = {bx by bz}T が作用して釣り合い状態にあるものとする.なお,図-6 において,応力に付さ れたプライム記号と微小体積 dV は,以下の略記を意味するものとする. ∂τ xy ∂σ x ∂τ dx, τ ′xy = τ xy + dx, τ ′xz = τ xz + xz dx σ ′x = σ x + ∂x ∂x ∂x ∂τ yx ∂σ y ∂τ yz dy, σ ′y = σ y + dy, τ ′yz = τ yz + dy τ ′yx = τ yx + ∂y ∂y ∂y ∂τ zy ∂τ zx ∂σ z τ zx′ = τ zx + ∂z dz , τ zy′ = τ zy + ∂z dz , σ ′z = σ z + ∂z dz (37)1~9 dV = dxdydz (38) 平衡方程式は同要素の各座標軸方向の力の釣り合い条件から導ける.x 方向に関しては,図-7 に示 すような z-x 面に関する微小要素の力の釣り合いを考えることによって,次式を得る. ∂σ x ∂τ − σ x dydz + σ x + dx dydz − τ zx dxdy + τ zx + zx dz dxdy ∂x ∂z ∂τ − τ yx dzdx + τ yx + yx dy dzdx + bx dxdydz = 0 ∂y (39) 式(39)を整理すると次式を得る. ∂σ x ∂τ yx ∂τ zx + + + bx = 0 ∂x ∂y ∂z (40) ここで,平衡方程式をより簡略に表示するため,共役せん断応力の関係式を用いる.これは,例え ば,図-6 の微小要素が x 軸まわりに剛体回転しないという条件から導かれる.図-8 は,図-6 の微 σz ’ dx τzy’ ’ σx τzx’ σy dz τyx τyz τ yx dzdx τyz’ τxy τxz bzdV bydV τxz’ τyx’ bxdV τxy’ σx’ τzy σy ’ bx dxdydz x y dy 図-6 τ zx dxdy z y σz ∂σ σ x + x dx dydz ∂ x σ x dydz z τzx ∂τ τ zx + zx dz dxdy ∂ z 図-7 3 次元弾性体中の微小要素に生ずる応力 7 ∂τ τ yx + yx dy dzdx ∂y x 微小要素の x 軸方向の力の釣り合い 20151004 技術者のための構造力学 ∂τ τ zy + zy dz dxdy ∂z z x τ yz dzdx y O dz τ zy dxdy 図-8 ∂τ τ yz + yz dy dzdx ∂y dy 微小要素の x 軸まわりに作用する力 小要素を y-z 面で切り出した微小要素であり,図-8 では,σy,σz,by と bz の影響は,これらによる 力の作用線が全て中心点 O を通過するため,省略して示している.同要素の中心点 O に関する x 軸ま わりのモーメントの釣り合い条件式は次式で表される. − τ yz dzdx ⋅ ∂τ zy ∂τ yz dy dz dy dz + τ zy + dz dxdy ⋅ − τ yz + dy dxdz ⋅ + τ zy dxdy ⋅ =0 2 ∂z 2 ∂ y 2 2 (41) 式(41)を dxdydz で除し,dy→0 および dz→0 の極限をとると次式を得る. τ yz = τ zy (42) 以上と同様の手続きを y および z 軸まわりに対しても適用することにより,最終的に共役せん断応 力の関係式として次式を得る. τ xy = τ yx , τ yz = τ zy , τ zx = τ xz (43)1~3 y と z 方向に関しても微小要素の力の釣り合いを考えることによって,式(40)と同様の式を導ける. そして,これらの式に式(43)を代入し,これらをまとめて表示すれば,次のように,それぞれ直交座 標系 x,y,z 方向の平衡方程式が導ける. ∂σ x ∂τ xy ∂τ zx + + + bx = 0 ∂y ∂z ∂x ∂τ xy ∂σ y ∂τ yz + + + by = 0 ∂y ∂z ∂x ∂τ zx ∂τ yz ∂σ z ∂x + ∂y + ∂z + bz = 0 (44)1~3 6.仮想仕事式 .仮想仕事式 仮想変位は,力の釣り合い条件が維持されるように与えられるから,仮想変位後も平衡方程式は満 足されていることになる.したがって,式(44)で導いた平衡方程式を式(36)最右辺の被積分関数の第 7 ~9 項に代入すると次式を得る. δWext = ∂δu x ∂δu y ∂δu y ∂δu x ∂δu z +σ y +σz + τ xy + σ x V ∂x ∂y ∂z ∂y ∂x ∫ ∂δu z ∂δu y + τ yz + ∂z ∂y ∂δu x ∂δu z + τ zx + ∂x ∂z dV (45) ∂δu x ∂δu z + τ zx + ∂x ∂z dV (46) 式(45)の右辺を次のように表すことにする. δU = ∫ σ V x ∂δu y ∂δu y ∂δu x ∂δu x ∂δu z +σy +σz + τ xy + ∂x ∂y ∂z ∂y ∂x ∂δu z ∂δu y + τ yz + ∂z ∂y 式(46)で定義される δU の物理的な意味について考える. 