平成 27 年 5 月 7 日 千葉大院融合 椎名 「応用光学」コラム その 2 ニュートンが挑んだ虹 シャボン玉に現れる虹 シャボン玉には儚い色が現れる。その色は青や赤となり、その厚さの変化が 色を変えていく。やがて黄色から透明へと変わり、割れてしまう。色の変化は まさに虹色であり、その色の並びが空に浮かぶ虹と同じであることにニュート ンは魅せられた。 ニュートンはシャボン玉に現れる虹(虹色)の根源を探る上で、2枚の接触 させた凸レンズ、もしくは凸レンズと透明な板に光を当てることで再現した。 いわゆる「ニュートン環」として知られる現象である。ニュートンリングとも いい、同心上のリングが凸レンズ間もしくは凸レンズとガラス板の両面で反射 される光波の干渉として説明される。ニュートンは「光学:Opticks」(1701)の 中でこのリングに関して詳しく述べている。様々な単色光を当てて実験し、そ のリングの明暗がガラス間の間隔によって周期的に決まることを見出している。 ニュートンは光を光線(力学的な粒子)だと考えていたためにこの現象の説明 に非常に苦慮し、この光の奇妙な性質を透過あるいは反射のしやすさの「発作」 (fits of easy transmission or reflection) と呼んだ。ニュートンの生きたこの時 代にはまだ光の干渉現象は発見/説明されていない。 ニュートン環はロバート・フックの「ミクログラフィア」(1665)という書物 の中で初めて報告されている。フックが発見しニュートンの名を与えられたこ の現象は、皮肉にもフックが支持しニュートンが反発したホイヘンスの“光の 波動説”を受け入れることで初めて説明できる。現代ではレンズのコーティン グをはじめ、薄膜の干渉現象として様々な場面で目にしている。太陽電池のい わゆる青い色もこの作用によるもので、シリコン結晶の色ではない。 20 世紀前半、光が光子いう単位でしか相互作用しないことが明らかになると、 ニュートンの疑問は再び問題となり、波と粒子の性質をあわせもつ量子的性質 として説明されている。 平成 27 年 5 月 7 日 千葉大院融合 椎名 「応用光学」コラム その 2 光の道すじ 自然は対象性を重んじる? 石鹸膜が作る境界問題を目にしたことがあるだろうか。これは経路を最短に 結ぶ境界を定める。2枚の円版を柱で支える際、その柱に沿って最短経路を結 ぶ際、石鹸膜を利用すると、いとも簡単に最短経路の境界を作ってくれる。 この問題はフェルマー点の作図で説明される。フェルマー点とは、三角形の 3つの頂点からの距離の合計が最小になる点のことで、三角形の各辺を1辺と する正三角形を元の三角形の外側に描くことで作図できる。 話を石鹸膜の境界問題に戻すと、柱の本数を2本、3本、と増やしていくこ とで、その石鹸膜の経路を最短にするように膜が貼られていく。注目すべきは、 その膜の対象性で、柱が、2、3、4本と増えるにしたがって対象な境界が形 成されていく。ところが、柱が5本に時には対象にはならない。線対称でも点 対象でもない境界が引かれてしまう。 柱3本から6本についての境界をよく見ると、膜をあらわす3つの線が1つ の点に集まっていることに気づく。この点が先の「フェルマー点」である。フ ェルマー点に集まる3つの線のなす角度は互いに120度になっている。つま りこの点を中心にして3方向に膜は同じ配分で表面張力が分散されていること になる。 だから、柱が5本の時には非対称になる、というのは何とも不思議だ。理屈 の中には秩序がありながら、対象性がない。そのことが自然の奥ゆかしさを表 すように感じる。フェルマーは、 「二点間を結ぶ光の経路は、その所要時間を最 小にするものである」とするフェルマーの原理を1661年に発見している。この 原理からスネルの法則などの幾何光学の法則が導かれる。理屈としては理解し ても、いかにも光が意思を持って進むかのように思えてしまう。逆に言えば、 不可思議に見える現象の中に秩序を見出すことこそが科学の真髄だろう。
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