厳しくなる消費者の目

日本食品安全協会会誌 第10巻 第2号 2015年
厳しくなる消費者の目
本年4月1日に発足した機能性表示食品に関して、種々の議論が昨年来交わされている。この
制度が健康食品業界を良くするかどうかに関しての意見には賛否両論があるが、一致しているの
は制度がしっかり守られれば、この制度は健康食品の世界を良くするとの見方である。私も今度
の新制度は、もう少し改良を加え、うまく運用されれば、世界に打って出ることのできる商品が
出せる素晴らしい制度であると考えている。
こんな状況の中で、具体化に伴って消費者団体の目が厳しくなってきている。先日京都の適格
消費者団体である京都消費者契約ネットワークが、サン・クロレラ販売株式会社の折込チラシの
配布中止を求める請求を起こし、京都地方裁判所はこの請求を認める判決を出した。この件は新
制度と直接的には関連しないが、これからの健康食品業界は、消費者の目にさらされ始めて真面
目に取り組まないと、とんでもない事態に追い込まれてゆく可能性を示唆している。この問題に
潜む健康食品の在り方に関する論点は、新制度にも直結するのでこの点に関して考えてみること
にする。
まず、この提訴された内容に関して、何故広告なのか、すなわち広告の配布禁止は結果として
の商品の販売抑制につながるが、何故もっと直接的に商品を薬事法違反として問題としなかった
のだろうか、という疑問を私は最初に抱いた。しかし適格消費者団体に認められているのは薬事
法の監視ではないので、そのような訴えはできないけれど、この団体に認められている権限には
商品の販売において結果的に薬事法に基づく監視と同じような効果があることが分かった。言い
換えれば、薬事法による取り締まりでは困難な部分が、別の角度から規制できるのだ、というこ
とが分かった。
この消費者団体は、国に認められた適格消費者団体として今回の問題提訴を行ったわけである
が、この行動にでた法的な根拠は、消費者契約法にある。この法律の第1条には、つぎのような
ことが記されている。
消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為
により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り
消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者
の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又
は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとする
ことにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に
寄与することを目的とする。
現在全国に11ある適格消費者団体は、今回のような請求を行うことができることが明確に記さ
れている。従って訴えた内容は、広告に書かれている「高血圧、がん、糖尿病等」の疾患に対し
てクロレラが有効であるという科学的根拠が無いので広告が無効である、というのが問題点であ
る。この訴えに対して会社側は「研究会の報告を掲載したのであって根拠がある」と反論してい
るが、裁判所は、研究会が会社の社員全体で構成されていることを理由にまともな研究会ではな
いとしている。すなわち、利益相反的な観点からこの反論は採用されなかった。
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日本食品安全協会会誌 第10巻 第2号 2015年
私は、こうした形で薬事法関連の実質上の問題点が指摘できる、という点に改めて強い興味を
ひかれるのと同時に、新制度において機能性表示に求められている「科学的根拠」も全く同じ目
にさらされるという事実を重要と考えている。
新制度に関する消費者アンケート調査等で明らかになっているのは、消費者が「企業の責任に
おいて表示される機能」が信用できない、という点である。しかし、今回の判決は適格消費者団
体がしっかり動けば、アメリカのダイエタリーサプリメントで近年問題視されているような、い
い加減な科学的根拠で機能性表示を行っていると、当局からの注意よりも先に消費者団体から摘
発されることになることを意味している。
このような観点から、クロレラに求められた広告の差し止め請求は、適格消費者団体による初
めてのケースとなったが、
今後の新制度の運用にあたり消費者にとっては力強い判例と映る反面、
企業にとっては厳しい要求の始まりとなった。
一般社団法人日本食品安全協会 理事長 長村洋一
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