仮に,式(46)右辺の被積分関数内の第 1 項において,∂(δux)/∂x = δ(∂ux/∂x) = δεx が成立するものとすれ 8 20151004 技術者のための構造力学 u~x′ u~x δu x ’ δu x ux ’ ux (a) x x 実際の変位 ux の関数 図-9 (b) ux の導関数 u’x 関数 ux の偏導関数 u’x の変分の概念 ば,式(46)右辺の被積分関数内の第 1 項は σx と δεx(ひずみ εx の変分)によってなされた仮想仕事量を 表すことになる.これは,図-9 に示すように,実際の変位 ux にその変分 δux を加えて得られる関数 を u~ = u + δu ,実際の変位 u の 1 階偏導関数 u’ にその変分 δu’ を加えて得られる関数を u~′ = u ′ + δu′ x x x x x x x と表したときに,δu’x の偏導関数に対して成立する次の関係に基づいて示すことができる. ∂ (δu x ) ∂ (u~x − u x ) ∂u~x ∂u x ~ ∂u = = − = u x′ − u ′x = δu ′x = δ x ∂x ∂x ∂x ∂x ∂x x x (47) 式(47)は,変分演算子 δ と微分演算子∂が交換可能であることを示している.よって,x,y,z 方向 の直ひずみ εx,εy,εz,x-y,y-z,z-x 面内のせん断ひずみ γxy,γzy,γzx の変分は以下のようにおくこ とができる. ∂u ∂u x ∂δu x , δε y = δ y = δε x = δ ∂x ∂x ∂y ∂u y ∂u x ∂δu y ∂δu x = + + , δγ xy = δ ∂x ∂y ∂x ∂y δγ = δ ∂u z + ∂u y = ∂δu z + ∂δu y , ∂y yz ∂y ∂z ∂z δγ = δ ∂u x + ∂u z = ∂δu x + ∂δu z zx ∂x ∂z ∂x ∂z ∂δu y ∂u ∂δu z = , δε z = δ z = ∂y ∂z ∂z (48)1~6 式(49)を式(46)右辺の被積分関数に代入して仮想ひずみとして表せば,次のようになる. δU = ∫ (σ δε x V x + σ y δε y + σ z δε z + τ xy δγ xy + τ yz δγ yz + τ zxδγ zx )dV (49) 式(50)の δU は物体内部になされる全仮想仕事量にほかならない.よって,以降では,δU を内部仮 想仕事 δWint と表記する. 式(1)と式(45)より,次式が成立する. ∫ (t δu x St = x + t yδu y + t zδu z )dS + ∫ (b δu V x x + byδu y + bzδu z )dV ∂δu x ∂δu y ∂δu y ∂δu x ∂δu z +σ y +σz + τ xy + σ x V ∂x ∂y ∂z ∂y ∂x ∫ ∂δu z ∂δu y + τ yz + ∂z ∂y ∂δu x ∂δu z + τ zx + ∂x ∂z dV (50) 式(50)の右辺の被積分関数に式(48)を代入すると,3 次元等方弾性体に対する仮想仕事式は次式で表 される. 9 20151004 技術者のための構造力学 ∫ (t δu + t δu + t δu )dS + ∫ (b δu + b δu = ∫ (σ δε + σ δε + σ δε + τ δγ + τ δγ x St V x x y x y y z y z x V z z xy + bzδu z )dV x y y xy yz yz + τ zxδγ zx )dV (51) 式(51)左辺は式(1)より外部仮想仕事 δWext,右辺は式(49)より内部仮想仕事 δWint に等しいことから, 次の関係も成立することが明らかである. δWext = δWint (52) 式(52)は,微小変位問題を対象とする,3 次元等方線形弾性体に対する仮想仕事式を表しているが, 同式には弾性係数や Poisson 比は含まれていない.即ち,同式は材料の応力-ひずみ関係式には無関 係に成立することから,同式をひずみ増分理論に基づく弾塑性体を対象とする有限要素法解析におけ る剛性方程式の誘導に適用することも可能である. 【参考文献】 1) 鷲津久一郎:有限要素法の基礎と応用シリーズ 3 2) 社団法人 日本塑性加工学会 エネルギ原理入門,培風館,1980. 編:非線形有限要素法 コロナ社,1994. 10 -線形弾性解析から塑性加工解析まで-,
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