平成 27 年 1 月 20 日放送 加齢黄斑変性症について 総合病院 土浦協同病院 眼科科長 大上智弘 司会:今年、iPS細胞を使った加齢黄斑変性症の治療がニュースで話題となりましたが、加齢 黄斑変性とはどんな病気ですか 大上:人間の目の中には網膜という神経の膜があり、そこで光を感じることによってものを 見ることができるのですがその網膜の中心部分を黄斑と言います。ここが視力やもの の見え方にとって大変重要な場所です。この物をみるど真ん中の黄斑が傷んでしまう 病気が黄斑変性症であり、なかでも加齢によりでてくるものが加齢黄斑変性です。 司会:実際にはどのような症状が出てくるのでしょうか。 大上:多くは見たものが歪んで見えたり、自分が見たものの真ん中が黒くぼやけてしまった りします。また、ひどくなれば視力が低下し、最終的には失明に繋がることもありま す。ただ、歪んで見えたり、視力が低下したりする病気は他にもあるため、これらの 症状を自覚された方は眼科の受診をお勧めします。 司会:どうして大切な黄斑部分が傷んでしまうのでしょうか。 大上:この黄斑変性は萎縮型と滲出型という2種類にわけられます。黄斑部分に新生血管と いう異常な血管が生えてきてしまうものが滲出型と呼ばれます。なぜ大事な黄斑部分 に異常な血管が生えてきてしまうのかはまだよくわかっていないところもありますが、 年齢とともに老廃物がたまり、炎症が起きることで網膜の外側にある脈絡膜と網膜を 隔てている色素上皮細胞が障害されて新生血管が生えてきてしまうと考えられていま す。この新生血管は正常な血管に比べて脆いため、血液中の水分が漏れてきて黄斑部 分がむくんだ状態、黄斑浮腫を引き起こしたり、血管が破けて出血すれば歪みや視力 の低下を来します。 また、萎縮型の黄斑変性症は新生血管は生じないものの、網膜の中で重要な役割を果 たしている色素上皮細胞が次第に萎縮していくため見えずらくなってしまいます。 司会:この黄斑変性症の方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。 大上:欧米では成人の失明原因の1位となりました。日本では比較的少ないと考えられてい ましたが、高齢化や食生活の欧米化に伴い患者数は増加し、成人の失明原因の第4位 1 にまでなっております。また、50歳以上のかたの約1%の方に見られ年齢とともに 増加していきます。 司会:かなり多くの方がこの病気になられているようですが、どのような検査でわかるもの でしょうか。 大上:まず、眼科に受診していただいた時の検査としては視力検査を行います。そして、黄 斑変性症の方は物が歪んで見えることが多い為、アムスラーチャートというマス目を 見ていただきどれくらい歪んでいるかを確認する検査をおこないます。 また、黄斑部は眼の奥の方にあるため瞳を開く目薬をつけて目の中の検査、眼底検査 を行います。これだけで黄斑変性がわかることが多いのですがさらに網膜の中の新生 血管や黄斑浮腫を見るために光干渉断層計という網膜を縦切りで見ることができる機 械があればそれで撮影します。この検査は写真をとるだけですので別に痛くもありま せん。そして新生血管の状態を詳しく調べるため、造影剤を点滴から注射し、網膜や その下の脈絡膜の血流の状態を調べる蛍光眼底造影検査という検査を行うこともあり ます。 司会:治療法はどのようなものがありますか。 大上:以前は黄斑部に生えてきてしまった新生血管を手術で抜き取る、という方法もありま したが難易度の割に予後があまり良くなく、廃れてしまいました。その後、光線力学 療法とよばれる治療法が登場しました。この治療法は新生血管だけに集まる特殊な薬 を血管に注射した後、黄斑部分にレーザー光線を当てると薬の集まった新生血管だけ を退縮させることができるという治療法です。新生血管をやっつける方法としては有 効で、視力が低下することを抑えることができますが、視力を改善するところまでは なかなかいきませんでした。そして、2009年にVEGF阻害薬が認可され、現在はこ の薬を眼に注射するという治療法が一般的になっております。ただ、新生血管が生え てこない萎縮型の黄斑変性に対しては有効な治療法が今の所無いのが現状です。 司会:VEGF阻害薬、とはなんでしょうか。 大上:まず、VEGFとはなにかと申しますと、VEGFとは血管内皮細胞増殖因子という難しい名 前の物質の頭文字を合わせてアルファベットでVEGFとよびます。このVEGFがどんな働 きをしているかというと、血管を生やす働きや、毛細血管の透過性を上げるため、血 管からの水分の漏れ出しを増やしてしまう、という作用があります。もちろん、体に とってその働きが必要な事もありますが、必要以上にVEGFが増えると色々悪影響が出 てきます。つまり、黄斑変性で起きていることはこのVEGFが悪さをしているとも言え ます。このVEGFを抑える薬がVEGF阻害薬です。 2 司会:魔法の薬のようですね。 大上:もともとは癌の治療に使われていた薬です。がん細胞も、自分自身が生きていくため に血管が必要となるためVEGFを出します。これを抑えることでがん細胞をやっつける、 という薬でしたがVEGFが悪さをしている眼の病気、特に黄斑変性にも使えないかとい うことで使ってみたところかなり効果が高かったため世界中で黄斑変性症に使われる ようになりました。現在は癌の治療薬を眼科用に改良したものが売り出されており、 多くの施設で使われております。 司会:いいお薬のようですね。 大上:この薬も万能ではありません。まず、どんな病気もそうですが早期発見、早期治療が 大変重要です。この治療法で視力の維持や向上が期待できますが黄斑変性で痛んでし まった網膜を完全に元どおりに戻せる治療法はありません。そして、注射が1回でよ くなることも稀にありますがほとんどの方は複数回の注射が必要となります。また、 いいお薬である反面、費用もかかります。ただ、高額療養費制度などを使うと限度額 以上は還付されるため詳しくは施設にお問い合わせください。 司会:iPS 細胞を使った治療法はどうでしょうか。 大上:iPS 細胞とは、いろいろな細胞になれる性質を持った細胞です。その細胞を使って色 素上皮細胞をつくり、黄斑変性で傷んでしまった色素上皮細胞の代わりに網膜に移植 したというのが先日行われた治療法です。効果はまだわかりませんが iPS 細胞と同じ ようにいろいろな細胞になれる ES 細胞をもちいて色素上皮細胞をつくり、移植した報 告では視力の改善が得られたようです。ただ、長期間の安全性については慎重を要す るところですし、一般的に行われるまではまだ時間がかかりそうな気がします。 司会:飲み薬などでよくなりませんか。 大上:ルテインなどを摂取すると進行を押さえられるという報告があります。しかし、治療 法ではなくあくまでも補助手段とお考えください。 司会:私たちが気を付けることはありますか。 大上:黄斑変性も早期発見、早期治療が大切です。ご自分でできる検査法としては片目を隠 していただき、碁盤でも障子でも構いませんがマス目を見たときに線が歪んでいない かを時々確認してみてください。もし歪みがあれば一度眼科受診をお勧めします。ま た、黄斑変性に良くないのはタバコが良くないと言われています。そして、食生活も 緑黄色野菜を取り入れた偏りのない食事をとるようにこころがけてください。 3
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