EY Advisory デジタル・アジリティーへの挑戦 −データアナリティクスで起こす内部監査のイノベーション アドバイザリー事業部 清水健一郎 • Kenichiro Shimizu 外資系大手ソフトウェア会社のコンサルティング部門を経て現職。10年以上にわたり、企業のデジタル化の推進やデータガバナンス、IT を中心としたリスクマネジメントに関わるコンサルティング業務に従事。グローバル案件多数。米国公認会計士、公認情報システム監査人。 Ⅰ はじめに 重ねる必要がありますが、一歩を踏み出さないことに は何も始まりません。本稿では、内部監査にデータア 内部監査とイノベーション。意外に感じられるかも しれませんが、実は内部監査ほどイノベーションに適 ナリティクスを効果的に活用する(以下、データ監査) ためのポイントを解説します。 した領域はないといえます。少ない予算と人員で、企 業活動の全体像を把握し、不正リスクに直結する個別 の事象を見つけ出すことはもちろんのこと、今では業 績や業務の効率性向上に寄与する改善策の提案も、内 Ⅱ ポイントは 「とにかく、むしろ小さく始める」 部監査部門には求められています。その果たすべき役 割と目指すゴールは果てしなく遠く、まさにイノベー 多くの最先端企業で取り入れられているイノベー ションが求められているといえます。今、あらゆる経 ション手法にアジャイルがあります。とにかく小さく 営活動がデータになっています。これを内部監査でも でもよいので始めてみて、さまざまなフィードバック 生かさない手はありません。蓄積された経営データを を受けながら、ディスカッションを繰り返し、少しず 分析し、新たな気づきを得ることで、不正リスクに関 つ修正しながら進めるやり方です。例えるなら、きちん する発見のみならず、ビジネスの効率性や戦略の立案 とした設計図を元に建設を進めていくスタイルを従来 と遂行に役立つ知見を提供できるようになるでしょう。 型とすると、とにかく建ててみて使いながら修正を加 一方で、「ビッグデータ」という言葉は、既に市民 え改良していくという発想です。建築にはあり得ない 権を得つつあり、コンプライアンスや不正リスク、内 手法ですが、アイデア創出には大変有効で、多くのビ 部監査などに関連する議論の中にも頻繁に登場しつ ジネス現場やスタートアップ企業で取り入れられてい つありますが、実際の活用となると進んでいない企 ます。そして、このアジャイル手法はデータ監査でも 業が多いようです。EYの「Global Forensic Data 大いに有効で、特に、まだ本格的なデータ監査を取り Analytics Survey 2014」でも、回答者の72 %が 入れていない企業にお勧めしたいアプローチです。 ビッグデータ関連の新技術は不正の防止・検出に重要 具体的には、まず監査領域を決めたらデータを入手 な役割を果たし得ると答えていますが、ビッグデータ してすぐに分析をしてみます。分析をしてみて異常点 技術を実際に使用しているという回答はわずか2%で が検出されたらその点にフォーカスし、踏み込んだ分 した。これは1年前の調査ですが、現在でも状況が進 析シナリオを作成します。 展しているようには感じられません。実際、データ分 例えば、全件の仕訳伝票を抽出して、まずは傾向分 析が活用できるようになるまでには何度も試行錯誤を 析や分類化など基本的な分析をしてみます。そこで登 14 情報センサー Vol.108 October 2015 録者に何らかの異常がありそうであれば、次は登録者 にフォーカスして踏み込んだ分析シナリオを作成し、 ▶図1 アジャイル発想ではじめる内部監査の イノベーション 経営に寄与する 継続的な リスクデータ モニタリング 実施します。分析シナリオとは、アウトプットを想定 した仮説と、その検出のための具体的な分析手順のこ とで、この段階では、より踏み込んだ分析を行います。 全件を抽出するのではなく、一定金額以上の仕訳のみ を抽出した上で、分析を実施する方法もありますが、 体系的な データ監査実施 その場合、この特定の登録者の仕訳データは除外されて しまい、異常データを見逃してしまうかもしれません。 このように網羅的に全件のデータを抽出してデータ 分析をしてみることで、想定していなかったような傾 アジャイル発想に よるデータ監査の 取り組み 向やリスクに、初めて気が付くこともあります。その 内部監査の高度化 ため、可能な限り全件を推奨します。 実際のところ、シナリオをしっかり考えてもヒッ トする確率は非常に低く、むしろ何かが検出される のは、分析を行うための準備作業の最中であったり、 ふ かん データからビジネス全体を俯瞰する中で、異常なトレン Ⅳ おわりに ドに気が付いたりといったことが思いのほか多いのが 実態です。このため、最初は使い慣れたツール、例え 大量のデータから本当に意味のある気づきを得るに ばExcelなどから始めてみるのもよいでしょう。最近 は試行錯誤が必要で、その先にある内部監査の高度化 では、技術者でなくとも簡単に分析ができる、セルフ への道のりはさらに遠く、一朝一夕には成し遂げられ サービスBIと呼ばれるツールも普及しています。既存 ないものです。だからといって、一歩を踏み出さない のツールにとらわれることなく、最新のツールを試し ことには何も始まらず、むしろ、小さく始めることが てみることもポイントです。 新たな気づきにもつながります。最終目標である内 部監査の高度化とイノベーションの実現のためにも、 データ監査は「とにかく、むしろ小さくはじめる」と Ⅲ データアナリティクスを内部監査に統合する いうアジャイル発想で取り組むことをお勧めします。 一度実施した分析は、スクリプトと呼ばれる反復可 能なプログラムの形にしておけば、同じ分析を少ない 労力で何度も実施することが可能となり、浮いた労力 を新たな分析に注ぐことができます。このサイクルを 回していくことで、分析の対象領域が広がります。こ の繰り返しが新たな気づきを生む源泉となるため、小 お問い合わせ先 アドバイザリー事業部 Tel: 03 3503 3500 E-mail:[email protected] さく始めたデータ監査のノウハウを蓄積し、体系化し ていくことが何より大切です。 そして、その積み重ねの先には、データによって継 続的かつ自動的にビジネス戦略の立案と遂行をモニタ リングするという内部監査の高度化も期待できます (<図1>参照)。こうした内部監査の高度化が実現で きたなら、その時は、内部監査部門はコストを増やす ことなく、むしろコストを削減した上で、ビジネスに 関する新たな知見を提供し、ビジネスを変革するドラ イバーという新たな役割を果たしていることでしょう。 情報センサー Vol.108 October 2015 15
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