平成 27 年6月25日 千葉大院融合 椎名 「応用光学」コラム その 9 フラウンフォーファー研究機構 今、日本の政財界がひそかに注目する研究所がドイツにある。それがフラウ ンホーファー研究所である。ドイツが国を挙げて進める「インダストリー4.0」 を支える応用研究機関だ。デジタル化によって工場をスマート化しようという インダストリー4.0 が実現すれば、産業革命に匹敵する大変革が起きるとも期待 されている。「ノーベル賞はいらない」。彼らが目指すのは研究をいかに早く 商品やサービスに変えるか。製造業復活を目指す日本にとって多くのヒントが 隠されている。 世界ランク5位の偉業を果たした錦織圭選手をはじめ、多くのテニスプレー ヤーの技を支えているのが炭素繊維を使ったラケット。カーボンナノチューブ 技術を利用した新型が誕生したのは 2002 年。 フラウンホーファー研究所で素材分野を担当しているイヴィツァ・コラリッ チ氏(45)はある技術見本市で声をかけられた。「炭素繊維を使って、今まで にな い軽くて丈夫なラケットを作りたい」。男性はドイツのラケットメーカー、 フォルクルの幹部。申し訳なさそうに付け加えた。「ただ、あまりお金がない」 カーボンナノチューブは当時から注目されていたが、まだ航空宇宙産業など が導入を始めたばかり。開発資金は約6万ユーロ(約 864 万円)。だがコラリ ッチ氏は「これだ」と思ったという。 資金不足を補うために他企業などとチームを作り開発を進めた。カーボンナノ チューブを使った新素材のテニスラケットは世界で 40 万本売れる大ヒットにな った。 コラリッチ氏は今年、フラウンホーファーの2万 3000 人の技術者の中から 「起業家精神をもつお手本研究者」に指名された。研究室にとどまることはな い。 各地の展示会や共同研究の工場などを渡り歩き、1年の3分の2は空席に している。「ノーベル賞はいらない。やりがいは研究結果が直接中小企業の競 争力にな ることだ」 フラウンホーファー研究機構( Fraunhofer-Gesellschaft)は、ドイツ全土 に67の研究所・研究ユニットを持つ欧州最大の応用研究機関。各研究所は科学 の様々な応用を研究テーマとしている(マックス・プランク研究所は基礎研究 中心である点が異なる)。 平成 27 年6月25日 千葉大院融合 椎名 「応用光学」コラム その 9 ドイツのヨゼフ・フォン・フラウンホーファーは、ガラス磨き職人の息子に 生まれた。11 人兄弟の末っ子 11 歳で両親と死別し、ガラス製造工場で働き始 めている。レンズの開発にたずさわっていたが、研究の過程でガラスの性質・ 屈折率を調べる為にプリズムで石油ランプの光を分光して、光の帯の中に黄色 線を見つけた。さらに、1814 年、太陽スペクトルの中に多くの黒い線(暗線) が含まれていることを発見した。これらの暗線はのちにフラウンホーファー線 とよばれることになるが、彼は太陽スペクトル中に見える 700 本の暗線を測定 し、その波長を報告した。この暗線が、太陽の表面の温度の低いガスによって 吸収されたものであることをグスタフ・キルヒホフが確認した。彼は、太陽の スペクトル中に、実験室で観測されるものと同じナトリウムに由来する暗線が あることに気がついたのである。これによって、初めて宇宙にも地球と同じ物 質が存在していることが示された。また、光の分光精度を高める回折格子も発 明しプリズム法の 1000 倍も精密に測定できるようになった。これらの業績によ りバイエルン学士院・物理博物館館長 王室教授となった。 教授とレンズ工場の運営の過労がたたって結核あるいは工場粉塵中毒となり 39 歳で亡くなっている。ガラス素材の屈折率研究から輝線を見つけた「注意力」、 更に必要な装置を自己製作出来た技能力を讃えられて、欧州最大の研究機関に その名が刻まれることになった。 フラウンホーファー線
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