i-Method連続講座 ~産廃業者の財務分析法~(第11回)

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i-Method連続講座
~産廃業者の財務分析法~(第11回)
元千葉県産廃Gメン、「産廃コネクション」著者
石渡 正佳
<分析事例>
5-14 分析対象企業の概要
------------前回までで、IM-B(Iメソッド・ベーシックバージョン)が一段落したので、今
回はIM-Bによる分析例を紹介する。分析対象はM社、Iグループ、J社の3社であ
る。
なお、産廃情報ネットから公開されている情報のみに基づいた事例研究的な参考分析
であるので、分析結果を業務等に利用しないようにお願いしたい。
M社は信越地域最大級の総合環境企業であり、収集運搬・中間処理一貫受注を行い、
特別管理産業廃棄物の処理を得意としている。
Iグループは北陸地域最大の環境企業グループであり、中核企業のI社(中間処理)、
IT社(収集運搬)、IA社(最終処分)の3社により、あらゆる種類の産業廃棄物を
グループで内製処理している自己完結型総合処分場である。中核企業が、ホテル経営な
どを行っている。
J社は鉄鋼大手グループに属し、全国最大級の環境企業グループの中核的処理施設で
ある。廃油、廃液から建設系廃棄物まで、あらゆる廃棄物を受注している。
3社はいずれも売上高100億円超、従業員数500人超の、全国トップクラスの処
理業者である。利益率、自己資本比率が高く、無借金経営に近く、経営的にも安定した
企業である。
総括的に評価すると、M社は特別管理廃棄物の専門施設、J社は多彩な中間処理のデ
パート、Iグループは自己完結型総合処分場というコンセプトが明確である。この企業
戦略の明確性が、施設の大規模化、専門化、経営の安定化につながっていると考えられ
る。
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平成 26(’14)年 11 月 第 72 号
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表1 3社のパフォーマンスの比較
種別
財務指標
処理能力
処理実績
指標
M社
J社
売上高(千円)
11,041,055
18,987,858
17,724,000
総資産(千円)
12,745,580
22,618,963
11,511,000
86.6
83.9
154.0
5.2
12.6
8.5
自己資本比率
79.6
55.6
71.1
従業員数
609
508
638
収集運搬能力(トン)
1,477.9
845.0
701.2
中間処理能力(トン/日)
1,556.6
2,750.3
3,126.5
最終処分場残存容量(㎥)
-
2,538,894.0
145,542.0
売上総資産比率
営業利益率
収集運搬実績(トン)
140,231.6
163,690.3
90,142.0
中間処理実績(トン)
134,119.0
241,835.0
297,156.0
最終処分実績(トン)
0.0
393,465.9
11,312.0
収集運搬車両回転数
0.3
0.6
0.4
中間処理施設稼働率
28.7
29.3
31.7
3.7
9.0
82,322.8
16,262.7
57,458.1
自社運搬率
104.6
25.8
29.2
処分内製率
65.4
99.8
74.2
減量化率
40.9
38.0
45.0
6.3
0.4
19.2
68.0
27.3
60.0
61.5
2,626.9
265.1
2,076.1
483.5
1,813.0
3,737.8
2,778.1
最終処分場残余年数
平均価格(円/トン)
パフォーマンス
I社
-
リサイクル率
オーバーフロー率
中間最終比率
労働生産性(トン/人・年)
一人あたり売上高(万円)
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-
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表2 3社の総合評価
区分
総合評価
分析にあたって
留意した事項
M社
I社
J社
「高価格・低生産性」
「低価格・高生産性」の
「高価格・低生産性」の
の「高度処理施設」で
大規模施設であり、最終
「高度処理施設」であ
ある。特別管理産業
処分場の依存度が高く、
る。ただし、特別管理産
廃棄物の受注割合が 中間最終比率は中間が
業廃棄物の受注割合は
50%に達している。
60%である。処分内製
低い。最終処分受注は
自社運搬率100%で
率は100%である。
無視できる程度に少な
ある。
「自己完結型大規模総
い。
特別管理産廃に最適
合処分場」として最適化
通常産廃の多彩な処理
化した収集運搬・中
した施設である。
困難物に最適化した中
間処理一貫施設であ
間処理のデパート的施
る。
設である。
環境分析、プラント建
収集運搬をIT社、中間処 産業廃棄物処理業に区
設、汚染土壌処理な
理をI社(親会社)、最終
分されないリサイクル事
ど、環境事業を総合
処分をIA社に分社化し
業などを行っており、平
的に行っており、平均 ているので、3社連結分
均単価(売上高/処理
単価(売上高/処理
析を行った。
実績)は、過大になって
実績)は、過大になっ
親会社でホテル業などを
いる。
ている。
経営しており、産廃処分
処理能力について
業とは労働生産性が異
は、ライン構成を勘案 なるため、産廃処分業売
し、TOCによって調
上高推定額(人数按分)
整した。
は過少になっている。
