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第
章
円と多角形
「円に内接する四角形において、 組の対辺の積の和は対角線の積に等しい。」これをトレ
ミーの定理といいます。
トレミー(
)はヘレニズム後期に活躍したアレキサンドリアの天文学者で
す。彼のラテン語での呼び名はプトレマイオス(
)で、天動説を唱え体系化した学
(天文学大全
原語は「もっとも偉大なるもの」の
意)は古典天文学の聖典とも言われていて、その中には
進法の記載がみられ、この記法から
者として知られています。著書
緯度、経度を導入し、月や遊星といった天文の運行の研究をし、天動説を揺るぎのないものと
しました。
彼にとって幾何学は天文学のための一道具に過ぎませんでしたが、日時計を作るために立体
の射影を研究したため、画法幾何学の開祖といわれたり、星の運行の計測をするために三角法
の概念の基礎を築いています。
なお、トレミーの定理はヒッパルコス(
)が既に証明していたともい
われています。ヒッパルコスはヘレニズムの天文学を科学的に分析した最初の人物で「三角法
の父」といわれていますが、その著書は残されてはいません。しかし、トレミーの
の
中にはピッパルコスの研究が随所に語られ、その偉業を伺うことができるのです。トレミーの
定理もその中のひとつとみなすことができます。
さて、ヘレニズム文化にあって、幾何の発展にトレミーの定理はどのように関わってきたの
でしょうか。
天文学の研究に生涯を捧げたトレミーは、プトレマイオス体系という宇宙観を確立します。静
止した地球を中心に、天空の星々がその周りをまわっているという天動説です。彼の理論は
世紀にコペルニクスによって地動説が唱えられるまで、天空のみならずヨーロッパの思想、倫
理観をも支配し続けるです。
ところで彼の見つけた古代星座は、
個におよび、「プトレマイオスの
星座」と呼ばれ、
の星座はいまでも夜空にあって私たちを楽しませてくれます。
最後に示したトレミーの定理の性質には、ピュタゴラス学派が紋章とした五芒星形(ペンタ
グランマ)が見え隠れしています。その中にあって、円周上の点
はまるで彼が名づけた星座
のようで、トレミーが求め続けた星座の煌きがこの図には散りばめられているといえます。
円と三角形
円と三角形の五心
(定理)
三角形の外接円は、内心と傍心を結ぶ線分、および傍心と傍心
を結ぶ線分を
等分する。
の内心を 、
内の傍心を
の外接円と
る 。更 に
、
とす
との交点をそれぞれ
との交点をそれぞれ
とすると、
はそれぞれ
の中点で
ある。 (証明)
はそれぞれ共線で、
から、 は
の垂心である。よって、 点
と
である
は同一円周上にある。
∴
∴
つまり
は
の中点である。
同様に、
∴
より、
同様に
は
を中心とする共円である。つまり
も外接円によって
は
の中点である。
等分されることがわかる。■
例題
三角形の外心を
半径を
、外接円の半径を
、その中心を
とし、 つの傍接円の
とすると、
が成り立つことを証明せよ。
(解答)傍接円の接する辺を
れば、前の定理より
円
の
を通る直径を
とし、
に対する頂点を
とする。
に接する点を
とする。
。
、傍接円
が
より、
∴
∴
∽
と円
との交点を
とす
より、
∴
■
【問題 】
とする。
の内心を
から
とし、内接円が
に下ろした垂線の足を
に接する点を
とすれば、
であることを証明せよ。
例題 (チャプル)
の外心を
、内心を とし、外接円の半径を
、内接円の
半径を とすると、
が成り立つことを証明せよ。
(解答)
の延長が円
と交わる点を
とし、
を通る直径を
とする。
∴
内接円が
に接する点を
∴
∽
∴
(
∴
=
∴
【問題 】 円
∴
∴
より、
∴
∴
とすると、
があるとき、円
数に存在することを証明せよ。
は の円
∴
に関するべき)
■
に内接し円 に外接する三角形が つあれば、このような三角形は無
