戦略的研究基盤形成支援事業「細胞移植による口腔感覚機能回復を目指した基礎研究の拠 点形成」シンポジウム(平成 27 年 2 月 21 日開催) 外部評価書 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「細胞移植による口腔感覚機能回復を目指した基 礎研究の拠点形成」は、口腔感覚障害に適した移植細胞を探索することにより新規根治的 治療法の開発を目的として、日本大学歯学部生理学講座、薬理学講座および解剖学第二講 座が中心となり、行われる事業である。5 年間の事業の 2 年目にあたる2015年2月21 日に本事業の中間評価を行うためのシンポジウムが開催された。 シンポジウムでは、まず移植に使用する移植細胞の選定に関する報告がなされ、坐骨神 経からのシュワン細胞の単離・培養、iPS 細胞から神経堤細胞への誘導の手法、さらに神経 軸索再生のための中空性チューブの作成とその効果についての報告がなされた。また、ヒ ト iPS 細胞から硬組織への分化誘導、さらに、ラットの脊髄圧挫損傷モデルへの歯髄細胞 移植の効果についての報告がなされた。いずれの報告も本事業の根幹である細胞移植につ いての基礎的研究であり、分離細胞、iPS 細胞と種類の異なる移植細胞の可能性について、 損傷モデル動物への適用実験も含めた検証を行っており、事業が順調に進捗していること が伺われた。 シンポジウムの後半では、細胞移植の適応となるであろう、口腔領域での感覚障害発生 機序に関する神経化学的基礎的研究、神経生理学的基礎研究成果が報告された。神経化学 的研究では、顎顔面部での異所性神経障害性疼痛発現における三叉神経節における NO の 役割、口腔領域の知覚過敏における三叉神経節での熱受容体 TRPV1、TRPV2、TRPA1 の 役割、三叉神経脊髄路核にリン酸化 ERK 陽性細胞と口腔乾燥による舌の痛覚過敏との関連 が報告され、さらに、神経生理学的研究では、電位依存性色素を用いた光イメージング法 及びパッチクランプ法を用いての下歯槽神経損傷による島皮質での可塑的変化に関する研 究の成果が報告された。いずれの研究も目的が明確で方法論的にもよく検討されており、 口腔領域における感覚障害の発現機序の解明につながる重要な研究であり、本事業に十分 貢献していることが伺えた。 全体として、関連する異なる種類の研究をうまく抱合しながら、本事業が順調に進捗し ていることが本シンポジウムを通して伺えた。しかし一方で、今後、総括的な研究にとど まらないために、それぞれの研究をどのようにして連携させどのような成果を目指そうと するのか、その方向性を明確に呈示することが重要であり、個々の優れた研究を研究全体 のベクトルに向かわせる強いリーダーシップのもと統合的に事業が推進されることを期待 する。 東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科・教授 泰羅雅登
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