No7 中国西北部の砂漠化と火力発電所

有限会社
EES 研究所ニュース No.7
代表者: 大岡 五三實
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2010/6
工学博士 技術士(機械部門)住所: 〒572-0001 寝屋川市成田東町18-11
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中国西北部の砂漠化の一因は火力発電所の冷却塔?
去る6月 13~15 日にかけて、日本技術士会のメンバー11 名が内モンゴル自治区の首府フフホト市を訪問し、
環境問題など現地の技術者と会議を持ちました。
中国側の説明では、人口の多い自治区の中央部から東部にかけて年間の降雨量は 300~400mm 程度で慢性
的な水不足に悩んでいて水質も硬度が非常に高く、飲料用その他に硬度の低い水をできるだけ採りたいが、そ
の方法は?という質問があった。一方、大都市のフフホト市や包頭市などの排水は黄河に排出されており、黄
河の水を取水していないのにそれと同等以上のものにしなければならないという規制があるそうだ。地形から
見ると、フフホト市の北部に 2000m 級の山脈がつながっていてその北部には畑地や草原があり、西の方には
砂漠があって大きい森林は見あたらなかった。したがって、降雨量も少ないうえに保水量もすくなく、乾燥し
た空気によって地上ですぐ蒸発し、河川には流水が非常に少ないようだ。
草原での放牧農家は生産を上げるために過密放牧になって、牧草が少なくなり、気温が高くなって沙地化(自
然の砂漠でなく、人工によって砂地になる)が進んでいる。一方、都市部の人口は増加し、水の需要が毎年増
加している。このような光景は黄河流域や東北部でよく見られるものである。
上記の矛盾するような問題に対する答は、節水以外に方法はないものだろうか? フフホトのホテルの窓か
ら見える火力発電所の自然通風式冷却塔が排出している水蒸気量を概算してみた。かりに、1日に 100 万キ
ロワット時発電しているとし、石炭火力の発電効率を 35%、冷水塔からの放熱割合を 50%とすれば、約 1,900
トンの蒸気(蒸留水)が失われたことになる。この値は河の水流に対してかなりの比率になっていると思われ
る。この発電所は冬季には熱供給しているので蒸気損失は少ないと思われるが、蒸発時の塩析出を考慮すると、
余剰の水も必要と思われる。要するにこれだけの水量を市内の植生に利用すれば保水率が上がり、地域環境も
かなり改善できるものと思われる。
同様に製鉄所を抱える包頭市については製鉄に必要な電力と市街地に供給している電力もともに自然通風
式冷却塔を使用しているようで、対策を考えるべきと思っている。水不安のある西安にも何回か訪れたが、空
港から市街地に入る前に発電所の冷却塔から排出される蒸気と、水源と思われる河川の水量を見比べて、大丈
夫か?と考えさせられたことが多かった。
地球温暖化には CO2と H2O は同程度の放射熱吸収があることからおなじ程度の効果があるとされている。
石炭火力の場合、CO2 排出量 1m3N に対し、燃焼ガスからの H2O は 0.4m3N、冷水塔からの H2O は約 4m3N
排出されることになる。CO2 は大気中では凝縮しないため、空気中広く拡散されるが、H2O は気温の低いと
ころでは凝縮してその拡散は局地的になり、H2O 少ない場所では乾燥して大気温度が上がって砂漠化が進み、
海洋では海水の蒸発量が多くなって集中豪雨が増加するといわれている。このことは、世界中に豪雨被害が広
がっているのは、CO2 の原因よりも H2O 蒸気の発生と大地の乾燥による温度の差が大きいためと考えたくな
る。この問題を解決するためには、今のところ、植生によって地中および植物の保有水を多くすることしか考
えられない。
フフホト市において、例えば市街地戸数 40 万とし、1戸当たり1日 5 キロワット時消費するとすれば、1
日 200 万キロワット時の発電量となり、蒸気タービンの復水を間接冷却として蒸発損失がないものとすれば、
年間では約 140 万トンの節水になって、年間降雨量 350mm とすると、約 400 万 m2(ニューヨークのセント
ラルパークは 320 万 m2)の土地を潤すことになる。この水量は冬季には熱供給のため減少するが、潅漑とし
て利用効率が高いために十分な植物を成長させることができるであろう。
冷水塔の蒸気損失を少なくするためには自己消費電力は若干増加するが強制通風による復水器への変更や、
天然ガスが使用できる場合は複合サイクル発電を採用して復水器の負荷を少なくするような手段が考えられ
る。また、せっかく設置している巨大な構造物である冷水塔外殻の有効利用の検討も興味がある。
水資源もエネルギー資源同様に大切にして上手に使いましょう