三角形の面積
(定理)
の辺
の長さを
とし、
おく。内接円の半径を 、
とし、
の面積を
と
内の傍接円の半径を
とすると、
(証明)
他も同様。■
例題
の辺
の長さを
の内接円の半径を
とし、
の面積を
と
おく。
の内心を 、
更に
内の傍心を
の内接円と辺
とし、傍接円
とする。
との接点をそれぞれ
と辺
との接点をそれ
ぞれ
とする。
このとき、次のことを証明せよ。
(解答)
同様にして、
同様にして、
と
において、
より、
また
∽
より、
∴
∴
∴
∴
■
【問題 】(ヘロン)
の
辺の長さを
、
内接円の半径を
の面積を
とすると、
となることを証明せよ。
例題
面積を
の
辺の長さを
とし、外接円の半径を
、三角形の
とすると、
が成り立つことを証明せよ。
(解答)
において、
した垂線の足を
とし、
、外接円の
を通る直径を
より、
∴
から
に下ろ
とする。
∽
∴
∴
∴
■
【問題
】
の内接円の半径を 、
内の傍接円の半径を
とおけば、
であることを証明せよ。
【問題
】(マイユー)
であることを証明せよ。
の内接円の半径を 、面積を 、傍接円の半径を
とおけば、
の外接円
の半径を
内の傍接円
た、
から
、内接円
の半径を 、
の半径を
とする。ま
に下ろした垂線を
とする
とき、次を証明せよ。
円
の交点を
とし、 つの共通接線の交点を
とする。 つの共通接線が円
ば、
に接する点を
の差は
とすれ
に等しいことを証明せよ。
足を
を直径とする半円周の上の 点
から
とし、
弧
円
弧
と
を描き、それらがそれぞれ
に下ろした垂線の
にそれぞれに接する
に接する点を
とすれば、
となることを証明せよ。 の辺
よ。また
点を
上の点を
を通って互いに平行な
とすれば、
とすると、円
直線を引き、それらがそれぞれ
は 点で交わることを証明せ
円
と交わる
は共点であることを証明せよ。
(京都大
年)平面上の点
の内接円の半径
は
を中心とし半径
以下であることを示せ。
の円周上に相異なる
点
, ,
がある。
円と多角形
トレミーの定理
(定理)トレミー
円に内接する四角形において、 組の対辺の積の和は対角線の積に等しい。
とすると、
円に内接する四角形を
である。
(証明)
となる点
を線分
(仮定)
∴
上にとる。
弦
において、
の円周角 ∴
∽
∴
また
と
において、
弦
∽
∴
∴
∴
より、
■
例題
正五角形
の外接円の弧
上の
点を
とすれば、
であることを証明せよ。 (解答)正五角形の
四角形
辺の長さを 、対角線の長さを とする。
にトレミーの定理を適用して、
∴
四角形
∴
にトレミーの定理を適用して、
∴
四角形
にトレミーの定理を適用して、
∴
より、
∴
■
の円周角
【問題 】(ブルーヘ)円に内接する凸六角形
において、
とおけば、
であることを証明せよ。
例題 (加法定理)
四角形
の対角線
がその外接円の直径であるとする。
き、トレミーの定理を用いて、
四角形
の対角線
とすると
を示せ。
がその外接円の直径であるとする。
と
するとき、トレミーの定理を用いて、
を示せ。
(解答)外接円の直径を
とする。
は、直径
を斜辺とする直角三角形であるから、
トレミーの定理より、
は、直径
∴
を斜辺とする直角三角形であるから、
トレミーの定理より、
∴
■
【問題 】次の問いに答えよ。
四角形
の対角線
がその外接円の直径であるとする。
レミーの定理を用いて、
四角形
の対角線
とするとき、ト
を示せ。
がその外接円の直径であるとする。
とき、トレミーの定理を用いて、
とする
を示せ。
四角形と面積
(定理)プラーマグプタ
円に内接する凸四角形の 辺の長さを
とし、面積を
とする。
とおけば、
である。
(証明)円に内接する凸四角形
において、
とおく。
に余弦定理を適用して、
∴
∴
∴
∴
ここで
∴
■
とすれば、三角形の面積に関するヘロンの公式になる。
例題
凸四角形
