平成 27 年 5 月 14 日 千葉大院融合 椎名 「応用光学」コラム その 3 おばけの正体 おばけは本当にいるのだろうか。 ヒトの心におばけが宿るのか、ヒトの心がおばけを見させるのか。神様との 対比としての悪魔、それが日本ではおばけだろう。ことばとしては、本来ある べき姿や生きるべき姿から、大きく外れて違って変化してしまう、その変化し た姿を「お化け」や「変化(へんげ)」という。または、化けて生きるため「化 生(けしょう)という。 こどもはおばけがキライ。その心理を教育や道徳を教えるために妖怪や幽霊、 要はおばけを作り出したのだろうか。能で使われる般若の面は、嫉妬や恨みの 篭る女の顔として表現されたとか。 ヒトの瞳には網膜があり、杆体と錐体という視細胞がある。錐体はいわゆる 結像した像をカラーで見分けることに使われる。一方で杆体は色の識別はでき ないものの、明暗を見分けることができる。像を識別する作用はない。錐体は 明所視をつかさどるため、網膜の中心窩に多く存在しており、その密度は中心 窩から離れると速やかに減少する。一方、杆体は中心窩を取り巻くように網膜 周辺部に多く存在し、暗い場所で働き、暗所視をつかさどる。薄暗い闇の中、 眼を凝らしても何も見えない。すると、視界の端に何か動いたような気がして、 ふとそちらを見ると何もいない。恐れをもつこころと視覚の作用がおばけをつ くりだすのだろうか。 世の中を明るくする光。ヒトの手によって闇夜も暗くはなくなった。もうお ばけは必要ないのだろうか?それともむしろ現代こそ、コントロールできない 怖さは必要なのだろうか? おばけなんてないさ おばけなんてうそさ ねぼけたひとが みまちがえたのさ だけどちょっと だけどちょっと ぼくだってこわいな おばけなんてないさ おばけなんてうそさ 平成 27 年 5 月 14 日 千葉大院融合 椎名 「応用光学」コラム その 3 ちいちゃんのかげおくり (前段略) その夜、ちいちゃんは、ざつのうの中に入れてあるほしいいを、少し食べました。そして、こわれ かかった暗いぼうくうごうの中でねむりました。 「お母ちゃんとお兄ちゃんは、きっと帰ってくるよ。」 くもった朝が来て、昼がすぎ、また、暗い夜がきました。ちいちゃんは、ざつのうの中のほしいい を、また少しかじりました。そして、こわれかけたぼう空ごうの中でねむりました。 明るい光が顔に当たって、目がさめました。 「まぶしいな。」 ちいちゃんは、暑いような寒いような気がしました。ひどくのどがかわいています。いつの間にか、 太陽は、高く上がっていました。 そのとき、 「かげおくりのよくできそうな空だなあ。」 というお父さんの声が、青い空からふってきました。 「ね。今、みんなでやってみましょうよ。」 というお母さんの声も、青い空からふってきました。 ちいちゃんは、ふらふらする足をふみしめて立ち上がると、たった一つのかげぼうしを見つめなが ら、数えだしました。 「ひとうつ、ふたあつ、みいっつ。」 いつの間にか、お父さんの低い声が、重なって聞こえだしました。 「ようっつ、いつうう、むうっつ。」 お母さんの高い声も、それに重なって聞こえだしました。 「ななあつ、やあっつ、ここのうつ。」 お兄ちゃんのわらいそうな声も、重なってきました。 「とお。」 ちいちゃんが空を見上げると、青い空に、くっきりと白いかげが四つ。 「お父ちゃん。」 ちいちゃんはよびました。 「お母ちゃん、お兄ちゃん。」 そのとき。 体がすうっとすきとおって、空にすいこまれていくのが分かりました。 一面の空の色。ちいちゃんは、空色の花畑の中に立っていました。見回しても、見回しても、花畑。 「きっと、ここ、空の上よ。」 と、ちいちゃんは思いました。 「ああ、あたし、おなかがすいて軽くなったから、ういたのね。」 そのとき、向こうから、お父さんとお母さんとお兄ちゃんが、わらいながら歩いてくるのが見えま した。 「なあんだ。みんな、こんな所にいたから、来なかったのね。」 ちいちゃんは、きらきらわらいだしました。わらいながら、花畑の中を走り出しました。 (ゆっくり、はっきり) 夏のはじめのある朝、こうして、小さな女の子の命が空に。 消えました。 それから何十年。町には、前よりもいっぱい家がたっています。ちいちゃんが一人でかげおくりをし た所は、小さな公園になっています。 青い空の下、今日も、お兄ちゃんやちいちゃんぐらいの子どもたちが、きらきらわらい声を上げて、 遊んでいます。
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