■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 【 ユーロ スペシャル レポート】 株式会社 CKキャピタル CEO 西原宏一(2015年1月27日(火)) ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 1)欧州激震への序曲~ユーロスイスの大暴落 2015年に入ってユーロ相場が急落しています。ユーロ全面安の展開となっているのです が、そのvolatilityも急騰。 このユーロ大相場の序章だったのが1月15日のSNBの決断です。過去3年半、SNBはスイ ス高を抑制するため、ユーロスイスの1.2000でユーロ買いスイス売りの介入を続けていま した。ところが今月SNBは突然、ユーロスイスの下限を撤廃。これにより、ユーロスイスは あっというまに1.2000から一時0.8500と3500pipsの大暴落となり、マーケットは大きく 混乱しました。3年半に渡りSNBが執拗に介入していた1.2000のフロアーを突然撤廃した のが、1月15日。これはQE開始が予想されていたECB理事会のちょうど一週間前というタ イミングでした。そのためマーケットは1月22日のECB理事会にて、QE(量的緩和)導入 の可能性が高まったと想定し、それを織り込む形で、ユーロドルは1.1500割れまで急落し ます。 2)ドラギマジック炸裂~予想を大きく超えたECBのオープンエンドQE(量的緩和) そして1月22日のECB理事会を迎えます。 ドラギ総裁は市場予想を大きく超えるECBの量的緩和を発表。まず月額600億ユーロの国債 購入を決定。期間は2015年3月より2016年9月までの19か月間。これにより19ヶ月で1兆 1400億ユーロの国債購入が決定されたわけです。 ドラギさんも認めていますが、ECBが懸念していたのが、QEに関するマーケットの織り 込み度です。今回のQEの発表自体はマーケットが既に織り込んでおり、発表後にバイザフ ァクトでユーロドルが反発することを懸念していたわけです。 そこで、ECBは月額500億ユーロでの量的緩和という情報を事前にリークさせます。 その上で、実際は600億ユーロと発表するなど、マーケットにサプライズを起こしてユーロ の下落を継続させる工夫をしており、ドラギ総裁のこの政策にかける意気込みを感じます。 そしてマーケットにサプライズを与えたのが、この政策はopen endだったという点です。 つまり、インフレ目標達成のために必要であれば、無期限に実施するということにマーケッ トは驚きをもって迎えます。 これによりユーロドルは節目であった1.1400~1.1500を割り込み、1.1100割れまで急 落。安値は1.1098となっています。(1月26日時点) またユーロ円は130.00円割れ目前の130.15円まで急落しました。 ユーロドルは年初の1.21から1.11まで約1,000ポイント、ユーロ円にいたっては146円 から130円まで約16円の大暴落となります。 今回のECBの発表により、SNBが3年半に渡って執拗に守っていたユーロスイスのマジノ 線(=ユーロスイスの1.2000)を断念したのもうなずけます。ECBがこれだけの量的緩和を 導入すれば、SNBがどれだけ介入しても、結局はマジノ線が決壊してしまうからです。 このECBの大規模QEの影響はSNBのみならず、各国の中央銀行の政策に大きな影響を与 えています。 まずECBのQE前ですが、1月12日にBOC(カナダ銀行)が緊急利下げを発表。 政策金利を1.00%から0.75%に変更するとしました。その背景は急激な原油安といわれて いますが、今回のECBによる大規模QEが大きく陰を落としているといえます。 加えてデンマーク中銀も緊急利下げを発表しており、ECBによるQEが、各国中銀に大き な影響を与え、次々と利下げを発表する動きとなっています。 昨年は日銀の異次元緩和によってドル円がマーケットの主役でしたが、今年はECBの大規 模QEによりユーロドルがマーケットの主役となっています。 3)Syriza急伸、トロイカ VS Syriza、ギリシャの総選挙の行方 ECBのQEに加えてユーロ安を加速させたのが、先週末のギリシャの総選挙。注目のギリ シャの総選挙では、急進左派連合のSyrizaが大勝。サマラス首相(ND党)は、敗北宣言の 声明を発表しました。これによりギリシャ政府による債務の踏み倒しの可能性が高まります。 現在ギリシャの債務は巨大なものではありませんが、EUとIMFによる協調融資団(ト ロイカ)からの債務を踏み倒す可能性が高まれば、今後スペインやポルトガルに波及するこ とをマーケットは懸念している訳です。 * スペインとポルトガルは今年総選挙を控えていますので、Syrizaのこれからの動向に も、マーケットの注目が集まっています。 (スペインの総選挙は12月20日 か それ以前、 ポルトガルは9月20日~10月11日の予定) 4)通貨安戦争勃発の中、リスクは米国の対応 ゴールドマン・サックスのCOOゲーリー・コーン氏は「世界は通貨戦争のさなかにある」 と発言。BOJの異次元緩和も、今回のECBによるQEも、事実上は自国通貨を下げることを 主眼としています。またオーストラリアやニュージーランドも口先介入を繰り返し、自国通 貨安を誘因し、通貨安戦争になりつつあります。 こうした中、通貨高を一手に引き受けているのが米国です。現在FRBの議長をつとめてい るのは前議長のバーナンキ氏よりハト派であるイエレン議長。 ただでさえ低いインフレ率をさらにデフレ方向に誘因するドル高をイエレン議長がいつ までも容認するとは考えにくいわけです。そのためリスクは圧倒的に下落基調であるユーロ 安に対する唯一の懸念は米国の動向となります。 米国は1月22日のECBの大規模QEを容認していることから、現時点でのユーロドル下 落は許容範囲のようですが、グローバルに通貨安競争が繰り広げられている中、唯一通貨高 を受け入れている米国の今後の動向には要注意です。 5)ユーロドル相場のポイント ECBのQEとギリシャの総選挙という2大イベントを終え、本稿執筆時点でのユーロドル は1.12台後半と調整局面に入っていますが、SNBがユーロスイスでの無制限介入を撤廃し、 ECBが予想を大きく超える大規模なQEを実施したことからユーロドル、ユーロクロスは今 後も上値の重い展開が続く可能性が濃厚です。調整後のユーロドルのサポートは1.11その 次は1.08となり、その先はいよいよparity(1ユーロ=1米ドル)へと迫ります。 ECBはユーロ安政策を明確にしているため、ユーロ圏の事情でユーロドルが上がることは 想定しづらい展開です。 一方米ドル側ですが、昨年FRBがテーパリングを実施し、量的緩和は終了しています。今年 はFRBの金利引き上げが予測されており、米金利の上昇とともにドルは買われる要因が強く なっており、この点からもユーロドルは下げやすいと考えるのが順当でしょう。 ただ米ドルの動向に大きく影響しそうなのが、原油価格です。原油はWTIも北海ブレントも 昨年の高値から約半値にまで下落しており、今後もこの傾向は続くと考えられています。主 要産油国でありOPECの中心国でもあるサウジアラビアの石油相は、今後原油が100ドルに なることはない、と発言していますし、20ドルぐらいもあると言っています。このように 原油価格が安値で推移するとガソリンや燃料価格の低下から米国物価は上がりにくくなる ことが懸念されます。消費者にとって原油価格下落はありがたいことですが、燃料価格は CPI(消費者物価指数)を大きく動かす要因となるため、原油安はCPIの上昇を抑えること になりかねません。そうなるとCPIが上昇しない状況でFRBが利上げに踏み切れるか、とい う点に疑念が生じ、米国の利上げ観測が後退し、ドル買いが弱まるリスクが台頭するため今 後も原油価格の動向には留意しておく必要がありそうです。 総括すれば、ユーロドルはECBによる大規模QE によりユーロ続落リスクが濃厚で ユーロドルは戻り売りスタンス。 この戦略のリスク要因はまずFRBの利上げ観測が後退した場合。 そして、最も警戒すべきはユーロドル下落が加速した局面で米国政府からドル高を懸念する 動きが出てきた場合。 その場合はトレンドが大きく反転する可能性が濃厚であるため、今後はECB側ではなく、米 国当局の動向に注目です。 実際のトレードにおいては、ECBのQE発動によって、ユーロドルは戻り売りスタンス。そ して仮に米国側がドル急騰に対して警告を出した場合は、即座にシナリオを変更するという 機敏な対応が必要となるでしょう。 2015年の為替相場の主役はユーロドル。 そして今年の相場の特徴はvolatilityが高いことですので、トレーリングストップなどのツー ルを駆使して、できるだけ機動的に動くことが為替トレードのポイントとなりそうです。 一部の報道ではユーロスイスの大暴落により、為替トレードのリスクを誇張している記事も 目立ちます。 ユーロスイスに関しては長期に渡ってSNBが無理な政策をとっており、 昨年後半から多くのエコノミストが「1.2000決壊リスク」を警告していました。 (僕もセミナーなどで何度か警告していました。) そうしたユーロスイスは特殊な環境にあったわけでドル円やユーロドルといった主要通貨 ペアに関しては、充分な流動性が確保されています。 そのため昨年同様個々人でリスク管理だけは充分に留意され、為替トレードを 個人投資家の有用な資産運用のひとつとして活用したいところです。
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