燃料電池水素オフガスの 低コスト無触媒酸化処理装置 岐阜大学・大学院・工学研究科 環境エネルギーシステム専攻 准教授 神原 信志 1 研究背景 高効率・低環境負荷の燃料電池は,次世代の電気エネルギー源とし て期待されているが,実用化にはまだいくつかの課題が残っている。 Air H2 高濃度の水素を含む水素 オフガスを,どう処理する かが問題 eO2 2H+ + = H2O H2 N2 H2 N2 H2 H2O 図1 固体高分子型燃料電池の概要 2 水素オフガス処理の必要性 オフガス中の水素濃度 30 -95 vol% H2 水素オフガス排出量 (L) 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 0 20 40 60 燃料電池始動時間 (秒) 80 図2 水素オフガスの排出パターン Fuel Cell Vehicles 地下駐車場や自宅ガレージなど,半 密閉空間では,爆発の危険性あり 水素オフガスは,完全に酸化処理すべきである 3 従来技術 従来技術は,「空気希釈」と「触媒燃焼」 表1 特許調査にみる水素オフガス処理法の分類 4 従来技術の問題点 安価 空気希釈法:水素オフガスを爆発下限界(4%)以下に 空気で希釈し,大気に放出。しかし,水素 は拡散速度が速いため,半密閉空間では 局所に滞留し,爆発の恐れあり。 安全 触媒燃焼法:水素を完全燃焼処理できるが,白金触媒 を用いるため高価。また,触媒燃焼で発 生する高温度を冷却する必要あり。 まだ,決定的な(安価,安全)なオフガス処理装置はない 5 新技術の概念 H2 大気圧非平衡プラズマで,水素と空気を原子 化(ラジカル化)し,ラジカル反応で完全酸化 する方法 H 高電圧パルス 電源:12 kV OH O ラジカル反応 H+O=OH H+OH=H2O 高電圧電極 H OH H2O O 接地電極 ※紫の部分がプラズマ Air 図3 大気圧非平衡プラズマを利用した新しい水素酸化処理法の概念 6 プラズマとは 放電場に気体分子(例えばH2)を通過させると,分子は解離し, ラジカルを生成する。 H2 + e- → H + H 高電圧電極 電子 原子 イオン H2 O H O2 O H 生成したラジカルの活性 化エネルギーはほぼ0であ り,簡単に反応する。 H + H + O = H2O 接地電極 図4 プラズマの概念図 7 実験装置 (a) 側面図 (b) A矢視 高電圧 電源 高電圧電極 接地電極 石英外管 A H2O 石英内管 ギャップ 300 mm H2 Air 反応ガス入口 単純な幾何構造で安価 図5 水素オフガス酸化処理装置の概要 図6 プラズマ点灯の様子(例) 8 高電圧電源の波形 20 T1 Voltage [kV] 10 電圧の立ち上がりと 戻りの早い波形がラ ジカル生成に有利 T0 0 V pp -10 -20 0 50 100 Time [µs] 150 200 電圧Vpp = 31.0 kV, T0 = 10 μs, T1 = 100 μs (10 kHz) 図7 高電圧パルス電源の波形例 9 実験パラメータ 処理ガス組成 : H2 = 2.0 vol%, O2, N2 balance 酸素濃度 : 0.5~19.8 % 酸素当量比 : 0.05~2.0 処理ガス温度 : 室温~100℃(実オフガス温度は80℃) 処理ガス流量 : 4.0 ℓ/min ~ 8.0 ℓ/min 電 圧 : 31.0 kV 周波数 : 7~15 kHz 10 実験結果 100 空気中で水素は572℃ にならないと着火しな いが,プラズマではわ ずか80~100℃で完全 に酸化処理できる。 H2 conversion [%] 80 60 7kHz 10kHz 15kHz 40 F 0 = 8 ℓ/min V PP = 31 kV P = 0.38-1.11 kW φ = 0.05 20 0 0 20 40 60 80 100 Exhaust gas temperature [℃] プラズマ装置を覆うカ バーは,安価な絶縁プ ラスチックでOK。 図8 水素酸化率に及ぼすガス温度の影響 11 水素酸化率の支配因子 反応器単位体積(1 cm3)あたりに与える電気エネルギーとガス 温度によって,水素酸化率は決定される。 H2 conversion [%] 100 ガス温度が決まれば, 反応器が設計できる。 