5-15 M社の個別分析
------------M社とJ社の業態はよく似ている。い
ずれも処理困難物の中間処理に特化した
「高価格・低生産性」の施設である。廃
油、廃液系処理施設の通例として、リサ
イクル率は高くない。
両社の違いは、M社の特別管理廃棄物
の受注比率が著しく高いこと(50%)、
自社運搬率100%を達成していること
である。
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iメソッドチャートは、収集運搬・中間処理の場合は、8つの指標、最終処分もある
場合は10の指標を、レーダーチャートで表現したものである。チャートの数値は標準
値に対する比率(百分率)である。
車両回転数は満載換算1日1回転を100%、平均単価は1トン3万円を100%、
労働生産性は従業員一人当たり年間処理実績667トンを100%、一人あたり売上高
は2000万円を100%としている。その他の指標は最初から百分率である。売上資
産比は総資産に対する売上高の比率である。
M社は、中間処理平均単価が高いのが、最大の特徴であり、標準の2倍以上になって
いる。
施設稼働率と労働生産性は低く、一人あたり売上高、売上資産比率は標準的である。
自社運搬率が100%である。
典型的な高価格、低生産性施設である。
パフォーマンスカスケードは、収集運搬、処分の受注数量、処分後の外注数量を比較
したチャートである。自社運搬率、縮減率、内製率、外注率などを視覚的に表現してい
る。
M社の収集運搬受注量と処分受注量はほぼ等しい。
中間処理の縮減率は高くなく、リサイクル率は低く、残渣の最終処分率が高い。
特別管理廃棄物の処理施設としては、標準的なパフォーマンスであると言える。
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キャッシュフローパイプは、財務内容を視覚的に表現したチャートである。
M社は、財務的には、自己資本比率の高さが目立っている。
固定負債が小さく、ほぼ無借金経営であると言える。
利益率は著しく高いとは言えないが、安定している。
自己完結性のレーダーチャートは、6つの指標により、自己完結性を視覚的に表現し
ている。
M社は、リサイクル率を除き、自己完結性が全体的に高い。とくに自社運搬比率は1
00%である。
特別管理産業廃棄物に専門化した施設であるので、収集運搬車両も専門化しており、
性状の不明な廃棄物の持ち込み受注を禁止しているためと考えられる。この点は大きく
評価すべきである。
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総資産・売上高相関図は、総資産と売上高の3期の推移を表現している。
M社の売上高と総資産に3期大きな変化はない。
微妙ではあるが、総資産を10億円増やしているのに、逆に売上高が10億円程度落
ちており、これはよい傾向とは言えない。
業界の競争が厳しくなっていることが予想される。
労働生産性・平均単価相関図は、労働生産性と平均単価の3期の推移を表現している。
M社は、労働生産性と平均単価に3期大きな変化はない。
老働生産性と平均単価が相反的に動いており、問題ない。
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生産性の水準は標準の2分の1以下、平均単価は3倍近い水準で動いている。
このような分析が、公開情報だけから可能であるということは、画期的なことであり、
他の業界には見られない産業廃棄物処理業界の優れた取り組みであると評価できる。
これまで抽象的な議論に終始していたiメソッドの真価も、具体的な分析を行うこと
によって、より深く理解できたものと思う。やや踏み込んだ表現をしている個所もある
が、あくまで公開情報からの参考分析であり、事実とは異なる部分もあるので、取り扱
いには注意してほしい。
IグループとJ社の個別分析は、次回行う。
「i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~」バックナンバー
62 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(1)
63 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(2)
64 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(3)
65 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(4)
66 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(5)
67 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(6)
68 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(7)
69 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(8)
70 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(9)
71 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(10)
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