が つの円に内接し、かつ他の円に外接するとき、
辺の長さを
とし、面積を
とすれば、
となることを示せ。
(解答)四角形が円に外接するとき、向かい合う
辺の和は等しいから、
より、
【問題 】円に外接する凸四角形の
半径を 、四角形の面積を
となることを示せ。 とする。
辺の長さを
■
とし、内接円の
とおけば、
例題
四角形の つの対角線の長さを
、対角線のなす角 とすると、四角形の面積
は、
で与えられることを証明せよ。
四角形の
辺の長さを
とし、向かい合う内角の和を
とするとき、四角形の面積
は、
で与えられることを証明せよ。
(証明)
各頂点を通り対角線に平行な直線で囲まれる四角形
から明らか。
に余弦定理を適用して、
∴
また、
より、
より、
∴
∴
∴
■
【問題 】内接円を持つ四角形の向かい合う角の和を とすると、四角
形の面積を
は、
で与えられることを証明せよ。。 の面積は
で与えられること
円に外接する多角形
(定理)
凸四角形
が
つの円に外接するための必要十分条件は
である。
(証明)
四角形
が円
に外接するとし、辺
する。
が円
に接する点を
と
より、
∴
(
)
とする。
のとき とする。
交点を
のとき の垂直 等分線である。
の 等分線。よって、
は円
の 等分線と
から
への距
に外接する。
である。辺
上にそれぞれ点
の
等分線はそれぞれ
の垂直
から各辺にいたる距離は等しいので、四角形
は
を
であるよ
等分線。それらは
の外心
を中心とする円に外接する。■
(定理)ニュートン
円
に外接する凸四角形
とすれば、
の対角線
の中点を
は共線である。
(証明)円
の半径を 、四角形
の面積を
とおく。
に至る距離はすべて に等しいから、
∴
また、
との
より、
うにとれば、
る。
は
はそれぞれ
離が等しい。つまり、凸四角形
よって
を最小値としても一般性を失わない。
よって
より、
で
から
で交わ
は
の中点より、
∴
また、
より、
より、
∴
ここで、
また、
よって、直線
より、
より
は
を
等分する。すなわち、
は
を通る。ゆえに、
は共線である。■
胡蝶の定理
(定理)胡蝶の定理
点
を弦とする円がある。
つの弦
を、端点
と弦
の中点を
が弧
とし、
を通る
の同じ側にあるように引く。弦
との交点をそれぞれ
とするとき、
であ
る。 (証明 )点
から直線
に下ろした垂線の足をそれぞれ
とする。
垂線の足をそれぞれ
(弧
(弧
、点
∽
の円周角)より、
∽
の円周角)より、
∴
∴
より、
∽
∴
∽
∴
より、
点
について方べきの定理を適用すると、
より、
より、
∴
∴
∴
∴
より、
∴
■
から直線
に下ろした
(証明 )点
を通り、弦
に平行な直線を引き、円との
より
(錯角) 、
∴
よって
点
の円周角より
弧
と
以外の交点を
とする。
より
は共円。 ∴
、弧
(弧
∴
において、
∴
∴
∴
■
(定理)胡蝶の定理の拡張
点
を弦とする円がある。
上に点
を
通る
つの弦
の中点を
とし、
となるようにとる。また、
を、
と
がそれぞれ弦
との交点をそれぞれ
に
と直
対して同じ側になるようにとる。直線
線
を
とするとき,次が成り
立つ。
(証明)点
を通り
と
また、
と平行な直線と円
とのもう一つの交点を
において、
より、 点
は共円。
∴
より、
と
よって
点
∴
∴
において、
は共円。よって、
また、
より、
より、
∴
■
とする。
の円周角より
の円周角)
円に内接する台形
任意の点を
において
とし、弧
上の
とすれば、
と
の比は一定である
ことを証明せよ。 円に内接する四辺形
の頂点
行に引いた直線が円および
を通って対角線
と交わる点を
に平
とすれば、
ことを証明せよ。 を弦とする円がある。弧
上に 点
定となるようにとれば、
と
の比は一定である
ことを証明せよ。
円に内接する凸四角形を
であることを証明せよ。
とすれば、
を
の長さが一