80 60 40 V PP = 31 kV R R = 7 - 15 kHz F 0 = 4 - 12 ℓ/min φ = 0.05 20 (a) 25℃ 40℃ 60℃ 80℃ 100℃ 0 0 10 20 30 40 Energy density [J/cm3] 図9 プラズマエネルギー密度と水素酸化率の関係 12 消費電力と水素酸化率 H2 conversion rate, Xh [%] 100 水素オフガスの排出温 度である80℃で処理す る場合,約1.2 kWの電 力が必要 80 60 Vpp= 17.5 - 37.5 kV RR =2.1 - 49.6 kHz 40 20 oC 40 oC 20 60 oC 80 oC 0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 Discharge power, P [kW] 1.4 1.6 図10 消費電力と水素酸化率の関係 13 水素のラジカル酸化反応 O H +O2 (R9) +O (R6) O2 +H (R9) HO2 プラズマ内で生成するHO2 とOHが重要なラジカル +H (R11), +O (R12) +H2 (R2) OH +OH (R13) +H (R8) +H2 (R3) H2O 図11 プラズマ内での水素酸化反応の経路 14 燃料電池車を例としたエネルギー割合の試算 水素オフガス排出量 (L) 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 0 20 40 60 燃料電池始動時間 (秒) 80 H2 FCVが1時間定常走行すると, 60 ℓの水素オフガスが発生する。 これを処理するための電源電力は, 20 Wh 必要。 これは,一般的FCV出力90 kWhの わずか0.02 %の消費電力である。 安価・安全を兼ね備えた水素処理装置。 Fuel Cell Vehicles (FCVs) 従来技術をこえて 出力90 kWh 実用化への可能性大 15 新技術の特徴・従来技術との比較 • 従来技術の問題点であった,安価・安全を両立する ことに成功した。 • 本技術の適用により,白金触媒を削減できるため, 装置コストが1/3~1/4程度まで削減されることが期 待される。 • FCVの普及(2030年100万台:NEDO予測)や家庭 用燃料電池の普及が,本技術の普及の前提となる。 16 用途の応用 • 燃料電池の水素オフガス処理以外に,各種 製造工場から排出される有機物質の酸化処 理装置として展開することも期待される。 17 想定される業界 • 想定されるユーザー 燃料電池,燃料電池車製造メーカー • 想定される市場規模 燃料電池車数:100万台/年 装置価格:20万円,シェア50%と想定 →1000億円/年の市場規模 18 実用化に向けた課題 • 現在,低濃度水素について完全な酸化処理が可能 なところまで開発済み。しかし,高濃度水素処理の データが不足している。 • 酸化処理にともない,窒素酸化物(NO)が生成する ことがわかった。生成しない条件の探索が必要。 • 今後,窒素酸化物についての実験データを取得し, 実用化に向けた酸化条件の設定を行なう。 19 企業への期待 • 未解決の窒素酸化物抑制については,反応条件の 工夫により克服できると考えている。 • 新たな特許出願と製品化を推進いただける企業と の共同研究(例えば,JST委託開発事業など)を希 望。 • また,種々の環境汚染物質の酸化処理装置を開発 中の企業には,本技術の応用が有効と思われる。 20 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :水素オフガス処理装置及びそ れを用いた燃料電池システム並びに水素オフ ガスの処理法 • 出願番号 :特願2007-173175 • 出願人 :岐阜大学,小島プレス工業(株) • 発明者 :神原信志,刑部友敬 21 お問い合わせ先 岐阜大学 産官学融合センター コーディネーター TEL e-mail 丸井 肇 058-293 - 3193 marupon@ gifu-u.ac.jp 22
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